ここの所卒業したり入学したりで忙しく、中々更新できませんでした。
これからも頑張って行きますよ!
町のスーパーは、休日も相まって混雑している。
そんな中、菓子売り場に目立つ男が二人。
金髪の男は冬にも関わらず、半袖のTシャツを着ている。
その胸元には『あめりかん』と筆字で書かれており、彫りの深い日本人離れした顔と絶妙に合っていない。
「なぁジェントル」
金髪の男が白髪の老紳士に聞く。
「どうしたんだビリー」
老紳士は何故か割烹着を着込み、いつも装飾の施された杖を握っている右手には、杖では無く特売品の入れられた籠が握られている。
「このチョコレート、どっちが…」
「きのこ」
二人は人目も憚らずグータッチし、菓子の箱を籠へと突っ込んだ。
G県立M第一高校。
生徒数627人。
中央駅南口から徒歩13分。
このごくごく普通な学校からフォネティック・コーズへと不思議な話が入ってきた。
「学生の失踪事件?そう言うのは警察の管轄だろ?」
「管轄外だからこっちに来てるんだよ」
野崎が書類に目を落とすと、事件の概要が書かれていた。
「え〜と何々?第一高校の生徒が数ヶ月前に失踪して…で?」
書面だけなら普通の失踪事件だ。生徒が1人失踪した。ただそれだけの事件だった。
「で?も何もそれで終わりだよ」
「何でこれが俺らの仕事なんだ?」
「その話を今からする所だったのさ」
「これが監視カメラの動画」
駅前の喧騒の中、制服姿の少女が人混みへと消えていく。
「変なとこなんてあるか?」
「じゃあ、今度は別の角度からの動画にしてみようか」
少女がこちらに背を向けながら歩いていく。
そして、人とすれ違った瞬間に、黒い煙へと呑まれて消えた。
「!」
「記憶に新しいだろう?あの煙は」
間違いなくあの夜に見た煙だった。
「…分かった」
弟切の言う通り、警察の案件ではなかった。
「…潜入任務なのか?」
野崎は机の上にある畳まれた制服を見ながら言った。
第一高校の女子制服はシンプルな紺のセーラーであり、胸元には校章が刺繍されている。
舞香が促されるままに袖を通す。
「似合ってるな」
「だろ?」
舞香はスカートを翻しながらくるりとその場で回った。
「じゃあ俺も…」
そう言いながら前のチャックを止めようとしたところで、野崎が動きを止めた。
「なぁ舞香」
「どうしたんだ?」
「悪いんだがもう1サイズ大きいやつを取ってくれないか?引っ掛かっちまった」
舞香が唖然としながらももう1サイズ大きな制服を渡すと、野崎はなんとかチャックを閉めることができたが、依然として苦しげだった。
「ねぇ舞香、私もサイズが…」
そう言う千鶴に、舞香は野崎と顔を見合わせてからもう1サイズ小さい制服を渡した。
千鶴はそれを受け取ると、横にあった机に置き、二人に鋭いラリアットを食らわせた。
「南高校から来ました。野崎です」
転校生として潜り込んだ3人は、早速クラスメイトからの歓迎を受けていた。
(しかし…野郎が恐ろしい程寄ってこないな…)
野崎は正直言って困っていた。
立ち込める女子高生の匂い、離れて小声で話している男子達。
今まで生きてきた世界とは全くの別世界。
しかし、
(帰りたい…)
野崎に女性耐性なんてものは無かった。
慣れ親しんだ友人のいる所へ一刻も早く逃げたかった。
しかし、今回は潜入任務である。
周囲との関係は良好でなくては、入ってくる情報も入ってこない。
周りの少女達は同性特有の距離感で接してくるため、目のやり場に困りながら、野崎は降り注ぐ質問に答え続けた。
質問の嵐を乗り越え、死んだような顔をしながら、野崎はゆっくり机から立ち上がった。
離れたところから見ていた男子生徒の方を向き、少しだけ微笑みを向けると、特に声もかけずに教室を出ていった。
持っていたスマホに通知が来ていた。
『2.L5.S』
南校舎、2階、左から5番目の教室。
今は資料置き場になっているが、ほぼ使われないので埃を被っている。
先に来ていた舞香がぐったりとした野崎を見ながら千鶴を待っていると、千鶴と依頼主である校長、それともう一人、制服姿の少女が入ってきた。
「千鶴と…そちらは?」
千鶴より少しだけ低い身長、細身で色白な身体。
「忘れたか?」
少女にしか見えなかった彼女は、落ち着いた声色で問いかけた。
「城澤さん、何やってんすか」
彼女は城澤音羽。ユニフォーム班の班長を務めている小柄な女性だ。
傍目に見れば同級生どころか…少しばかり下に見える。
「潜入任務は、本来なら私たちユニフォーム班の預かるところなんだよ。ただ…」
「ただ?」
「周りは社会人達に馴染む役作りをしているからね…。その…まぁ…私しかいなかったんだ…」
音羽が顔を覆いながら俯いた。
現に、ユニフォーム班は社会人らしい外見の班員ばかりであり、副班長の藤村も若々しくはあるが、学生服が似合う程では無いので、仕方なく音羽だけでの潜入となったのだった。
しかし、多少の武術の心得があると言っても、音羽は小柄な女性であり、愛用している品も学校では目立ってしまうので扱い難い。なので、野崎達デルタ班を連れることにしたらしい。
「にしても、音羽さんって声は結構大人びてますよね?どうやってるんです?」
「あぁ、それはね…」
音羽は首を触りながら声をチューニングした。
「こうしているんだよ」
今まで落ち着いた低音だった声が、途端に少女らしい可憐な声になった。
「なんと言うか…その…犯罪臭が…」
「やめておくれよ、結構恥ずかしいんだぞ」
「皆さん、事件の概要はご存知ですよね?」
校長は机の上に資料を広げた。
「1月10日、我が校の生徒である吉川さんが失踪しました。最後に映っていた映像が、送ったそれです」
机の上の端末に煙の中に消えていく吉川の姿が映っている。
「吉川さんの周りで、何か怪しい人っていました?」
「…一人だけ」
「その人って?」
「吉川春夫。彼女の兄です」
「その人は…“何”を?」
「若気の至りから来る…“ヤンチャ”でした」
校長は含みのある言い方でそう言った。
「でした?」
気になったのか、音羽が問いかけた。
「彼は…脱獄したんです。格子を壊し、警備員を切りつけて」
「切りつけて?」
「えぇ。なんでも、囚人の一人が密かに作っていたナイフを渡したんだそうで」
「ナイフ?」
首を傾げた音羽に野崎が言う。
「結構あることらしいですよ。スプーンとか、金属片とかガラス片に持ち手を作ったやつとか使うらしいです」
「よく知ってるな。さすがOB」
「舞香、テメーまじで覚えてろよ」
舞香とひとしきり戯れあった野崎はふと思い出したように校長へと尋ねた。
「格子を壊したって言ってましたよね?」
「ええ」
「申し訳ないんですが、吉川春夫と…出来ることなら、壊された格子の写真を貰えませんか?」
「ビリーさ〜ん?いらっしゃるかしら〜?」
老齢の女性がドアの前から呼びかける。
手には花柄が印刷されたタッパーを持ち、低い背を伸ばしてインターホンを押している。
「あぁ大家さん」
帰ってきた金髪の男は住んでいるアパートの大家に屈んで挨拶した。
「ビリーさん、はいこれ。お裾分けの筑前煮」
「いつもありがとうございます」
「ビリーさん、食べ終わってタッパー返しに来る時、いっつもすっごい嬉しそうな顔して持って来てくれるから作り甲斐があるわ〜」
ビリーは照れ臭そうに頬を掻いた。
「また感想聞かせて頂戴」
ビリーは大家に手を振って自宅へと戻っていった。
「壊された格子?」
「金属製の格子ですよ。それを壊すなんて、たとえナイフを持ってたとしたって楽じゃないです。基本は、何か酸性のものを使って腐食させたりして折るんですけどね…」
野崎は顎に手を当てた。
「あ、ありました!これですね」
校長が写真フォルダから数枚の写真を選択した。
画面の中では、金属製の格子がバラバラに切られて散乱している。
「こいつぁすげえな」
野崎が感心したように頷く。
周りの四人は何が何だかわからず、お互い度々顔を見合わせながら野崎が頷き終わるのを待っている。
次の写真は、格子の断面を写した写真だった。
その写真を見た途端、野崎は眉間に皺を寄せた。
「…おかしい」
「おかしい?」
舞香が画面を覗き込むと、舞香もまた眉間に皺を寄せた。
「2人とも、どうしたの?」
千鶴が画面を覗き込む。
千鶴には写っているのは何の変哲も無い断面にしか見えなかった。
「…何もおかしくなくない?」
「それがそうでも無いんだ」
野崎がチョークを片手に話し出す。
「金属を切った時に限らず、物を切った時には切断痕が残る。そこを見れば、何を使ったかが分かる…こともある」
「こともあるって…」
「正直なところ、切った痕が分からない位ヤスリを掛けてればなんだか分からないからな」
「そっか。で、今回はどんな感じ?」
断面には細かな傷もなく、滑らかな金属光沢が広がっている。
「こんなに綺麗な断面なら、力をかけ続けて折るようなやり方では無いだろうし、ノコギリだとしたって細かな傷が無さすぎる」
「てことは…何?」
「残念だけど、そこが分からない」
千鶴が肩を落とした。
「一番似てるのはレーザーだけど…削りかすが見当たんないし…水かな?」
野崎がまた考え事を始めようとした所で、休み時間の終わりを告げる予鈴が鳴った。
本当に自分事なんですけど、最近足腰が強くなってきた気がします。
健康でいたいものですね。