呪術廻戦 有為改変   作:眠気 眠太郎

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第1話

 ハハハハハハ━━━━ハハハハハハハハハ!!

 

 誰かの笑い声がこだまする。

 高らかで楽しげな声だ。

 玩具を買ってもらった子供…いや、思いがけない幸運がいくつも重なり折り合った奇跡に笑いが止まらない様子だ。

 愉快で愉快で堪らないのだろう。

 顔も見えない。誰かも分からないが幸せそうだ。

「あぁ、負けた負けた負けちった」

 笑いながらそれは言った。

 負けたということは普通、悔しい筈だ。

 なのに悔しいという気持ちが言葉からは声からは感じられない。

「てか、ここどこ?」

 それは何も無い空間を見渡す。

 そこは何も無い。有るのは無限に続く回廊のみ。

「うーん、そこに誰かいるの?」

 相変わらず姿の見えない声の主だが『』の存在に気付いたようだ。

「恥ずかしがらずに出ておいでよ。

 どうせここにいるってことは君も同類でしょ」

 それはケラケラと笑う。

「あ、いたいた…」

 それは何かを発見したようだ。

「あれ…君、どっかで会ったことあるよな、ないような」

『』に見覚えがあるのかそれは首を傾げるが。

「ま、どっちでもいいや。」

 最終的には考える事をやめた。

「ここなんにもないねぇ。アイツらもここにいるのかな?」

 見渡す限り無限に続く回廊。

 前か後ろも定かではない。

 だが、それは歩き出す。

 軽やかな足取りで鼻歌交じり。

 目的のないゴールを目指して突き進んでいく…が。

「君も来るかい?暇なら付き合ってよ」

 それは『』に手を差し出した。

 憎たらしい笑顔だ。ぶん殴りたい程に。

『』は手を取ることはなかったがそれの前を歩いていく。

「あ、ちょっと待ってよー」

 そうして二人は歩き出す。

 果てしなく続く、無限の回廊を。

 

 

 

 

 目が覚めたたら、そこは暗闇の中だった。

 普段とは違う感覚、異変に気付くのに時間は掛からなかった。

 咄嗟に体を動かすが…動けない。動かないのではなく、動けない。

 ここはベッドの上ではない。椅子の上で手足を何かで拘束されている。

 目元も何かで覆われているので何も見えない。

 暗い。暗い。暗い。

 完全な密室なのか何も見えないし何も聞こえない。

 ここは、何処だ?

 まずは落ち着け、冷静になれ。深呼吸しろ…。

 息を大きく吸って吐く。それを複数回、繰り返して今度は体に異常が無いかを神経を尖らせる。

 痛みは…ない。五体満足だ。

 ただ、何か変な感じがする。普段とは何かが違う。『何』が違うのか解らないが取り敢えず支障は無さそうなので安堵した。

 とはいえ状況は最悪…いや、そもそそどういう状況なのかすら理解できていないが拘束されて閉じ込められている状態は認識できた。

 つまり最悪である。

「………………………」

 何故、俺は拘束されているのか。そして何故、閉じ込められているのか。

 まぁ…十中八九、誘拐だろう。俺を誘拐するメリットなんて思い浮かばないから愉快犯とかその辺か。

 というかそもそもだが俺はいつからここに居るんだ。いつ、どのタイミングで-----------。

 

「やぁ、お目覚めかな」

 

 それは男の声だった。

 その声色は巫山戯ているようにも聞こえれば真剣に語りかけているようにも聞こえる。

 気配をまるで感じないが誰かが俺の前にいるのだ。

「ここは?」

 気配をまるで感じない誰か、俺をここに閉じ込めたであろう張本人に問いかける。

「意外と冷静だね。調子はどう?」

「最悪です」

 即答した。不思議と恐怖は無い。ありのままの感情を口にした。

 下手な態度をすれば殺されるかもしれないのに。

 だが、男の反応は。

「あはっ。まぁ、そうだよね~」

 何故か嬉しそうだった。

 反感を買うより、素直な反応が受けたのか…?

「それで、ここは?」

 勢いに任せて質問する。

 なんだろう。直感だが悪い人では無さそうだ。良い人でも無さそうだけど…。

「あぁ、うん。ここは『拷問室』だよ」

 前言撤回、コイツは性悪だ。

「貴方ですか…俺を誘拐したのは?」

「半分正解、君を拘束したのは僕でここまで運んできたのは僕の教え子さ」

「教え子って…先生か何かですか?」

「そ、呪術高専で教師をやって---あ、自己紹介がまだだったね」

 指がパチンッとなる音が響き渡る。

 それと同時に俺を拘束していた何かが外れた。

 突然の手足が自由になった反動で椅子から転げ落ち、俺は頭を地面にぶつけてしまった。

 いてててて目眩がする。なんとか立ち上がろうとした瞬間、閉ざされていた視界に光が差し込んできて眩しい。

 踏んだり蹴ったりの状況に男は手を差し伸ばしてきた。

「僕の名前は、五条 悟。呪術師さ」

 男の素顔は鼻から上が黒い包帯、布で覆われていた。

 全貌は見えない。外見も声も胡散臭い。見るからにヤバそうな奴だ。

 だが、これだけは分かる。コイツ、かなりの美形だ。それも超絶の。

「俺も…自己紹介をした方がいいですか?」

 差し出された手を取り、立ち上がりながら言った。

 すると五条は満面の笑みでうんうんと頷いた。

 五条 悟という男、顔の半分は布か何かで覆われているので表情が読み取りづらいが楽しげな雰囲気を感じるのは気の所為か。気の所為だよな。

「陵 託叶(みささぎ たくと)、××高校二年生です…」

 素直に嘘偽りない自己紹介。

 いや、意趣返しか。

 嘘を付いても状況は一転しないと判断した、つもりだ。

 …というか『呪術師』ってなんだ?

「よろしく、陵 託叶 君。

 さて、それじゃ本題なんだけど」

 そう言って五条は俺の右手を握りしめた。

 一瞬の出来事に困惑するが普通の握手みたいなので俺も力を込める。

「これは凄い。予想以上だ」

 驚きの声をあげる五条。

 そうして込められていた力は弱まっていく。

「いや、すまない。急に驚かせてごめんね」

 普通の握手にしては大袈裟な反応。

 そして握れてていた手は自由になった。

 まるで何か少しでも違えば『』になっていたような気がした。

「それで貴方は何者なんですか?なんで俺はここに…」

 …ダメだ。ここに運ばれてく前…いや、拘束された……?記憶が一切無い。

 一番新しい記憶は確か…部活だ。友達と一緒に遅くまで体育館で練習していた。

 それからは---------あれ、おかしい…な。思い出せない…。

「そうだねぇ。どこから話せばいいかなー」

 俺の思考を遮るように五条は横槍を入れてきた。

「取り敢えずだけど体調はどう?違和感とかある?」

 俺の頭から爪先を見ながら五条は言った。

 というか目元を布で覆ってるのによく見えるな。

「良くも悪くもない…普通ですよ」

 絶好調でもなければ不調でもない。

 強いて言えば普段と『何か』が違うという事だが説明しようにも、どう言葉にすればいいのか分からなかった。

「じゃあこれは見える?」

 そう言って五条は人差し指を上に向けるが…薄汚れた天井にしか見えな…いや、待て。ちょっと待て。よくよく見れば、なんだこの部屋は…?

 部屋の各所に蝋燭の火が揺らぎ、そこらかしこに貼り付けられた御札のようなものが露わになる。これは不気味を通り越して恐怖しかない。

「え、いや…御札ですか?」

 他に気になるものは見受けられない。というかそれしか見えない。

「それだけ?」

 だが、五条の反応は簿妙だった。

 まるで他にもあるだろ、といった様子だ。

「他には…うーん」

 他に何かこの部屋にはあるのか?

 周囲を改めて見渡すが五条が求めている回答は思い浮かばない。

 ここは有用な情報を聞き出して答えを導き出すしかないか。

「そういえば五条…さんが最初に言ってましたよね。ここは拷問室だって」

「言ったね」

「それは本当ですか?」

「というと?」

「いや、その…拷問室って血なまぐさいイメージがあるんですけど…まぁ、俺の勝手なイメージですけどね。

 ここは不気味…いや、ここも十分、ホラーですけど血の匂いとかそういうのはしないんですね」

 スプラッター映画とか漫画で出てくる拷問室とは違うタイプの異質な空間に今更ながら違和感を感じたが五条は。

「あぁ、そいういこと。

 ここは人間を拷問する部屋じゃなくて『呪霊』を拷問する部屋なんだ」

 まるで訳の解らない返答が返ってきた。

 いや、こちらの質問も別に深い意味は無かったのだが予想の斜め上すぎる。

「呪霊…幽霊とかそういう類ですか?」

 さっきからちんぷんかんぷんだ。

 だが、にわかに信じがたいが目の前の男、五条 悟が嘘を付いているようには見えない。

 ということは真実なのか、それとも度を越したホラ吹き、狂人か。

「そうだね。似て非なるものだけど今はそういう認識で構わないよ」

 いいよぉ、その調子ぃ!と言わんばかりの返答に少し唖然。

 どちらにせよだ。全く分からん。お手上げだ。

「その顔は疑ってるねぇ」

「いや、そうでしょ。呪霊とかなんとか言われても意味分かんないですし、ていうかそれが本当なら俺は--------」

 -------なんでここにいるんだ?

「事情は理解できたかな、陵 託叶 君」

 声の音質が変わった。

 先程までとは一変した『空気』の変化を皮膚が心臓が脳が感じ取った。

 五条 悟から放たれている見えない『何か』それは例えるなら勢いよく吹き出した火山の噴火のようだ。

 恐い。恐い。恐い。

 言葉にできない恐怖が異様な寒気が心を震わせる。

 強ばる体はいうことをきかない。いや、きいてくれなかった。これは金縛りなんてそんなやわなもんじゃない。恐くて恐くて堪らない。逃げ出したい。今すぐここから逃げ出したい。

「…………………………」

 呼吸が息ができない。

 足がふらつく。手に力が入らない。

 視界が汗で滲む。倒れそうだ。

 だが、倒れたって状況は変わらない。ならここは思い切って言ってやれ。

「じゃあ、なんですか…俺が、その呪霊とでも言うつもりですか…?」

 言った。言ってやった。

 とんでもない威圧感で今にも吐きそうだ。

 というか喉元まで胃液が上がってきた。

 でも、吐き出すな。飲み込め。今は耐えろ。

「…………」

 五条を睨み付ける。

 瞬きはするな。瞼を閉じた瞬間、俺は殺される…そんな気がした。

 蛇に睨まれた蛙とは正にこの事だ。

「ふーん。君、いい感じに狂ってるね」

 そう言って五条は背を向けた。

 そして壁際に置いてあった折りたたみ椅子を持ってきた。

「ま、落ち着いて…ね。話をしよう」

 五条から発していた『何か』が少しずつ収まっていくのを感じた。

 今まで生きてきた中で感じたことのない重圧感、それがいきなり無くなった影響かいつの間にか俺は拘束されていた椅子に倒れ込むように座っていた。

「……・・・……」

 息が…呼吸が…安定しない。

 驚きの連続で思考が追い付かない。

 そして極めつけは五条から発せられた『何か』だ。あんなものは見たことがない。

「どう?落ち着いた?」

 ヘラヘラとした表情の五条。

 俺の反応を見て楽しんでやがる。

「なん、なんだよ…アンタ、は」

 一体全体なんなんだ。

 コイツは誰だ。ここは何処だ。アイツは誰なんだ。

 目が覚めたら拘束されてて解放されたと思ったら今度は意味も訳も何も分からない『何か』だ。

 あんなのに目を合わせたくない。

 だが、目を離すと何をされるか分かったもんじゃない。

 油断するな。目を離すな。隙を見せるな。臆するな。

 恐くて…恐くて仕方ない。今にでも逃げ出したい気持ちを必死に抑え…抑えら…いや、無理だ。こんなの抑えられない。抑えられる訳がない。

 震えが止まらない。今までに感じたことのない寒気が全身を痙攣させる。

 ぁぁ…なんでこんな事になったんだ。

 何がきっかけで何故こうなったのかも分からない。

 巻き込まれたのか。

 取り込まれたのか。

 誘い込まれたのか。

 どちらせよ悪い冗談だ。夢なら覚めてくれ。

「なんなんだよ…アンタは!」

 必死の抵抗、心の奥底からの本音をぶちまけた。

 もう、うんざりだ。さっきから何も、何一つ理解できない。昔、流行ってたテレビ番組のドッキリ企画ならさっさと終わらせろ。

 

 ━━━━━なんか、イライラしてきた。

 

 少しずつ不安と恐怖が薄れていき代わりに怒りが込み上げていく。

 それと同時に体の内側からは別の『何か』が渦巻いていた。

 これだ。これだよ。起きてから感じていた『何か』だ。何なのかは分からないが怒りと同時に存在を再認識した。

「お、いいねぇ。その調子その調子」

 パチパチパチっと手を叩く五条。

 まるで、これを待っていたと言わんばかりの発言だった。

 それがカチンッときた。

「さっきからアンタの言ってることは全然、理解できない。結局はなんなんだ」

 恐れは消えていた。

 迷いも無くなった。

 そうだ。臆したところで逆立ちしたってコイツには絶対に敵わないんだ。なら堂々としろ。

 目を逸らすな。

 目を離すな。

 睨み付けろ。

「さっさと応えろよ」

 もう無茶苦茶だった。

 恐怖は消えた。

 震えは無くなった。

 だが、そんなのは関係ない。無意味なんだ。

 怒りとは裏腹に冷静な思考が冷たい現実を訴えてくる。

 

 俺は今、狂っているんだ。

 

 コイツに歯向かえば俺の命なんて一瞬で刈り取られるだろう。

 助かる為には従順になるべきだ。

 それは理解している。

 だが、俺は五条に対して反感を買っている。

 コイツがどういう人間なのか俺は知らない。

 そもそも『人間』なのか疑わしい。

 人の形をした化物…いや、そんな生易しいものではない。恐らく、この地球上で最強の生物なんだろう。

 …はは、安直だな。

 でも、間違っているとは思わない。

 当たらずともいえど遠からずといったところか。

 どちらにせよ、圧倒的な力の差は歴然で勝ち目なんて微塵もない。なのに、それなのに俺は五条に喧嘩を売っている。

 これじゃあ、まるで死に急いでるみたいだ。

 ……だってしょうがないだろ。

 何一つ理解できないまま話が進んでいくんだ。

 こんなの『普通』の人間なら発狂してる。

 だから、そろそろ…。

「アンタは、何者なんだ?」

 一つ、たった一つでいい。

 俺は五条 悟という存在が理解できない。

 自分本位に好き勝手に喋ってこっちの言い分なんて聞きもしない。はっきり言って嫌いなタイプだ。

 だが、俺は五条の事を何も知らない。

 だから一つでいい。それを知ったら終わりだ。それで最後にしよう。そうしよう。

 そう思うと俺の中で渦巻いていた『何か』が消えていく感じがした。最後までよく分からなかったが…そうか、これは闘志のようなものなのか。

 何故、こんなものを感じられるようになったのかは分からないが…もう、どうでもいいや。

 他にも聞きたいことは山ほどある。

 でも、どうせ無駄なんだ。

 諦めの境地、我が人生に一点の悔いなし。

 

「僕?僕はね、最強なんだ」

 

 いや、悔いしかないな。これは。

「は?」

 理解できない。理解できない。理解できない。

 諦めかけていた心が熱を帯びていく。

 火とかそういう次元ではない。これはマグマだ。

「え?」

 五条は首を傾げる。

 いや、疑問なのは俺の方だよ。

 なんでアンタが困惑してんだよ。

「あの…最強…?」

「そうそう。僕、最強なんだ★」

 明らかに巫山戯ている。

 いや、逆に大真面目にも見える。

 コイツは本当に何を言っているんだ?

 さっきから会話が成立していない…こともないのか?噛み合っていないようで会話自体は成立している…のか?

「いや、俺が知りたいのはアンタ…の、」

 それから先の言葉が口から出ることは無かった。

 俺の意識は再び静寂の世界に誘われる。

 

 

「………………」

 限界か。

 いや、よく持った方だ。

 一般人…かは依然として不明だが五条 悟の放つ『呪力』にあてられて正気を保っていたのだ。それだけでも賞賛に値する。

「やりすぎですよ、五条先輩」

 拷問室の扉が開く。

 その先には顔面に大火傷を負った金髪のスーツ姿の男が立っていた。

「あ、見てたの?」

「見てなくても分かります。外から漏れていましたから」

「あちゃあ…手加減したつもりなんだけどねぇ」

 ため息を着く五条。

 この部屋は呪力を封じ込める強力な術式が施されているが五条の圧倒的な呪力を封じる事は出来ない。

 五条も気を使っていたつもりのようだが強者には強者なりの苦悩があるのだろう。

「この少年はどうですか?」

 大火傷を負った金髪のスーツ姿の男、もとい、陵をここまで運んできた張本人は言った。

「現時点では『白』だけど若干『黒』も混じってる。グレーだね。まだ何とも言えないよ」

 煮え切らない、と言うよりは決めきれない様子の五条。まだ不確定要素があるのだろう。

「人間では無いと?」

 気絶するように眠っている陵は一見、普通の少年にしか見えない。だが、それは表面上だけという可能性もある。

 油断は出来ない。だが、

「いや、人間だと思うよ。

 でも、普通じゃないね。色々と」

 どうやら人間のようだ。

 だが、何か違和感を感じている。

「と、言いますと?」

「彼、呪力が見えていなかった…いや、途中から認識はできるようになったみたいだけど知覚はできてない。ちぐはぐだ」

「では適正があったという事では?」

 五条の呪力を感じて見えるようになった。

 あれだけ膨大な呪力を目の前で感じれば有り得ない話ではない。

「いや、僕も最初はそう思ったんだけど…なんか違うんだよね」

 あの五条 悟が悩んでいる。

 これはかなり珍しい光景だが異質でもある。

 それだけ不確定要素が大きく、多いのだろう。

「特級呪霊の遺した負の遺産…いや、呪の遺産か。これは厄介そうだ」

 さて、どうしたものか。

 そう言って五条 悟は椅子に深く座り込む。

 そして、

「まぁ、なんとかなるでしょ」

 それは適当だが不安を感じさせない一言だった。




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