フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

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みなさんこんにちは。山本です。
最近道路の段差で跳ねるのが楽しくてしょうがありません。


Delta 13:ある筈だったもの

「あの…野崎さん」

教室に戻ってきて早々に本を開き、背もたれに寄りかかって寛ぐ野崎に、隣の席の男子生徒が話しかけてきた。

「呼び捨てでいいよ。それで、どうしたの?」

椅子に腰掛けていつもの調子で話す野崎を見ながら、生徒は目の前の少女に質問した。

「野崎さんって…好きな漫画とかある?」

野崎は少し考えると、顔を上げて微笑み、「少し長くなるぞ」と言った。

 

 

 

授業を終え、昼休みが始まろうとしている。

「千鶴ちゃん、今大丈夫?」

クラスの少女が千鶴の机に手をつきながら言った。

「大丈夫だけど、どうしたの?」

「ちょっとお話ししない?」

少女は微笑みながらそう言う。

「お話し?」

「あ、別に何か酷いことしようってわけじゃなくてさ。普通に興味があるだけなんだけどさ」

慌てて弁解するのを気にせずに、千鶴は微笑みながら尋ねる。

「じゃあさ、学校案内とかってしてもらえたりする?」

少女が自信ありげに口角を上げた。

「任しといて」

 

 

 

男子生徒が教室の隅で話している。

「体育館空いてるしちょっと遊び行かね?」

「いいじゃん。誰か誘う?」

その様子を見ていた舞香は、最近体を動かして遊ぶ機会が無かったことを思い出し、二人の男子生徒へと近付いた。

「そうだな…」

「それなら、着いて行ってもいいか?」

後ろから声をかけられた生徒は後ろにいる、異性にしては背の高い生徒へと問いかけた。

「原田さん?いいの?」

「どうせ暇なんだから、遊んだっていいだろ?」

「そう言うなら良いけど…今から結構たくさん男子誘うよ?」

「いいさ。何するんだ?」

「バスケとかかな」

「なら、大丈夫だな。今日は妙に調子がいいんだ」

舞香は自身ありげに微笑んだ。

 

 

 

「野崎さん、それ何読んでるの?結構厚いけど」

隣の席の男子生徒が野崎の手元を覗き込みながら尋ねて来た。

野崎は手元の文庫本から目を離しながら、慣れた手つきで栞を挟んで閉じた。

「少し前に賞を取った小説だよ。題材が気に入ったから読み始めてみたらハマっちゃってさ」

「どんなの?」

「読む?」

「いや、いいや」

「結構面白いのに」

そう言うと野崎は本の途中に差し込んだ栞を頼りに、さっきまで読んでいたページへと目を落とした。

目を落としてはいるが、文章は読んでいない。

野崎の意識はクラスメイトへと向いていた。

このクラスは元々吉川が在籍していたクラスだ。

もしかしたら、失踪の原因や手掛かりが何処かにあるのかも知れない。

ただ、その原因がここにあるならば、それを他者に伝えていない事からも分かる通り、事件を隠そうとしている誰かが居る筈だ。

下手に嗅ぎ回って隠蔽を促してはいけない。今の所は本を読みながら、周囲の談笑に耳を傾ける事ばかりだった。

 

 

 

授業も終わり、皆別のルートから俵田の支部に帰って来た。

「学校を案内してもらったけど、特に怪しいところはなかったし…」

「男子達も怪しく無かったし…」

「クラスも怪しいところは無かった」

「「「収穫ナシかぁ…」」」

3人は机に突っ伏した。

「流石に1日じゃ何も出んさ。こう言うのは結構長引くからな」

音羽がインスタントのコーヒーにお湯を注ぎながらそう言う。

「長引くって…それどれ位ですか?」

「早けりゃ1日」

野崎が嫌そうな顔をする。

「長けりゃ…予算が割かれなくなるまでかな」

「それって…一体どれ位…?」

「下手すれば潜入したまま夏季オリンピックを二回見れるよ」

野崎の顔が途端に青ざめた。

「長引かなけりゃ良いな…」

 

 

 

「そう言えば、音羽さんは今日一日何してたんです?」

「私も君らと同じように潜入してたんだよ」

「何か怪しい所とか…気になる所ってありませんでした?」

「…少しだけなんだがね」

音羽が飲みかけのコーヒーを机に置いて立ち上がった。

「数人の目の中、瞳のところに…」

音羽が会議室のホワイトボードに、不思議な多角形を描いた。

「こんな形が見えたんだ」

台形。しかし、側面には段らしきものがあり、上には四角い形が乗っている。

千鶴が近付いて図形を覗く。

「これ何ですかね?」

「それがよく分からないんだよ。流行ってるコンタクトとかなのかも」

その時、寝ていた野崎が2人の声を聞いて目を覚ました。

「どうかしたの?」

「あ、野崎。このマーク知らない?」

千鶴はホワイトボードを見せた。

野崎は手元に置いてあったアンダーリムの眼鏡をかけた。

「これどこで見たやつ?」

「生徒の瞳のところに見えたマークだって。コンタクトとかかな?」

「一応聞くけど、心当たりとかは?」

「無いね」

「だろうと思ったよ」

野崎は暫くそのマークを凝視してから「ダメだ」と言って眉間に手を当てながらホワイトボードから離れた。

「明日も早いんで、お先に失礼します」

会議室のドアが閉じられ、またもや静寂がやって来た。

「なぁ千鶴」

「どうしたんです?」

「いや、少し思ったことがあってな」

「思ったこと?」

「今日、私たちは高校に“潜入”した訳だが」

膝の上で軽く握られていた音羽の小さな手が、布地を巻き込みながら握りしめられる。

「千鶴は、デルタ班の皆んなは…本来ならここじゃなくて、向こう側に居れたんじゃないかって…」

それを聞いた千鶴は、少しだけ俯くと、音羽へと語りかけた。

「少なくとも、私は後悔してませんよ」

そう言う千鶴は、少し哀しげな、それでいて優しい顔を浮かべている。

「私、勧誘を受けてここに来たんです」

「勧誘?」

「ええ。ちょっとしたケンカに巻き込まれちゃって、少し仲裁したら近くの職員の人に誘われたんです」

千鶴はその時のことを思い出しながら、自分の掌を見つめる。

「仲裁、か…君らしいな」

「勧誘された時は、正直イヤでしたよ。でも、ふと思ったんです」

千鶴は手を爪が食い込むほど強く握った。

「今まで幸せに生きてきた裏には、今の私達みたいな人らがいて、その人達が命を削って守ってくれたから、今まで危ない目に遭わずに済んだんだって」

昔の事を思い出しながら千鶴は続ける。

「だから私も同じ道を選びました。皆んなを、あの時の私達みたいに、幸せに過ごさせるために」

そう語る千鶴の目には、彼女の固い決意と、静かに燃え上がる闘志、そして彼女の慈愛が滲んでいた。

「本当に、君は優しいな」

音羽は自分よりも年下の少女から、自分が会ってきた班長達と同じモノを感じ取っていた。

 

 

 

「野崎!」

野崎は朝にしては強い日差しを受けながら目を覚ました。

部屋の入り口に千鶴と舞香が学生服のまま立っている。

「あ」

野崎は勢いよく飛び起き、制服に着替え終えて部屋を出ようとした。

しかし、急いでいたせいか、机の角に腿が当たってしまい、その拍子で机の上に放置してあった本が床に落ちた。

その表紙を見た野崎は、何かを思い出したように、その本を学生鞄に突っ込んだ。

 

 

 

今日もまた、昨日と同じように半日が過ぎた。

南中から少しズレた太陽光の差すなか、学校はいつも通りの賑やかさを取り戻していた。

購買には人が集り、生徒達が所々で遊んだり喋ったりしている。

潜入しているフォネティック・コーズのメンバーにとっては、この時間は情報収集に丁度よい時間だ。

皆、計画通りに動くことにした。

 




マンゴープリンがマイブームです
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