フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

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最近新天地での生活が軌道に乗ってきました。
何か用事の直前ほどこういうことがしたくなりますね


Delta 18:決着と謎の男

ホテルの敷地入り口に立ったイツトリは、周囲に黒曜石の破片を漂わせ、万全を期した状態だった。

閉じられたゲートを飛び越え、音もなく敷地内へと侵入した所で、警備員らしき男を見かけた。

腰からは警棒が覗いているが、脅威は感じない。

殺気、と言われるものが、全くと言っていいほど感じない。

彼自身に恨みも無ければ殺す理由も無いが、傷を癒すためには“心臓”が必要なのだ。

素早く背後を取り、後ろから心臓を抜き取ろうとした瞬間に、腹部を激しい痛みが襲った。

「何が…!?」

警備員のような男は、手に持っていたグロック17を素早くイツトリの眉間に向け、慣れたようにマイクへと話しかけた。

その時、入り口のドアが勢いよく開き、イツトリめがけてフルオートの射撃が放たれた。

弾倉一つ分を撃ち尽くした千鶴はイツトリの元へ向かい、顔面へとレミントンM870を突きつけた。

「野崎が言ってたよ。黒曜石も高火力の銃で撃たれれば割れるって」

「試してみる?」

「勿論!」

ゼロ距離での発砲を受けたイツトリは、その驚くべき威力によって顔面を半分砕かれていた。

黒曜石となっていた身体は出血こそしていないが、強い痛みが傷口を走っている。

散弾程度でここまでのダメージにはなり得ない。そう考えたイツトリは、砕け散った破片を集めながら体制を立て直した。

「スラグ弾は流石にキツかったか」

地面に落ちたカートリッジが軽い音を立てる中、千鶴は呟いた。

一般的なショットガンには、大体2種類の弾がある。

一つは多くの金属球を一発で発射する散弾、そしてもう一つは大きな一つの金属塊を発射するスラグ弾だ。

先程千鶴が発射したスラグ弾は絶大な威力を持ち、近接対人戦では最強とも噂されるものである。

そんなものをゼロ距離で受けたイツトリの顔面が砕けたのは、当たり前と言ってもいいほどのことだったのだ。

イツトリは漂わせていた破片を放つ。

舞香も、野崎も、この技で仕留めたようなものだったからだ。

しかし、千鶴はその破片を避け、それどころか油断していたイツトリの眉間を正確に撃ち抜く。

痛みからか力が抜け、破片が地に落ちた所で、千鶴はレミントンM870を作り出し、またイツトリへと向けた。

横に振り抜かれたマクアウィトルが空を切る。

それどころかカウンターのように散弾が撃ち返され、前腕部は既にボロボロだった。

イツトリが恐怖の中で叫ぶ。

「な、なんで当たらないんだ!」

「昔の勘が戻ってきたの。昔の友達が、部下になったからかな」

「…ならこれも!避けてみせてくれよ!」

イツトリは千鶴の周りをぐるりと囲む様に破片を出し、千鶴に向けて放った。

黒い(やじり)が千鶴を食い破ろうと近付く。

避けようとすれば別の破片に当たる状況で、千鶴は視界の端に赤い服の少女を見た。

曲がったアンダーリムの眼鏡に破れたボロボロの服、所々断ち切られた黒い長髪の少女は、千鶴の状況を見るなり此方へと走ってきた。

「見てて」

そう千鶴がマイクに語りかけると、千鶴は全方位を覆う様に球形の殻を形成した。

これこそ、野崎が練習していた“壁”の完成形と言っても良い技だった。

範囲の限られる野崎の技とは違い、全周を囲む千鶴の壁は、飛来した黒曜石を易々と跳ね返す。

弾丸程の速度で飛んで来ていた破片すらも跳ね返し、中の少女を守っていた殻を見て、野崎はある策を閃いた。

「千鶴!暫くそのまま休んでてくれ!」

そう言った野崎は、自分なりの解を手に取る。

Mk48機関銃。

アメリカ特殊作戦群のために作られた無骨なこの軽機関銃は、ベルト給弾式を用いることで7.62×51mm NATO弾を連射することが出来る。

弾丸に匹敵する速度と貫通力を持つ黒曜石のナイフを止める千鶴の殻は、銃撃によって砕け散った破片も、放たれた銃撃も止めることができる筈。

野崎はそう信じていたのだ。

イツトリが射線上に入ったところで、ためらう間もなく、野崎は引き金を引いた。

反撃の余地すら与えずに、小銃用の弾丸が容赦なく放たれ、イツトリの手足を粉々に吹き飛ばす。

夜空の元に、轟音が繋がって響いた。

 

 

 

 

千鶴が殻を解除すると、そこに居たのは手足を失い、残った破片で足を作ろうとしているイツトリと、服に血こそ滲んではいるが無傷の野崎だった。

「野崎…一体全体何を…」

聞こうとしたところで、千鶴は不意に野崎の後ろを見る。

そこには、少し前に現れたローブの男が立っていた。

「野崎後ろ!」

飛び退く野崎に目もくれず、後ろの男はローブに付いているフードをめくった。

そこから、人ならざる顔が覗く。

横縞の刻まれた人の頭蓋骨の様に見えるが、その歯は肉食獣の様に湾曲しており鋭い。

縫い付けられた様な羽飾りが後頭部を飾り、眼窩の奥深くで恐ろしい瞳がイツトリを見つめる。

黒曜石(イツトリ)

名を呼ばれた男は、怪物を涙の滲む瞳で見上げる。

「君は僕に与えられた力を、良くここまで鍛えた」

イツトリの頬に手を当て、三ヶ月前と同じ様な深い声で語りかける。

「これからも、僕の力であってくれよ」

そう言った怪物は、イツトリの胸に手を当て、無理矢理に心臓を引き抜いた。

野崎達がいくら攻撃を仕掛けても出血しなかったイツトリの体から、とめどなく血が流れ出る。

怪物は取り出された赤い心臓を口に運び、血と共に飲み込んでしまった。

「これが、君の力か…」

そう呟く怪物は、ぐるりと振り返って野崎達を見る。

「少し試させてもらおうか」

そう言った怪物は、野崎に向けて黒曜石の破片を放つ。

ただ一発、されど、確実な殺意の籠った一撃だった。

野崎はイツトリの破片を止めた時の様に、指先へと感覚を集中させる。

手を振るい、弾丸の様に迫る破片を受け止めようとした、その時に感じた。

(防ぎ切れない…!)

自身の作り出そうとするものは、自然の頭に姿が浮かぶ。

野崎の頭に浮かんだその壁は、ライフル弾すら跳ね返せるだけの強度を秘めている。しかし、それでは足りなかったのだ。

自身の形成した壁を捨て、横に転がる事で車線から逃れた野崎は怪物をもう一度見回した。

腕はイツトリと同じ黒曜石の色に染まり、背後からは煙の様なものが漂っている。

野崎は確信した。この男の正体を。

熱の日に語りかけてきた男の言葉。

(テスカトル)黒曜石(イツトリ)と言う名前。

怪物の顔に刻まれた、特徴的な黄色と黒の縞模様。

全てが繋がる。

「お前の正体は———」

そこまで言った所で、野崎は激しい頭痛に

襲われてふらつく。

短い内に武器や壁を出し、リジェネーターを使った応酬だった。

「野崎君、だったっけか」

怪物は煙の中に消えながら、自身の正体に近付いた少女に目を向けた。

「随分と厄介な芽が生えたものだ」

立っているのがやっとな野崎の後ろで、黒曜石の欠片が地面に深々と突き刺さっていた。

 

 

 

消えゆく男を見届けた野崎が意識を失い、既に5時間が経過していた。

時刻は8時を過ぎ、そろそろ9時に差し掛かろうとしている。

野崎が横たわるベッドの横で、千鶴は心配そうにその寝顔を眺めていた。

こんな所にいる筈ではなく、こんな姿であるはずでもなかった顔。

野崎が負ってきた傷が、浮かび出るように感じた。

全身を細かい切り傷が走り、胸元には丸い銃創が見える。

「…野崎」

傷の痛みを思い、ふと口から漏れ出た言葉。

それだけで充分だったのだ。

「…今何時?」

「そろそろ9時半になるよ」

「ありがと」

他愛もない会話をしながら、野崎は体を起こした。

「あ、まだあんま動かない方が…」

「大丈夫。自分のことくらい分かるからさ」

そう言って、ベッド横に置かれていた靴に足を通した野崎は上階へ消えていってしまう。

残された千鶴は、「野崎が起きました」と言う書き置きを残して野崎を追っていった。

 

少し遅れて、医務室にもみじが駆け込んでくる。

「野崎くんが起きたって本…当?」

もぬけの殻のベッドとその周囲を見回し、もみじの顔がどんどん青ざめる。

「…若いっていいなぁ〜」

冷や汗をハンカチで拭い、もみじはいつも通りの職務に戻った。

舞香は未明には動けるようになり、既に自室に戻っている。

荒くも丁寧に畳まれた掛け布団を軽く整えながら、差し込む午前の陽光に目を細めた。




文化祭やってたんですけどめっちゃ楽しかったです。
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