フォネティック・コーズ   作:山本電柱郎

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前回からとてつもなく日を開けたことをここに懺悔します。
テストに負けました。


Delta/Sierra 1:私の為に争わないで

「あっつ…」

この身体になってから、約二週間程、夏真っ盛りとなった頃。

薄っすら汗ばむ季節の中、野崎浩介は自室で寛いでいた。

部屋に戻ったばかりだった故に、エアコンの未だ効いていない部屋で、寝転がって外出用の服を脱ぎ捨てる。

ヘッドホンを付け、タブレットを起動する。

プラモデルメーカーの製品情報ページを眺めながら、気になる商品を見て回る。

人型ロボットや、武器などのプラモデルを見ていた時のことだった。

「野崎〜!なんかシエラの人が…」

勢いよくドアが開いた。

「どうした?」

千鶴が呆然としたままドアの前に立っている。

「おーい、なんか言いかけてたろ。」

目の前で手を振りながら、ゆっくりと近づく野崎。

「ふ…服を着なさーい!!」

「ふげ!?」

勢いよくしまったドアに鼻をぶつけ、情けない声と共に部屋へ押し戻される。

Tシャツだけだったのを思い出したらしく、野崎も急いで服を着直した。

 

 

「千鶴、着替えて来たけど…何事?」

ロビーへ来て、千鶴へ話しかける。

「へー、君が野崎くん?」

ハスキーな声の女性が、死角から野崎に声をかける。

目の前の千鶴に気を取られ、扉の後ろに隠れていた女性に気付かなかったらしく、少し驚いた様な顔をした後、野崎のヘッドセットが光り、手の中に自動式の拳銃を作り出す。

女性の脳天へと銃口を向けた途端、視界がぐるりと回った。

(投げられた!?)

受け身をとって最小限の衝撃に抑えたが、それなりの痛みに顔が少し歪む。

「すいませんね、少し手荒な真似をしてしまって」

「こっちこそ、いきなりすいません」

手元の拳銃がホログラムになって消える。

「野崎浩介と申します。以後お見知り置きを」

「やっぱり?私は愛咲瑛楽(あいざきえいら)。好きに呼んでくれて構わないよ。」

この時、野崎は気付いた。

何か、怪しい気配を感じる事に。

そもそもさっきまで少人数しか居なかった瑛楽の部下らしき兵士が今や大人数と言えるほどの人数でロビーにて隊列を組んでいる。

「千鶴ちゃん、舞香、出てきなよ。」

ロッカーを見ながら瑛楽は言う。

言われた途端、ロッカーが大きな音を立てて開き、中から2人が飛び出してきた。

「まったく、何で分かるんだよ。瑛楽。」

「山じゃこんくらい分かんないと命取りだよ?熊とか、敵とか…」

愛沢瑛楽はフォネティック・コーズの[シエラ(Sierra)]班の班長を務めている。

シエラという語がノコギリ状の山脈を表す通り、山岳での任務を主に行う班である。

自然と武器を組み合わせて確実に任務を遂行する事が特徴で、カモフラージュされれば発見は困難な上、それでいて斜面でも難なく追跡できる身体能力を持つ班員で構成されている。

その班長にまで実力で成り上がった瑛楽の強さは計り知れない。

瑛楽の雰囲気は柔らかく、心地良い物だ。が、その裏には鋭く磨き上げられた実力と技がある。

綺麗な薔薇には棘があるというが薔薇に槍か剣が生えた様な人柄をした人だ。

野崎はそう考えながら瑛楽へ問いかけた。

「で、何の御用ですか?」

「あぁ、忘れてたよ。野崎くん、シエラ(うち)へ来ない?」

「へ?」

突然の言葉に、言葉を失う野崎。

まず口を開いたのは千鶴だった。

「瑛楽さん、それは容認しかねます!」

「何も無条件で引き抜こうなんて考えてないよ。まぁ野崎くんが望むなら歓迎するけどね」

「で、その条件って?」

野崎は先程よりも鋭い目付きで言う。

「明後日、向こうにある山で模擬戦をやろう。3on(たい)3だ。そこで勝った方が、もし野崎くんがシエラ(うち)に来たくなったのならこっちが、野崎くんを頂く。簡単だろう?」

野崎は考えた末に、瑛楽を見つめて言った。

「乗った」

「「はあ!?」」

無理もない。

市街地ならまだしも、相手の得意な立地である山(ホームグラウンド)だ。

勝てる見立てなど無いに等しい。

「野崎、馬鹿なの?」

舞香がオブラートにも包まず野崎へ言い放つ。

「なんて舞香は言ってますが、瑛楽さん、あなたは恐らく…断ったら私を攫うつもりでは?」

瑛楽は変わらぬ表情のまま言う。

「何を根拠に…」

「攫う気も、拘束する気も無いのにトラップを仕掛けますか?」

野崎はそう言うと、机の下に入って死角になっていた右足を上げる。

野崎の右足にはワイヤーが巻き付いており、机の下を通って瑛楽の部下へと延びていた。

「誘いに乗ったなら静かに解放する。乗らなければワイヤーで引き寄せ、そのまま攫う。これが狙いでは?」

「ホント、ぶん殴りたい位察しが良いんだね、野崎くん」

「一発くらいなら受けても良いですけど?」

「それは明後日好きなだけ殴らせて貰うよ」

瑛楽はそう言うと後ろにいた部下に「ワイヤーを解け。」と命じ、フォネティック・コーズの支部を後にした。

瑛楽の姿が見えなくなった辺りで、野崎が俯き、ブツブツと何かを言い始めた。

「さて…と。どーすっかな、ノリノリで啖呵切っちまった…ヤッベェ…」

「勝算は!?」

「…ない」

「「は!?」」

二人から突っ込まれながら、野崎はロビーのカレンダーを見つめた。

使えたとしてあと一日。

それだけでシエラを山で倒す。

(もう少し言い方柔らかくしときゃあ良かった…)

 

 

 

「なぁ瑛楽」

「どうしたの?」

支部からの帰り道、部下の伊東は瑛楽へ問いかけた。

「本当にあの模擬戦やるのか?100%こっちが勝つだろ。」

「ん〜まぁそうなんだけどさ。ただ、あのワイヤーの意図をあっさり読み解いた野崎くんと、知恵比べがしてみたくてね」

「お前…流石に手加減しろよ?」

夕陽が街を照らす。

二人は軽口を叩いている。

エンジン音と共に、ワゴンは走り去った。

 

 

「舞香ァ!喰らえェッ!」

頭上から木刀が振り下ろされる。

トレーニングルームにて、木刀で打ち合う野崎と舞香。

野崎の一撃は舞香の不意を突いた様にも思えたが、その瞬間に横から薙がれた一撃で吹き飛ばされた。

トレーニングルームには臨時の丸太が設置され、山林での戦闘へ対応する為の訓練が行われていた。

明日には模擬戦が控えているが故、訓練にも一層熱が籠っている。

舞香は山で武術の修行に励んでいたからか、この訓練でも二人を圧倒している。

ただ、それであっても二人の相手を一人ですると言うのは疲れるらしく、今は休憩に入っていた。

丸太の影で息を殺す野崎が休憩用の椅子からはよく見える。

丸太の向こうにいる千鶴は警戒しているようで、辺りをキョロキョロと見回している。

丁度野崎の隠れていた丸太に背を向けた瞬間、飛び出した野崎が千鶴の後ろから発砲する。

銃声に気付いた千鶴も障害物を挟もうと丸太へ駆けるが、その先を金属製の棒が横切った。

俗に『縹』や『帯衣縹』、『光扞縹』等と呼ばれる中国の暗記である。

使い方は投げナイフの様に投げて相手へ刺すなどして攻撃するものであり、所謂中国式投げナイフだ。

野崎が放ったのは帯衣縹と言われる物で、縹に布を括り付けたタイプである。

飛んで来た縹にも気付いた千鶴は後ろへ飛び下がるが、そこで首筋の温度を奪われた。

後ろで野崎が微笑みながら、ナイフの峰を当てている。

「勝負アリ?」

野崎が言った瞬間、千鶴が出したタライが野崎の頭に直撃し、金属音を立てて転がった。

頭を抑えてうずくまる野崎に千鶴は銃口を向けて言う。

「勝負アリ?」

してやったり、と言わんばかりのドヤ顔の千鶴を、野崎は少し睨みつけると涙目のまま言った。

「…負けました」

 

 

そんなことを繰り返している間に、模擬戦の日になってしまった。

山へ向かう車の中で、野崎がヘッドセットを触りながら問いかけた。

「なあ舞香、これって…」

「あぁ、それ俺の」

後部座席の舞香が野崎へ手を伸ばす。

舞香にヘッドセットを渡し、残ったヘッドセットを耳に当てる。

少々大袈裟な動作音と共に上部からパーツが伸び、頭をかっちりと捉えた。

そのまま舞香へもう一度問いかける。

「これって見た目完全に一緒で分かり辛いよな。ラインの色とか変えれないの?」

ヘッドセットには緑色のラインが入っており、基本的に武器などを生成した時に光る。

ただ、三人とも同じ色、同じ見た目、同じサイズ感なので分かり辛い事この上ないのだ。

質問に、乗り合わせていた弟切が答える。

「そのラインは色変えられないんだよ。素材の色だからね」

(緑色に発光する回路…素材か。随分と変な物を使ってる…いや、そもそもこのヘッドセット自体変な物か)

このヘッドセットはおかしな物だ。

武器などを一瞬で生成し、複雑で、とてもでは無いがイメージが追いつかなそうな武器も生成できた。

3Dプリンターとは速度や精度が違い、重量もあるのでホログラムではない。

少なくとも普通に生きていれば数十年知ることは無いだろう超技術を使っている。

野崎の思考はそこまで回ったが、弱い頭を酷使したからか寝付いてしまった。

山の稜線に隠れていた朝日も昇り、時計は9時を指している。

 

 

「相棒、向こうの山でなんか変な気配がする」

アパートの一室で、少女はポツリと呟いた。

スタイルも良く、中性的でありながら美しい顔立ちをしている。

「?何も感じないけど…」

相棒、と呼ばれた男は山の方を向く。

「行ってくる」

「ちょ、待てって!おい!レルネ!」

レルネ、と呼ばれた少女は切れ長の瞳を輝かせながら山の方へ走り出した。

屋根から屋根へ飛び移り、歩道は危ないので自転車用の場所を駆け抜け、人間ではない速度で山のすぐ側まで着いてしまった。

百蛇レルネは二股に分かれた舌で、ゆっくりと舌なめずりをすると、また高速で山へと走り出した。




やっぱ3,000文字とか中々大変ですな。
ホント、書ける人らはスゴい。
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