フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

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お久しぶりです。
資格試験をやっていました。
受かっていたらいいななんて思います。


Delta 20:夜分遅くの来訪者

警報音が鳴り響き、建物内は赤色灯が灯る。

「何がどうなってやがる!」

微睡から叩き起こされて苛立つ野崎は、部屋から慎重に出ると、廊下も同じフロアも人気がない。

何か起こっているのは此処より下の階だと察した野崎は、ヘッドセットの置いてある地下を目指すことにした。

しかしながら、赤色灯が灯るレベルの緊急事態に丸腰はあまりよろしくない。

「あ〜あ、舞香とかなら首くらい素手でいけるんだろうなぁ」

ぶつぶつと呟きながら、食器棚の引き出しへ貼り付けられたグロックを掴み、野崎は階段を降り始めた。

 

 

 

千鶴の足元を弾丸が掠める。

クリスマスを目前に控えた寒さが1階を支配する中、男はコートから抜き取った無骨なリボルバーを構えている。

RSh-12。ロシア製の鉄塊は、狙撃銃と同じ50口径を用いる、冷たい怪物だった。

「初めまして。デルタの皆さん」

そう語る髭の大男は、雪原のアムールトラが獲物を見つめるような冷たい瞳をしていた。違ったのは、彼の目が氷のような青い瞳だったことだ。

「今日は挨拶のつもりだったんだが…お目当ては居なそうだな」

そう語る男に、千鶴が訊く。

「…あなたは…何者なの?」

「挨拶なのに、名乗り忘れてたか。俺は行商人(コロブチカ)。君らの追う、“彼”の商売相手さ」

「その彼って…」

後ろで警戒し続けていた舞香は、手元のガバメントへと手をかけたまま千鶴と顔を見合わせる。

「なぁアンタ、その彼っての、一体何者なんだ?」

 

 

 

「クッソ!靴の1組くらい部屋に置いとくんだったぜ!」

階段を駆け降りたせいか、野崎の踵はジンジンとした痛みに包まれていた。

真っ暗な廊下の不気味さも相まって、地下は異様に肌寒い。

一階から響く銃声らしき音が、野崎を急かす。

廊下を走る野崎を、目指していた部屋から出てきた弟切が迎える。

「野崎くん!丁度いいところに!」

ヘッドセットを装着した野崎に、弟切はそう言う。

「今から上の援護に…」

そう言いながら部屋を飛び出そうとする野崎は、突如として腕を引かれて立ち止まった。

「そっちより行くべき場所があってね、そっちに回ってくれるかな?」

弟切がそう言うと、野崎は口角を上げて言う。

「任せといて下さいよ。でも、相手の素性だけ教えて下さいね」

 

 

 

「彼は秘密主義者でね。味方にも素性は知らせたがらない。無論、俺にもな」

「秘密主義…か」

舞香がコロブチカと名乗る男を睨み付ける。

「すっとぼけてんじゃねぇだろうな?」

「知ってたら、もう少し深みのある言い方をするぜ?」

「深みとか分かんねぇよ。ふざけんな」

「青筋浮いてるぞ?小娘」

「よく喋る爺だな。そんなに死に急ぐ気か?」

2人が煽り合いに花を咲かせている中、千鶴はグロックを手にしたまま、弟切へ連絡をとっていた。

「舞香、アイツと煽り合ってるんだけど、どうします?」

『…始まったら加勢してあげて』

 

 

 

「で、何すかこの部屋」

「君たちのヘッドセット、これを作ったのは誰だと思う?」

「…フォネティック・コーズの技術者とか?」

「まぁ、半分くらい正解かな」

「半分?」

「そう、半分だ」

「どういうことです?」

「彼は元々、海外でこの技術を研究していたんだそうだ。ただ、日本を訪れていたタイミングで国が戦乱に呑まれてね」

「訳アリって訳か」

「そんなとこ。今はデルタ班(ウチ)に居るから、半分正解ってこと」

「納得いきましたよ。その人がこの部屋に?」

「まぁ、一回くらい合わせておくのもアリか」

「ジョナサ〜ン!野崎くん来たよ!」

「やぁ野崎ちゃん。僕のことは、もう弟切から聞いてるんだろ?」

「いえ、殆ど全く」

「弟切!これだと僕ぽっと出のイケメンじゃないか!」

「安心しなって。イケメンじゃないから」

「あ、ごめん取り乱した」

「まぁ、自己紹介なんて後でいいんだ。宜しくね。野崎ちゃん」

 

 

 

「「クソムカつくなテメー!」」

お互いに銃を構えた所で、黒塗りの車が何台も連れ立って現れる。

「あ、アラート切ってなかったか」

男がにっこりと笑うと、車の荷台が開きナイトスコープの兵士たちが一斉に構える。

「まぁ、君たちなら死にはしないだろうさ」

「…やる気か?」

Конечно(もちろん)

男の合図と共に、一斉射撃が始まった。

轟音が響き、火花が散って、硝煙が舞う。

その中で、何より早く動いたのは千鶴だった。

風に舞う羽根の様に身を翻し、滑る様に周りの敵を蹴散らす。

(さっきまで加勢だとか言ってたのに、真っ先に突っ込んで行きやがった)

白い目の舞香は、ふと、建物内から異様な気配を感じ取る。

気のせいとも取れるその微かな気配は、野崎と対峙する女性の放つものだった。

 

 

 

「何だいアンタ、迷子とかか?」

野崎が奇妙な女を視界に捉える。

千鶴に教え込まれた通りに、武器を作り出す準備をした上で、構えやすい姿勢を保つ。

「迷子ではあるよ。それでも、探し物はハッキリしてる」

目の前の女性は、雪の様に白い肌に美しい銀髪を長く伸ばし、遠くからも見えるほど美しい蒼い瞳をしていた。

「探し物?」

「ジョナサン・ウィリアムズ。うちの部下なんだけど、知らないかな?」

優しげな口調で言う女性は、ゆっくりと野崎へと歩み寄る。

歩く女性に合わせて、上着の裾が揺れる。しかし、その揺れ方はどこかおかしい。

左側だけが不自然に大きく揺れているのだ。

野崎は弟切から教わったことを思い出した。

ポケットへと武器を忍ばせると、その重みで歩き方や服の揺れが変化する。

それを時に『トカレフ歩き』と言う。

「それ以上、近寄らないで貰えるかな?」

「…分かるの?」

「ポケットの中のやつがスマホとかなら先に言ってくれよ。そのいい面をぶち抜いてからじゃ遅いんでな」

「残念だけど、スマホなんかじゃないよ」

女がポケットから抜き出したのは無骨なロシア製拳銃、MP-443だった。

「そいつ、軍の制式拳銃だろ?どっから手に入れたよ?」

「仕入れ元を明かすとでも?」

「仕入れ、ね」

野崎の耳を、9×19パラベラム弾が掠める。

「やる気かい?お嬢さん」

「君が渡さないからいけないんだろう?その部屋へ入れてくれれば、撃ち殺しはしないさ」

「入れてやったっていいさ。出てくる頃にはデコに風穴が空いてるだろうがな」

2人の間で、顔に笑顔を浮かべながら睨み合いが続く。

「さっきから私をお嬢さんとかアンタとか、しっかり呼んでくれないじゃないか。冷たいね」

「名乗られてねぇと呼べねぇよ。それともアレか?適当なあだ名の方が好みなタチか?」

「そんなことないさ」

野崎に煽られた白髪の女性は、野崎の目をじっくりと見ながら胸に手を当てて自己紹介をする。

「私は林檎(ヤーブラニ)。コロブチカのヤーブラニさ。」

「ロシア語…スラブ娘ってとこか」

「まだ別れるには早いだろう?」

「早急に縁を切りたいところだ」

調子が良くなってきたヤーブラニに、野崎は探りを入れる。

「ジョナサンを連れ戻して、何をさせるんだ?」

「こっちも訳アリでね。彼は問題解決に便利なんだよ」

「便利ぃ?」

ヤーブラニはそう話す少女の耳に、緑の光を放つヘッドセットがあるのを目にする。

「君、その耳に着けてるのが何か、知ってるのかい?」

 

 

 

気絶した男達の山を前に、千鶴は頬についた返り血を指の腹で拭った。

「化け物め…」

慄くあまり男の口から漏れた言葉を、舞香が咎める。

「よしな。気絶じゃ済まないやつが来るぞ」

「…自粛しよう」

男は、二人が暴れた拍子に落ちた小箱に腰掛けて話し始めた。

「…俺の娘が、先に入って行った」

「娘?」

「林檎の花の様な、白い髪をしているんだ。目は空の青さを閉じ込めている」

「凄い言うじゃん。何急に」

груши(グルーシ)груши(グルーシ)って俺を呼んで、後ろをずっとついてくるんだ」

グルーシは、千鶴の顔を見上げる。

「俺達はお前達の仲間、ジョナサンという男を取り戻しに来たんだ」

「取り戻す、ねぇ」

千鶴の目がいっそう冷たくなる。

「生憎渡せないよ。金のガチョウは」

「渡せなんか言わないさ。もう済んだ話だしな」

そう言い残すと、グルーシは気絶している部下を荷台に詰め込み、車のエンジンを回した。

「じゃあなお嬢さん方。ガチョウ小屋を点検した方がいいぞ」

その言葉で、千鶴は嫌な予感に身を震わせる。

直後に、その予感は現実となった。

 

 

 

「あんた、何者だ?」

鼻血を垂らした野崎は、目の前の白い顔を睨む。

仰向けにされ、疲れもあって身動きが取れない。

冬の底冷えが、野崎の背筋を冷たくなぞる。

「商人さ。君らとは場数が違う」

「言ってくれるな」

「そりゃ言うよ。現に君は、地面に倒されて動けない状態だしね」

「…まぁ、何も言い返せねぇよ」

諦めの籠った野崎の目をヤーブラニがじっと見つめる。

「…何のつもりだ?」

「少し、提案があるの」

「提案?」

「…野崎くん。ジョナサンのフリをしてくれない?」

「…は?」

「君がジョナサンのフリをして連れ帰られれば、君達にとって何より大事な技術は守られる」

野崎は考えを巡らせる。

この女をいかにして騙して逃げるべきか。はたまた、従ってジョナサンのフリをするか。

「フォネティック・コーズが顔や性別を変える薬品を使用しているのも、私達は知っている」

「不思議は無い、か」

野崎は弱々しく、手を上へ伸ばした。

「連れてってくれよ。立てないんだ」

ヤーブラニは野崎を担ぎ上げると、風の様に走り去る。

夜の静寂が、廊下に満ちた。

 




お気に入りの目出し帽が行方不明です。
萎え萎え。
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