魔族の不良品、そして天性の武者   作:猪のような

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クヴァールは幾ら盛ってもいいとされる。


第二話 巣立ち

 

 

 

 

魔王討伐のパレードから長い年月が経ち、平和な日々が続く中央諸国のある村の近くには、封印された魔族、腐敗の賢老クヴァールがいた。そしてその側には…

 

「リーニエ、どう?」

 

「今日も問題無し」

 

「そう、なら帰りましょう」

 

ヒンメルからクヴァールの監視をお願いされ、それを引き受けた二人の魔族。デーゲンブレヒャーとリーニエが居た。

 

 

 

 

 

 

 

「クヴァールの監視?あの魔族、生きてるの?」

 

「あれ、知らなかったのかい?クヴァールはある場所で封印されているんだよ。まだ死んではいないんだ」

 

デーゲンブレヒャーはクヴァールが生きていると聞いて少し驚いたが、少し考えると納得した表情になる。

 

「いや、それもそうね、あの大魔族がそう簡単に死ぬはずが無いわ…」

 

「デーゲンブレヒャーは、クヴァールと戦った事があるんだよね?」

 

「ええ、たった一度だけね……」

 

「…何やら表情が険しいようですが、クヴァールと何かあったのですか?」

 

ハイターがデーゲンブレヒャーにそう訊くと、彼女はため息をついて話し始める。

 

「クヴァールは多くの人間の命を奪ったわ…人を殺す魔法(ゾルトラーク)によって、ね」

 

人を殺す魔法(ゾルトラーク)。史上初の貫通魔法であり、現在の人類のあらゆる防御魔法や装備の魔法耐性を貫通し、人体を直接破壊する魔法。この魔法によってクヴァールが封印されている地方の冒険者の4割、魔法使いは7割が殺されたと言われている。

「…私は、ずっと悔やんでいるの」

 

「…クヴァールを、倒せなかった事を…?」

 

「そう…私は魔族で、この身体は魔法に対して強い耐性を持つ。人を殺す魔法(ゾルトラーク)だってこの肉体ならさほど脅威にはならなかったわ…だから…私が一番、クヴァールを倒すのに最適だったのよ…それなのに…奴を逃してしまった」

 

「師匠は悪くない。そもそもリヴァーレも居て2対1だったし、クヴァールが()()()()をしなければ…」

 

「それでも、私が倒すべきだったのよ…いえ、無駄死になるかもしれなかったのも事実ね」

 

場の空気が重くなってくるのをヒンメルが感じると、ハイターがパンッと手を叩く。

 

「はい、過ぎた事を悔やむのはそこまでにしましょう。重要なのは今から。そうですよね、ヒンメル」

 

「そうだな、その通りだ。で、どうかな?デーゲンブレヒャー」

 

「……監視よね、構わないわ。リーニエもいいわよね?」

 

「うん」

 

「決まりね、封印されている場所を教えて」

 

こうして、二人はクヴァールを監視する事になったのだった。

 

 

 

 

 

「それじゃ、今日の鍛錬はここまでよ」

 

「もういいの?」

 

「村の子供達と遊ぶ約束をしているのでしょう?行って来なさい」

 

「うん、行ってくる」

 

魔法で作った二本の剣を消したリーニエは、子供達との約束を果たす為に村の方へ飛んで行った。デーゲンブレヒャーはそれを見送ってから、クヴァールの封印場所の近くに建てた家に戻っていく。

 

「そろそろリーニエには、新しい刺激が必要かもしれないわね……ん」

 

デーゲンブレヒャーは家の中に入り、夕飯の準備をしようとしたところで、壁に立てかけてある折れた黒い大剣が目に入る。ふとそれを手に取り、折れた刀身を手でなぞると、かつての記憶が蘇ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしいぞ!魔力が無いというのに、その膂力!その速さ!どちらも俺を上回るか!」

 

「無駄に頑丈ね、あまり時間はかけられないのだけど」

 

「そう言うな、せっかくクヴァールが気を使ってくれたのだ、まだまだ楽しもうではないか、デーゲンブレヒャー!」

 

斧を持った魔族、リヴァーレとデーゲンブレヒャーの大剣がぶつかり合い、衝撃が周囲にあるものを吹き飛ばしていく。二人の魔族の戦いはデーゲンブレヒャーが優勢であり、リヴァーレの身体には徐々に傷が付いていた。

 

「ふむ…」

 

そしてその二人の争いを空から見物している魔族が居た。腐敗の賢老クヴァール。彼はデーゲンブレヒャーを観察しながら考え込んでいた。

 

(幾ら対人間用の魔法とはいえ…貫通魔法である人を殺す魔法(ゾルトラーク)を素手で受け止める事が出来るとはのう…傷を殆ど与えられなかった…アレでは撃つだけ魔力の無駄。とんでもない肉体をしておる…しかし、となれば…)

 

クヴァールとリヴァーレは此度の戦いに関しては、魔王の右腕である全知のシュラハトの命によって参戦してした。クヴァールはそれに関してある疑問を抱き続けている。

 

(何故シュラハトは、儂にデーゲンブレヒャーと戦うように命じた?未来が見えるあやつなら、儂がデーゲンブレヒャーに対して無力である事も分かっておったろうに…そこには一体、何の意図が…)

 

クヴァールは戦い続ける二人の剣戟の音を聞きながら、思考を続けると、やがてある答えに辿り着く。そしてその答えは…

 

「───なるほどのぅ…そういう事か…クックックッ……シュラハトめ、儂になんて事をさせるつもりなんじゃ…」

 

クヴァールはそうと決まればと、デーゲンブレヒャーに攻撃する()()を始めた。

 

 

 

 

「ふっ!!」

 

「くはっ!」

 

デーゲンブレヒャー空中から大剣を叩きつけ、リヴァーレは嗤いながら斧で受け止める。衝撃がリヴァーレを通して地面に伝わり、ヒビが広がっていく。

 

「本命が控えているの、そろそろ終わりにしましょう」

 

「何を言う、まだまだこれからだろう!!」

 

リヴァーレが大剣を押し返し、上に飛ばされたデーゲンブレヒャーに向かって飛び、斧を振るった。

 

(飛べぬ貴様なら、空中で回避は出来まい!)

 

この攻撃は当たる、そう確信し、デーゲンブレヒャーに斧が迫った次の瞬間、リヴァーレが見たのは…

 

「確かに回避は出来ないわ。けれどそもそも…あなたの攻撃を避ける必要はあるのかしら?」

 

左手で、リヴァーレの斧の刃を掴んで受け止めたデーゲンブレヒャーの姿だった。

 

「───」

 

リヴァーレは一瞬、頭が真っ白になった。無傷、ではない、受け止めた左の掌から、斧に血が流れていくのは見えた、だが、それだけだった。

 

「──化け物め」

 

「どうも」

 

ザシュ!と音が聞こえ、リヴァーレは下を向くと大剣が腹に突き刺さっていた。そしてデーゲンブレヒャーは斧を離すと両手で大剣を握り締め、空中で大剣をリヴァーレごと振り回し、そして…

 

「ふんっ!」

 

掛け声と共にリヴァーレの身体から大剣が抜け、勢いよく飛んでいき、そして地面に叩きつけられた。

 

「ぐはっ…!」

 

リヴァーレは大の字になって地面に沈む、そして空を見上げると、大剣を向けながら落下してくるデーゲンブレヒャーを捉えた。

 

「…見事だ…」

 

完敗だと、リヴァーレは潔く敗北を受け入れた。デーゲンブレヒャーはそのまま落下していき、そして…

 

「ッ!?」

 

背筋がゾワリとした。デーゲンブレヒャーは咄嗟にクヴァールの方へ目を向ける。悠々と空を飛んでいるその魔族は、デーゲンブレヒャーに手を向け、魔法を展開した。

 

(何だ、何か、まずいっ…!!)

 

何が起きるのかは分からないが、クヴァールが動いたという時点でデーゲンブレヒャーはそちらに全神経を集中させた。そして…

 

魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

確かに、そう言ったのをデーゲンブレヒャーの耳は聞いた。そして次の瞬間、デーゲンブレヒャーに向かって黒い閃光が放たれ…

 

「師匠!」

 

どこからともなく飛んできたリーニエが、体当たりに近い形で空中にいたデーゲンブレヒャーを捕まえその場を離れる。ジュッと音がして、大剣の一部が魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)に当たり、消し炭になった。

 

「リーニエ!?」

 

「師匠、逃げるよ」

 

「待ちなさいリーニエ、せめてリヴァーレにトドメを…!」

 

「ダメ、戻ったらまたあの魔法が飛んでくる。アレに当たったら師匠も無事じゃすまない」

 

デーゲンブレヒャーは、クヴァールが魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)を撃ってきた時点で、クヴァールを倒せる確率が極端に下がったのを感じた。今もリーニエが助けてくれなければ深手を負うか、死ぬところだった。

 

「……分かったわ、どこかで下ろして。離脱しましょう」

 

「うん」

 

デーゲンブレヒャーは顔を顰めながら、クヴァール達の方を睨みつけた。1000年生きた中で片手で数えるほどしかない、デーゲンブレヒャーの敗北の一つであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろ夕飯の準備をするとしましょう」

 

クヴァールとリヴァーレの戦いを振り返ったデーゲンブレヒャーは、改めて夕飯の準備を始めた。

 

「よし、こんなところかしら…リーニエ、少し遅いわね…」

 

夕飯が完成し、食卓に並べ終えたデーゲンブレヒャーはリーニエの帰りが遅い事を気にしていると…

 

「師匠、ただいま」

 

「リーニエ、おかえりなさい。少し遅かったわね…ヒンメル?」

 

帰ってきたリーニエは、ヒンメルと一緒だった。彼もすっかり歳をとってしまい、お爺ちゃんになってしまった。

 

「やぁ、デーゲンブレヒャー。すまないね、僕に付き合ってもらったせいでリーニエの帰りを遅くしてしまった」

 

「それは構わないわ、それより…いえ、取り敢えず上がりなさい。丁度夕飯が出来たところよ」

 

デーゲンブレヒャーはヒンメルを迎え入れ、共に食事を摂る事にしたのだった。

 

「それで、今日は何の用?」

 

「二人とクヴァールの様子を見に来ただけだよ、今日も問題は無かったみたいだね」

 

「ええ、私には分からないけれど。どうなの、リーニエ?」

 

「モグモグ…初めて見た時よりも、封印はちょっと不安定になってる。けれどもう暫くは大丈夫」

 

「そうか、それなら良かった」

 

その後も三人は他愛の無い話をしながら食事を進める。するとヒンメルがある話題を出した。

 

「後数年もすれば、エーラ流星がやって来るね」

 

「もうそんな時期?」

 

「フリーレン、全く顔を見せないけれど、ちゃんと来るのかしら?」

 

「来るさ、フリーレンはきっとね。この村にだって、クヴァールの封印が解ける頃にはやって来るよ」

 

「だといいのだけれど…彼女、今頃何をしているのかしら…」

 

「ミミックに食べられてるんじゃないかな?」

 

「あり得そうね…」

 

一方その頃…

 

「暗いよー!怖いよー!あ、くしゃみ出そう…」

 

食べられているエルフはさておき、食事を終えた後、村に宿を取っているヒンメルをデーゲンブレヒャーが送ることになった。

 

「それにしても、君は変わらないね。フリーレンもきっとそうなんだろう」

 

「あなたは変わったわね。本当に…あっという間だった…」

 

「…デーゲンブレヒャー?どうかしたのかい?」

 

「…人間の成長や衰えは、魔族やエルフからしてみればあっという間に過ぎ去っていくものよ、ヒンメル」

 

「そうだね」

 

「けれど…そんな一瞬の出来事が、何よりも忘れられないものになる…フリーレンは、どうなのかしらね」

 

「…リーニエはよく、南の勇者の話をするね」

 

「そうね、最初に関わった人間は彼だもの。リーニエが自覚していないだけで、彼の存在はリーニエにとってとても大きいものよ」

 

「…僕はフリーレンにとって、そんな存在になれただろうか…」

 

「私には分からないわ。ずっと一緒に旅をしてきたあなたなら、分かるんじゃない?」

 

「──そうだね、その通りだ」

 

「…今日は空が綺麗ね、星がよく見えるわ。エーラ流星の日も、こんな空だといいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──魔王討伐のパレードから50年後。

 

「ハイター、アイゼン。久しぶりね」

 

「デーゲンブレヒャー、リーニエ。お久しぶりです」

 

「二人は変わらないな」

 

「ハイターは大分老けたわね…アイゼンもちょっと変わったかしら」

 

「50年も経ちましたからね」

 

約束のエーラ流星の日にはまだ少し早い時期、勇者一行の面々は再び王都に集結していた。

 

「それにしても、久しぶりと言ってくれるのですね」

 

「そうだよ師匠、たった50年なのに」

 

「その50年が人間にとってはとても大事なのよ。リーニエ、貴女もいつか分かるわ」

 

「そうかな」

 

「それより、ヒンメルとフリーレンは?」

 

「そろそろ来るとは思いますが…ほら、来ましたよ」

 

ハイターの言葉を聞き、他の三人が城門の方に目を向けると、フリーレンとヒンメルが並んで歩いて来ていた。

 

「随分貫禄が出たね、ハイター」

 

「聖都の司教ですから。あなたは全然変わりませんね。はっはっは」

 

「頭撫でんな…」

 

頭に置かれたハイターの手をフリーレンは押し除けると、他の三人の方に目を向ける。

 

「アイゼンはあまり変わっていないね」

 

「そうか?そう見えるか?」

 

「流石ドワーフ。そしてデーゲンブレヒャーとリーニエは…全く変わってないね」

 

「久しぶりねフリーレン。相変わらずで何よりよ」

 

「全く、老いたのは男達だけとはね。それで、よく見える場所って何処なんだ?」

 

「今から行くんですか?エーラ流星にはまだ時期が少し早いと思いますが…」

 

「うん、だからここから一週間くらい歩いて」

 

「そんなに遠いのか…」

 

「全く、老人を酷使しおって…」

 

「…ヒンメル、運ぼうか?」

 

「大丈夫だよ、ありがとうリーニエ。久々に皆で集まったんだ、ゆっくり行くとしよう」

 

こうして、6人の綺麗なエーラ流星を見に行く冒険が始まったのであった。

 

そこから6人は様々な事を話しながら目的地へと進んで行った。ヒンメル達4人がそれぞれ思い思いに10年間であった出来事を話し、デーゲンブレヒャーはそれを楽しそうに聞きながら、時折り自身の1000年間にあった出来事を話し、リーニエは皆が喋っているのを林檎を齧りながらただ聞いている。魔物は主に女性陣が対処しながら、6人は進んだ。

 

───まるで、魔王城へと突き進んだあの数ヶ月の時のように。

 

「ヒンメル、ハイター、後少しだよ」

 

「………」

 

先頭を進むデーゲンブレヒャーは、後少しというところでふと振り返ると、ヒンメルとハイターの側に居るリーニエの姿を確認した。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ…何でもないわ」

 

デーゲンブレヒャーは再び歩き始める。前を進む彼女の表情を他の者が見ることは無かったが、その時彼女は、少し嬉しそうで、悲しそうな表情をしていた。

 

 

 

やがて一行は目的の場所に辿り着き、50年振りのエーラ流星を見ることになる。草原に6人で座り込みエーラ流星を眺めていると…

 

「ありがとう、フリーレン」

 

ヒンメルがそう言い、フリーレンはヒンメルの方を見る。

 

「君のお陰で、最後にとても楽しい冒険ができた」

 

ヒンメルはエーラ流星を昔と変わらない瞳で見つめながらそう言った。

 

「───綺麗だ」

 

 

 

 

 

王都に戻ってから間もなく、ヒンメルは息を引き取った。教会で行われている葬式には多くの参列者が訪れ、ヒンメルの為に涙を流した。

 

「ヒンメルは、幸せだったと思いますよ」

 

「そうなのかな…」

 

勇者一行は参列者が流れていくのを見ていると、参列者の一部がフリーレン達を見てヒソヒソと話し始める。

 

「あの子ヒンメル様の仲間なんだって?悲しい顔一つしないなんて…」

 

「それに隣にいる魔族の二人も…」

 

「薄情だね…」

 

リーニエとデーゲンブレヒャーは特に気にしておらず、フリーレンが少し視線を落とすと…

 

「おやおや、私達もしていませんよ?」

 

「司教は真面目にやれ!」

 

「この薄情者!」

 

ハイターとアイゼンが三人を庇うように動き、二人は参列者からブーイングをされ、物を投げつけられる。

 

「はっはっは、手痛いですな」

 

やがてヒンメルを入れた棺が外に運ばれ、地面に掘られた落とし穴の中に置かれると、上から土を被せていく。

 

「………だって私、この人の事何も知らないし…」

 

その様子を眺めていたフリーレンは、ポツポツと喋り出した。

 

「たった10年、一緒に旅しただけだし…」

 

彼女の脳裏にはそのたった10年の旅の光景が映し出され、やがて涙を溢れさせる。

 

「人間の寿命は、短いって分かっていたのに… 何でもっと知ろうと思わなかったんだろう…」

 

涙を流しながらそう言うフリーレンの頭にハイターが手を乗せ、アイゼンは背中に手を添えた。

 

「頭撫でんなよぉ…!」

 

「………リーニエ」

 

「何、師匠」

 

「私は、1000年生きた中で、沢山の別れを経験したわ。そして今日まで生きてきた」

 

フリーレンの様子を見たデーゲンブレヒャーは、リーニエに語り始め、リーニエは埋められていくヒンメルの方をジッと見たまま話を聞く。

 

「うん」

 

「人間との時間はあっという間に過ぎていくけれど…彼らとの思い出が、私に生きる意味を与えてくれた、けれど、どれだけ生きても、これだけは変わらない」

 

「…うん」

 

「リーニエ、私達はこれから、人間より長い年月を生きるわ。けれどその中で…もうヒンメルに会う事は無い、どれだけ生きても、願っても、それだけは絶対に無い」

 

「……南の勇者も?」

 

「ええ」

 

「……エーラ流星を一緒に見ることも?」

 

「無いわ」

 

「……そっか…そうなんだ…」

 

リーニエは僅かにデーゲンブレヒャーの方に顔を向け、そして再びヒンメルの方を見た。

 

「もう、またねは、無いんだね、ヒンメル」

 

そう言う彼女の表情は、何時もと変わらない無表情だった。けれど、デーゲンブレヒャーは彼女の頬に流れているのものをしっかりと目にしたのだった。

 

(……ごめんなさいヒンメル、そして感謝するわ…リーニエはこれで…)

 

ヒンメルの葬式は終わり、やがて再び別れる時が来る。

 

「では、私も聖都に戻るとしましょう」

 

ハイターが迎えの場所が来るとそう言って、他の四人の方を見る。

 

「四人とも、顔をよく見せて。これで最後になるでしょうからね」

 

「どこか悪いの?」

 

「長年の酒が祟りましてね」

 

「天罰だな…」

 

「少しは控えなさいよ」

 

「はっはっは…聖都に寄ることがあったら、私の墓に酒でも供えてください」

 

ハイターはそう言って馬車に乗り込む。

 

「…ハイターは死ぬのが怖くないの?」

 

「… 私たちは世界を救った勇者パーティーですよ。死後は天国で贅沢三昧に決まっています。そのために私は、あなた方と共に戦ったのです」

 

「…生臭坊主」

 

「はっはっは……それでは、お先に」

 

馬車が出発し、ハイターはその場から去って行った。

 

「…さて、私もそろそろ行くよ」

 

「魔法の収集か?」

 

「うん、それもあるけど……私はもっと人間を知ろうと思う」

 

「…そうか」

 

「それで1つ相談なんだけど。私魔法職だからさ、強力な前衛がいると助かるんだよね」

 

「勘弁してくれ、もう斧を振れるような歳じゃないんだ」

 

「!」

 

「…そんな顔するな、フリーレン。人生ってのは衰えてからのほうが案外長いもんさ」

 

「……そっか…じゃあ、デーゲンブレヒャーは?」

 

「悪いわね、私は他にやる事があるの。けど…そうね…」

 

デーゲンブレヒャーはリーニエに一瞬目を向けると、意を決してフリーレンに言う。

 

「リーニエを、連れていってくれないかしら?」

 

「!…師匠?」

 

「リーニエを…?」

 

デーゲンブレヒャー以外の三人は、少し驚いた様子でデーゲンブレヒャーを見た。そしてデーゲンブレヒャーはリーニエを見つめる。

 

「……リーニエ、貴女…人間の事をもっと知りたいと思っているでしょう。フリーレンと同じように」

 

「………」

 

「今までは監視の意味も込めてずっと側に置いていたけれど、今日で確信したわ。リーニエ、貴女はもう、人類の敵じゃない」

 

「どうして、そう思うの…?」

 

「貴女がヒンメルの死に悲しんでいて、もう会えない事に寂しさを感じているからよ。まるで…初めて大切な人達を無くした…私のよう…だから私のように、これからは旅をして、人間の事を知りなさい」

 

「────」

 

「フリーレン、良い?」

 

「…うん、リーニエなら、私も構わないよ」

 

「決まりね…リーニエ」

 

「…うん、分かったよ」

 

こうして、フリーレンはリーニエと共に旅をする事になった。

 

「じゃあ、またね。アイゼン、デーゲンブレヒャー」

 

「ああ、またな」

 

「ええ、また」

 

「…師匠…」

 

「何?」

 

リーニエは無表情でデーゲンブレヒャーをジッと見つめる。

 

「…行ってきます」

 

「──ええ、行ってらっしゃい」

 

「うん、じゃあ、アイゼン、またね」

 

「ああ、フリーレンを頼む」

 

こうしてフリーレンとリーニエは一緒に歩いてその場を去っていった。その後はアイゼンとデーゲンブレヒャーも別れ、デーゲンブレヒャーは一人で帰路に着く。

 

「…親元を離れる我が子を見送るのはこういう気分なのね……クヴァールの封印が解ける頃に帰ってくるとは思うけど……ほんの少し、寂しいわね…」

 

およそ200年、共に生きた少女と別れたデーゲンブレヒャーは寂しそうに、しかしどこか晴れやかな気持ちで歩いて行くのだった…

 

 

 




おかしいな…私はデーゲンブレヒャーを主人公ポジで書くつもりだったんだが、いつの間にか普通に師匠ポジにいるよこの人…リーニエの方が主人公じゃね?あ、感想、高評価お待ちしてますぅ…
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