これを書いている間に同窓生との食事会があったり、その後に友人と神社に行ったりしました。
ただ、私はこういうのを書くのが好きなので、いつまでも戻ってくると思います。
「お前も、こうなりたいのか?」
そういう
傷口自体は致命的なモノではなかった。しかし、問題だったのは傷の数だった。
全身をくまなく切りつけられ、その数は50を超えている。
「野崎…用心しろよ…」
声を発す度に、肺から空気が抜ける音が野崎の耳に流れ込む。
「無理して喋んじゃねぇよ。傷開くぞ」
そう言われた舞香は、千鶴に抱えられて車に乗せられた。
「…よく考えたら、俺いっつもこんな事ばっかしてんな」
野崎はC96の
「その身体、バラバラに砕いてやるぜ」
「受けて立とうじゃないか」
イツトリの指が、小刀の様に伸びて野崎を狙う。
野崎は回避すらせず、飛びかかるイツトリのことをじっと待った。
跳躍。街灯の元に浮かび上がった黒い影は、真っ直ぐに頸へと手を伸ばす。
瞬きする間に少女の首が切り裂かれる、筈だった。
顎への発砲を受けたイツトリは驚きからか動きを止めてしまった。
カウンターの様に放たれた銃撃は、目の前の少女に近づく事が危険であると示している。
「ふざけたことしてくれるね…」
イツトリの身体から、黒い破片が多数飛び出す。
舞香を襲った、あの黒い斬撃の嵐だった。
「骨まで断ち切ってやる!」
弾丸に等しい速度で発射され、少女の柔肌へと迫る黒曜石の刃を前にした野崎は、つい最近の事を思い出した。
「あ、こんなとこ居たのか」
トレーニングルームで、野崎は唸りながら考え込んでいた。
「随分と考え込んでるな。ハゲるぞ」
「ぶっ殺すぞテメー」
「で、何考えてたんだ?」
「壁だよ」
「壁?」
「あぁ。ちょっと思いついた事があって…」
「あのなぁ野崎」
「あ?」
「確かにお前はデカいけど…千鶴のことあんま馬鹿にしない方がいいんじゃないか?」
「待てよ。何の話してんだこの変態」
「変態はテメーだろこの乳狂い」
二人はいつも通りの調子で暫く話すと、舞香はヘッドセットを手に取った。
「で、何思いついたんだよ」
舞香がそう聞くと、野崎はヘッドセットを光らせて物体を形成した。
手元に不恰好な板が生成され、音を立てて床に落ちた。
軽い音がトレーニングルームにこだまする。
黙って見ていた舞香は、野崎の板を拾い上げて照明にかざす。
「厚みは十分。形…はまぁ許容範囲だけど…何がしたかったんだ?」
「ほら、一々盾を作って構えてたら遅いから、自分の好きな場所に盾…ってか壁を作れたらいいと思ったんだけど…」
驚きが滲む顔の舞香は、ヘッドセットを光らせて、指先に力を込めた。
「見とけよ」
舞香の手の先から、光の粒子が溢れ出す。
「これ…一体?」
「答え合わせ」
舞香が手を振るうと、その軌跡をなぞるように物体が作られる。
「これが、俺らがたま〜に使う『壁』だ」
「これが…『壁』…?」
「お前も使えれば楽だぞ」
そう言うと、舞香はヘッドセットを外し、野崎に背を向けて歩き出した。
「あ!どこ行くんだよ!」
「ちょっとコンビニ行ってくるわ」
さっきまでとはうって変わって、どこか雑な態度になった舞香は、最後に興味深い事を言って行った。
「壁を意識しろ。硬さも、冷たさも、全部だ」
(やってやるさ…!)
野崎は勢いよく手を振るう。
光の粒子が空気中に留まり、結びつくのが見えた。
野崎の手を覆う様に、壁が伸びる。
黒曜石の弾丸は壁に叩きつけられて砕け散り、野崎の足元に散らばった。
野崎の口角がじわりと上がる。
(出来た…出来たぞ!)
壁が再度光の粒子になると、野崎の様子が急変した。
膝から崩れ落ち、視線は宙に舞ってしまっていたのだ。
『野崎!』
千鶴がヘッドセット越し叫ぶと、野崎は我に帰る。
しかし、彼の脳は疲弊してきていた。
「頭いてぇ…」
ふらつきながら立ち上がると、目の前にイツトリのナイフが迫ってきていた。
間一髪で躱わすも、ついてこれなかった髪が散るのが見える。
「あっぶねえな!」
「当たり前だろ!」
イツトリが野崎へ追撃を繰り出す。
マクアウィトルとナイフを組み合わせた連撃。
カミソリより鋭い斬撃が野崎を襲い、血飛沫とともに切れた髪や肉片が飛び散る。
野崎は僅かな筋繊維のみでぶら下がっている状態の左腕を見回し、イツトリの事を睨みつけた。
「やってくれたな」
その血塗れの顔から覗く真っ黒な目は暗い路上だからか瞳孔が開いており、まるで死人が立ち上がって恨み言を連ねている様な情景を作り出している。
眼前で立ち上がった“死人”は内ポケットから小箱に入れられた注射器を取り出した。
「痛みを和らげたところで何になるんだい?既に死体も同然でしょ?」
「バカ言うなよ。まだ生きてんだぜ?」
目の前で軽口を叩く少女は、自身の首元に注射針を刺し、中の薬剤を躊躇いなく注入した。
「もみじさん!舞香が…舞香が!」
車内には血痕が残り、千鶴の涙がシートに落ちる。
電話越しに聞こえる嗚咽が、何とも痛ましい。
近場にあるホテル班の支部で待機していたもみじは、舞香の治療の為の設備を整え、デルタ班の車が現れるのを待っていた。
ビデオ越しに見えた舞香の惨状が、未だ瞼の裏に残っている。
全身に刻まれた切り傷、大量の血痕、致命的な胸の刺し傷。
到着まで命があるとも限らない程の重傷だ。
決して無事ではない少女が、せめて命を残して眼前に現れる事を願い、もみじは天を仰いだ。
不死身の怪物がいるとしたら、きっとこんな風に倒されても立ち上がるのだろう。
少女の腕から垂れていた血が止まり、傷口を白い肌が埋める。
力なく垂れ下がっていた腕も、今や銃口をこちらに向けている。
「化け物め…」
「黒曜石のオバケにだけは言われたくねぇな」
相変わらずだ。
本来なら腕をズタボロにされた痛みと恐怖で心を壊し、他者を煽る元気など無いはずである。
イツトリが野崎を化け物と称した理由は、その狂気によるものだった。
「さっさとけりを付けさせてもらう!」
イツトリの身体が黒曜石に覆われ、夜の闇に染まる。
対する野崎もヘッドセットを翠緑に輝かせ、C96を両手に携える。
先手を打ったのはイツトリだった。
マクアウィトルを勢いよく振り抜き、躱した野崎を飛ばした破片で追撃する。
舞香よりスピードは劣るが、野崎は圧倒的に頑丈だった。
斬撃も打撃も通りが悪い。
「本当に困るよ!君みたいに僕を手こずらせる奴はさ!」
イツトリが叫び、横に大きくマクアウィトルを振り抜く。
野崎を真っ二つにしたはずだったが、眼前の野崎は満足げな笑みを浮かべている。それどころが黒曜石になったマクアウィトルが急に軽くなり、イツトリは自身の感覚を疑った。
自身の手に残っているのは、既に柄だけになった武器の残骸だったのだ。
よく見れば、数メートル先の所に折れた先端が転がっている。
「なぁイツトリ、知ってるか?」
「何をだい?」
「
野崎は握りしめていたハンマーをイツトリの方に放り投げた。
地面に当たったハンマーが光の粒子になるとともに、背後のマクアウィトルが砕け散る。
野崎はすぐに気付いた。油断していたのは自分の方だったのだと。
砕け散った破片が野崎の体を貫き、鮮血の花が咲く。
飛び散った血が溜まり、倒れ込む少女の無惨な肉体を赤く染め上げた。
全身の腱が断ち切られ、皮膚は削がれて落ちている。
野崎は千鶴に危険を知らせようと、ヘッドセットのマイクに話しかけた。しかし、口からは漏れ出る空気と血しか出てこない。喉が裂かれてしまっていたのだ。
(一人で動くもんじゃなかったなぁ…)
赤い視界の中で、野崎は思い返した。
自身がついさっき打ち込んだ薬の効果を
花を追ってその場から走り去るイツトリを見ながら、野崎は自身の腕に力を込める。
右の薬指が、ぴくりと動いた。
運び込まれた舞香の体を見て、もみじは絶句した。
全身を切りつけられ、未だ出血が止まっていない。
特に酷かったのは胸部の刺し傷だった。
刺し傷が肉と骨を貫き、心臓一歩手前まで迫っている。
もみじは覚悟を決めて、目の前の少女を治療し始めた。
夜風が街を駆け抜け、イツトリの着ているローブの裾を揺らす。
自身に与えられた“能力”を解除した身体は、既に人間の姿に戻っていた。
彼は思い出しすらしないが、彼自身もまた、この街に生きる人間だった。
今から三ヶ月前、一件の行方不明事件が起こった。
市内でオフィスワーカーをしていた石田祐樹が失踪したのだ。
石田が残業していた午前2時ごろ、真っ暗な部屋にパソコンの液晶のみが光る中、一瞬の内に石田は消え、それ以降戻りはしなかった。
朝、出勤してきた同僚が不審に思い通報するも、手掛かりになるようなものは未だ見つかっていない。
その後、監視カメラの映像を確認すると、残業中の暗い室内に、黒いモヤのようなものが映り込んでいたのだという。
しかし、彼は何も不可解な神隠しに遭ったわけではなかった。
これは失踪ではなく、拉致だったのだ。
彼はデスクのパソコンに向かいながら、後ろから語りかける声を聞き流していた。
「君は適性があるんだ」
「腐らせておくのには惜しい」
声を聞いていると、飲み込まれるような、それでいて自分の中に取り入ってくるような、不思議な感覚を感じた。
そう、まるで心臓を掴まれるような———
そう思った瞬間、石田は気付いた。
少し離れた位置から話しかけてきていた声が、いつの間に間後ろまで迫っている。
「私を、どうするつもりで?」
「君を超人にしてあげるんだよ。“神の力”を持ってして」
「神?」
「何も後光が差すような神々しい存在じゃないさ」
後ろの男はその深い声で続ける。
「血生臭い、煙と鏡、そして戦争の神さ」
その言葉を聞いた瞬間、石田は黒い煙に飲み込まれた。
最近キャラの理解度を高めようと色々書いてますけど、出すところがなくて溜まるばかりです。
誰か呼んでください。