青い瞳は綺麗だよ   作:へびのあし

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真人に明かされる第三の術式効果

真っ青な夏空。キラキラと眩しい太陽の光が燦々降り注ぐのは、不思議な海辺だった。どこまでも広がる白い砂浜に、打ち寄せる海の波。

そこに不意に現れた一つの人影が、ビーチパラソルの下でのんびりしていたもう一つの影へ、喋りかけた。

 

「やあ。真人。」

「……ん?あ、夏油じゃん。めっちゃ久しぶりじゃね!」

「そんなに無沙汰したつもりはなかったんだけどね、ふふ。……ところで、きみのためにドミノ持ってきたんだ。軽く私と遊ぶかい?」

「んー。ドミノもいいけどさ、それ積み上げてジェンガしようぜ。この前のリベンジしてやるから。」

「おや。悔しかったのかな?」

「そりゃそーだろが。」

 

白と青のコントラストが眩しい、綺麗な浜辺。

時の流れが特別ゆっくりに感じられる、そんな平和な場でなされる、のどかな会話。

 

とても美しく微笑ましい光景のはずなのだが、しかしそこにはどこか違和感を覚えさせる。

まずは色だ。限りなく本物に似せてある砂や海水の色……それらは白すぎるし、青すぎる。

そして人物。

何を隠そう、ここで会話をしている者たちは、どんなに控えめで丁寧な表現を模索しても「悪事を好む」以外の何者でもないメンバーだ。超常の力を使い、何を企んでいるのか常人には見当もつかない。

 

……と、いうわけで。

ここがただの海辺であるはずもなく。

 

ここは、呪霊が作り出した呪術的な空間である。

この景色も、温度も、擬似的に作り出されたいわば偽物。

 

そしてそんな風に外界から隔絶された空間は、悪事をなす者たちにとって必要不可欠。ここは秘密基地的な役割を果たす、便利な結界術の中身であった。

 

現代最悪の呪詛師、夏油傑は、バタンと『ドア』を閉めた。

それに対するは、人が人を恐れ憎む負の感情から生まれた特級呪霊、真人。

 

夏油は小さなテーブルの上に、持ち込んだドミノをざぁっと広げた。ビーチパラソルの下で寝転がっていた真人があくびをしながら起き上がってくる。

二人で仲良く、ドミノ倒しに使う駒をジェンガ風に積み上げる。

真人は顎に手を当てながら、正面へ「そういえば夏油ー。」と喋りかけた。

 

「ん、なんだい?」

「ぶっちゃけ、俺に何の用なわけ?」

 

おやおや、遊びに来ただけだよ。とはぐらかす夏油に、真人は「冗談でしょ。」と言葉を返した。

 

「わざわざ俺だけがいる時を狙ったってことはさ、何か俺に言いたいことがあるんだろ?それも、結構大事な話が。」

「きみが難しい話をしたいなら、乗ってあげてもいいけれど?」

「しらばっくれるなよな。もうすぐ渋谷で五条悟を封印する計画が始動する。内通者メカ丸もそろそろ用済みだから俺が倒さなきゃなんないっぽいし、九体九相図の一部が祓われたからその分の戦力は俺の分身で補うべきかもしれない。あーあ、全く。夏油が俺に押し付けそうな雑事が多くて参っちゃうよなぁ!」

「……おや。そこまでわかっているのなら話が早いね。」

「ふっふっふ。」

 

特級呪霊舐めるなよー?と言いながらニヤッと笑う真人。

しかし彼のテンションは、その後すぐに分かりやすく降下した。

夏油が「じゃあ、一つ追加のお願いしてもいいかな。」と声をかけたためである。

 

「俺、夏油のためにタダ働きはごめんだぜ。」

「まあまあ、そう言わずに。」

 

夏油はあくまで仏の微笑みを崩さない。

真人はそちらを振り向きもせずに、ジェンガに熱中している。指の先を針のように変形させて、ツンツンとつっつく様は暇人のそれだった。

夏油は構わず、真人に語りかけた。

 

「————大森杏樹という呪術師を殺してほしい。」

 

真人はつまらなそうな表情を欠片も変えなかった。なるほどただの雑事である、ということが明らかになっただけだった。髪の毛の先ほども興味をそそられない。

 

「大森?誰それ。」

「宝石御化粧っていう珍しい呪法を操る準一級術師だよ、真人。」

「弱いじゃん。」

 

真人は呆れたように息を吐く。なぜ夏油が気にしているのかわからないくらいだ。

水を吸う海綿が如く成長してゆく若者ではなく、既に何年もキャリアを積んで大人として活動しているのにも関わらずの『準一級』。ゴミだ。どうとでも踏み潰せるクズだ。

明らかに興を削がれた顔の真人へ、夏油は「ま、弱いんだけどね。」と同意する。

 

「でも、ちょっと厄介なことがあるんだよ。」

「何が?」

「宝石御化粧についてちょっと説明すると、あれは彼女の母親の怨霊と彼女自身、二人の術式が組み合わさって生み出された唯一無二の術式なんだ。現状怨霊被呪者である彼女にしか扱うことはできない。」

「ふうん。」

「大きく分けて、効果は三つ。第一、彼女が指定した色と宝石の性質を、無条件で呪いに押し付けること。もちろん格上相手だと抵抗されて効かなくなったりするんだけど、それを差し引いてもまあ面白い。独特の術式だよね。」

「ふうん。」

「そして第二、指定された物体を、彼女の好きなデザインの宝石に変換させること。これを使う条件は、“遊び”以外の目的に使用しないこと。つまり戦闘中には一切使えない役立たず術式だから無視していい。」

「ふ………いやなんでそんな術式存在してるの?意味不明じゃん。存在意義ゼロじゃん。」

「おいおい。事実だとしても言っていいことと悪いことがあるんだよ、真人。」

「肯定してるじゃん。事実だって。」

「確かにね。ただ、あれはとても珍しい術式だし、真人の魂イジリの術式とどことなく似たものを感じないかい?それからさっき説明した第一の術式効果だって、バカにされがちだけどすごいんだ。使い所によっては、鏡から発生した呪霊などの術式を無効化できる。“呪い“の見た目を変更可能ということは、視覚情報に訴える類いの術式効果を打ち消すことも可能だということだからね。」

「へぇー。」

「そして今、重要なのは第三の効果だ。これを一番の警戒対象として、私は真人を大森杏樹暗殺のお使いに行ってもらいたいと考えている。あの術式は……」

 

真人はあまり興味がなさそうだった。静かに熱く語る夏油を前に、やれやれといった調子で、ドミノを一本引き抜く。ギリギリ崩れなかった。

 

「—————『指定した宝石を手に入れるため』限定の目的で、その障害物となりうる全ての術式を中和する。」

「っぶな……次は夏油が抜く番だぜっ。」

「おーい。聞いてるかい真人。」

「あー何だっけ?術式の中和って言った?」

「そうだよ。なんだ、ちゃんと聞いてるじゃないか。」

 

あくまで夏油の語りは聞いていたらしい。

そんな真人は、『大森杏樹』という術師のあまりの歪さをせせら笑った。

 

「そいつバカだね。術式の中和って最強なのに、わざわざそんな七面倒くさい条件つけるバカがいるんだ?人間ってバカしかいないのかなあ。」

「コラ、馬鹿を三度も言うなよ。私もきみに全面的に同意してやりたいのは山々だが……ところがどっこい、案外侮れないんだな、この術式。」

「ウッソだあ。さすがに冗談でしょ夏油。」

「まあ、中和する対象によっては、莫大な呪力量が必要だからね。あんまり使い勝手はよくない術式効果なんだけど、私たちの計画を進めるにあたって一つ困ったことがある。」

 

真人、当ててごらん。そう促すと、色々と子供な特急呪霊はわかりやすく考え込んだ。

なかなか難しいようなので、しばらく待ってから「渋谷で私たちが封印したい奴って誰だった?」と夏油はヒントを出してみた。その瞬間だった。真人は「まさか。」と衝撃を受けたような顔をする。面白いものを見つけた時特有の、壮絶な笑みが漏れ出ていた。

 

「彼女、五条悟の眼を?」

「そうだよ。彼女の認識では、六眼は宝石とみなされている。」

「アハハ!イカれてる!」

「そうさ、呪術師はみんな頭のねじが飛んでるんだ。」

 

頭のいい特急呪霊に、夏油は穏やかな笑みを深くする。

 

「つまりはこういうことだ。大森杏樹は、五条悟が獄門疆へ封印された後、それを無理やりこじ開ける可能性を持っている。青い宝石への道筋……それを彼女が思いつかないわけがない。」

「でもさあ。そんな大物の呪物を中和するには、莫大どころじゃない呪力量が必要なハズだよね?たかが準一級術師がそんなの持ってるわけないって。」

「いや、持ってる。」

「ハア?」

「彼女が己の命を生贄に縛りを結べば、獄門疆は開く。」

「あ……なるほどね。」

 

ゲンナリした顔の真人。

自己中心の世界で生きている彼にとっては、命を犠牲にして他人を助けるような生き様は到底理解できないのだろう。

 

「で、大森って奴はホントにそんなもんのために命差し出しちゃうような奴なのかい、夏油?」

「なんたって、彼女は五条悟の教え子だからね。」

「へぇー。」

「それに、宝石のためだ。命くらい惜しげもなく捨てるだろうな、彼女は。」

「うげぇ。金銭欲の塊かよ。」

「違うよ真人。対象はお金じゃなくて石だよ。彼女はむしろ芸術家に近いんだ。」

 

なんとなく彼女を殺したい理由はわかったものの、真人は「でも面倒だなー。わざわざ俺たちから倒しに行かなくても、あっちから渋谷で参戦してくるだろ。その時に適当に殺っちゃえばいいじゃないか。」と手に顎ついてうだうだぼやいている。

そんな彼に、夏油は、優しく微笑んだ。

 

「ただの保険だ。邪魔になる可能性は、できるだけ排除しておきたいだろう?」

 

————大義のために。

 

夏油は、ふと口をついて出ようとした言葉に気づいて苦笑いを浮かべた。

 

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夏油の指が、無意識に額の縫い目に触れる。

そんな彼の姿を、人から生まれた特級呪霊がじっと何かを考えながら見つめているのだった。

 






ドミノを使ってジェンガ遊びをする特級たち。
不穏な会話なのに、やってることはバカバカしい。バカバカしいのに、裏側の闇が見え隠れしすぎて怖いから笑えない。

こういうのをいっかい書いてみたかった。

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