丹根川町、裏路地。
千鶴達との戦いから離脱してきたロバートは、ワイシャツの男と話していた。
男の横には何人かの黒服が控えており、各々武器を服の上からでも分かるほど持っている。
「デルタ班…ナカナカ手強い相手ミタイですネ」
「そうだね。僕も警戒している相手だ」
「タダ…」
ロバートが言う。
「ドコとなくアオいですネ…まだまだミセイジュク、そんなキッズをブッコワしても楽しくありませんヨ」
「あれ?満足出来なかったのかい?」
「ワタシが望むのは“ジャイアントキリング”。自由の女神もその内の一つデス」
黒服の男が笑いながら携帯電話を弄る。
「なら、これとか良いんじゃない?」
その画面に映されていたのは…
朝5時、トレーニングルーム。
「やぁみんな。良い朝だね」
トレーニングルームに入ってきた弟切が寝癖だらけの頭で言う。
フォネティック・コーズでの仕事は所謂戦闘。体作りやトレーニング、訓練は必須だ。
「司令はいっつも起きるのが遅いんだから、もっと早く寝なよ」
体育着に身を包んだ千鶴が言う。
舞香も賛同するように頷く。
「あれ?野崎くんは?」
「多分荷解きだろうね。荷物も届いてたし」
「それならもう終わりましたよ」
「ヴァッ!」
びっくりしたのか変な声を上げた弟切が辺りを見る。
さっきまで誰も居なかった筈のスペースに野崎が座って眼鏡を拭いている。
「部屋の荷解きは終わったかい?」
思い出したように弟切が聞く。
「もう終わりましたよ。荷物なんて、せいぜい本位ですしね」
「もう荷解き終わったならさ、ちょっと遊ぼうよ」
千鶴が模擬戦用のスペースに立って手招きする。
「千鶴。分かってると思うけど野崎くんはまだほぼ一般人だからね。いじめすぎちゃダメだよ」
「分かってるよ。手加減するって」
関節を鳴らしながら言う千鶴に少し怯えながらスペースに近づく野崎。
「“コレ”にも慣れてもらわなくちゃだしね」
千鶴が野崎に持っていたものを差し出す。
白いボディの各種に緑の線の入った、近未来的なデザインをしたヘッドセット。
(そういえば昨日の任務の時、付けていたような気がする。)
野崎は心の中でそう思いながらヘッドセットを手に取り、千鶴に促されるままに装着した。
「このヘッドセットはね…」
千鶴の手元に揺らぐホログラムが現れる。
光が組み上げられるような姿は美しさを感じる、が何処か『危ない』と思った野崎は距離をとった。
大体1.5メートル程距離をとったところでホログラムが形を成し、眼前を掠めた。
また少し距離をとって、相手の手元にある武器を見つめる。
木製の棒。約120cm(四寸)の長さをしたそれを、槍のように千鶴は構えている。
「察しがいい所、前から素敵だと思ってたんだよね」
千鶴がそう言うと、野崎は薄っすらと冷や汗をかきながら言う。
「出来ることなら別のシチュエーションで聞きたかったね、その言葉」
軽口を震える声で言う野崎。
武器を構えた相手が目の前にいると思考がよく回る。
(こんな時、せめて適当な木刀でもありゃ良いのかな…いや、相手は長柄なんだから俺も杖を使った方が…)
カラン、と床と木材の音が思考を断ち切る。
床に杖が落ちている。
千鶴の方をすぐに見直すが、千鶴は未だ杖を構えている。
「なるほどね」
落ちていた杖を拾い上げ、真っ直ぐ投擲する。
(何かと思えば…武器を無闇に手放して隙を作っちゃうなんて、少し残念。)
投げられた杖は千鶴の間合いに入った途端に折られ、周囲に散らばった。
(さて…と。どう来るかな、野崎。)
落としていた視界を戻す。
(い…ない?」
思わず声を漏らす千鶴。
その首に、砕けて尖った木片が当てられている。
「コレって俺の勝ち…でいいの?」
「いいよ。私の完敗」
その時、持っていた木片も千鶴が持っていた杖も光の粒子になって消えてしまった。
弟切が言う。
「まっさか野崎くんが勝っちゃうなんてね」
「千鶴、鈍ってんじゃないの?」
舞香が椅子に座ったまま言う。
舞香が手元のコーヒーカップに口をつけようとした時、弟切の携帯の着信音が鳴り響いた。
弟切が流れるように携帯をとり、部屋の端で話し出す。
「えぇ…はい…了解です」
いつぞやに聞いた親や教師が電話していた時のような丁寧な口調。
ひとしきり話した後、電話を切った弟切が話し出した。
「なんでも、変な集団が
「そうと決まれば行かなきゃね〜」
ヘッドセットを促されるままに着けた野崎を半ば強引にバンに押し込み、舞香と千鶴も乗り込んだ。
「全く、俺らをなんだと思ってんのやら」
走り行くバンを見送りながら、呟いた弟切は強く携帯を握りしめていた。
俵野町北東の公園。
派手な色使いの服や個性的な髪型をした、いわゆる『チンピラ』などと言われそうな青年たちが各々鉄パイプや木刀、ナイフやエアガンを覗かせながら公園を占拠している。
公園の前に一台のバンが止まり、中から三人の少女がヘッドセットを着けて降りてくる。
チンピラの群れの中で公園の入り口に一番近いところに座っていた男が三人に近づいていく。
「そこの嬢ちゃ…」
そこで“言葉”は途切れた。
男の悲鳴。
大きく喚くその声が、公園に響いた。
ざっと二百ほどの目がこちらを睨みつける。
視線の先では、さっきまで悲鳴をあげていた青年が吊し上げられている。
ワイヤーを利用して相手を吊し上げたり締め上げたりする『括り罠』が入り口近くのアスファルトから生えている。
落ちつつある陽が街を黒く、空をグラデーションで染め上げる中、青年たちは雪崩のように三人に突っ込んできた。
飛び交うBB弾や振り
跳躍や薙ぎ払い、突撃など一挙手一投足毎に迫り来る人並みを乱れさせ、崩し、薙ぎ倒しながら練習用の薙刀を振るう千鶴。
そんな喧騒に慣れぬ野崎は…
落ちている空き缶やゴミ袋に細工をして回っていた。
無双、とも言えるような戦いの中、不穏な影が千鶴に迫っていた。
「千鶴!後ろ!」
舞香が叫ぶ。
千鶴が振り向こうとする寸前で、大柄な手が千鶴の後頭部を掴む。
“骨が折れる音がした。”
“肉の潰れる音がした。”
地面に顔面を叩きつけられる。
硬いコンクリートと肉と骨が音を立ててぶつかり合う。
地面に叩きつけられる度に血が舞い、地面に赤い模様を描く。
千鶴を助けようとして気の散った舞香も、周囲の残党に囲まれ、動くに動けなくなっている。
不意に、破裂音が響いた。
それは雨が傘に当たる音のように、周囲に広がっていく。
一人を除いて、誰もが動きを止めた。
大柄な男の背後から、落ちていた鉄パイプが顔を出す。
金属音と共に男が倒れ込む。
日も落ちた公園の闇に溶け込む少女により、残党が闇討ちされて倒れ伏していく。
そのうち、意識をまともに保っているのは野崎と舞香だけとなり、倒れていた千鶴も二人に介抱されているようになっていた。
月が既に輝き出すような時間帯、金属製の定規を落とした時のような金属音が響いた。
それは段々と野崎に近づき、音の主を月明かりの元に晒した。
剃刀の刃が野崎の目の下を切り裂いた。
涙のように血が垂れる。
爛爛と照らす月を、風と共に舞う黒い影が遮る。
「初めまして、デルタ班の皆様」
男は紳士的に名を名乗る。
「私は人呼んで“ジェントル”。まぁ、大体ビリーの知り合いだと思って頂ければ幸いです」
「ビリーの…?」
モノクルを掛けた白髪の男は、ステッキを持って不敵に笑う。
次回はもっと読み応えが出るようにしたいと思うので多分めっちゃ間隔開きます。
てか呼んでる人居るんだったら感想とかよろしくお願いします。