フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

14 / 27
皆様こんにちは。山本です。
冬ですね。
今年はどうでしたか?
フォネティック・コーズは今回も含めると14話になります。
いいペースで書き進めて来ましたが、なんだかんだでまだまだまだ先は長いです。
来年はフォネティック・コーズとMUSEだけでなく、他の作品なんかも書けたらなんて考えています。
これからもよろしくお願いします!!


Delta 9:夜風と黒煙

舞香達が野崎を追い始める前、鬼瓦と弟切は地図の置かれた本部で話していた。

「あの少女達、PC(フォネティック・コーズ)のメンバーだと言われたが…本当に大丈夫なのか?」

鬼瓦は弟切に問いかける。

「大丈夫ですよ。最も、何をもって大丈夫とするのかは知りませんが」

「私には娘がいるんだ。丁度、あの娘達位の歳でな」

「はぁ」

「そんな年端も行かない子を戦いに駆り出しているのか?」

「彼らはそうなるのを覚悟の上でうちで働いてるんですよ」

鬼瓦はそう言う弟切の手元を見た。

仕事柄故か色白な細い指が、薄いながらも高密度の筋肉に覆われている。

そして、指にも、掌にも、手首にも深い古傷が刻まれている。

彼もまた、今彼女らがしているような仕事をして来たのだろう。

鬼瓦もこの職に就いて長いものだが、彼は今まで見たこともないような雰囲気を纏っていた。

恐ろしいまでの“何か”を押さえ込み、自身を弱い手負いの男として生きている。

血に飢えた猛禽を閉じ込めた鳥籠に鎖を巻き小鳥の描かれた布を掛けて誤魔化しているような物だ。

鬼瓦の手や背に冷や汗が滲む。

そのとき、弟切が耳に指を当てた。

どうやらイヤホンで班のメンバーと繋がっていたようだ。

昔訳あって負傷したのだという足を未だ少しだけ動かし辛そうにして立ち上がり、

「安心して下さい。こっちのマイクはオフになってますから」

とだけ言って本部を出て行った。

 

本部を出て駐車場へ向かうと、千鶴と舞香がもう車の前で待っていた。

「準備はいいかい?」

「勿論」

舞香が言う。

運転席に乗り込む前に、弟切は少しだけ足踏みし、足の調子を見てから車に乗り込んだ。

「あの野崎(バカ)を追うんだ。安全運転なんて言うなよ」

「ゴールド免許らしい運転をさせてもらうよ」

「この前6年ぶりにとったんだろ?」

弟切が笑いながらアクセルを踏み込み、駐車場を出て行った。

 

 

 

野崎はある事を考えていた。

この行軍は誰が先導していて、何処へと向かうのか。

もう少し数が少なければ、追い越してしまいたいのだが、そうも行かない。

こちら側は人が多すぎてとても素人に追い抜けるような密度ではない。

その時、野崎の視界に映るそれが輝いて見えた。

対向車線。本来なら使えないが、鬼瓦がうっかり事故に巻き込まれる一般人が居ないように対向車線や交差点を閉鎖してくれているそうだ。

縁石の間を縫うようにして対向車線へ躍り出ると、野崎はバイクを加速させた。

しかし、先頭は一向に見えて来ない。

(こんな時、どうやりゃ先頭が見れる?)

ふと、テレビで見た夜景が頭に浮かんだ。

あれはどこから見ていた?

宇宙か?

高台か?

ヘリか?

何を用いたかなんて関係ない。

ともかく、“高い所”だ。

高い所から見れば先頭も見れる。

野崎浩介の経験則からして、思い立った突飛なアイデアは、直ぐに実行に移せば大体何処かで上手くいく。

ならどうやって高い所からこの集団を見る?

今から山でも登るか?

いや、違う。

もっと簡単に飛ぶアイデアも、それを出来る道具(ヘッドセット)もある。

きっと危険だ。無茶なんて出来ればしたくない。ただそれよりも、今は自分の心に従う事にした。

勢いを更に上げ、風圧に負けずに瞼を上げた。

そして、

野崎の企みは成功した。

 

時を同じくして、野崎を追う車内の面々は同僚の無謀な企みが実行に移されるのを見て驚愕した。

「野崎…」

「あいつ…恐怖とかどこやったんだ?」

月明かりに照らされ、斜面状の台が影を落としている。

臆病な彼は、臆病だった彼女は、

今宵、星空を飛んだのだ。

 

 

「風が強いな」

夜空は季節もあってか少しばかり寒い。

きっとこの対空時間も地上から見れば短いものだろうが、野崎にはとても永いもののように感じた。

ヘッドセットで作り出した双眼鏡を覗き込み、列の先頭を確認する。

暗い色のローブを纏った男女数人が見える。

あのローブには、何処となく見覚えがあった。

ジェントルと戦った、初任務の夜。

あの時現れた男と同じだ。

野崎の心の奥底に、今まで気絶していた感情が目を覚ました。

「あの野郎、邪魔しやがったな」

野崎の黒い目が夜景を反射して爛々と輝く。

「いいとこだったのに」

風に長い黒髪がたなびく。

「許せねぇな」

ヘッドセットが内部から怪しい翠緑の光を放つ。

「ブッ殺してやる!」

野崎のバイクが空中で唸りを上げ、空を駆け出した。

 

 

その光景は、車内の班員にも見えていた。

「…あいつはいつからマジシャンになったんだ?」

「舞香、あれはマジックなんかじゃ無いよ」

千鶴には見えていた。

タイヤの下で生まれては消えていく細い“道”を。

野崎はバイクの下に道を作り、そこを走る事で空中を走っていた。

そして走り終えた所から光の粒子になって消え、また新たな道が作られていく。

しかしながら、敵の先頭はまだ遠い。

それでも、成功体験を積んだ野崎には関係なかった。

更にスピードを上げ、また走り続ける。

また空を舞い、走り、空を舞い、走った。

「野崎…」

常識的に考えればあり得ない光景を前に、千鶴は静かに手を合わせ、祈る他出来なかった。

 

 

 

野崎の眼には、先程から追いかけているライダーの背が映っていた。

彼らは決して暴れる事はなく、冷静に何処かを目指している。

しばらく並走した所で、車列は商業施設の広い駐車場へと侵入した。

その現場を見ていたにも関わらず、野崎は自身に向けられる殺気に気付いていなかった。

Мосин-Наган(モシン・ナガン)。吹雪の向こうからやって来たその銃は、乾いた音と共に少女を撃墜した。

 

 

 

「——ッてぇ〜…」

野崎は近場の植え込みに落ちたらしく、ガサガサと音を立てながら起き上がった。

幸いなことに借り物のバイクも自分も無事だ。

服にくっ付いた葉を手で払い植え込みからバイクを引き上げた。

『野崎!大丈夫!?』

「大丈夫だ。特に何も壊れて無いみたいだ」

『無茶な運転が祟ったか?』

「違う。奴ら撃って来やがったんだ」

『撃たれた?』

「撃たれた後、落ちる一瞬でも分かった。ありゃあモシン・ナガンだ」

『モシン…なんだって?』

「モシン・ナガンだ」

モシン・ナガンとはナガン兄弟により設計された5連発のボルトアクション式小銃である。

全長130.5cm。重量4370g。口径7.62mm。7.62mm×54R弾を使用。

歴史上最も大量に生産されたボルトアクション小銃の一つに数えられており、古いながらも現在でも使用されている名銃である。

「いくら現在でも世界中で使われてるっつったって、この日本でそんな物騒なモンがそこらのチンピラ如きに使われる程手軽に手に入る訳がねぇ」

『…どっから盗んだと思うんだ?』

「盗んだ?いや、違うな」

『違う?』

「渡されたのさ。奴らのお友達からな」

舞香には野崎の言う意味が分からなかった。

 

 

 

野崎は商業施設へと続く道を歩いていた。

制服に少しだけ土汚れが残るが、特に気になる程では無いので無視している。

無理な運転のせいか、ジェットコースターに乗って降りて来た時のような疲れが体にじわじわと滲んで来ている。

大きな道路へと出た辺りで、野崎の横に見慣れた車が停まった。

「乗ってくかい?」

弟切が運転席から問いかける。

野崎の疲れた目が一瞬で生気を取り戻し、ドアを開けて勢いよく乗り込んだ。

「かっ飛ばしてくれ」

そう言う野崎に、弟切は微笑んで言った

「運転には自信があるんだ。任しといて」

弟切はアクセルを踏み込んだ。

窓の向こうで暗闇が加速していく。

そのまま、開け放たれたゲートを通り抜けて駐車場へと飛び込んだのだった。

 

 

道沿いにある商業施設、ジェイコブシマダは前の道から入った場合、少しだけ駐車場が高くなっている関係で駐車場の中は見辛くなっている。

勢いよく飛び込めば、尚の事である。

深夜の駐車場は異様な雰囲気に包まれていた。

今まで暴走していたバイクとライダー達は整列し、まるで軍隊のようだった。

そして、その中心部に更に異様な影が六つ。

ローブの関係もあって、容姿は分かりかねる。

相手の素性が分からない内は、無闇に突っ込むわけにもいかない。

ローブの中身がビリーなんてことがあれば車ごと鉄屑と挽肉にされてしまうだろう。

野崎も、千鶴も、舞香も車を降りた。

ヘッドセットが輝いている。

戦う準備は出来ている訳だ。

冷たい夜風が三人の頬を撫でる。

纏っていたローブがたなびく。

張り詰めた緊張が走る。

指一本動かせば、きっとお互い攻撃し合う。

暗い、暗い夜空は、まるで黒煙の中のようだった。

その黒煙が渦巻き、集まり、形を成していく。

有り得ない光景。

完全に形を得る前に、現れた煙の塊は周りの影達から同じようなローブを渡され、あの夜と同じ格好になった。

「久しぶりだね。フォネティック・コーズの諸君」

「この前は随分好き勝手してくれたじゃねぇか。俺、結構根に持ってるぜ」

野崎がそう言うと、男は野崎の方へと歩み寄って来た。

「君は…野崎浩介くん、だったかな?」

「名乗った覚えは無いんだがな」

「ジェントルと、私の仲間達が教えてくれたのさ」

野崎は納得したように頷き、そのまま間髪入れずに発砲した。

しかし、弾丸は減速も停止もせず、男の体を通過して夜空へ消えて行った。

「危ないじゃないか。僕だったから良かったけどね」

銃弾を胸部に喰らってもダメージは無いようだ。

「言っておくが、今日は君と殴り合いに来たんじゃ無いんだ。僕の部下…そこにいる六人に挨拶でもさせようと思ってね」

「挨拶ぅ?」

「そうだとも。なにせ君らは、素晴らしい敵だからね」

「そいつはどうも」

野崎考えていた。目の前で講釈を垂れる得体の知れない何かを殺す方法を。

十中八九、今まで半グレ共をけしかけたり、彼らに銃器を提供していたのはこの男だろう。

先程の銃弾が効いていれば良かったのだが、奴は元気そうだ。

次は頭を撃ってみるか?それか手榴弾でも投げつけてやろうか?

考えれば考える程、思考は長引き、まとまらなくなっていた。

「それじゃあ皆。挨拶を済ませたら帰っておいで」

「!待て!」

「僕は忙しいのさ。大丈夫だ。止めは刺してやる」

男はそう言い、野崎達の車へ向けて指を差した。

「僕はここだ。早く来いよ、弟切睦月」

そういうと、男は風に消えていった。

 




フォネティック・コーズのキャラって絵が無いからみんなどんなイメージで読んでるのかが気になりますね。
Xは知り合いが見てるんで絵は上げにくいし、かといってあげれる所もないし、そもそも絵が下手だし…
絵の上手い友達に土下座でもしたら書いてくれるかな?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。