lobotomy chronicle ~目指すはありふれた結末~ 作:暇なグリッチ
俺とユエ、プロトターボは階段を降りる。階下が騒がしくなっていたからだ。大方ハウリアと長老たちが揉めているんだろうな。そしてまず降りてくるとやってきたのは鋭い視線。プロトターボは「辛辣ゥ.....」と余裕そうだ。お前の肝の座り方にはもう感心するよ。
「アルフレリック.....貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど.....返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」
そう言うのは熊の亜人。拳を震わせてるところ必死に激情を抑えているといったところか。やはり人間族は不倶戴天の敵なんだろう。他の亜人もアルフレリックを睨んでいる。
しかし本人、アルフレリックはどこ吹く風
「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」
「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」
「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」
「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか!敵対してはならない強者だと!」
「そうだ」
そうあくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そして俺を睨む。
「……ならば、今、この場で試してやろう!」
いきり立った熊の亜人が突如、俺に向かって突進してきた。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。その脂肪の筋肉の塊の言っていいような剛腕が俺に振りかぶられる。だが俺は.....
ズンッ!!
政宗「いきなり何かと思えば....随分緩い攻撃をしてくれるじゃないか?」
俺はその剛腕を片手で受け止めた。俺は澄ました顔でいるがここまで強くなったことに内心少し驚いている。
バキッ!
「ッ?!」
俺は時間をかける意味もないと考え、すぐさま力を込めると熊の亜人の腕からなってはいけない音がする。そしてその手を離し、すぐさま奴の顔面を掴む。
政宗「少し寝ていろ、迷惑だ」
俺は熊の亜人を地面に叩きつけた。熊の亜人は白目を剥いて倒れた。私はいきなりの攻撃に少し苛立っていた。
政宗「それで?お前たちは私の敵となるか?」
俺の言葉に頷く者はいなかった。
奴が運ばれた後、アルフレリックが話を立て直す。まぁ、腕を折って頭を地面に埋めただけだから戦闘に支障は出ないだろう。ちなみに脳にも異常は何もなかったらしい。力加減はできていたらしい。
政宗「で?お前らは俺たちをどうしたい?俺たちは大樹の下に行きたいだけだ。邪魔しないのであれば俺も敵対はしない。亜人族としての意思を統一しておいてほしいんだ。でないといざと言う時にどこまでやっていいのかがわからんのはお前たちにとって問題だ。殺し合いにおいて敵味方を区別できるほど俺はお人好しではないぞ」
「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか.....それで友好的になれるとでも?」
政宗「何を言うかと思えば.....仕掛けてきたのは奴だ。それとも、あのまま俺に死ねと?奴の自業自得なのに責めないでくれないか?」
「き、貴様!それでも!ジンはな!ジンは、いつも国のことを思って!」
政宗「勘違いするな。俺は被害者、奴が加害者。それが事実だ。罪科の判断をするのも長老の役目なんだろう?それなら履き違えないでくれ」
「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」
アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む。
「確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」
そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目で俺を見た後、他の長老はどうするのかと言うように周囲を見渡している。その視線を受けて、翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示したらしい。代表して、アルフレリックが俺に伝える。
「南雲政宗。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ.......可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。....しかし.....」
政宗「絶対じゃない。と」
「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」
政宗「そんなもの最初から想定済みだ。それで?何が言いたい?」
「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」
政宗「....殺意を向けてくる相手に手加減しろ...と?」
「そうだ。お前さんの実力なら可能だろう?」
政宗「あの熊の亜人が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だろう。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。お前の気持ちもわからなくはないが、俺にとってはお前らの事情は知らないんだ。殺したくないなら死ぬ気で止めてくれ」
そこで虎人族の.....ゼルだったっけか、が口を挟んだ。
「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」
その言葉に、俺は思わず訝しそうな表情をする。
「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」
ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだからやはり情の深さは折紙付きだな。
シア「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」
カム「シア!止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」
シア「でも、父様!」
土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。
「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」
その言葉にワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。
「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」
それが嫌なら、こちらの要求を飲めと言外に伝えてくるゼル。他の長老衆も異論はないようだ。
政宗「はっ.....たわけが」
「な、なんだと!」
政宗「俺はお前らの事情は知らないんだと言ったんだ。俺からこいつらを奪う....それは結局俺の行く道を阻んでいるのと同じだ」
俺は長老衆を睥睨しながら、スっと伸ばした手を泣き崩れているシアの頭に乗せた。ピクッと体を震わせ、俺の方を見上げるシア。
政宗「俺からこいつら奪うと言うなら....絶版だ....」
シア「政宗さん.....」
「本気かね?」
アルフレリックが誤魔化しは許さないとばかりに鋭い眼光で俺を見る。
政宗「当然だ」
「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」
政宗「何度言わせる?俺の案内人はハウリアだ」
「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」
いちいち面倒だな....俺はずっとこちらを見るシアが気になりチラッとシアを見る。一瞬目が合ったがこんなことを考えてる暇もないとすぐに俺は視線を戻した。
政宗「約束したからだ。守る代わりに案内しろと」
「.....約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか?峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう? なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう。」
政宗「問題しかないだろう。案内するまで身の安全を保証すると言ったのに、別のいい条件が途中でできたから鞍替えだと?....」
俺は一度言葉を切りユエとプロトターボを見る。ユエはわずかに微笑み、プロトターボは口パクで「言ってやれ!」と俺に伝えてきた。俺はもう一度アルフレリックの方に向きを合わせ告げる。
政宗「反吐が出る....そうだろう?」
俺とて本当の外道にはなりたくない。こう言うところでの仁義はしっかりしておきたい。
「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。.....既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」
「アルフレリック! それでは!」
そう、完全に屁理屈だ。他の長老衆もギョッと表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた。
「ゼル。わかっているだろう。この少年が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか......長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」
「しかし、それでは示しがつかん!力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」
「だが.....」
ゼルとアルフレリックが議論を交わし、他の長老衆も加わって、場は喧々囂々の有様となった。俺は脱走してゼルを突きに行こうとしていた罰鳥を宥め、軽く撫でると俺はすぐに言葉を続ける。
政宗「盛り上がっているところに水を差すが、シアを見逃すのは今更だと思うが?」
俺の言葉に、ピタリと議論が止まり、どういうことだと長老衆が俺に視線を転じる。俺は説明するために右袖を捲ると魔力の直接操作を行う。すると、右腕の皮膚の内側に薄らと赤い線が浮かび上がる。さらに、〝纏雷〟を使用して右手にスパークが走る。長老衆は、俺その異様に目を見開いた。そして、詠唱も魔法陣もなく魔法を発動したことに驚愕を表にしている。
政宗「俺もシアと同じように魔力の直接操作ができるし、固有魔法も使える。次いでに言えばこっちのユエもだ。お前たちのいう化物ということだ。だが、口伝では〝それがどのような者であれ敵対するな〟とあるんだろう?掟に従うなら、いずれにしろあんた達は化物を見逃さなくてはならない。シア一人見逃すくらい今更だ」
しばらく硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる。
「はぁ~、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲政宗の身内と見なす。そして、資格者南雲政宗に対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲政宗の一族に手を出した場合は全て自己責任とする.....以上だ。何かあるか?」
政宗「ない。元々ただハウリアの案内で大樹に行きたいだけだからな」
「.....そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが.....」
政宗「構わん。譲れんこととはいえ十分無茶を言ってるのは承知だ。むしろ理性的な判断をしてもらって感謝する」
俺の言葉に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ。恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ!という雰囲気だな。
政宗「わかった、お望み通りさっさと行こう。ユエ、プロトターボ」
プロトターボ「あ、終わった?」
ユエは終始ボーッとしていたようだが話はしっかり聞いていたのか特に何も意見はなかった。プロトターボは.....寝てたな?そのリアクション確実に寝てたな??シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議。「えっ、このまま本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた。
政宗「何を呆けている。さっさと行くぞ」
俺の言葉に、ようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行く俺の後を追うシア達。アルフレリック達も、俺達を門まで送るらしい。シアが、オロオロしながら俺に尋ねた。
シア「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」
政宗「何?話を聞いてなかったのか?」
シア「い、いえ、聞いてはいましたが.....その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか....信じられない状況といいますか....」
ユエ「....素直に喜べばいい」
シア「ユエさん?」
プロトターボ「お前たちは政宗に救われた!はい!終わり!これでいいんだよ!事実なんだから!ほらほらどうした喜べ!」
シア「プロトターボさん.....」
ユエとプロトターボの言葉に、シアはそっと隣を歩く俺に視線をやった。俺は思わず少し笑ってしまう
政宗「はっ....当たり前だろ。約束だ」
シア「ッ......」
そして少しした後、素直に喜ぼうと思って今の衝動に任せたのか俺に思いっきり抱きついてきた
シア「政宗さ~ん!ありがどうございまずぅ~!」
政宗「っ....はぁ.....なんだ急に....」
ユエ「むっ.....」
泣きべそを掻きながら絶対に離しません!とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリと俺の肩に押し付けるシア。....まさか惚れられたのか?そして罰鳥はその光景を少し見た後....
罰鳥「しつこい!しつこい!!」
シア「痛い痛い!今くらいいいじゃないですかぁ〜!」
と突かれ、ユエはそれを見てニヤニヤしていた。
罰鳥君は今日も元気
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