lobotomy chronicle ~目指すはありふれた結末~ 作:暇なグリッチ
〝くぅ....とんでもない蹴りだったのじゃぁ〜....〟
声的に女だ。まさかど忘れしてMにしてしまうとは....いや、待てよ?今のままなら俺はただ蹴りを入れただけ。一発、強烈なのを一発だけだ。まだMにはなってないかもしれない。
ミレディ「もしかして....龍人族だったりする?」
〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ?凄いんじゃぞ?それなのにそこの者といったら容赦なく妾の尻にとんでもない蹴りを....本気で肉が抉れるかと思ったのじゃ〟
まぁクロノス自体とんでもない力だからな。今考えると本当によく肉抉れたりしなかったなとつくづく思う。
ユエ「....なぜ、こんなところに?」
ユエが黒竜に質問をする。ユエにとって竜人族は伝説の生き物だ。自分と同じ絶滅したはずの種族の生き残りとなれば、興味を惹かれるのだろう。瞳に好奇の光が宿っている。....可愛いな。
〝いや、そんなことより妾の尻が思ったより痛すぎてそれどころじゃ.....ってアッ!やめるのじゃ!蹴らんでくれ!!刺激がっ!刺激が〜っ!〟
政宗「やかましい。ユエの質問にさっさと答えろ」
なんかいつまでも痛がっているこいつが腹立ってきたため思いっきり蹴り始める。俺にはホドの事だったりなんだったり色々あるため忙しいんだ。まぁクリティカルクルセイドには到底及ばないだろうからいいだろう。(※普通に体内に響くほど思いっきり蹴ってます。)
プロトターボ「いや、おま、えぇ.....」
ミレディ「ちょっ、おいおい....」
シア「うぅっ....えっ、いや、なんですかこれ....」
おっと、シアが帰ってきたか。まぁいきなり竜が威厳もないような姿でいたら驚くだろうな。
(※シアが唖然としてるのは政宗の行動のせいです。)
政宗「で?滅んだはずの竜人族が一介の冒険者などを襲ったのか、俺も気になるな?それに俺には色々やらなきゃいけないことができてるんだ。さっさと話せ」
俺は黒龍を足に更に力を込めながらグリグリする。神のことやらホドのことやらでなかなか気分が悪いんだ。許せ。
〝あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから!〟
何やら周囲がドン引きしているが気にしない。さっさとこいつに話してもらわねば....彼女を操ったのは恐らく清水。清水は今どうなっているのか...それだけでも知れればいい。
〝妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟
黒竜の視線がウィルに向けられる。ウィルは、一瞬ビクッと体を震わせるが気丈に黒竜を睨み返した。俺の戦いを見て、何か吹っ切れたのかもしれんな。
「どういうことだ?」
〝うむ、順番に話す。妾は....〟
話を聞く限り彼女の素性は原作と変わらない。竜人族の里を隠れて飛び出したとかどうこうと言った話だ。そして話はいよいよ清水の話に移った。
〝恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった......〟
どうやら丸一日かかったと分かったのは掛けた男が「まさか丸一日もかかるとは....この男はまだ弱いな」と言っていたかららしい。だが俺はとある言葉に引っかかった。この男?誰のことだ?この黒竜は....女だ。少なくとも彼女ではない。なら誰だ?俺がその言葉について様々な考察を並べているとウィルが怒りを宿した眼で黒竜を睨みつけた。
「....ふざけるな」
激情を必死に押し殺したような震える声が発せられる。なんとか冷静な判断は保とうとしているようだ。
「....操られていたから....ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを!殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」
どうやら、状況的に余裕が出来たせいか冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂して黒竜へ怒声を上げる。
〝.....〟
対する黒竜は、反論の一切をしない。ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。その態度がまた気に食わないようだ。
「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう!大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」
〝....今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟
しかし許せないのかさらに言い募ろうとするウィル。そこに口を挟んだのはユエだ。
ユエ「....きっと、嘘じゃない」
「っ、一体何の根拠があってそんな事を....」
食ってかかるウィルを一瞥すると、ユエは黒竜を見つめながらぽつぽつと語る。
ユエ「.....竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに......嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」
ユエは、ほんの少し黒竜から目を逸らして遠くを見る目をした。きっと、三百年前の出来事を思い出しているのだろう。
〝ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは.....いや、昔と言ったかの?〟
竜人族という存在のあり方を未だ語り継ぐものでもいるのかと、若干嬉しそうな声音の黒竜。
ユエ「.....ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」
〝何と、吸血鬼族の.....しかも三百年とは......なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は.....〟
ユエ「ユエ.....それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」
ユエが、薄らと頬を染めながら両手で何かを抱きしめるような仕草をする。ユエにとって竜人族とは、正しく見本のような存在だったのだろう。話す言葉の端々に敬意が含まれている気がする。ウィルの罵倒を止めたのも、その辺りの心情が絡んでいるのかもな。にしても大切な人....うん、そう思ってくれてるのは嬉しいな。
ユエの周囲に、何となく幸せオーラがほわほわと漂っている気がする。全員、突然の惚気に当てられて、女性陣は何か物凄く甘いものを食べたような表情をし、男子達は、頬を染め得も言われぬ魅力を放つユエに見蕩れている。ウィルも、何やら気勢を削がれてしまったらしい。
「.....それでも、殺した事に変わりないじゃないですか.....どうしようもなかったってわかってはいますけど......それでもっ!ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって.....彼らの無念はどうすれば.....」
頭では黒竜の言葉が嘘でないと分かっている。しかし、だからと言って責めずにはいられない。心が納得しないんだろう。
政宗「ウィル。これはお前のものか?」
俺はウィルにロケットペンダントを投げ渡す。ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩した。
「そうですよ!これ、僕のロケットじゃないですか!失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」
政宗「ところで...なんでわかるんだ?」
「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」
プロトターボ「え?マ、ママ?」
....そうだ、このペンダントの女性こいつの母親なんだ。ターボは斜め上の返答に頬が引き攣っている。
写真の女性は二十代前半と言ったところなので、ターボが疑問に思いその旨を聞くと、「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」と、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。その場の全員が「ああ、マザコンか」と物凄く微妙な表情をした。女性陣はドン引きしていたが.....まぁ、あまり認めたくないが俺とてシスコンなんだ。もし恵里が歳をとって写真を持ち歩くとなったらもちろん老人の恵里でも万々歳だが若い頃の一番写りのいいものがいいというのはわからなくはない。....俺は何を語ってるんだ。
〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ.....勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟
黒竜の言葉を聞き、その場の全員が魔物の大群という言葉に驚愕をあらわにする。自然と全員の視線が俺に集まっている。このメンバーの中では、自然とリーダーとして見られているらしい。実際、黒竜に止めを刺そうとしたのは俺だから、決断を委ねるのは自然な流れだな。
政宗「....ユエ、どうする?俺としては今少し不機嫌でな。色々迷惑かけてるし、いっそ殺したいんだがな....」
ユエ「.....殺しちゃうの?」
政宗「あぁ、いや。あくまでそうしたいってだけだ....」
ユエ「....私は殺したくない。敵じゃないし、悪意も敵意もない。意思も奪われてた」
やはりユエは殺したくないらしいな。まぁ俺とてこいつが死んで正史から外れるとかはごめんだしな....
政宗「....ちょっと色々切羽詰まってて視野が狭くなっていた。すまない....」
ユエ「.....ん、わかってるならいい」
首元に抱きつき、今にもキスしそうな至近距離のユエとそんな言葉を交わし合う。すると黒竜から割と切羽詰まった声で話しかけられる。
〝いい雰囲気のところ申し訳ないのじゃがな、妾はそろそろ戻って良いかの?どのみち竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃ....〟
政宗「...なるほど、ならさっさと戻ってくれ」
〝あぁ、勿論じゃ....あんっ!蹴るのはやめるのじゃぁ!!〟
政宗「さっさと戻ってくれ、ほら、早く」
ユエ「....政宗、やり過ぎ」
政宗「....すまん。」
尻を蹴って急かしたらユエに怒られた。流石にやりすぎたらしい。反省だ.....周りが「嫁の力ってすげー....」と言わんばかりの表情をしていた。ユエには逆らえん。無理だ。できるわけがない。
そして黒竜のその体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。
そして黒竜の正体が、やたらと艶かしい美女だったことに特に男子が盛大に反応している。思春期真っ只中の男子生徒三人は、若干前屈みになっている。このまま行けば四つん這い状態になるかもしれない。女子生徒の彼等を見る目は既にゴキブリを見る目と大差がない。
「ハァハァ、全身あちこち痛いのじゃ....ハァハァ....痛みというものがここまで甘美なものとは.....」
....ん?これMになってないか?やり過ぎた...な。終わった.....
ティオ「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」
そしてティオは黒ローブの男.....恐らく清水が魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているとのこと。そしてサラッと出てきていたのかこちらに早足でやってくる大鳥。
政宗「お前っ?!いつのまに....」
大鳥「それに関してはごめんね。けどそれどころじゃないよ。どうやら魔物の軍勢は三、四千なんてものじゃない。一桁増えるくらいだ」
大鳥の報告に全員が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。まぁ、ホドは大鳥が普通にコミュニケーションを取っているというところに驚いているらしいが。
愛子「は、早く町に知らせないと!避難させて、王都から救援を呼んで....それから、それから....」
突然の出来事に皆が動揺している中、ふとウィルが呟くように尋ねた。
「あの、政宗殿なら何とか出来るのでは.....」
その言葉で、全員が一斉に俺の方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。....全く
政宗「そんな目で見たとて無駄だ。俺は何でも屋じゃない。あくまでウィルをフューレンに送る。それが俺の目的なんだ。保護対象を連れて戦争?冗談も程々にしてくれ。お前達もさっさと町に戻って報告しておけ」
反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。そんな中、思いつめたような表情の愛子先生が俺に問い掛ける。
愛子「えっと、大鳥さん。黒いローブの男というのは見つかりませんか?」
政宗「どうだった?大鳥」
大鳥「いいや、見た限りいなかったね」
愛子は、大鳥の言葉に、また俯いてしまう。そして、ポツリと、ここに残って黒いローブの男が現在の行方不明の清水幸利なのかどうかを確かめたいと言い出した。生徒思いの愛子の事だ。このような事態を引き起こしたのが自分の生徒なら放って置くことなどできないのだろう。
政宗「残りたいのであれば好きにしろ。俺達はウィルを連れて街に戻る」
俺はそう言って、ウィルの肩口を掴み引きずるように下山し始めた。それに慌てて異議を唱えるウィルや愛子先生達。曰く、このまま大群を放置するのか、黒ローブの正体を確かめたい、俺なら大群も倒せるのではないか.....
政宗「....いい加減にしろ。私の仕事はウィルの保護だ。保護対象を連れて、大群と戦争なんかやってられるわけがない。やるとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとしよう、じゃあ誰が町に報告すると?万一、私達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになる。ターボはバイク形態時に私じゃないと動かせないようにしてある。私に戦わせて他の奴等が先に戻るなどは無理だ。」
理路整然と自分達の要求が、如何に無意味で無謀かを突きつけられて何も言えなくなる愛子先生達。
ティオ「まぁ、ご主じ.....コホンッ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」
聞こえない。俺のことをご主人様など言っていない。きっとそのはずだ。愛子先生も、確かに、それが最善だと清水への心配は一時的に押さえ込んで、まずは町への知らせと、今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにしたようだ。
ティオが、魔力枯渇で動けないため俺が首根っこを掴みズルズルと引きずって行く。実は、誰がティオを背負っていくかと言うことで男子達が壮絶な火花を散らしたのだが、それは女子生徒達によって却下され、ティオ本人の希望もあり、何故か俺が運ぶことになった。ちなみに首根っこを掴んで引きずってるのは彼女にこっそり希望されたためだ。俺とてこんな運び方したくない。けど彼女からこうしろと言われたなんて信じてもらえるわけもなかった。
おかしいな....ホドちゃん出番ねぇぞ....
次回あたりで掘り下げようと思います...
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