フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

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かっぱえびせんがメインのおやつになりつつある


Delta 22:俺の袖にはアナコンダ

「おい血塗れ。起きてるか?」

「起こすんじゃねぇよ…明らか寝てんだろ」

「軽口叩けるくらいにゃ元気で良かったよ」

「よく見ろよ。こんな状態だぞ?

「何も見えねぇよ」

「…そうじゃん」

2人は縛り上げられたまま、真っ暗なコンテナで話をしていた。

その空間は、木漏れ日のように入る月明かりが、一寸先が見えない程度の明るさで照らしている。

「どう逃げっかな」

「…撃たれた傷が酷い。応急処置はしたけど…」

「あぁ、俺も手を縛られてて何もできない」

そう言ったところで、2人は顔を見合わせた。

「俺、袖にナイフ仕込んでるんだ」

「俺も、任務用にリジェネーターを渡されてる」

 

 

 

「舞香もやられちゃった…」

別の車両に飛び乗り、攻撃を仕掛けていた千鶴は、蜂の巣のようになったコンテナの上で道の先に目をやった。

「きっと酷い目に遭ってるはず…私、班長失格かもなぁ」

迎えにきたユニフォームのドライバーが、落ち込む千鶴を呼ぶ。

「小野さーん!まだ追いつけますよー!」

「本当?」

「乗ってみれば分かりますよ」

一方その頃。

 

 

「おい手ェ滑らすなよ!」

「うるせぇよバーカ!」

「痛っ!切れた!今切れたよ!」

「こちとら手ェぷるぷるなんだから仕方ないだろ!」

「それこそ丁寧にやるべきだろ!」

「丁寧にやってます〜」

「「はははははははは!」」

 

 

2人の様子など知る由もない千鶴は、自責の念に駆られながら、野崎たちを追っていた。

俯く視界に映る手は、街灯の色に照らされている。

『千鶴ちゃん、聞こえてる?』

ヘッドセットから、ジョナサンの声がした。

「ジョナサン?急にどうしたの」

『君に話しておきたい事があるんだ』

「話しておきたい事?」

『デルタ班のみんなが着けてる、ヘッドセットの話さ』

そう言われた千鶴は、自分のヘッドセットに手を当てる。

「これがどうかしたの?」

『それが何故、武器や道具を作り出せるのか。疑問に思わなかったのかい?』

「疑問に思ったところで、班の特殊技術なんて大体訳わからないものだし。そんなに」

『だから今、種明かしをしたいんだ』

 

 

 

「種明かし?」

『このヘッドセットの仕組みが、重要になるかもしれないんだ』

「…聞かせて」

『そのヘッドセットは、君たちの脳波を読み取った後、それを電気信号に変換するようになってる。その信号から、武器を作る仕組みになってる訳さ』

「それが種?」

『まだ前置きだよ。信号を特殊な鉱石に通す工程があるしね』

「特殊な鉱石?」

()()()()()()と言う、中米原産の鉱石でね。電気信号に応じて、周囲に結晶を作り出す性質がある。君たちの武器は、その結晶で作られてるってこと』

「一気に色々言い過ぎてて何が何だか…」

『あ、ごめんごめん。まぁ、続きは後でいいさ』

そう言うと、こちらが通信を終えようとしたところで、付け足すようにジョナサンは言う。

『まだ君達は、そのヘッドセットを十分に活用できていないよ』

「は?」

 

 

 

攫われた2人が再会してから、すでに5分と25秒が経過していた。

2人の両手は自由になり、舞香の体は傷ひとつない状態になっている。

「ヘッドセット持ってたりする?」

「持ってる訳ねぇじゃん」

「だよな」

コンテナの中は暗く、冷たい。

そんな真っ暗闇でも、使えそうなものがないのは一目でわかる。

「舞香、ブリーチングをしよう」

ブリーチングとは、閉じられたドアを開けるために、暴力的な手段を持って錠や蝶番を破壊することである。

基本的にはショットガンや爆薬、ラムなどが使用される。が、ここにそんなものはない。

「マジで言ってんのか?あれ結構大変なんだぞ」

「後で菓子くらいなら買ってくるからさ」

「ったく、今回だけだからな」

そう言うと舞香は、ドアの前に立った。

大きく息を吸い込み、足に力を入れる。

「たぁっ!」

舞香の強烈な蹴りで、鋼鉄製のドアが歪む。

「…破断はしてなさそうだな」

もう一度構えた舞香は、慣性のままに後ろへ吹き飛ばされた。

「舞香!」

「ってて…急停止しやがった」

「勘付かれたか!」

野崎が構えた途端に、フロントガラスが砕ける音がした。

「事故か?」

「いや、襲撃と見た」

「なるほど」

舞香は歪んだ扉へと追撃を与え、暗いコンテナの中に光を注ぎ込む。

「千鶴ならいいんだがな」

「だな」

そう言う2人は、信じ難い光景を目にした。

装甲車の下から無数の蛇が洪水のように湧き上がり、数トン以上になるタチャンカを持ち上げているのだ。

「…一体全体どうなってやがんだか」

舞香がそう言う横で、野崎は自分の記憶を辿っていた。

「…レルネ」

「れるね?誰だそれ」

「シエラと戦った時に、ちょっかいをかけてきた外部の奴がいたんだ」

「は!?外部からか?」

「おう。それで、やけに俺に構ってきたもんでな。気があるのかと思ったくらいだ」

「…気がある、か。なら、敵じゃないのか?」

「多分な。ただ、まぁ」

野崎の腕目掛けて、蛇が飛びついてくる。

「ここのところ、異性にちょっかいをかけてばっかだったからな」

「…お前が浮気性って言われないのは、隣に誰もいないからだもんな」

「な!誰が…」

2人が話している所に、少女が1人降り立った。

「野崎くん。その子は…誰かな」

「同僚だ。こんなだが、同性だ。気にしないでくれ」

「私も、同性なんだけど」

「…あ」

野崎は、咄嗟に盾を構えようとする。

しかし、ヘッドセットがない今、その手には何も握られていない。

野崎が受けれない状態であるのを見たレルネは、咄嗟に放とうとした攻撃を引っ込める。

「…どうしたの?武器を出さないと…あれ、いつも着けてたやつは?」

野崎が事情を説明するのを眺めていた舞香は、レルネの後ろに立つ怪しい男の姿を目にしていた。

コートにハットの様相で、ブーツにはピザカッターのような金具が取り付けられている。何より、コートの腰や背中に妙な膨らみがあった。

「レルネ!いきなり走っていくから…心配したんだよ?」

口調は穏やか。低く柔らかな声が心地よい。

しかし、日頃嗅ぐことのない匂いが鼻をつく。

「そこの人、ポケットのものを見せてもらいたいんだが」

「…わかる?」

「分かるさ。火薬臭いんでな」

野崎がそう言うと、男は腰からSAAを2丁抜き取った。

「カーリービル・スピンはしないよ。好きに見てくれ」

「…警戒してたところだ。安心したよ」

SAA(シングルアクションアーミー)、コルト社製のリボルバーだ。

自動式(オートマチック)じゃなく、あえてのリボルバー、ですか」

「自動式拳銃は薬莢が詰まるので」

スライド式の宿命、と言ったところで、早撃ちをすると、排莢された薬莢が詰まってしまう事がある。

「…ガンマンってのは大変だな」

二人が話していると、レルネが野崎を呼んだ。

「…ヘッドセット、持ってかれちゃったんでしょ?追わないの?」

「正しく言えば、追えないんだ。武器なしじゃ勝てない」

「…ふーん。そんな強いんだ、あの二人」

「あぁ。凄腕のガンマンとか、俺に優しい女の子とかいれば別かもだけど」

「ホント、いやらしい誘い方するんだから」

 

 

 

「オセロトルはいつ着くって言ってるんだ?」

「あと一分だってさ。でも…」

「落ち着け。ヘッドセットもない状態なら、殆どただの小娘だ」

そう言うグルーシの後ろから、青年が話しかけてくる。

「…追ってきたか、カウボーイ」

「ガンマンですよ。よく間違われるんですけどね」

「悪かったな。それで、何の用だ?」

「そのヘッドセットを、返して頂きたいんです」

口調は丁寧で、どこかに余裕がある。

「そいつは無理だ」

「交渉決裂、ですか」

「そうなる」

そこまで行ったところで、グルーシは銃を抜いた。

追い払う為の小道具程度のつもりだった。が、場合によっては撃つことも視野に入れねばならない。コートの裏には確実に何かが仕込んであるだろう。あのガンマンは…

思考が、わずかに遅れた。

グルーシの手元で、激しく火花が散る。

じわりと汗が滲む中、後ろに目を向けた。

確かにホルスターから引き抜いたはずの銃が、5メートルほど向こうまで吹き飛ばされているのが見える。

超近接戦にて、剣と銃では剣の方が速いとする説がある。

しかしながら、現実とはその限りではない。

時にその射撃は、人間の知覚すら飛び越える。

早撃ち。抜き放たれたリボルバーは、グルーシの手に握られていたRSH-12を正確に狙い撃ち、静かな夜道で5メートル後ろまで吹き飛ばしたのだった。

「なかなか上手いじゃないか。どこで習った?」

「説明書を読んだんですよ」

「次は正直なところを聞かせてもらうぜ!」

そう言うと、グルーシは隠し持っていたマカロフPBで威嚇射撃をして、夜の闇へと逃げ出した。

逃げるグルーシに向けて、タカヒロは数発発砲した。が、何か別のものに当たったのみだったようだ。

 

 

「野崎〜!舞香〜!」

やっと事が収まろうとしたところに、千鶴が駆け寄ってくる。

「無事!?なんか変なこととかされてない!?」

「無事だよ。落ち着け」

「落ち着いてられないよ!怪我なさそうで良かったけど…」

「まぁ、そこら辺はな。ただ…」

野崎は困り顔で耳を揉んだ。

「ヘッドセットなら、心配要りませんよ」

タカヒロが後ろから声をかける。

「レルネから、『奪われたらいけない』と言われたので…逃げる際の数発で主要そうなコードを切っておきました」

「…はい?」

「…まさか、撃っちゃダメなものでしたか?」

「い、いえ。奪われた方がまずいので問題ないんですけど…」

(街灯程度の灯りで、逃げる相手が持つヘッドセットのコードを撃ち抜くって…何なの?ビリーザキッドか何かなの?)

戸惑う千鶴の耳に、弟切からの通信が届く。

『2人とも無事そうで良かったよ。取り敢えず戻ってきて欲しい。文句も、不満も聞くからさ』

 

 

「なぁジョナサン。俺はジョナサンを庇って捕まったわけだ。そして、それを助けようとした舞香も捕まってしまった。故に、ヘッドセットの責任は…」

野崎が早口で捲し立てる。目を閉じて、冷静そうに見えるが、手は恐ろしく震えているし、汗が吹き出ている。

「あぁ、別に気にしなくてもいいよ。殆どただのヘッドセットだし」

「へ?」

「大事なのは“一部分だけ”だからね!」

ジョナサンが明るく言いながら、ヘッドセットのスペアを取り出す。

「その一部分が向こうに伝わったら、こっちとしたら半分負けみたいなものだからさ。なるべく避けたいわけ」

そう言いながら、ジョナサンはカバーのプラスチックを取り外す。

中は普通のコードが通るばかりだが、その中に真っ黒な箱がある。

「これがその大事な“一部分”。異郷の鉱石を封じ込めた…いや、神とも言える存在を封じたものさ」

 




ジャパンスネークセンターにお邪魔しました。
爬虫類好き。
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