フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

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野崎君はどれだけ胸を盛ってもいい。


Delta/Uniform 1:妄想の活かしどころ

「舞香!このキット結構良くないか?」

「確かに」

「買いだな」

「だな」

残暑と秋雨の混じる9月上旬、野崎と舞香はいつものショッピングモールで休日を満喫していた。

千鶴も一緒に来ているが、もみじと共に別の場所を巡っている。

「舞香…このメイド服似合いそうだねぇ…」

「お前…目が怖いぞ」

舞香に向けて伸びた野崎の手を払い除けるのと同時に、聞き慣れた音が鳴り響いた。

乾いた破裂音——銃声。

その音に続いて、民衆の(どよ)めきと悲鳴が耳に(なだ)れ込んできた。

野崎が問いかける。

「舞香」

「分かってる。1階の…専門店街の方か」

「だな」

「人数は…遠すぎて分かんねぇか…」

「どうする?」

「今回は多分警察の仕事だ。変に手を出すと事が拗れる」

フォネティック・コーズは時折警察が手に負えない事件の時等に駆り出される。

要請もないのに首を突っ込めば不要ないざこざを産みかねない。

「てことは?」

「大人しく人質になる…ってのは気に入らねえよな」

「勿論」

「やってやるか?」

「やっちまいますか!」

「やっちまおうか!」

二人は商品を一度棚に戻し、作戦を練るべく物陰に隠れた。

現在二人は完全なオフだ。

ヘッドセットは手元にない。

格闘の訓練をしているので戦えなくはないが、それでも相手の装備が分からない状態で飛び込める程の腕は野崎にない。

舞香も多対一では分が悪い。

打開策も見つからないまま、刻一刻と時間が流れていく。

「野崎、お前何か変なもん入れてるのか?」

「あ?」

「それだよ」

舞香が野崎のポケットを指差す。

ポケットのスマホが震えている。

画面には『弟切』の字。

「弟切!」

小音量ながらスピーカーにして、舞香と共に弟切と作戦を練る。

『この事件は一階を中心とした立て篭もり。犯人グループの要求は…最低でも400人分の身代金、1億円』

「待て、何だよ“最低でも”って」

『このショッピングモールには従業員、客を合わせて600人は下らない人数がいる』

「じゃあ200人分の…5000万はいらねぇってことか?」

『いや、違う。彼らが言いたいのは“200人分の身代金は払わなくても良いが、その場合は200人全員が死ぬ”ってことだ』

「1億5000万を差し出せば全員が帰ってくる…差し出さなければ最低でも200人は死ぬ…」

『それに犯人グループは完全武装の15人とそれ以外が更に15人。格闘でどうにかなる話じゃない。警察の部隊も無闇に突入出来ないだろう』

その時、電話の向こうから着信音が響いて来た。

『…はい。…分かりました』

弟切が淡々と話している声が聞こえる。

「なぁ舞香」

「千鶴が心配か?」

「お見通しかよ。きっも」

「いつものお前の方が5億倍キモいぞ」

「否定は出来ねぇな」

「それで?助けにでも行くのか?」

「もみじさんがいるし…それに、千鶴はこう言う時も俺らより上手く立ち回るさ」

「確かにな」

野崎が遠くを——千鶴達が居ると思われる方を見つめる。

その時、電話の向こうから弟切が話しかけて来た。

『野崎君、舞香ちゃん。君達に“仕事”を頼みたいそうだ』

「仕事は受けます。ただ、肝心の…」

『ヘッドセットだろう?』

「話が早くて助かりますよ」

「それ無しでどうにかなる相手でもないしな」

『それに関しては心配ご無用さ!』

電話の向こうで、指を鳴らす音が聞こえた。

その瞬間、天窓から何かが素早く降りて来た。

箱を丈夫な紐で縛っただけの物。

「何だよこれ?」

紐を解き、箱の中身を見る。

二人のドッグタグとヘッドセットを箱から取り出し、箱を閉じて紐を結び直すと、箱は天窓へ消えていった。

二人はヘッドセットを付け、弟切との通信を再開した。

「で、これから何するんだ?」

『今から二人には、ユニフォーム班と協力して人質の救助をしてもらう』

「ユニフォーム?」

『それは…後で本人達から聞いた方が分かりやすいだろうから、本人達に聞くといいよ』

「了解。敵の場所は?」

『南出入り口と西出入り口、それと一階の南ホールだね』

「「了解」」

『じゃあ二人とも、頑張ってね!』

 

 

南出入り口、十数人が縛ったまま床に放り置かれている状況を、二人は物陰で見ていた。

「舞香」

野崎が何かを言おうとしたところで、舞香が「分かった」と返事をした。

「本当かお前?」

「当たり前だ。お前の考えてる事は分かりやすい」

「まぁ良いや。行くぞ」

野崎と舞香が走り出す。

敵が二人へ向けて発砲し始めた瞬間に、示し合わせたかのように舞香が作った盾が二人を覆い隠した。

「何だコイツら!」

一人が叫んだ途端に顎をゴム弾で撃たれ、抑えた隙に額を撃たれて失神した。

もう一人が野崎を狙っている隙に舞香が後ろから相手を殴り付けて気絶させる。

援護射撃を避けながら、二人で背中合わせに反撃する。

「舞香!」

「何だよ野崎」

「こういうのサイコーだな!」

舞香が口角を上げる。

「だな!」

二人を挟み込む様に近付くテロリストを同時に撃ち抜き、回避と攻撃を組み合わせて南出入り口に居るテロリストを逆に全員縛り上げ、西出入り口へ向かった。

 

 

西出入り口前、本屋。

二人は盾越しに銃弾を浴びていた。

「舞香ァ!スカート穴空いたぁ!」

「その無駄にでかい腿に当たんなかっただけ幸運だろ!」

「でかくないしぃ…」

「いじけてる場合か!」

「そうだよ!今結構やばいし…」

「「誰!?」」

コミカルなやり取りをしている二人の隠れている盾にさらりと入り込んできた女性が二人に話しかけてきた。

「二人ってまさかデルタ班の?」

「…って事は貴女、ユニフォーム班ですか?」

「正解!私はユニフォームで副班長やってる藤村佑美って言うんだけど、班長から言われて来たんだ〜」

「…なぁ舞香」

「何?」

「この方は何でワックの制服を?」

「…分からん」

そう言う二人に藤村は自身の班について語り始めた。

「ユニフォーム班の基本任務は各地に潜伏しての情報収集や隠密任務なんだよね。だから今日はフードコートのワクドに隠れてたんだよね」

そういうと、藤村はエプロンの影から拳銃を取り出し、こちらを撃っていた相手の肩を撃ち抜いた。

「盾で見えなくても上手い事当たったねぇ」

鈴村の視点からでは盾に隠れて狙い辛い。

それでも鈴村は正確に肩を撃ち抜き、射手を戦闘不能にして見せた。

そして、穴の空いた弾幕を、野崎と舞香が駆け抜け、相手の意識を奪って回る。

この間、約10秒強。

「良い動きだねぇ」

「心が…通じてますから」

「勝手に繋げんな」

その時、二人のヘッドセットから聞き慣れない声が聞こえて来た。

『デルタ班の二人。聞こえているかね?」

少しハスキー気味の声が聞こえて来る。

「聞こえてます」

『それは良かった。鈴村と一緒にいるんだろう?』

「ええ」

『早く戻るように伝えてくれ。そいつは…何と言うか…暴走しがちなんだ』

二人が同時に藤村を見る。

「なぁに?どうかした?」

「いえ、何も。それと、班長の…」

『城澤だ』

「城澤さんが呼んでますよ」

「音ちゃんが!?早く戻らないと…」

「おとちゃん?」

『…私のあだ名だ』

「下の名前が音羽って言ってね〜たま〜に下の名前で呼ぶと照れて…」

『い、良いから帰って来いバカ!』

 

 

 

二人が南ホールを覗くと、その中に人質は居らず、ただ真ん中に武装した男が立っているだけだった。

しかし、異様だった。

まず身長が高い。2メートル以上有るかも知れない。

次に武装。立て籠り犯が使っていたライフルではなく、大太刀と弓、そして火縄銃の様な火器を携え、近代的な甲冑に身を包んでいた。

「舞香…あれって…」

「野崎。退くぞ」

「どうしたんだ急に」

「関わるな。あいつは立て籠もり犯でも、その一派でもない」

「そっか。なら——」

扉ごと、野崎が斬られた。

「野崎!!」

舞香の叫び声が響く。

壁まで切り裂いた大太刀が引き抜かれ、鎧武者がこちらに向けて弓を射ってくる。

舞香が矢を弾くと、その矢が炸裂し、土煙が上がった。

視界を奪われた舞香に、鎧武者が接近して火器を構える。

野崎を出した盾に匿い、舞香は相手を観察する。

全身を装甲板に覆い、高威力な武器を多数携え、高い機動力を備えた屈強な偉丈夫。

そんな奴が自身と敵対し、相棒は瀕死の重傷を負わされている。

自身の足元に広がる赤い水溜りを見て、相手の強大さを思い知らされる。

「舞香…」

「野崎!」

「俺に何かあったら…」

「言うな」

「…言わせろよ、最期くらい」

「オメーは、野崎浩介はこんなとこで死なねぇよ」

「…分かんのかよ」

「分かる」

「そうか…じゃあちょっと寝てる」

「死ぬなよ」

「そっちこそだぞ」

震える野崎の手を握り、力が抜けたのを感じた後、自身の拳を握り締めた。

 

 

「二人とも、遅いね」

「二人なら大丈夫だと思うけど…」

『デルタ班、ユニフォーム班の二班に通達!南ホールに不明な敵影!』

「南ホール…!」

『現在2名が交戦中!うち一人が重傷!』

「…!」

「千鶴ちゃん!」

「もみじさんもお願いします!」

「分かった!」

二人は南ホールに駆けていった。

 

 

 

「構えろよ。その鎧も、武器もブッ壊してやる」

『フォネティック・コーズ…?』

「とぼけてんじゃねぇ!テメェのせいで俺の腐れ縁の仲間が死にかけてんだよ!」

『騒ぎを聞きつけてやって来てみれば、特殊部隊員に襲われるとはな』

「…ッ!」

舞香が鎧武者の関節を撃ち抜く。

蛇腹関節の欠片が飛び散り、そこから何かが垂れて来た。

血では無い、黒い鉱油(オイル)

傷口から本来垂れないその液体が床の赤いカーペットに染みを作る。

『中々やるじゃねぇか…まぁ、重要な“パーツ”は無事だから…まだ戦えるけどな?』

「上等だ、来やがれよ機械ヤロー!」

振り下ろされた大太刀が床を切り裂き続ける。それを躱しながら、舞香の銃弾が装甲を傷つける。

「硬えな…」

『だろ?降参するか?』

「…あのバカの前で、降参なんてしたらバカにされちまうからな…」

『そうか』

鎧武者が弓を構える。

炸裂する矢を番え、弦を引く。

『なら戦えなくなって貰う』

矢が放たれ、舞香に近付く。

死を覚悟した瞬間、舞香の背後で破裂音が響いた。

炸裂弾が爆音と共に吹き飛ぶ。

「舞香、ただいま」

「…」

顔にまだ血が着いたまま微笑む野崎の脇腹を軽く小突き、舞香は野崎に手を差し出した。

その手を叩き、野崎はまた小さく微笑んだ。

「行くぞ舞香」

「また死ぬなよ。血塗れ」

「そっちこそ、ボロボロの癖して何言ってんだか」

「誰のせいだと…」

二人はヘッドセットを用いて出した拳銃を交換し、銃口を鎧武者に向けた。

「なあ舞香」

「何?」

「これ交換する意味あった?」

「無い」

二人を見て、男は顔…に見せかけた黒いディスプレイを優しく撫で、天井を見上げた。

『…2対1は分が悪いか』

そう言うと、天井に向けて弓を放ち、大男は瓦礫と土煙の向こうに消えていった。

『今回はお互い痛み分けだ!あばよ!』、とだけ残して。

 

 

 

ホールを出ると、そこにもみじと千鶴が居た。

「もみじさんが駆けつけてくれたお陰で、なんとか助けに行けたんだ」

「びっくりしたよ。野崎くん、血塗れで倒れてたんだもん」

「お騒がせしました…」

野崎が作り笑いを浮かべる。

そのヘッドセットに、聞き慣れた声が聞こえて来た。

『デルタ班のみんな!無事かい?』

「なんとか」

『…無事で何より』

「それより、立て籠もり犯は?」

「もう全員捕まったよ。皆が頑張ってくれたお陰だ」

「そりゃ良かった」

そう話す野崎に、スーツ姿の少女が声をかけて来た。

「野崎君、こうして顔を合わせるのは初めてだね」

「貴女が城澤班長ですか」

「そうだよ〜」

「藤村さん」

城澤音羽。ユニフォーム班の班長である。

身長152cm。長い髪を後頭部で纏め、スーツを着こなしている。

「野崎君…君思ったより大きいな」

「男の頃から身長は変わらなかったもので」

「それで…高校生なのか?」

「ええ」

音羽が自身の身体を見て、少し目が虚になる。

「…私の味方は千鶴だけか…」

「勝手に仲間にしないで下さいよ。私には成長の余地が——」

「無いだろ」

二人の目付きが変わり、野崎の胸を引きちぎらんと言う勢いで握る。

「痛い痛い!」

「これで分かるか!私達の胸の痛みが!」

「音ちゃ〜ん人の胸揉みしだいても別に大きくならないよ〜」

「藤村ァ…」

音羽の口が引き攣る。

「音ちゃん、そろそろ撤収しないと」

藤村がそう言うと、音羽は我に帰った様で、「そうだな」と言い、藤村と音羽は去っていった。

 

 

 

事件が終わってから数日後。

「なぁ舞香」

「何だ?」

「お前ってちっちゃい子が好きだろ?」

「何だ急に」

「音羽ちゃんとかどうなの?」

「あの人もう●●歳はいってんぞ」

「!?」




「なぁビリー」
「どうしたジェントル」
「君、今何したんだい?」
「紅茶ヲ沸かそうと…レンジに入れた」
「レンジ?…私は生粋のイギリス人だが、それも悪く無い気がしてきた…」
「イギリス流はどうやるんだ?」
「ポットで沸かすのさ」
「ココはニホンだが、ココだとドう沸かすのが主流なんダろうか」
「ヘソで沸かすと聞いたことがあるが…」
「凄いな日本人(ジャパニーズ)
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