最近はバイトをしたり、昼まで寝たりしていました。
せっかくの夏休みなのに更新が滞ってしまって申し訳ありません。
「護衛?」
「そう。君たちには、この子の護衛をして貰いたいんだ」
弟切はプロジェクターに一枚の写真を映し出した。
ダウナーな雰囲気の、色白な女性。
「この子は?」
そう野崎が聞いた時、横から写真をまじまじと見た千鶴が反応した。
「この子は…「ソーマちゃんだ!」
「そーま?」
「うん。ネットで活動してる人」
「アイドルってやつ?」
「野崎は知らないの?」
「最近のアイドルとかインフルエンサーとかには疎くてさ」
野崎は参ったとでも言うように軽い作り笑いをした。
「で、だ。今回の任務はその娘の護衛なんだけど…」
「…随分と含みのある言い方だな」
舞香がやっと口を開いた。
「分かるかい?」
「分かる」
そう言われた弟切は、別のファイルから
一本の動画を映し出した。
ソーマと呼ばれた少女が映った、監視カメラの映像。
その映像に、記憶に新しい影が映っていた。
それはまるで夜の闇のようで、石炭を燃やした後の真っ黒な煙のように見えた。
「…!これって!」
「そう。あの煙だ」
吉川を連れ去った時と同じ煙が、画面内で漂っている。
「吉川さんも見つからなかったんですよね?」
「今のところはね」
「てことは、また攫われる人が増えるってことですよね?」
「そうなるね」
「…見てらんないですよ」
「そうかぁ…じゃあ、準備しといで」
そう言うと、弟切は3人を部屋から出した。
誰もいなくなった部屋で、自分の掌に残る細かな傷痕を眺める。
(もし奴が…ここに現れるとしたら…)
ズキズキとくる痛みが、既に痕になった傷から走っていた。
野崎達が弟切から説明を受ける、だいたい半日前。
楽屋でスマートフォンを弄っていた花は、不審な黒い煙が部屋に入ってきた事に、気付かずいた。
段々と人の形になった煙は、目を持たないにも関わらず、花のことを見つめ続けている。
その煙は15分ほど部屋の中にとどまり、そのまま跡形もなく消えてしまった。
その後、不審な煙は監視カメラを確認した警備員により“発見”されることになる。
市内某所、ダンスレッスンを終えた花を、どこか堅苦しい服装の少女たちが迎えた。
「草間さんですね?」
「…君たちが、フォネティック・コーズの人?」
夕焼けから目を守るためか、はたまた正体を隠すためか、濃い色のサングラスをかけたクラゲヘアの女性は尋ねる。
「ええ。暫くは、私たちデルタ班が貴女を護衛させて頂くことになっています」
髪を後ろで結い、仕事用に硬い表情を作った千鶴がそう言うと、花は柔らかな笑顔を浮かべて歩き出した。
「じゃ、話は私の家でしようか。立ち話もイヤでしょ?」
夕陽自体はもう既に地平に消え、ほんのり赤い光が藍色の夜空と境界を形作っている。
木々はシルエットになり、昼間と同じ黒を見に纏った鴉が鳴く。
時間は午後7時。
野崎達デルタ班の3人は、花のアパートを訪れていた。
舞香は既に玄関での警備にあたっており、部屋には千鶴と野崎、そして花が残されている。
「送ったビデオは観てもらえたかな?」
「…あの、黒い煙のビデオですよね」
「そうだ。君たち、あの煙を追っているんだろう?」
「そうですね。色々ありまして…」
そこまで言った千鶴を遮る様に、花は千鶴に尋ねた。
「あの煙は何なんだい?」
「…!」
「少し、動揺したね」
目を逸らした野崎の瞳を、花はじっくりと覗き込む。
「君は…野崎くんだっけか。何か、知っているんだろう?」
花は野崎ににじり寄り、困り顔の野崎は壁際に追い詰められた。
「…し、知りませんよ」
「本当に?」
「…本当です」
今や鼻先が触れてしまいそうなほど接近した2人の間に、暫しの沈黙が流れ、どこか気まずい雰囲気が流れる。
野崎の頬が真っ赤になり、茹で上がった様になった辺りで、野崎に覆い被さっていた花は退いた。
「なーんてね。知ってたとしても、ただの客風情に情報を流したりしないだろう?」
少しの落胆を孕んだ声を吐き出し、花は座る姿勢を崩した。
「僕だって芸能人だ。人に見られるってことは、それだけ嫌われる可能性がある訳さ」
「嫌われる可能性…ですか」
「ま、そんなの気にしてちゃやってられないよ」
それから暫く経ち、時刻は10時を回ろうとしていた。
「君たち、今日は泊まり?」
花が
「まぁ、そうなりますかね」
野崎は薄っすらと隈の残る目元を擦った。
「それって隈?」
「ええ。夜更かしが好きなもので」
「いいじゃん。私も好きだよ。夜更かし」
そう言った花の頭上で、壁掛け時計が10時きっかりを示した。
「あ、もう10時か」
そう呟いた瞬間、部屋は闇に包まれた。
「停電!?」
「いや、違う。煙が部屋全体を覆ってるんだ!」
部屋には黒煙が充満しているが、息苦しさはない。ただ、吸い込むたびに不安感と恐怖が脳に流れ込んでくる。
その中で、ぼんやりと形作られてきたものが見えた。
短い髪に長身。青年のように見える。
「野崎は花さんを守って!」
千鶴のヘッドセットが暗い部屋で翡翠色の輝きを放ち、千鶴の手に使い慣れたグロック17を作り出す。
野崎は花の肩を抱くようにし、煙の中に現れ始めた人影から守る態勢をとった。
「開かねぇ…!」
舞香は中から聞こえた騒音を聞き、只事ではないと悟っていた。しかし、何故かドアが開かずに閉め出されてしまっていた。
いくら蹴り飛ばしても、ドアブリーチングを何度繰り返しても開かないドアを見限り、舞香はマンションの通路を飛び出して行った。
「始末書くらいで済めば良いんだけどな…」
「久しぶりだね。草間さん」
煙の中から現れた青年は花の方を見て微笑む。
「あなたは…何者なの?」
花はすっかり怯えてしまったようで、野崎に縋るようにして涙を垂れ流し続けている。
「僕は
そこまで言ったイツトリの目に、隊章入りのボタンが映る。
「あ、思い出したよ。君たちがフォネティック・コーズか」
イツトリの腕が周囲の風景を鈍く反射する黒色のガラスに覆われていく。
「なら、油断と加減は禁物…だね」
彼の手にはオールのような木の棒に、チェーンソーのように刃の並んだ奇怪な武器が握られている。
それを見た途端、野崎はぼそりと呟いた
「マクア…ウィトル…?」
マクアウィトルは、アステカ帝国にて用いられた武器だった。
木製の平たい棍棒に黒曜石の刃を嵌め込んだ、凶悪な外見。生贄を獲得する為という、その用途。人体を易々と引き裂く破壊力。
その全てがアステカという文化そのものを象徴していると言えるような、そんな武器だった。
(あんなもん、当たりゃあ大惨事になる…だからといって、こんな感じの花さんを背負って逃げる訳にも…)
スカートに垂れた涙が、指先を冷やす。
(…あいつの使ってる武器はマクアウィトル…俺なら無理だけど、千鶴なら出来ることがあるはず…!)
その瞬間、野崎は勢いよく屈み、薙がれた一撃を間一髪で避けた。
野崎の頭がつい0.5秒前まであった場所には、悲惨なまでに切り裂かれた破壊の痕が残っていた。
「離れれる場所に行くのが先決だな…」
「野崎!今どうなってる!」
『部屋の中にイツトリとかいう奴が侵入してきやがった。そこで、お前にはこの作戦の要を任せる』
「は!?」
『今は一刻を争う状況だ。説明は後にさせてもらうからな』
ヘッドセットがそう言った時、既に舞香はマンションの裏へと回り込んでいた。
『今から跳ぶ。受け止めてくれ』
ふざけた事を言う野崎の声は、不思議と落ち着いていた。
あまりに追い詰められたが故に、半ば処理落ちのような状態になっているのだ。
「…無茶苦茶ばっかしやがって!」
飛び降りてきた人影をギリギリで受け止める。
舞香の腕の中にいたのは、涙の跡が目尻に残る女性だった。
「…花さん?」
「舞香ちゃん…千鶴ちゃん達は…?」
「今中で戦ってる。取り敢えず、逃げますよ!」
舞香が花の手を引いて走り出すのを見ていたのは、野崎だけではなかった。
その光景は、イツトリの真っ黒な瞳にも映っていたのだ。
イツトリはベランダから勢いよく跳躍し、逃げ出した舞香を追い始めた。
その腕は黒曜石の黒に染まり、握りしめたマクアウィトルすらも侵食し始めていた。
舞香は既に闇へと呑まれた夜の住宅地を、人間離れしたスピードで駆け抜ける影から、腰を抜かした花を背負って逃げる。
流石の舞香でも成人女性を背負って走るのは堪えたのは言うまでもない。
額に滲む汗も拭わず、ただ一心不乱に夜の街を走り続けた。
しかし、逃亡劇も長くは続かない。
目の前に現れた男を前に、舞香はヘッドセットから延びたマイクに呟く。
「車回してくれ。時間は稼ぐ」
舞香の手に、光を伴ってナイフが現れた。
「乗ってくれ!」
弟切が2人の元に駆けつけ、2人を乗せて勢いよく発進する。
「車、置いてたんですか!?」
「置いてはいたんだけど…まさか依頼人投げるとは思ってなかったんだよ」
そう言われた野崎は気まずそうな顔で眉に手を当てた。
「舞香ちゃんの位置情報は見ていたんだけど…随分と先に居るんだよね」
「先?」
「そう。大体500メートルくらいかな」
「500メートル!?」
舞香が逃げ出してから、通信が入るまで大体2分程度しか経過していなかったのだ。その上で花を背負っていたことを考慮すれば、こちらもまた驚異的なスピードで走っていたと言える。
「…あいつホントに人間かよ」
勢いよく飛びかかってきた黒い影が、マクアウィトルを舞香に振り上げる。
それを間一髪で躱し、攻撃の隙を探る。
そんな攻防の中で、舞香は気付いてしまった。
イツトリの腕は既に黒曜石と化しており、切りつけただけではダメージを与えられないことに。
これに気付いた瞬間から、舞香の狙いは首になった。
頸動脈を掻き切り、失血死を狙う。
舞香の中で標的が定まってからは、イツトリは防戦を余儀なくされた。
自身もローブの男から人智を超えた“神の力”
を授けられているにも関わらず、それと渡り合えるスピードを持ち合わせている目の前の怪物に、イツトリは冷や汗をかかされることになったのだ。
しかし、イツトリはまだ追い詰められていなかった。
周囲に黒曜石の薄片を散らし、舞香に向けて放ったのだ。
黒い嵐が舞香の全身を切りつけ、道路のアスファルトに血溜まりが出来上がる。
ふらつく舞香の胸元に、
(決まった…!)
喜びの中、花へと歩き出したイツトリの足元に弾痕がつく。
ヘッドライトの前に、シルエットが一つ、立っている。
夜風に吹かれてたなびく長い黒髪、目元に輝くアンダーリムの眼鏡、デルタ班の制服。
「車、回したぜ」
「…遅えっつの」
お気に入りのモーゼルC96を携えた少女が、そこに立っていた。
最近3DCADなんてものを始めました。
楽しいです。