フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

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最近Queenにハマりました。


Delta 14:神殿(テオカリ)

「原田さん、今日はどうする?」

男子生徒が舞香を誘う。

「そっちから誘うのか?昨日ボロ負けしたくせに」

「だからだよ」

むすっとした顔をする生徒を見て、舞香は嬉しげな顔をする。

「分かった。また負かしてやる」

そう言った舞香の横を、長い髪を揺らしながら歩く眼鏡の少女が通った。

計画通り、廊下やその他の生徒達への聞き込み調査を行なっていた野崎だ。

「野崎、一緒に来ないか?」

「何するんだ?」

「バスケ」

野崎は苦い顔をし、横の壁を殴り付けた。

「すまない、今日は手が痛くてな」

「今壁殴ったからだろ」

「そんなことない。多分」

そう言うと野崎はそそくさと去っていった。

「…あいつ本当に運動嫌いだな」

舞香はそう言うと、野崎に向けて叫んだ。

「太るぞ!」

「うるせぇ!!!」

凄まじい速さで返答が来た。

 

 

 

「千鶴ちゃん、今大丈夫?」

昨日と同じ少女がまた、千鶴に話しかける。

「大丈夫だよ。昨日はありがとうね」

「気にしないで。私も楽しかったし」

そう言う少女の瞳を、千鶴は会話をしながら観察した。

音羽に言われた通りのマークが浮かんでいる。

言われた通り、何とも言い難いマークだ。

昔何処かで見かけた『ハノイの塔』によく似ていたが、何処となくシルエットが異なっていた。

 

 

 

教室に戻ってきた野崎は、教室の隅に置かれた自分の机に戻ってきた。

茶色い紙製のブックカバーが着けられ、厚紙の栞が挟まれた真新しい本が、机の上で日光を浴びている。

野崎はその本を手に取った。

「!」

持ち上げられた本が、まるで紙吹雪を掴んだ時のようにバラバラになっている。

野崎は飛び出しそうになった声を抑えながら、手元の紙たちを引き出しに放り込んだ。

視界に映る二十数個の瞳に、例のマークは見当たらない。

想定外の事態に、野崎は眉間に皺を作った。

 

 

 

「随分動きが良くなったじゃねぇか…」

舞香の額には汗が滲んでいる。

昨日と同じ人間とは思えないほど動きが良くなっている。それに加え、チームの連携も格段に良くなっていた。

舞香は相手チームの瞳に浮かぶマークを見ながら、ジャージの袖で額を拭った。

 

 

 

「お疲れ様」

会議室に入って来た弟切はそう言うと、突っ伏した野崎の前にペットボトルのお茶を置いた。

「何か掴めたかい?」

「あぁ」

そう言うと、野崎は二冊の本を出した。

片方はジップロックに入れられ、ブックカバーがかけられている。

もう片方は表紙に『古代メソアメリカ』と書かれており、壁画や遺跡が鮮やかに描かれている。

「これって?」

野崎は『古代メソアメリカ』を手に取ると、パラパラとめくり、遺跡についてのページを開いた。

そこには、瞳の中に浮かんでいたマークと瓜二つの人工物、『階段ピラミッド』が載っていた。

「千鶴はハノイの塔って言ってたけど、構造的に言えばこっちの方が的確な筈だ。もっとも、俺はまだ現物を見れてないんだけど」

「見れてない?他の皆んなは見えてるのに?」

「それがよく分かんないんだよ」

野崎はまた机に倒れ込んだ。

「何で俺だけなんだ…?」

そう言う野崎に、弟切は優しく語りかけた。

「見えてないこと位、気にしなくてもいいんじゃない?」

「気にしないって…おかしいじゃないか。俺以外は見えてるのに、俺だけ見えないなんて」

「おかしくて当然さ。おかしい事件じゃなければ、ここには来ないんだからね」

弟切はそう言うと、本の入れられたジップロックを摘み上げた。

「これは?」

顔を上げた野崎が、「それか」と言い、ニタリと口角を上げる。

「あいつがついに尻尾を見せて来やがったのさ」

 

 

 

夜の学舎、月明かりが差し込む中、四つの影が廊下を歩いていた。

何故わざわざ夜にやって来たのか。その経緯は、1時間ほど前に遡る。

「もし、この行方不明事件に、あの瞳のマークが関連してるとしたら…犯人の目的は何なんだろうね」

「さぁ?話したこともない他人のことなんて分からないな」

そう言う野崎に、弟切はゆっくりと一枚の紙を差し出した。

「何だよこれ?」

線が十数本横に引かれた、何も書いていない空白のレポートパッド。

「…なんでこれを?」

「もしかしたら、手掛かりが学校にあるかも知れないだろ?」

「…まさか」

「調査に行って欲しいんだ。今からね」

「俺だけか…?」

「司令官が単独行動(スタンドプレー)を薦めるとでも?」

野崎は胸を撫で下ろした。

「じゃああいつらも一緒ですか」

「だね」

夜の闇に飲み込まれ、僅かな月明かりが窓から差し込むのみとなった校舎を、3人はゆっくりと歩いていた。

「夜の学校ってテンション上がるよな」

野崎が笑いながら言う。

「そう?何だか怖い気が…」

千鶴はそう言いながらも汗ひとつかかずに淡々と歩いている。

「婆ちゃん家の方が怖かったからな。怖くねぇし、テンション上がるよな」

舞香も野崎と同じように笑っているが、野崎と比べて明らかに笑顔が柔らかい。

よく見てみると、野崎の足が産まれたての子鹿のように震えている。

「野崎、さっきから足震えてるけど…」

「武者震いだよ」

頬には冷や汗が滲んでいる。

「でも汗かいてるし…」

「武者震いだよ」

目も泳いでしまっているようだ。

「怖いんじゃ…」

「武者震いだよ」

その時、風のせいか物音と共に何かが落ちた。

「ミ"ッ」

「やっぱ怖いんじゃん!」

野崎は甲高い声を上げて飛び上がった。

「全く…怖いんなら最初からそう言えばよかったのに…」

「怖いからと言って辞められるわけでもないだろ?」

「そうだけどさ…」

千鶴は情けない姿の野崎を見ながら、周囲を警戒した。

先程の物音は、掃除用具の入ったロッカーの中から聞こえて来たのだ。

冬になると近くの山から強風の吹くこの地域だが、施錠された窓から吹き込む隙間風程度では流石に物を落としたりは出来ない。

「野崎」

「分かってる」

先程の情けない姿とは打って変わり、野崎はいつも通りの眼差しをロッカーに向けている。

掃除用具入れの扉が勢いよく開け放たれ、その中から黒い銃口が現れた。

ロッカー内の影に体を隠しながら手だけを出して前方へと引き金を引く。

不意を突こうと発火炎と共に放たれた弾丸は誰も貫くことなくコンクリートの壁に激突して粉々に砕け散った。

「トカレフか。いいな」

野崎は千鶴から以前教わった通りに相手の手元を撃ち抜こうとした。が、寸前で手を止めた。

「野崎?」

野崎が動きを止めた隙に、ロッカーの中から伸びた手の主は、月明かりの下に姿を晒した。

野崎の隣で授業を受けていた男子生徒が、瞳の中にマークを浮かべながらトカレフを握り締めている。

「野崎!あれは?」

「催眠だよ。この学校は、既に奴らに呑まれてたって訳」

野崎は青年の瞳をじっと見つめ、悲しげな顔で呟く。

「分かっちゃいたが、悪趣味なもんだな」

そう言う野崎は手元の拳銃からマガジンを抜き取り、取り出した新しいマガジンに換装した。

「ゴム弾だ。多少痛えぞ」

そう言うと野崎は青年の手元と両脛を流れるように撃ち、膝から崩れ落ちた青年の両手を縛った。

「お見事」

舞香が拍手を贈ると、野崎は満足そうに胸を張った。

「あれ?野崎、手袋変えた?」

「あぁ」

『まさかそれ、この前届いてたやつかい?』

「だな」

野崎のグローブは今までの指貫き型から指先まで覆う形に変わっていた。

手の甲には四角い箱が、指先には小さな板のようなものがとりつけられ、血管のようなケーブルで繋がれて布地の中に埋め込まれている。

「少し仕掛けのある奴でさ」

「仕掛け?」

「見た方が早いかも」

そう言った瞬間、廊下の角からマークを瞳に浮かべた集団が現れた。

「見せる機会が来たみたいだけど?」

「丁度いい」

野崎は素早く懐へ飛び込み、振り下ろされた腕を掴んだ。

腕を掴まれた男は構わずもう片方の腕で仕掛けようとしている。

野崎はそんな事を気にも止めず、掴んでいる腕をさらに強く握った。

刹那、男の体が跳ね、そのまま崩れ落ちて倒れ込む。

「非致死性の電気グローブだ。流す時間にもよるけど、基本的には“めちゃくちゃ”痛いだけだから容赦なくいける」

『ホントに容赦ないじゃん…』

「また珍しいもんを…」

呆れと驚きの混じった様子の2人を他所に、野崎は千鶴と共に集団と対峙した。

「何人位?」

「ざっと18人。さっきの2人も合わせりゃ20人だな」

「1人6人ね」

「了かーい」

そう言うと野崎はゴム弾を込めたソードオフのショットガンを前方に構えた。

「軟いとこは覆っとけよ!」

ゴム製の球体が数多く打ち出され、最前列で横並びになっていた数人が強く弾き飛ばされ、苦悶の表情で床に這いつくばっている。

「目は無事そうだな」

そう言うと野崎はカートリッジを排莢し、残る集団ににじり寄った。

相手も丸腰ではない。

軽装ではあるが、皆何かしら持っている。

トカレフやマカロフ、黒塗りのナイフやマチェット。

日本では十分な装備だが、本職であるこちらからしてみれば、何ら問題はない。

それに、相手はただの高校生。

「野崎」

「どうしたんだよ」

「あいつら、結構厄介だぞ」

「何言ってんだ、あいつらは…」

「よく考えてみろよ。ロッカーから出てきた奴は、上手いこと衝撃をいなしてやがったぜ」

「油断は禁物ってコトか」

野崎はゴム弾入りの拳銃を、しっかりと握りしめた。

 

 

 

「不意打ちも失敗したのか?」

校舎の上で、フードを深く被った男がもう一人の男に言う。

もう一人の男は余裕そうに笑っている。

「別に良いだろ?まだ手駒は…」

「残ってねえよ」

笑っている男をフードの男が遮った。

「あ?」

「お前はあいつらを舐めすぎだ。そこらのチンピラとは訳がちげえんだよ」

「こっちだってそこらのチンピラとは違う。強化し、躊躇のない立派な“戦士”になってる」

男は手元から下の青年達と同じマカロフを取り出した。

それをクルクルと回しながら続ける。

「それにあいつらは行商人(コロブチカ)の持ってきた武器を持ってんだ。問題ねぇさ」

そう言うと男は黒い“階段ピラミッド”の像を持ち、それを月明かりにかざしながらほくそ笑んだ。

「あんたの出る幕はねぇよ、シヴ」

「そう言うならやってみな。神殿(テオカリ)




みなさん、ゴールデンウィークはいかがでしたか?
え?もう大分前だって?
知らないよそんなの。
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