仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
「……あっ」
「きゃっ…!」
「…ゆきぃぃ!」
ローズジャマトを討とうとしたカメレオの攻撃が、誤ってホークローに当たってしまった。
ホークローが衝撃で変身が解除されてしまい、倒れたゆきをスタッフ達が囲っていた。
「……あ……あっ…」
あかねはその様子を見て放心状態に陥っていた。
実際のところ、ゆきの怪我は軽傷だった。
頬に多少の擦り傷が出来ている程度であったが、本職がファッションモデルなこともあってか、周りのスタッフがそれについてガヤガヤと言及し始めた。
「……あ…あっ…」
「落ち着け!よく見ろ、ただの擦り傷だ…!」
震えるあかねの肩に手を置き、落ち着かせようとする英寿。
「…でも…でも…!…わた……そんなつも……ちが…!」
「……あかね」
だが、彼女のパニックが治まる事はなかった。
「…わたっ……!」
「あかねっ!」
「……っ!」
すると、冷や汗で震えが止まらなかったあかねの身体を、ゆきは包むように抱きしめた。
「大丈夫だから…!落ち着いて!」
「……」
「分かってるよ……焦っちゃったんだよね。知ってるよ、あかねが努力家なの」
「……っ」
「皆の期待に応えようとして、ちょっと向いてない事しようとして、なんか分からなくなっちゃったんでしょ?」
ゆきの問い掛けに、あかねは静かに首を縦にコクっと振った。
「…ごめ……顔…雑誌撮影もあるのに……」
「大丈夫こんなのフォトショで簡単に消せるから!仕事には影響無いよ!」
あかねは流れる涙を拭いながら息を大きく吸った。
「…あかねは私の事嫌い?」
「嫌いじゃない……強くて優しくて…好き……」
「私も努力家で一生懸命なあかねの事が好き。だから怒んないよ」
「……ほんと?」
「カメラ回ってないんだから、今演技しても仕方ないでしょ」
笑みを浮かべるゆき、それに対して涙目で微笑むあかね
これはあくまでリアリティショー
カメラは出演者の“リアル”を求めている
学校とかだったら、ちょっと揉めてすぐ仲直りみたいな事よくある事で、本人間では解決した事だとしても
『あかねもう退場でしょ』
『黒川あかね屑すぎて草』
『勘違い女ウザイ #黒川あかね#今ガチ#退場希望』
『黒川あかね、ナチュラルに性格悪い
人間性が腐ってる』
それをネットは許さない
「……」
番組の更新日。次回予告はあかねがゆきを傷付けることを示唆するような内容に仕上がっていた。
それに対し、ネットではあかねをバッシングするコメントが多く相次いだ。
真面目なあかねはエゴサを通してその多くの声を聞いていた。
やっぱり、と思った
ちゃんと謝れば許してもらえると思った
番組との契約で放送に乗ってない部分の事は言えないけど、言える事だけでも出来る限り説明して謝れば……
それが合図だった
あかねを批判するコメントは更に勢いを増し、中には暴言に近いような内容のコメントもあった。
メムちゃんが言っていた
「人は謝ってる人に群がるんだよ。謝ってるって事は悪い事をしたって事でしょ?悪い事をしたなら石を投げてもいいよね?そんな風に」
「……」
「謝罪って日本人の道理的には正しいけど、炎上対策としては下の下なんだよ」
『ゆきちゃんが可哀想すぎる。
死んで謝罪しろ。』
『消えろブス。』
私は悪い事をしたから当然だ
これは皆の意見……
目を逸らしちゃダメだ……
私は批判の意見も、出来る限り目を通した
「炎上ってさ、真面目な子程ダメージ大きいんだよね。批判の意見なんて見なきゃいいのに、真面目な子は全部の意見を真正面から真摯に受け止めようとするから……」
目を瞑ると炎上の事しか考えられなくなって
朝になったら全部収まってるって自分に言い聞かせて強引に眠った
でもそんな事あるはずなくて…
「…あかね?大丈夫?顔色悪いわよ」
「……大丈夫」
「明日学校休む?」
「……大丈夫…行く」
食べ物が喉を通らない
せっかくお母さんが作ったご飯なのに……
『謝れば済むと思ってんの?
お前見つけたらぶん殴ってやる
でも謝るから許してね♡』
「あかねの見た?ヤバくない?いつかやると思ってた」
「なんかいつも仕事があるからーとか芸能人ぶってさー」
「いちいちマウント取らねーと気が済まないのかって」
「マジ性格悪いし」
「自分はアンタ達とは違うからみたいな空気出してくるよねー」
「今頃囲いの男共に慰めて貰ってんでしょ」
「ありそー」
「……」
学校でも居場所は無くて
「あかね……最近元気ないけどどうかしたの?仕事で何かあったの?」
「…ううん」
「……」
『母親がちゃんと教育しないから
こういうカス女が生まれる負の連鎖じゃんw』
ごめんね
お母さん
番組の更新日
内容を確認する気力が湧かなかった
だけど、少しだけ落ち着いて来た批判が
まだ最初の頃のように盛り上がってるのを見て
だいたい中身に察しは付いた
「……」
そしてこの番組が注目される限り沈静化はしない事も
これからの芸能活動にずっと付きまとう問題だとも
『今炎上してるあかねって子
ララライの劇で主演やってて
めっちゃくちゃ頑張り屋な子
なんだけどさ……』
「……」
『今回の騒動見てたら
そういうのもただのアピールに
思えて来た』
『今まで推してきたけどちょっと無理になった』
「……っ」
今まで期待してくれていたファンは離れていき
中学の頃の写真が出回り始めた頃、誰から聞いたのかも分からない、ある事ない事がどんどんと飛び交うようになっていった
『完全に芸能人として終わりでしょ笑
売り物の顔を殴る奴使うはずねーもん笑』
『つか顔もまじぶすじゃね?』
『性格悪そうな顔してるよね』
『バイバイあかね
残念だけどもうTVで見る事は無いね』
『シンプルに死ね』
「……」
その日は台風が近付いていて
外は嵐が吹き荒れていた
NOBU『あかね大丈夫?ちゃんとメシくってる?』
☆MEM☆『みんな心配してるよ〜』
ふと携帯を開くと、今ガチのみんながグループチャットで心配してくれていた
メシ……ご飯……
「……」
そういえば、何も食べてないや
『ご飯買ってくるね』
NOBU『いくなw台風来てんやぞw』
「……」
嵐は私を容赦なく打ち付けた
まるで、現実を受け入れろとでも言いたげだ
頬を伝う雫も、雨なのか涙なのか分からない
それ程までに、雨粒の一粒一粒が
私の心を確実に蝕んでいった
「……………………疲れた」
雨の音が、だんだん小さくなっていった
歩道橋の真下を忙しなく走る車のヘッドライトが
私の心を照らしてくれた
「……もういいや」
「考えるの」
「疲れた」
「何も考えたくない」
『君はいざという時に身を投げ出せる人間だ』
「……」
歩道橋の手摺の上に立つあかね。
足場の悪いそこにバランスを保てられたのは、日々の特訓のおかげだろうか。
皮肉なものだ。
「……っっ!!」
だが、それが幸をそうした。
飛び降りを測ったあかねを、誰かが抱えあげて歩道橋内に引きずり戻したのだ。
「……あ…ああぁ!…いやぁ!放してっ!」
「落ち着けっ!」
「…っ!」
その声は、彼女の知る声だった。
「俺は敵じゃない…!頼むから落ち着いてくれ…!」
星野アクアがあかねの飛び降りる寸前で彼女を引き止めたのだ。
「……アクアくん……なんで…?」
「メムの奴が、台風の中お前が出かけて…なのに全然帰ってこないって捜し回ってんだよ。だからコンビニまでのルートを辿ってたら……」
「……」
「馬鹿野郎が」
「…………うっ……あっ……」
ここであかねは、ようやく自分が今何を仕出かすところだったのかを理解した。
「……ウルス…!」
「……」
その場に英寿も合流し、彼らは後に警察に身を保護される事となった。
「ううぇあっ…うぅううううう!!」
「娘から番組は見ないでと言われていて、私はネットにも疎く……こんな事になっていたとは……」
あかね、そしてあかねの母親は警察署にて事情聴取を受けていた。
「……どうして話してくれなかったの?」
「だっで…!じんばいがげだくながっ…!」
「……馬鹿…!」
「呼ばれた時はいろいろ覚悟してたけど、よくやったわアクア…誇らしいわよ」
同時にアクアの保護者として呼ばれたミヤコ。
まだ湿っているアクアの頭にポンっと手を乗せた。
「…貴方も助かったわ。英寿」
「俺はただ連絡しただけだ……他人に興味無さそうにして、意外と見てたんだな」
「…別にそんなんじゃない……」
アクアは表情を変えぬまま応えた。
「人は簡単に死ぬ。誰かが悲鳴を上げたら直ぐに動かなきゃ手遅れになる。タクシー代は後であかねに請求する」
「ケチね」
「……っ」
すると、聴取室から目を腫らしたあかねが出て来た。
「あかね!」
今ガチのメンバーは全員揃っていた。その全員があかねに駆け寄る。
中でも一番最初に駆け寄ったのは、ゆきだった。
「…っ!」
「このば…!なんでこ…ん!しんぱいさせて…!」
ゆきは口を開くよりも前に、あかねにビンタを喰らわして取り乱した。
「なんでもぉ!相談してよぉ!」
「ごめ……」
ゆきがあかねに抱き着き、あかねもつられて瞳に涙を浮かべた。
「……こういう事はよくあるのか?」
「炎上なんて、芸能界じゃ日常茶飯事よ。恋愛リアリティショー番組は世界各国で人気だけど、今まで50人近くの退場者を出してる。更に言うならその殆どがジャマトによるものじゃなくて、誹謗中傷による自殺」
「……ジャマト以外にも、厄介なものがあるんだな。この世界には」
人は簡単に傷付く。そして、人は簡単に人を傷付ける。
今回の事件の発端は確かにあかね自身かもしれないが、それでも見過ごせないものがあった。
「……あかね」
「……」
「お前、これからどうしたい?」
そんな中、アクアは唐突にあかねに問い掛けた。
「どうって……」
「このまま番組を降りるって選択肢もあるって事だ」
「でも、契約とか…」
「これは運営側が未成年者を扱う上での監督責任が問われる問題だ。こういう状況になった以上、辞めるって言われてもとやかく言わないだろ」
「……」
「…黒川あかねっていう本名晒して活動してるんだ。引き時はちゃんと自分で見極めろよ」
「……」
あかねは震える声を絞り出して答えた。
「……私、もっと有名な女優になってこれからも演技続けていくために頑張ってきた…皆にもいっぱい助けてもらって…でもこんな事になっちゃって…」
「あかね……」
「……怖いけど…すごく怖いけど…」
これはあかね本人の心の問題だ
一度付けられた心の傷は決して癒えない
ましてやそれを自分で亡き者にしようとした時のトラウマは、今後の人生に於いて大きなしがらみとなっていくだろう
「…………続ける。このまま辞めたくない…!」
「……分かった」
だが、彼女はそれを全て承知の上で
このような選択をとったのだろう
「だってさ、問題ないよな?」
「当たり前だろ!」
「最初からそう言ってるんだけどなー」
「私達も出来る限りフォローするから…」
満場一致で皆あかねの続投を賛成した。
「仲が良い現場なのね」
「まぁ同年代だけの現場だからな。多分皆で協力して、色々言われながら番組やりきるんだろうよ」
「……」
「……でもこのままってのは気分悪いよな」
「……っ」
「煽った番組サイドも、好き勝手言うネットの奴等にも、腹が立ってしょうがないんだよ」
「……フッ」
アクアの静かな怒りを、英寿は分かっていたかのように鼻で笑った。
警察署には記者クラブというものがある
署の一室で各報道機関が24時間、最新情報を受け取るために記者が待機していて
今か今かと新ネタを待ち望んでいる
「……やれやれ…俺の出番はもうナシか…」
英寿が嘆くのも無理は無い。
後日ネットに上がったのは、炎上中の未成年女優が自殺未遂したというニュースだった。
「やったわねアンタ……褒めた私が馬鹿だったわ…」
ニュースを見たミヤコは心底呆れた。同時にあの時の頭ポンを返して欲しい気分になった。
「着地点は見えてるんだろうな」
「あぁ、上手く行くかは分からないけど…」
英寿の問い掛けに対し、アクアはぴえヨンの動画を撮影していた時に使っていたカメラを構え、英寿の目を見た。
「ここからが本当のリアリティショーだ」
第十五話「韜晦XⅣ:嵐の日」
次回
「ポーカーはレイズしなきゃ勝てない」
「現実はポーカーじゃないわよ」
「つまりアクたんは私達目線の今ガチをやりたいんだ」
「はるなとの約束だけは、しっかり守りたいんだ」
「でもやっぱりさ、あのシーンは欲しくない?」
「こう見えて、バズらせのプロなんだけど?」
第十六話「韜晦XV:バズらせのプロ」