「こちらデルタ、
『デルタ班、タイミングを見計らい、突入せよ』
「了解」
ブツッ、と通信を切り、デルタ班の仲間に合図をする。
班と言ってもメンバーは二人なので実質ペアなのだが、このくらいの少ない人数の方が気楽な気がする。
「千鶴、いけそうだけど?」
「あ、ごめんボーっとしてた!」
「しっかりしてくれよ?班長」
「ごめんって、怒んないでよ、舞香」
「はいはい」
「舞香、こっち終わったよ」
千鶴の持っている武器がホログラムのようになって消える。
「こっちもだわ。にしても、随分と物騒なもん持ってたな」
「ねー」
突如、千鶴が棚を撃ち抜いた。
「ち、千鶴⁉」
ガラガラ、と棚の荷物が落ちる。
「あばばばばばばばばばば」
「ねえ君、何でここに・・・ってあれ?野崎?なにしてんの?」
「なるほど、昔から使ってた遊び場があの小隊のキャンプになってた。と」
「そうなんだよ!」
机の向かいに座る男が言う。
「なるほど・・・でさ」
「?」
「私たちのオシゴト、見られちゃったからには死ぬか一緒にオシゴトするかなんだけど」
銃口を野崎に向け、引き金に指をかける。
セーフティも外れており、いつでも撃てる状態だ。
「死にたいなら銃口を額に当てて?一緒に働いてくれるなら、私の手を握って?」
「・・・そうか」
銃身に手を伸ばす同級生に、心の中で別れの言葉を述べ、引き金により力を込めた時だった。
グン、と手と銃が唐突に横へ弾かれる感触。
掌底で銃を弾かれたらしいことを理解するのにさほど時間は要しなかった。
狙いをずらし、再度狙って撃たれるまでの猶予を作る。
例えこのまま撃ち殺されるとしても、最期の抵抗を、悪あがきをする。
中学生の頃から変わらない
鳩尾を狙うとは。こいつらしいな。
殴られるのを覚悟した時、ピタリ。と拳が止まった。
「のった」
ニヤリと笑って言う野崎。
本当にこいつは掴みどころがなくて厄介なんだ。
「て、ことなんで野崎くんは私達の部隊って事で。いいですよね?」
千鶴が投げかけた少々食い気味な問いに、シワのあるスーツに身を包む男は、困ったように言う。
「まぁいいんだけどさ…」
「いいんだけど?」
「千鶴ちゃん連れてくるペース早くない!?普通一人連れて来たら多い部類なんだけど!?」
「いいじゃん、舞香も野崎もいい人材だし」
「やってることほぼ誘拐ってこと理解してる?」
「分かってるって」
「管理官」
部屋の端で壁に寄りかかっていた舞香が言う。
「ん?舞香ちゃん、どうしたの?」
「俺は別に嫌じゃありませんでしたよ。」
「だからそうゆう事じゃなくて…ね?」
「それに野崎くんだって、学校生活から切り離された挙句、危ない所で戦闘漬けの毎日だよ?それに、訓練だってキツいだろうし…」
「管理官はあの動画見てないんですか?」
「あの動画って?」
千鶴がリモコンを手に取り、壁に掛けてあったモニターに動画を映す。
「うっわぁ…」
「ね?」
千鶴の微笑みに、管理官と呼ばれている男が答える。
「こりゃ訓練も楽々突破してくタイプだな。司令官として動かすより自由行動の方が戦績挙げてくるタイプだよ。全く」
「そんなのが二人もいたから碌な指示も出さずに『タイミングを見て〜』みたいなフワッとした指令ばっか出すんじゃないですか」
「痛いとこばっか突かないでよ」
「狙ってるからね。」
「まぁとりあえず野崎くん呼んできてくんない?」
「はーい」
「こんにちは、野崎くん」
「あ、どうも」
「僕はこの『デルタ班』の管理と司令をやってる、
弟切と名乗る男は机の向こうで座ったまま話を進める。
「野崎くんはさ、元々居た学校に友達とか、恋人とか、好きな人とかって居たのかい?」
「随分といきなりですね」
「まぁね。この班に来た人には毎度毎度きいてるんだ。まぁ世間話位に思ってくれて構わないよ」
眼鏡の奥から柔らかい雰囲気の瞳が覗く。
「そうですか。…別に居なかった訳じゃないですよ」
「『居なかった訳じゃない』か。そりゃまた何で?」
「俺が居なくても、あいつらは変わらないような気がするんですよ。俺が居なくとも、泣いて、笑って、いつも通りに」
弟切が何か考えたように少し間を空けた後、言葉を続ける。
「『変わらない』…ねぇ。そうは思わないけど」
「?」
「例えばクラスメイトの一人が、突然行方不明になったとする。そしたら、誰かがその人がいないことを不思議に思うんじゃないの?」
「俺はその違和感が知らぬ間に消えてくと思ってるんです」
「…詳しくは聞かないでおくよ」
「ありがとうございます」
「そういえば、検査は受けたかい?」
「受けましたけど…異常はなかったそうですよ?」
「なるほどね…なら」
机の向かいに座っていた筈の弟切が、野崎の気づかない一瞬の間に横にあった椅子に腰掛けている。
瞬間、野崎の口に何かが放り込まれる。
驚いている間に水で流し込まれ、抵抗すらできずに飲み込んでしまった。
「飲んでくれた?」
「ええ飲みましたけど…これなんすか?」
少々苛立ったように言う野崎。
弟切が笑いながら言う。
「これね〜…」
突如ブザーが鳴り、弟切が急いで受話器を取る。
「何なんすか!?いきなり!」
慌てる野崎を他所に千鶴たちが部屋へ入ってくる。
「指令?」
「
「勿論」
千鶴が無い胸を張る。
「あの…」
「あ、忘れてた。野崎くんはここで見学ね」
「あ、はい」
少し寂しさを感じながら、野崎はさっきまで座っていた椅子に掛け直した。
丹根川町にある公園。
暗くなり出した黄昏時には似合わぬ男が一人、地面から生える“何か”の上に立っている。
「見つけた!」
千鶴が叫ぶ。
公園の地面から生えるそれは、子供の頃、一度は遊ぶような滑り台。そのスロープが、深々と地面に突き刺さっている。
「レンジャーでも来るかと思えば…まさかのキッズだけとは…ナメられたもんデスネー」
「その言葉、撤回する準備しといた方がいいよ?」
「“女神殺し”。私の異名デス。ゴゾンジありませんカ?」
「悪いけど知らないわ。有名なの?」
千鶴のヘッドセットから弟切の声が聞こえる。
『前にあった“自由の女神破壊事件”の犯人、ビリー・アダムスの異名だよ!顔も名前も分かってるのに、その怪力で手出しができないって話だけど…』
「オー!そこの人はソレナリに詳しいようデスネ?そうデス。私ノ名前はビリー・アダムス。“自由の女神破壊事件”の犯人デス」
男の金髪が揺れる。
男が立っていた滑り台のスロープが雷に打たれた木のように裂ける。
ビリーの手刀が、金属製のスロープを易々と切り裂いた。
いつも余り喋らない舞香が珍しく声を漏らす。
「おんなじ人間が出来ていい技じゃねえだろ、それ…」
「デキるんですヨ…それガ」
スロープが舞香へ迫る。
「舞香!」
「心配すんな!何とかずらした!」
舞香のハンドガンが弾丸を吐く。
「ドコに撃ってんデスカ?」
頭上から迫る街路樹。
間一髪で避けた舞香の横で木片が散らばる。
さっきまで根を張り生きていた生木を振り下ろして木片にするその膂力は計り知れない。
冷や汗が二人の頬を撫でる。
その時、ヘッドセットの向こうで声がした。
「え?ちょっ…待っ…え?」
慌てる野崎の体から、湯上がりのように湯気が立ち昇っている。
体が熱い。
風邪の日に感じるようなだるさが身体へ伸し掛かる。
身体中の筋肉が、骨が、臓腑が歪な音を奏でるように内耳を揺らす。
「始まったみたいだね〜」
弟切が言う。
一体何が始まったと言うんだ。
そう言いたくとも、顎も声帯も舌も動かない。
「さっきの話に戻ろうか。ああ、返答しなくて大丈夫だよ。」
返答どころか本当ならば胸ぐらを掴んで問いただしたい所だったのだが、そんな考えは怠さに抑え込まれて消えていった。
「それで、例えばクラスメイトが一人居なくなって、その違和感も無くなった頃、“消えたクラスメイト”が普通に町を歩いていたとしたら?話しかける人もいるだろう。『心配してた』とか『何をしてたんだ』とか。積もる話もあるだろう。もし仲の良かった友達なら、うっかり変なことを口走ってしまうかもしれない」
弟切はモニターを見たまま、淡々と話を続ける。
「それがいなくなった友達の口から語られたことなら、例え信じ難い話だって信じてしまうだろう。だから、さっきの薬を飲ませたんだ。」
椅子から大きな音を立てて落ちる野崎。
夕焼けが終わった後の紫色の光が差す床に這いつくばりながら、段々と湯気が消えていく。
そこで野崎の意識は途切れた。
ビリーと交戦中の千鶴と舞香。
野崎が弟切と話している間も、変わらず戦闘は続いていたようで、戦っていた場所は木が折れ、公園にクレーターのような跡が残り、裂かれ曲げられた遊具が地面に生けられていた。
「中々シブトイですネ。ホントーなら今頃ドッカのシミになってる筈なんですガ…」
「鍛えてるからね」
千鶴がニヤリと笑うが、鼻血が垂れている他、各所に血が
舞香もビリーが暴れた時に建造物の破片が当たったらしく腕を抑えている。
ビリーはせいぜい擦り傷がある程度で全然動ける筈だ。
完全に千鶴たちが劣勢。
負けるのも時間の問題だ。そう考えた時、着信音が鳴り響いた。
「oh!もう時間デスカ」
ビリーは暗闇の中、ポケットから取り出した機械を弄りながら、千鶴達側へ向き直ると、地面を殴りつけて出た砂煙に紛れ、何処かへと消えていってしまった。
キキッ、と車のブレーキ音がして、千鶴達を乗せ、弟切達のいる支部へと走り出した。
「見知らぬ…天井?」
白い天井。
見覚えなどない。
病室のような白さの部屋で目を覚ました。
身体は動く。
記憶もある。
ゆっくりと起き上がる最中に気付いた。
“大事なモノ”がない。
恐らく人生一の大声を出しただろう。
以前までの低い声ではなく、高い声が自分の口から漏れる。
ドアがゆっくりと開き、弟切が入ってきた。
「目が覚めたみたいだね」
「弟切さん…貴方もこの気持ち、分かってくれますか?」
「勿論だとも…野崎くん」
肩を寄せ合う白衣の天パとはだけたワイシャツの女子。
ぱっと見アウトなその部屋に、湿布の匂いを各所から漂わせる男女が入ってきた。
「あれ、野崎だよね?」
頷きながら野崎が小声で言う息子への別れのメッセージを聞いていた弟切が顔を上げて言う。
「あ、千鶴に舞香ちゃん。この通り、野崎くんもこんな可愛くなったよ」
野崎の肩を抱きながら、自撮りをするように二人を見上げる弟切。
そんな二人を見る千鶴と舞香。
乾燥した冷たい風が凍らせてしまうような冬のある日。
この日から、野崎とデルタ班の物語が動き出したのだった。
噛み合った
初投稿です。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
前々から何か書いた物を投稿したかったのですが、勇気が出ずに困っていたのですが、やっと踏ん切りが付いたので投稿しました。ストックがないので書けたらとなりますがお付き合いくださいませ。
追記、「ロバート」となっていた所を「ビリー」へと修正しました。以後気を付けます。