フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

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皆様、師走ですね。
フォネティック・コーズもそろそろ1周年です。
よく飽き性の受験生がここまで続けれたもんです。
しかし、まだまだフォネティック・コーズは戦い続けます。
これからもお楽しみに!


Delta 8:轟音のタイヤ痕をなぞって

「あ"〜!寝れない!」

野崎浩介は枕を頭にかぶせた。

窓の外からは、エンジンの轟音が轟いている。

バイク、それも多数、その上改造マフラー。

大轟音が街を包み込んでいた。

G県、特に野崎達のいるM市はそれなりに大きい国道が通っているだけあり、暴走族がやけに多い。

しかも、それに武器やらバイクのパーツやらを流している奴が居るらしく、度々野崎達デルタ班も駆り出される事態になっている。

それにしても今晩は異常だ。そう野崎が思うのには訳があった。

いつもは警察やフォネティック・コーズによる一斉検挙やら鎮圧やらが行われれば暫く——最短でも約二ヶ月程しなければここまで大きな集団にはならないのだが、前回一斉検挙を行ってからまだ一週間しか経っていないのだ。

それに、最近持っている武器が一般人離れして来たのである。

今となっては新入りと雑用的な下っ端以上になれば平気で拳銃を抜き出してくる輩がおり、野崎達は手を焼いていた。

大概は追い詰められて初めて撃つ故に手が震えて外れるか、強い反動を制御できずに暴走するかのどちらかなので大した脅威ではないが、それでも治安というか、世の為人の為にさっさと根絶しなければなるまい。そう思っていた矢先に、この集団が現れたのである。

諸々の事情も相まって、デルタ班の苛立ちは最高潮に達していた。

 

 

 

夜の国道、二輪車の群衆が異様な駆動音を響かせ、排気を撒き散らす。

皆様相は様々ながら、共通していた点があった。

衣服、車体、マスク。様々な場所に刻まれ、貼り付けられた『ピラミッド』のマーク。

エジプトにある三角形のそれとは違う、階段の取り付けられた形は、ある国に残された神殿に酷似していた。

 

 

 

舞香はロフトベッドの上で呟いた

「落ち着いて寝れやしねぇ…」

冷え込んできたこともあって、掛け布団を被りながら自室の椅子に腰掛けた。

中学生の頃に買ったゲーミングPCを起動し、ストリートファイターを開いた。

繋いだコントローラーを握り、ヘッドホンを着けた。

昔より随分上手くなった。

そう自画自賛するが、やっている友人はもうどこか遠くへ行ってしまった。

野崎なら乗ってくるだろうか。

千鶴も案外気に入るかもしれない。

弟切も多分世代だろう。

一人は気楽だが、なんだかんだで寂———

そこまで考えたところで、自分の直感が何かを感じ取った。

コントローラーから手を離したことを察されるな。そう司令を巡らせ、静かに、それでいて素早く後ろへ手刀を繰り出した。

手をゆっくりと止められ、ねっとりとした温もりが手を包み込んだ。

急いで手を引き、部屋の電気を着ける。

「…野崎?」

「バレたか」

「気配が(やかま)しいんだよお前」

「な!?喧しいだと!?」

「そういうとこだ。外の奴らと同じくらい五月蝿(うるさ)い」

「外の奴らか…確かに、最近更に五月蝿くなってきたな」

「どうやったらあんなに早く復活すんのやら、見当がつかねぇな…」

舞香が椅子にもたれかかる。

「そうだ、舞香。屋上でゾッキー供の行軍見物でもしよう」

「ゾッキー?」

「あそこの珍走団のことだよ」

「珍走団?」

「…まじかよ…」

野崎は少し驚いた。

 

 

 

「寒いなぁ」

「もう11月になるもんな」

二人は厚着姿で屋上のフェンスに寄りかかった。

「去年の今くらいって何してたっけ」

「去年は受験勉強…してないな」

「だな」

野崎の方を見ながら舞香は呟く。

「お前は委員会で台車に轢かれてたな」

野崎も舞香の方を見て言う。

「お前だって、帰り道によそ見してて畑に頭から突っ込んでたろ」

「あったな、そんなこと」

舞香が笑いながらそう言った。

楽しかった中学時代が蘇ったようだった。

そういやそんな事もあったな。そう笑える思い出が溢れ出てくる。

 

私が、俺が、野崎浩介が完成した辺り。

素敵な友達(おまえら)がいて、思い人(あのひと)がいて、輝かしく楽しい日々があった。

何者にも代え難い。そんな日が続いて欲しかった。

高校生になってから、自分の無い物ねだりでやっとこさ気付けたんだ。

卒業式の日、舞香(おまえ)にアレを渡したのは、俺のことを忘れてほしくなかったからだ。

正直言ってどうしてくれたって良かった。

捨てたって、渡したって、持っててくれたってよかったんだ。

ただの自己満足のために、あんな物を押し付けたんだ。

だから———

 

 

 

「野崎?おーい!野崎!」

「!あぁ、舞香か」

「俺以外に誰がいるってんだ?」

二人の後ろから声がかかった。

「僕がいるよ」

振り向くと、弟切がサンダルを履き、半分寝巻きのような格好で立っている。

「真夜中だけど、緊急で警察の人とお仕事だってさ」

野崎が走り抜ける車列を眺めながら呟いた。

「こんな真夜中に駆り出されるなんて、たまったもんじゃないでしょうね」

続けて舞香が言う。

「俺たちは慣れっこだけどな」

 

 

 

弟切に連れられて来た現場では、いかにも強面といった感じの警察官が指揮をとっていた。

鬼瓦厳三(げんぞう)。強面という言葉の似合う男。

眉間や額に刻まれた深い皺、ドスの効いた声、柔術や空手等の武道を積んだ末の力強い手。

いかにもといった風貌な男は弟切と何やら小難しげな話をした後、こちら…、瞼を擦っている千鶴、服の胸元に小さなシミのある舞香、寝ていた千鶴を起こそうとした時に寝ぼけた千鶴の手加減なしのストレートを顔面に喰らって顔を少し腫らした野崎に目を向けた。

「こんな女の子が…噂の…?」

「そうなりますね。信じられないでしょうが」

野崎が弟切に小声で聞いた。

「この人、前の現場居なかったんですか?」

「なんでも暴走族対策のプロらしくてね。手が空いたから直ぐにこっちの作戦に参加したらしいよ」

「通りで初対面なわけだ」

野崎は男の方へ視線を戻し、いつもより少し姿勢を正した。

 

 

「で、だ」

作戦会議用のテントで、デルタ班と鬼瓦達は作戦を練っていた。

「あいつらは何時も速い上にビビりもしない。そんな奴らをどう止めるか…」

「何か策とか無いかい?」

弟切が三人に聞く。

「柵で止めるとか?」

「それが、柵を設置するとUターンして迂回して行くんだ。それで追い詰めたら、今度は柵を飛び越えて逃げてったんだってよ」

弟切が残念そうに言う。

「ん〜…撃っちゃう?」

「空砲を?」

「実包を」

「一般人に?」

「一般人に」

「…とりあえず不採用かな」

「ダメかぁ…」

千鶴はがっくりと項垂れた。

「いつも通りサイレン鳴らして追いかけるだけじゃダメ…」

野崎が顎を触る。

昔からの癖だ。しかし、昔の彼が憧れた様な立派な髭が生える事はもう無いだろうが。

「この集団は何のために走ってるんだ?」

弟切が答える。

「自分を見せるためとか…ストレス解消とか?」

「別のグループが、わざわざ徒党を組んでまでか?」

弟切も、一連の事件に対応していた関係で、別のグループ同士が手を組むこともあるものなのだと考えていた。

しかし、少し考えてみればそうだ。

今まで敵対していたならば、そうでなくとも別のグループであったのならば、別れる理由がある筈だった。

今のように大挙すれば良いのなら最初からそうしておけば良かった筈だ。

手を組む利点が無い訳ではない。

ただ、指摘された故の違和感が、じんわりと染み込んできた。

「何か、あるんじゃないのか?」

黙り込んでいた鬼瓦が顔を上げる。

「…彼らを追い詰めるのではなく、追いかける…ってのはどうです?」

 

 

「野崎君、君の案は素晴らしいが、車で追えば勘付かれていつもの様になるのではないか?」

「おr…私に任せてください。いい移動手段がすぐ来ますんで」

 

 

野崎は道路脇に立ち、境界ブロックに足を乗せて何かを待っている。

夜風に吹かれて靡く長髪が街灯に照らされて美しく輝いている。

黙った野崎は昔とは別人の様だ。

黒い長髪、女性的な身体、可愛らしくなった顔。

似ても似つかないが、変わらない所もある。

先程までこちらに向けていた優しい顔。

そして今、道路の向こうを見つめる少し凶暴な顔。

 

暫くして、ヘッドライトが1列に並び、轟音と共に駆け抜けてくる。

待っていたと言わんばかりに、野崎は1番後ろのバイクに狙いを定めた。

野崎が走って来たバイクの一台に飛び掛かり、乗っていた男を蹴り落とした。

男が勢いよく蹴落とされ、その勢いのまま千鶴と舞香の足元まで転がってくる。

男は転げ落ちたものの、身に着けていたライダースジャケットとフルフェイスのお陰で無事のようで、しばらくすると数度瞬きして起き上がった。

「痛た…急に何だったんだ?」

男は周囲を見回す。

「ってか、ここ何処だ?」

「何処って…ここは…」

「そこの嬢ちゃん!俺は部屋で寝てたんだぞ!?何でこんな所に居るんだ!」

「部屋?」

その後、男は直前まで自分が部屋で寝ていた事、気づいた時には野崎に蹴落とされていた事、そして自分はバイク好きだが、決して暴走に加担するような事をする訳がない…そう語った。

「気味の悪い話だね…」

千鶴が横の舞香を見る。

「恐らく何らかの方法で記憶や意識を操作されてるんだろう…そんな方法が分からないから気味が悪いんだが…」

舞香は淡々とそう言った。

男は警察官に連れて行かれたが、抵抗はしなかった。

二人も、先にあの集団を追った野崎を追う事にした。

 

 

野崎はこの集団の異質さに気付いていた。

走っている皆が虚な目でハンドルを握り、曲がる時は皆同じタイミングでハンドルを切る。

話している様子はない。

練習していたようにも見えない。

この“異質な集団”の中で最も“異質”なのが自分であるかに感じるような感覚。

疎外感とでも言うべきか。

この二輪車(バイク)の車列はまるで一匹の大蛇のように、国道を這い回っている。

今や野崎は蛇と並走するだけの蟻だ。

牙を剥かれれば勝ち目は無いだろう。

舞香でもいれば話は別なのだろうが。

ハンドルを握る指貫グローブに、じんわりと汗が滲む。

そんな野崎に、ハスキーな声で興味深い話題が舞い込んできた。

ヘッドセットの奥から舞香の声が聞こえる。

『野崎!状況は!?』

「こいつらは異常だ。虚な目でハンドルを握ってやがる」

『目が死んでんのはお前もだが…こっちも気になることがあるんだ』

「気になってること?」

『お前が蹴落としたバイカー、()()()()()()()走ってたそうだ』

「気を失ったまま!?どういう…」

『そいつを調べようってんだ。きっと、この車列がヒントだと思う。気をつけろよ』

「安全運転した方がいいか?」

『…おめーの安全運転は信用ならねーよ』

「おいおい、昔自転車で遊びに行った時のことを忘れたのか?」

『…余計なこと喋ってっと事故んぞ』

野崎は舞香がそう言うのを聞くと、ハンドルを強く握りしめた。




受験を控えてるやつのやる事か!これが!
皆さんも体調にはお気を付けてお過ごしください。
メリークリスマス!(3日間何してたんだテメェ)
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