出来る限り外見への描写は入れますが文だけだと少し大変なので下手な絵で良ければ何処かに載っけたいですね。
「海行こうぜ」
「丁度よかった。海での任務が5件程…」
「違う違う!休日で、だよ!」
蝉の何声が染み込む様に響く七月。
野崎が食堂で弟切と話していた。
海、それは俵田町や野崎たちの育った
県庁から海よりも宇宙の方が近いこの県からでも、海に行く事はそう困難な事では無い。
街中からの鉄道を乗り継げば直ぐに海へ着き、高速道路を飛ばせば夕暮れまで遊んでその日のうちに帰れてしまうのだが、高校生だけで行くのは少々ハードルが高くある事だったのだ。
野崎はそんな宇宙よりも遠くにある青い海に思いを馳せている。
「野崎君、君は知らないだろうが、私達フォネティック・コーズに海についての仕事を請け合う班は無いんだ。海洋国なのに、だよ」
「そもそも26班で日本全部に充分なだけの人員が派遣できるかってんだよ。別の班に回せ」
「海に行くならついでにやるくらいの任務なんだよ〜!」
「ええい泣きつくな!てか、海沿いの班に振れよ!」
「何積んでるか分かんない海賊船なんてウチ以外対処出来ないんだよ〜!!」
野崎が大きなため息を吐く。
「舞香と千鶴…あともみじさんは?」
「やるってさ」
「先言ってくれよ…」
「やるのかい?」
「善は急げってよく言うだろ?荷物纏めとけ。」
「勿論!」
野崎浩介は肉体を薬品により作り変えられ、その身体は魅力的な少女の姿をしている。
故に、中学生の頃に使っていた水着は使用不可。
野崎は、自身が最も苦手とする魔境、水着売り場へと赴かねばならなくなっていた。
「…ッ!」
野崎の足が止まる。場所はショッピングモールにある水着売り場の前。
目の前には多くの水着が並び、皆夏の支度をしている。
約5秒の静止を経て、野崎は踵を返した。
本日三度目の敗北。敵前逃亡である。
わざとらしく他の服を見て、足早に落ち着ける本屋へ向かう。
倒せない敵というのはいるようだ。
本屋へ入ると、壁で外と隔てられているわけではないのに通路と違った本の香りが漂い、心を落ち着かせる。
漫画本のコーナーは先程見終えてしまったので歴史や生物学の本が並ぶコーナーへ向かう。
『メソアメリカ新話』、『バビロンの王辞典』、『野性動物の教科書』、『骨格標本図鑑』等心躍るタイトルの本を2、3ページ立ち読みするなどしながらゆっくりと見て回る。
『楽しいヒエログリフ』という本に手を伸ばすと、その手を掴まれた。
真っ白な、それでいて血の通った筋肉質だが細い腕を目で辿る。
野崎と、その腕の主…舞香はしっかりと顔を見合わせた。
ミシミシと野崎の手が音を立てる。
舞香がいつもしないような握力で野崎の手を握る。
「舞香…何のつもりだ?」
「千鶴が呼んでるぜ。『水着選んであげる!』だってよ」
「冗談じゃねえ。お前も見ただろ?あの危険地域を」
「あぁ見たさ。あそこは俺には“危険すぎる”」
「勝手に決めつけんなよ。“俺ら”だろ?」
「そうだな。とりあえず先行けよ。俺は後から…」
野崎が握られていない手を伸ばし、舞香のもう一つの手を掴む。
「お前も来いよ。二人なら怖くねぇさ」
「バカ言うなよ。千鶴の次にお前が怖いんだぜ?」
舞香の携帯電話が鳴る。
『舞香〜?野崎いた〜?』
「い、いた!見つけたんだ!今連れて行く!」
『そうなんだ…で、舞香は水着どうするの?』
「へ?」
『まっさか野崎を置いて自分は脱出…だなんて考えてないよね?』
「そんな訳…」
『そうだよね。舞香。まあいいや、カゴに商品入れてないし、迎えに行くね」
「いや、いいって。しっかり連れて行くから…」
舞香の肩に細く、それでいて力強くもある指が覗く。
壊れかけの人形が首を回すように後ろを振り向く舞香。
少し高い舞香の陰から覗く
二人は手に取った本を買うと言ってレジに逃げようとしたり、わざとらしくブックカバーの折り方を工夫したりと無駄な足掻きをした後、襟元を掴まれて引き摺られていった。
「なぁ千鶴。これ紐だろ」
「野崎はその無駄に大きいのを利用しなきゃ」
「しなくて良いよ」
更衣室の中、ハンガーにかかった水着を見ながら野崎が言う。
そのまま手に持っていたほぼ紐の水着を千鶴の胸元にかざし、おもむろに呟いた。
「ゴミ出しする日のダンボール…」
野崎の顎に鋭い一撃が入り、天を仰いだ顔に裏拳が入る。
野崎はしばらく痛そうにしていたが、よく出ていた鼻血は出なかった。
身体が強くなっているのは分かるが、何故粘膜まで強くなってるのか。野崎には理解し難かった。
とりあえず渡された水着の残り二つを見る。
残り二つは先程の紐と殆ど布面積に差が無い水着であり、しかも何故か野崎のサイズぴったりだった。
「なぁ千鶴…俺サイズ教えてなかったよな?」
「この店で一番大きい奴持ってきただけなんだけどなぁ?」
微かに怒気が滲む千鶴の言葉を受けながら、一度自分で選ぶと言って野崎は舞香を置いて更衣室から出た。
背後で子猫のような怯えた声が小さく聞こえ、後ろ髪を引かれるような気持ちで水着コーナーへ向かった。
今年は梅雨が遅く短かったので水着コーナーは未だに盛況の様だった。
しかしながら時間帯からか今日の中では少ない方となったそこでフラフラと水着を見る。
白い肌のマネキンが並び、可愛らしい水着やスクール水着、中学生の頃にビデオでよく見たような水着が売られている。
その中で一つ、野崎が気になる水着があった。
ビキニに違いはないのだが、胸の前に布のかかったデザイン、正式名称は分からないそれを見て野崎は少し考えた。
(ビキニはなぁ…人の目が…)
(でもこの水着前やってたソシャゲで見て気に入ってたんだよなぁ…)
(でもなぁ…ええい!)
野崎はサイズを確認し、千鶴が渡してきた水着と同じなことを確認してレジへ向かった。
買った水着を自身のエコバッグの中へ収め、千鶴に素早くメッセージを送った。
千鶴は残念がる鳥の絵文字を送り、少しの間チャットを送り合うとスマホを自身のポケットにしまい、ゆっくりと逃走する舞香の肩へ手を置いた。
聞こえずとも舞香の声にならない絶叫を感じ取った野崎は心の中で合掌して近くの百均へと歩いて行った。
水着を決めて早数週間、野崎浩介は部屋の薄い布団に寝ていた。
身体に重りを付けられたような倦怠感、火照る肌、そして痛む喉。
もみじ曰くただの風邪らしいが久しぶりに引いた風邪は過去のものとして思い出に封じ込めたそれよりも遥かに凶暴な獣として野崎の身体を蝕んでいた。
流行り病の検査は済ませており、陰性なことも確認済みだった。
それに解熱剤や去痰剤も服用済みだったのにも関わらず、体内の魔物は苛烈に暴れ続けている。
ぐるぐると視界が歪む中、右の腕で目を隠して眠りについた。
目覚めた時には夕方になっており、西陽がカーテンの向こうから差し込んでいた。
「起きた?」
舞香が野崎の枕元に置いてある小さめの椅子、野崎に「チャックモール君」と呼ばれるアステカの祭壇を模したそれに腰掛けた舞香が野崎に話しかけた。
「舞香?どうしたの?」
「食欲ある?メシ作るけど」
「ある。動けないだけで超お腹減ってる」
「よかった。何食いたい?」
「パスタ」
「ナポリタンでいい?」
「よろしく」
「分かった。作ってくるから出来るまで寝とけ」
「オッケ〜」
舞香が出ていき、ドアを閉める。
同じタイミングで野崎も眠りに落ちた。
『野崎…野崎…野崎浩介!』
何処からともなく声が響く。
男の声だ。
「いきなりフルネームとは驚きだな。俺ら初対面だぞ?」
『いいんだ。君だって私のことをフルネームで呼ぶからな』
「俺はフルネームで人を呼ばない。あまりにも呼びやすい場合は別だが」
『ならば君にとって私の名前は呼び易いんだな』
「かもな」
野崎は胡座を崩した座り方をしながら話し続ける。
『それで、今日は君に伝言があって来たんだ』
「内容は?」
『私の兄弟…と言うか、その名前を騙る奴が暴れてるんだ。止めてくれ』
「兄弟の偽物か…そいつは何処にいるんだ?」
『この街だ』
「この街…俵田とか本甲舎とか、丹根川とか?」
『そうだな』
「そうか…俺に止めれるのか?そいつは」
『止めれる。君の協力があれは確実に』
「確実か。随分と自信があるな」
『弟ならまだしも、今回はその偽物だ。勝てるに決まっている』
「勝てなかったら呪うぜ」
声の方へ目を向けて少しだけ歯を見せて微笑みかける。
『恐ろしいことを言うな君は』
「呪う為に聞いとく。アンタ名前は?」
『言うまでもない。君は知っている筈だ。中央高原で名を馳せ、酒に呑まれて祖国を追われ、侵略で帰る祖国を失った私を』
「…知らねぇな」
野崎は頬杖を自身の膝につきながら言う。
『忘れてしまったか』
悲しげに男が言う。
「ああ」
『忘れてしまったのならしょうがない。また話そう』
「またな。“一の葦”まで待っててやるぜ」
野崎はニタリと笑って言った。
「起きろ野崎。思ったより上手く出来たぞ」
エプロン姿の舞香が野崎を起こす。
野崎の部屋にある机の上に置いてあるナポリタンを見て、野崎は寝ぼけながらも目を輝かせる。
しかし、風邪も寝れば直ぐに治ると言うものではなく、いまだに身体を押さえ込む怠さを押し返しながら立ち上がり、机へ座った。
舞香もチャックモール君を気に入ったのか引き摺ってきて野崎の横に座った。
感想を述べながら食べる野崎を見ながら、舞香は野崎の部屋を見回した。
「どうしたんだ舞香。俺の部屋が気になるのか?」
「気になると言えば気になるさ」
「何が気になるんだ?」
「エロ本何処に隠してるんだお前。敷布団だろ」
「そこの本棚。よく見ると合間合間に隠してあるんだよ。あと俺はどちらかと言えば電子派だ」
「そ」
二人の話し声が小さな部屋で弾む中、勢いよく野崎の部屋に千鶴が入ってきた。
「の、野崎!風邪の調子はどう!?」
「どうしたんだよ千鶴。お前こそ調子大丈夫か?」
「そうだぞ千鶴。今日の昼間はいつも通りだったじゃねぇか」
「そ、そうかな〜?」
またドアが勢いよく開いた。弟切が楽しそうな声に釣られて入って来たのだ。
しかし、野崎は部屋とドアの間に突っ張り棒を通してカーテンを掛けている。
その突っ張り棒に額を強打し、弟切は素早くうずくまった。
その騒ぎを聞きつけて酒瓶片手に頬を名前の紅葉のように紅潮させたもみじが飛んできた。
結局その日、デルタ班は舞香が作った軽食を食べながら夜中まで談笑を楽しんだ。
野崎君男の子なんだから男物の水着でいいんじゃないの?
舞香もだよ?
千鶴…は女の子だもんね。
あ、質問等ありましたらいつでもお気軽にどうぞ。