過去も今も未来もずっと   作:あーふぁ

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過去も今も未来もずっと

 茜色の空が夜の闇へと移り変わっていく。

 太陽が水平線の向こうへと沈んでいき、暗くなると共に夜空になっていく月が輝き始める。

 自分と幼馴染しかいない砂浜に座り、日中と夜が混ざっていく美しい光景をじっと見ているのは心が洗われて落ち着く。

 

 今は夏とはいえ海風があり陽が落ちた午後7時だから、さっきまでの暑さはなくなって寒さがちょっとやってきている。

 普段から長袖に長ズボンを身に着けているから耐えられる。

 短い黒髪だから首だけはちょいと寒いけど。

 首以外はそれほど寒さは感じなく景色を見るのに集中でき、時間をたっぷり使える今は青春だなぁなんて感じる。

 美しい景色を見て感動するのに年齢の差なんてのはないと思うけど、高校生だからこそ将来にも記憶が残ると思う。

 

 あぐらで座っている俺の隣に握りこぶしふたつ分の距離をあけ、俺より10cm低い166㎝の身長で体育座りをして右隣に座っているのはミスターシービー。

 腰まで伸びている、外ハネが目立つ茶色のロングヘア。頭にはCBという文字があるバッジ付の白いミニハットを身につけている。

 顔が整っていてイケメン系美少女のシービーは俺の太ももへと無造作に尻尾を乗せていて、今年の皐月賞とダービーを勝った2冠ウマ娘だ。

 小学2年生からの幼馴染で、今まで仲良くやってきている。

 今日は千葉の合宿所に来ているシービーのお願いで、もうひとりの幼馴染であるアドマイヤベガ。アヤと呼んでいる子と共にやってきた。

 

 シービーはさっきまでこことは違う砂浜で練習をしていたからトレセン学園指定のジャージを着ている。

 風でシービーの香りが運ばれてきて、ほんのりとした汗っぽさを感じる。

 

「海で陽が落ちるのを見るなんて初めてだよ」

「アタシは何度もあるよ。合宿に来た日からずっとね。ヒロやアヤがいない、寂しい気持ちをまぎらわせていたんだ」

 

 ヒロと呼ばれた俺はちらりとシービーの顔を見て、落ち着いた笑みを浮かべて安心する。

 俺がアヤと一緒に東京から電車とバスで来た甲斐があるというものだ。

 

「合宿が終わるまでの我慢はできなかったかぁ」

「そりゃあね。ヒロやアヤとする毎晩のテレビ電話だけだと物足りないよ」

「7月のはじめからずっと合宿だと会いづらいよな。だからこうやってアヤと一緒に来たんだが」

 

 俺と一緒にやってきたアヤは、人ひとり分の距離をあけて左隣にいる。

 首筋の位置にある、黒髪でローポニーな髪型。右耳にだけしている青い耳カバーが特徴的でふわふわな物がすごく大好きな子だ。

 尻尾はシービーと違い、俺の体に軽くふれる程度だ。

 アヤの服装はトレセン学園のウマ娘たちがいるということで、私服で行きづらいからわざわざトレセン学園のジャージを着てきている。

 周囲に気を配り、協調性が高い子だ。

 いつもシービーやシービーに乗せられて行動する俺たちの抑え役。

 

 アヤとの付き合いは俺が3歳でアヤが0歳の頃から始まっている。

 お互いの親が友人だから、家同士で仲良くやっている。

 0歳からずっと知っていて、遊んでいたからアヤとは家族同然。血がつながっていない妹という感覚がある。

 身長もシービーより低いからかわいさが増している。

 中2まで来ると兄や姉に反抗期があると聞いていたが、アヤはそんな気配がなくて安心だ。

 もし、嫌いだなんて言われたら3日は落ち込む自信があるね

 

 このふたりと俺は人生の多くを一緒に過ごしている。

 男の数が少なくなっている近頃だと、幼馴染という存在は創作の中でしかいないから嬉しく思う。

 このふたりは俺に恋人になれと迫ってくることもなく、ずっと一緒にいるのは苦にならず安心できる関係。

 3人の間では敬称や敬語もなく、気楽になんでも、それこそ同性と同じ感じだ。

 わかりやすくいうと友人以上恋人未満だと思う。

 

「だんだん寒くなってきたわね」

「ジャージなんて通気性がいいものを着るからだ。俺みたいに普通の私服でよかったのに」

「別に寒いだなんて言っていない。このくらいの涼しさがちょうどいいの。

 ジャージを着ているのは、私だけ私服だと合宿に来ている子に苦情を言われるから」

「苦情を言われたらアタシに言うといいよ。言った子た子たち全員に文句を言ってくるから」

「俺もシービーと一緒にやるから安心しておけ」

「苦情を言われただけで私なんかのためにそこまでしなくていいと思うけど」

 

 俺とシービーは妹的存在であるアヤのためなら全力で助ける。それがあたりまえだ。俺たちはお互いに助け合ってやってきた。

 アヤは自己評価がどうにも低い。

 小さい頃から走るのが早く、今では戦績がよくなったシービー。数少ない男である俺と仲がいい。

 それと双子で生まれたときに、アヤだけが無事に生まれて妹が亡くなったことについて振り切れていないせいだろう。

 妹への罪悪感がいまだ続いていて、たまに夢へと出てくるらしい。アヤだけ楽しそうに生きるなんてずるい、と。

 そういうときは俺が落ち着かせ、シービーがその悩みや落ち込みの様子を見ては走って苦しみを解消していた

 

 シービーのときは俺とアヤが。

 今のところシービーは持ち前の明るさで大きい悩みはないけど。

 

 俺の悩みの場合は、俺が小学生のときに女からセクハラされたときは教師や警察に相談してくれたのは大変助かった。

 シービーの自由すぎる行動を抑えるため、シービーの両親に頼まれて説得やご褒美をあげていた。

 ご褒美といってもお金がかかるものじゃなく、頭をなでる、手を握るといった簡単なことだ。

 アヤが対応する場合はシービーと一緒に雨が降る中で走り込みに行っていたが。

 

 アヤが自信をなくし、落ち込んでいるときは励ました。頭をなでて、抱きしめ、添い寝もした。

 シービーからは過激な対応じゃないかと言われたが、アヤはいわゆるお年頃、恋愛や男を意識するものはまったくないから安全だ。

 もしシービーの言うとおりだったら、少しは遠慮をする。だが、トレセン学園に入ったのに向こうが兄と慕ってくれるのなら、それに応えるのが当然だ。

 それに俺だけじゃなく、シービーもアヤを妹のように扱って俺と同じことをしていたのに。

 男が少ない今の世界は、女性に対しての行動は注目されやすいとはいえ。

 まぁ、この悩みはアヤがその時になってからでいいだろう。

 

「こういうのってさ、青春って感じでいいよね。ヒロとアヤもそう思うよね」

「これは青春になるのか? 海を見るだけで?」

「……ねぇ、シービー。海を見るだけで青春と言うのにはさびしいと思うのだけど」

「青春だって! ほら、男と女ふたりが一緒に夜の海! ヒロに貸した少女漫画でもあったよ、こういうの」

「それだとシービーとアヤが俺を取り合うことになって修羅場展開なんだが」

 

 まぁ、俺にはっきりとした恋愛感情を持っていないと思われるふたりだと修羅場なんてのに縁はないと思うが。

 しかし、シービーが言う少女漫画の真似をすれば喜ぶか? 今は合宿で頑張っているし、何かしてあげたい。

 ひとつ深呼吸をし、意識を入れ替える。

 シービーに愛の告白をするかのような心を持ち、声を、表情を意識して作っていく。

 自分の能力に自信が持てない俺が、ボイストレーニングをして鍛えた声を今こそ生かす瞬間!

 

「シービー」

「なに?」

 

 俺はシービーに顔を近づけて、じっと目を見つめながらシービーの手を優しく握る。

 シービーはいつも自然体でいて、緊張の表情なんて見せない。だというのに、今だけは動揺したのか俺をまっすぐに見返してくれない。

 

「俺の手を握るとドキドキする? もし、手を握ってドキドキしたら恋の始まりかもね」

 

 と言った瞬間に、ばっと顔を俺へと向けて目を見開く。それから目がうるんできたので、俺は顔を離した。

 名台詞を言ったとはいえ、このセリフを言う前のシチュではないのに。

 このまま続ければ、シービーがどうにかなってしまいそうだ。

 

「というのが少女漫画であったよね。思い出しながら再現したけど、どうだった?」

「そんなのを幼馴染で男の子にされてドキドキしないわけがないでしょう!? この女たらし! すけべ!」

「今のシービーなら、中学生の頃と違って落ち着けるだろ。それに落ち着いている俺を見れば、興奮もしないだろう?」

「あのね、これでもアタシは落ち着いてるんだ。小学生からの付き合いじゃなかったら色々ダメになったと思う」

 

 俺にくっついてきたシービーは耳や尻尾でべしばしとぶつけてくるも怒った顔はシービーはかわいいなぁ、と思う。

 しかしぶつけてくるのは結構痛い。

 なんとか払いのけようとするも、長年こうやって戦い続けてきたからシービーも俺の動きがわかるために器用にかわしてくる。

 

「悪かったって。しばらくはしないから許してくれよ!」

「ダメ。許さない。もう怒ったよ?」

 

 シービーの両肩を押して動きを止めようとしたものの、にっこりと綺麗な笑顔を作ったシービーは俺を押し倒してくる。

 ウマ娘のパワーには勝てず、砂浜へと押し倒され、腹の上へとシービーがのっかってきた。

 見ためとは違い、筋肉がたっぷりあるせいか意外にも重い。

 

「ねぇ、失礼なことを考えたでしょ、今」

「あー、よく鍛えられ──っておい! シャツをめくるな、まくりあげるな!」

「アタシに失礼なことを言ったんだから、ヒロも辱めを受けるとちょうどいいと思うよ。ほら、おとなしく裸を見せて!」

「アヤ、アヤ! 助けてくれ!!」

「止めないでよ、アヤ。今まで会えなかったぶんのと、警戒心がたりないヒロに自分が男だってのをわからせ──アヤ?」

 

 いつもなら俺の味方になって慌ててシービーをどけようとするのに、アヤの様子があまりにもおかしい。

 俺のことをぼぅっとしたふうに見て、いや、正確に言うならシービーによってまくりあげられた俺の腹か胸だ。

 それほど鍛えていないから見ても楽しいものじゃないと思うのに、月明りしかない夜の海でもわかるくらいに赤くなっている。

 そのことに気づいて硬直した俺を見たシービーは、俺の視線を追ってアヤを見ると同じく動きを止めた。

 

「あぁ、そういうことね。アヤはえっちだなぁ」

「え、あの、そういうことじゃないの。だから、その目はやめてちょうだい」

「隠さなくてもいいって。アヤの姉として私は安心したよ。男に興味があってさ」

「…………月明りに照らされたヒロはかっこよくて綺麗に見えたの。そこでシービーに襲われているのを見たら、初めてヒロがいいなって思えて……」

 

 目をそらし、俺たちに背を向けるアヤ。

 しかし、そうか。アヤも中2になって色を知ったということか。今まではそういうのに興味は薄かったから心配していた

 と、いうことはこれから兄離れや反抗期がやってくると考えれば、悲しくなってくる。いや、心が次の段階に入ったと思えば大丈夫か。

 

「たぶん、ヒロが思っていることにはならないと思うよ」

「なんでだよ」

「だって生まれてからずっと、優しくていっぱい甘やかしてくれる男の子がいるんだよ? 性癖が破壊、じゃなくてゆがめられて戻ってこれないって」

「性癖? 別に俺は変なことはしていないだろ」

「しているって。アヤの持っている少女漫画ってさ、全部幼馴染ものなんだよね。ドラマや映画もそういう系統が大好きだし。アヤはヒロと添い寝するとき──」

「シービー!!」

 

 シービーがアヤの性癖や趣味を語り始めると、滅多に出さない怒鳴り声をあげる。

 怒りと恥ずかしさがある表情でシービーに突撃すると、アヤはシービーと一緒に砂浜の上へと倒れていく。

 まぁ、言われると恥ずかしいことは……していたなぁ。

 小学3年生までは一緒にお風呂へ入り、添い寝や頭と耳、尻尾を撫でるなんてこともした。

 ウマ娘にとって尻尾をさわらせるのは大事なことであり、動かし方によっては求愛をする意味もある。

 

 これは俺が恋愛感情を持たなければいいと思っていたんだが。

 シービーだって昔から変わらない接し方だからな。それで友情関係が続いているなら正解というものだろう? 

 シービーとアヤがとっくみあって砂浜を転がっているのを楽しそうに眺め、やっぱり対応は変えなくてもいいと思った。

 今までのふれあいをなくすと俺がさびしいし、ついさっき性に目覚めたっぽいけど何年かすれば落ち着くだろうし。

 

 シービーだって俺に男への興味を持ったときは手の平と手の甲にキスをしてきた。お返しに同じことをしていたら、去年になってだいぶ落ち着いたし。

 今はときどき抱き着く程度。

 それをアヤでもう1回繰り返すだけだ。

 

 だというのに、今になって俺の心臓がどきどきとうるさく感じる。

 幻聴かと思いきや、心臓に手をあてると明らかに心臓が高鳴っている。

 これはあれだ。妹に対する異常性癖を持ってしまったのか? アヤに渡された少女漫画では姉と弟で禁断の恋愛をするのは読んだが。

 俺がアヤに?

 シービーを押し倒してはかわいい罵倒をしているアヤに?

 まぁ、普段から落ち着いているのに、怒って興奮している姿はかわいらしくもあるが。

 ほほえましい光景を見ていると、ふいに体が寒さで震える

 

「へっくしゅっ」

「あ、ごめん。寒いのに気付かなかった。アヤ、そろそろどいてくれる?」

「え、あ、ごめんなさい」

 

 俺のくしゃみと同時にふたりは動きを止め、シービーはアヤを降ろすと俺のところへとやってくる。

 

「そのまま動かないでね」

 

 そう言っていたずらをするかのような笑みを浮かべたシービーは俺の後ろへ来て座ると、そのまま後ろから抱きしめてくる。

 背中へと感じるジャージ越しの胸。

 2か月前にシービーが胸のサイズは84だと教えてくれたが、数字を言われても困るものだ。

 世の中の男性たちは女性にバストサイズを言われたらどうしているんだろう。

 今、わかることとしては、背中にあたる柔らかい感触で興奮するか喜びの感情はあるに違いない。

 自分でも性欲は低いと思っているが、こうやって後ろから優しく包み込んでくるシービーにはどきどきする。

 鍛えられた筋肉があるとはいえ、男とは違うやわらかさや匂いが俺の脳をくらくらと誘惑しているかのようだ。

 

「これ、意外とあったかいな」

「でしょう? アヤもやろうよ」

「……私は別にしたくないわ」

「アタシじゃなくてヒロの前ならいいでしょ? 今なら空いてるから」

 

 シービーがそう言うもアヤは俺とシービーの顔を見たあと、恥ずかしがりながら困った表情になっていく。

 アヤは自分の意見を押すのが弱く、ちょくちょく俺とシービーのじゃれあいを離れた位置から見ることが多い。

 でも今は3人で仲良くじゃれていたいんだ。

 

「アヤ、来なよ」

 

 俺は足を伸ばして広げると、手招きをする。

 それを見たアヤはゆっくり俺へ近寄ると、足の間へと慎重に腰を下ろす。

 そうして俺の胸元へと背を預け、安心したらしく大きな息をつく。

 だが、興奮しているのか耳はぐるんぐるんと勢いよく動いている。

 

「うん、いいウマ娘サンドになっているね。私たちの感触はどう?」

「あったかいなぁ、ぐらいなんだが。コメントによってはお前らが怒るだろ」

「単にアタシとアヤ、どっちの体がいいかって聞きたいだけだよ」

「ふたりの鍛えた体は素敵だよ」

 

 あたりさわりのない言葉を言ってシービーの言葉をかわす。

 こっちが恥ずかしがって動揺する姿を見たいんだろうが、小学生の頃から同じようなことを聞かれているから慣れているぜ。

 ただアヤのほうはそうでもなく、首を俺へ回しては上目遣いで見上げてくるんだが。

 そんなに気になるのかよ、お前。

 

「……これでも恥ずかしがってくれないなんて。アタシ、今からビキニに着替えてくる!」

「なんでそうなるんだ。着るのは日中にしろ」

「だって明日はヒロたちは帰るでしょ。アタシは朝からトレーニングで見せる時間がないし。あ、でもふたりと一緒に練習を抜け出すのはいいかもね」

「やめてくれ。レーナーに苦情を言われる」

「私まで巻き込まないでくれる?」

 

 今までシービーが俺たちと遊ぶという理由で学校やトレーニングを抜け出すことは何度もある。

 それの苦情を受けるのは、最初にアヤだ。

 その次にイベントで学園へ行ったときにシービーのトレーナーと、シービーの友人たちに俺が文句を言われる。

 でも一緒に食事や話をすれば、だいたいは落ち着いてくれる。男と楽しく会話、それもウマ娘について話ができるのは珍しいからな。

 

 幼いときからウマ娘と一緒にいれば、日常に関することからレースのことまで理解が持てる。

 このあたりはシービーたちに感謝。

 頭の中が常にウマ娘たちのことしか考えられなくなっているという問題はあるが。

 おかげで男性向けのアダルト作品はウマ娘関連でないと興奮できない大問題はある。

 そういう性癖はまだばれてないと思う。見られると危ない画像なんかはスマホに隠しているから見つからないし。

 ……見つかってないよな? 購入、またはSNSでアップされていたのを集めた金髪巨乳ウマ娘の画像は。

 

「私とヒロは帰ってご飯を食べたいのだけど」

「それなら仕方ないか。でも青春っぽいことしたいなぁ」

「お前が帰ってきたら3人で花火をしようか」

「今がいいなぁ……。あ、写真撮ろっか。今ならなんか青春って感じだし!」

 

 シービーはジャージからすばやくスマホを取り出し、俺たち3人が映る角度を探している。

 そのカメラに顔を向ける俺とアヤ。渋々というわけでもなく、素直になるのには理由がある。

 俺たちの間でシービーが写真担当となっていて、昔から思い出の記録をこうやって残しているから。

 他には3人でいる写真をシービーがSNSにあげることによって、俺たちの関係が怪しい、ただれた恋愛じゃないってことを証明するため。

 

 これはシービーがトレセンに入学してから始まっていて、俺たちの関係はシービーファンの間で認知されている。

 強いシービーを見て、アヤも強いだろうという期待と憶測はあるが。

 俺に対してはえっちな男という印象らしい。シービーが俺と一緒にうつっている写真は手つきがいやらしい、人耳がえろいということだ。

 シービーやアヤと一緒に長く過ごしているも、ウマ娘が興奮するところはいまだわからない。

 

 ウマ娘の何がときめくかはシービーとアヤが貸してくれる少女漫画や女性向け雑誌で勉強はしたが、それでも気づきづらい。

 あとになってから言われてわかるレベルでしかない。

 

「うん、いい写真が撮れた。それじゃあ、ウマッターで投稿するからね」

「いいよ」

「変なことは書かないでよね」

「大丈夫、アタシに任せてよ。……投稿っ!」

 

 SNSに写真を投稿したシービーはスマホをしまうと、俺を強く抱きしめてはくっついてくる。

 ちょくちょく抱き着かれて慣れてはいるがシービーの色々なやわらかい感触が気になるので、それを無視するためにアヤのおなかに両手を回して強く抱きしめる。

 アヤは身長が俺たちより低いので、抱き心地というか、こう、すっぽりと抱きしめられる大きさなのがいい。

 

「あー……ヒロ?」

「ん、なんだよ」

「加減してあげてね。アヤがいっぱいいっぱいな様子だよ?」

 

 言われて腕の力を弱くして様子を見ると、アヤの耳がへにょりとちからなく垂れている。

 

「びっくりしているだけだろ?」

「昨日まではそうだけど、今日からは違うんだって。せっかく少女漫画を読んでいるんだから、女の子の思春期には気をつけたほうがいいよ」

 

 シービーに小さくため息をつかれて思い出す。ついさっき、アヤは俺にときめいた的なことをシービーが言っていたことを。

 こういうときは距離を取ればいいんだが、今日は一緒の旅館で同じ部屋で寝泊まりだ。

 新しく部屋を取ることもできるものの、大切なアヤとは距離を取りたくはない。

 シービーがこうなったときを思い出すと、思春期を迎えてすぐは俺の近くに来れないぐらいに恥ずかしがっていた。

 

 今のアヤも同じ状況になっているから大丈夫に違いない。大丈夫だといいな。

 楽観的思考になっているが、性的な意味で襲われたときは全力で抵抗しよう。

 アヤだって本能で俺を襲ったら後悔するのは間違いない。

 場合によっては自殺までやってしまいそうだ。亡くなった妹の影がいまだちらついていてストレスは一定以上減らないから。

 

「今日は解散しよっか。アヤはアタシと一緒に来て。安定剤をあげるから」

「……そうする。ヒロ、ごめんね」

「しかたないって。薬を飲んで落ち着いたら部屋で待っているからな」

「それじゃあアヤ、帰ろうか!」

 

 落ち込むアヤに対してシービーは明るく言って立ち上がると、アヤの体をお姫様抱っこして走り出していった。

 抱っこされたアヤは慌ててシービーの首に手を回し、小さく悲鳴をあげている。

 シービーたちを見送った俺は寒さで体をぶるりとふるわせ、泊まっている旅館へと戻る。

 

 歳を取り、ちょっとずつ今とは状況が変わっていっている。

 昔は色々なことを考えず遊んでいるだけでよかった。

 体や心が大人になっていくにつれ、気遣いや責任が増えていくのは実に面倒だ。

 

 小学生の頃は早く大人になって自由になりたい、と思っていたが大人になるほど自由が減っている。

 金銭的な自由は増えるかもしれないが、心の余裕と時間が足りなさそうだ。

 シービーとアヤ。ふたりとはずっと幼馴染で、友達以上恋人未満の仲良し関係が理想だと俺は思っている。

 

 いつかは3人の関係が薄くなる、またはもっと強くなって恋人になる、結婚をするかもしれない。

 でもまだ俺は今の気楽で楽しい関係を続けていきたい。

 そう考えるのはひどいことだろうか。自分だけならいいが、彼女たちのためになるか?

 こういう考えを何度もしたが、答えが出ないでいる。

 幸せとは何かを悩みながら。いつかは答えを出す必要がある。

 ひとまずは今年に答えを出すことを目指して考えよう。






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