ジメジメしてジリジリするので、外に出る気が失せがちです。
メキシコシティの周囲で、奇妙な事件が起こっていた。
何でも、欲しいものがその場に現れるのだとか。
その事件が起こったのが、7年前。
冷房の効きが恐ろしく悪い。音からしてファンがおかしくなっているんだろう。
この暑さの中だと、こんなオンボロ冷房では心許ない、と言うか、殆ど意味がない。
詰め込まれた仕事もあってか、頭痛がする。
何か、冷たいものでも頭に当てたい。
そう、願った時だった。
「ひゃぁぁぁぁぁあ!!」
首筋に冷たい感覚が走った。
急いで見てみると、そこには濡れたタオルが床に水を撒き散らして落ちていた。
「悪い、驚かせちまったな」
「グルーシ…」
「根詰めすぎるなよ。熱で乱心されるのは困る」
「少し、休んだ方がいいかもね」
食事も兼ねて、デスクを後にする。
今思えば、これも何かの始まりだったのだろう。
茹だるような日差し。メキシコシティは真夏に包まれていた。
イメージするような中南米の湿気はなく、乾季の風が吹いている。
「あづ〜い」
ヤーブラニは溶けそうなアイスのようにダラダラと歩き、いつものクールさは見る影もない。
無理もないだろう。彼らの出身は極寒のロシア、メイン市場も比較的冷涼な
「なんかさ、あれ欲しい」
「あれ?」
「ちっちゃい扇風機。首からかけるやつ」
そう語るヤーブラニの首に、ネッククーラーが現れる。
沈黙と、首から吹く冷風。
じりじりと照る太陽の下、3人は路上に立ち尽くす。
「…グルーシ?」
「いや、俺じゃない。多分、ジョナサンでもないだろうな」
「何が起こってるんだ…?」
この一件が、ヘッドセットに深く関わる事件だったという訳さ。
数日後に、ミニュアス・グループっていう古代遺物の保護団体がメキシコシティにやってきた。
欲しいものが現れる事件。もしかしたら何か恐ろしい物が中心にあるのかも知れないのだとか。
後で調べて分かったんだけど、このミニュアス・グループってのは、昔から世界中の不思議な物やオーパーツを集めてる専門組織だそうで、きっと彼らも、真相の近くまでは辿り着いてたんだろうさ。
しかし、僕の探究心が、
「熱でもあんのかよ?ここに長居すんのは…」
そうグルーシが止めた。
「…少しだけ、あと少しだけ居させて欲しいんだ。」なんて言ったのを覚えている。
結果、コロブチカとは別行動で、この現象を追うことにしたんだ。
その日の晩だった。
夢に男が出てきたんだ。
顔はよく見えなかったし、背格好だって覚えていない。ただ、一つだけ確かなのは、彼が蛇のように見えたことだった。
「ジョナサン、異邦の者よ。何故私を探る?」
「何故?決まってるじゃ無いか。好奇心だよ」
「好奇心?」
「そうさ。猫をも殺す、強い心さ」
「…成程。なら、こうしよう」
「?」
「西側にある少し遠くの工事現場、その地下に私は埋まっている。それを掘り起こして、“人と繋がる”機械を作って欲しいんだ。」
「人と繋がる機械?それが君の望みなのかい?」
「そうだ。元王として、未来への備えをしておきたいのでね」
「分かった。よろしく頼むよ、王様」
言われた通りの場所を、工事より先に掘り返した。
土に塗れた、広げた手ほどの大きさで翠色の鉱石を拾い上げた途端、夢で聞いた声が頭に響く。
『再会、だな』
拾い上げたそれから、土を簡単に払う。
それは光を受けた森の葉のように明るい緑色をしていた。
鉱石の翠色が昇り始めた朝日を取り込んで、一層輝きを増すように感じたのを、今だに覚えている。
リュックサックに鉱石を詰め込み、逃げるように太陽へ向かう。
彼の特性を把握しようとしているうちに、僕はこの怪事件の種へと辿り着いた。
この鉱石…『コアトライト』は、人の脳波を読み取る事でその人が考えたものを作り出す特性があった。だから、周囲の人間の脳波を受け取ったコアトライトが、勝手に道具を作り出してた訳さ。
そこからは簡単だった。
ヘッドセットを元に、読み取るのを装着者だけに限る。
イメージが曖昧な場合に合わせて、補助用のデータも内部に入れておく。
それだけで、原型自体は出来上がった。
白をベースに、黒を差し色に入れた、マイクとハードポイントのついたヘッドセット。
コロブチカには「武器が無限に出て来るなんて、いよいよ商売上がったりって奴だな」なんて言われて、表にも出せないまま、僕は日本へと渡ったのだった…。
「と、言う訳さ」
語り終えたジョナサンは、足を組みながらインスタントのコーヒーを啜る。
「…いちばん聞きたいとこがか〜なりうっすいんだが?」
「どこ?」
「構造のとこ。どうなってんの?」
「脳波から取り出した微細な波長にコアトライトを曝すと、何故かは分からないけど物体が形作られる。それを利用してるのさ」
「麻酔薬みたいだな」
「中々、いい例えをするね。同じく、原理の不明なものだ」
楽しげなジョナサンは、机の上のヘッドセットを2人に差し出す。
「君達には、奪われたヘッドセットの奪還をお願いしたい。破壊されていても、コアトライト自体は健在だ。こちらの仕掛けが割れるのはなるべく避けたい。頼めるかい?」
「…それだけじゃない」
舞香は静かに呟く。
「負けたままじゃいれない」
「俺もだ。癪に障る」
「決まりだね。2人とも」
そんな四人の様子を見たレルネとタカヒロは、さりげなくフォネティックコーズを去ろうとする。
「待ってくれないかな?」
そんな二人を、弟切が止めた。
「私たちは野崎くんを助けただけ。止められる道理はないと思うけど?」
「そうもいかない。何せ人手不足だ。君たちにも協力願いたいんだが」
そう言った弟切の目を、レルネが見つめる。
その瞬間、弟切の体が小刻みに震え出した。
「…抵抗できるんだ。強い人」
「これは…一体?」
「詳しくはいい。とりあえず、その手の薬を置いて。口封じなんか要らないでしょ?」
「…それもそうか。じゃあこれ解いてくれない?生憎脚が悪くて…」
レルネは弟切の脚を一瞥すると、すぐさま弟切の動きを止めていた不思議な力を解く。
「その脚、やったのはアイツでしょ?」
「…分かるのかい?」
「憶測。でもちょっと殺気漏れてるよ」
「まだまだ未熟者だからね。もう熟れないけど」
2人が止められていたところで、補修の入っていない入り口に、甲冑風の外装をしたロボットが現れる。平賀のものだ。
『弟切さん、ですよね』
「そうだけど…貴方は?」
『私は平賀重樹。貴方方フォネティック・コーズへの協力を望んでいる、レルネ達の仲間です』
弟切が2人の方に視線をやると、2人は意図に気づいて頷く。
「立ち話も難でしょう。少し、腰を据えてお話ししましょうか。」
そう言うと、2人はまた室内へ入って行った。
「レルネ。これまさか俺たちも?」
「いいんじゃない?本当は好きじゃん。人助け」
真っ暗なようで、真なる闇ではない夜の中。月の光を遮るように、黒い煙が揺蕩っている。
「これが、奴らの?」
「そうなるな。まぁ撃たれて使い物にはならねぇが」
壁に背をもたれて立つグルーシは、自前のタバコを燻らせながら、男を見据える。
黄色と黒の横縞を持つ、骸骨の顔。
黄鉄鉱を思わせる、真っ黒な目。
何よりも、口や体の各所から吐き出す、真っ黒な煙。
(奴は、神なんぞではない。悪魔の化身の方が相応しいだろう。いや、そもそも“神”なんているのか?)
「グルーシ、奴らはきっとヘッドセットを取り返しに来る。策を頼む」
SFタグが付いていますが、FictionでなくFantasyということで。
少し不思議的なアレです。