仮面ライダーギーツ【Mother and Children】   作:キャメル16世

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第二十四話「憧憬Ⅵ:有馬かなの受難」

どうしよ……

結局一睡も出来なかった

 

昨夜、ぴえヨンの正体がアクアだと知ったかな。

その混乱が、今でなお続いていた。

 

ぴえヨンの中身がアクア…?

でもアイツあんなにマッチョじゃないし……

入れ替わり?なんで?

私が真面目にレッスンするように?

優しくしてくれたのも嘘?

 

アタマごちゃごちゃ……

大事な日なのに結局一睡も出来なかった

まじ最悪…

とっとと楽屋行きましょ

少しだけ仮眠を……

 

「そっちじゃないわよ」

頭を抱えながら楽屋に移動しようとしたかなを、ミヤコが呼び止めた。

 

「ステージ側の楽屋は出番直前にしか使えないの」

「そうなんですか?」

「じゃあ着替えとかは……」

「…ふふふ」

 

 

 

「「「……」」」

「ちょっと荷物そっち寄せてよ!」

「あー!誰かライナー持ってない!?」

かな達がやって来たのは、自分達意外のアイドル達がガヤガヤとしているひとつの大部屋だった。

だがしかし、その人口密度は想像を絶していた。

 

「何この地獄みたいな場所……」

「楽屋よ?」

「人口密度えげつない事になってますけど…」

「ステージが多いフェスではこんなものよ」

この空間の地獄絵図具合はかな達も理解していた。

 

「……っ」

はぁ…すごい熱気……

 

大所帯の楽屋に何とか空いたスペースを見つけたかなは、机に腕を組み仮眠を取ろうとするも、周りの熱気に乱されてなかなか眠りに入れないでいた。

 

「…こいつはすごい量の人数だな。こんなところで何してるんだ?マーリ」

「ちょっとだけ仮眠よ。そんな事より、なんでアンタもここに居るのよ」

英寿がかなに茶々を入れに来た。悪意は無いが故意的に睡眠を邪魔してしまう。

 

「お前達のプロデューサーだからな」

「普通こんな女の子だらけの中に来ないでしょ…スタッフじゃあるまいし……すぐそこのパーテーションの裏で着替えてるのよ?」

「そうだな。そこらじゅう女の私物ばかりだな」

「……アンタ…自分が男子高生って自覚ある?変に触らないでよ?捕まっちゃうから」

「ふん……どうやら、いつも通りのマーリみたいだな」

「……っ」

かなは不意を突かれた感覚になった。

何気ない会話の中で、英寿は自分の事を探っていたのだ。

 

「まぁ俺から言える事は少ないが、きっとお前達なら大丈夫だ」

「……当たり前よ。この私が居るんだから…」

「……」

「……二人の事は私にまかせて」

かなは英寿を見ることも無く、まっすぐ前を見て言った。

 

「……なぁ…お前……っ」

英寿が何かを言いかけたが、彼は何かを見つけそれに気を取られていた。

 

「……英寿?」

「…あ、いや……とにかく、デザグラが関わってる以上、ジャマトにも気を付けろよ」

「…あっ…ちょっと…!」

英寿は足早にその場を去ろうとした。

だがしかし、あるところで止まり、かなもそれに気が付く。

 

「……マーリ」

「……」

「……今日のライブ…“お前らしく”振る舞え」

「……っ」

英寿はそれだけ言って去って行った。

 

「……」

そして英寿はその見つけたものを、壁を這いながら見ていた。

 

「……」

「……ふ〜んふ〜ん…」

会場に現れたナビゲーターのシロメを、英寿は見つからないように尾行していたのだ。

今回のゲームについて、何か有力な情報を得られないかと思ったからである。

 

「……」

シロメが曲がり角を曲がり、姿が見えなくなった。

すぐさま追い掛けると、そこは会場の屋上ではないもののいくつかのステージを見下ろせる場所に出た。

 

「……か弱い女子をストーキングとはぁ…流石にキモイよw?エースくん♡」

「……」

英寿の尾行はバレていた。

しかしシロメはそれをわかった上で、英寿を挑発した。

 

「…それでぇ?私に一体、なんの用かなぁ?」

「……」

 

 

 

「……」

ひとりになったかなは、先程の自分の言葉を思い返していた。

 

そうだ

私がどうにかしなきゃいけないんだ

芸歴十七年の私が、あのぴよぴよを引っ張らないと…

 

かなは立ち上がり、場所を移動した。

こんなところには居られない。

 

空気に気圧されるな

ビビるな

気合い入れろ

私の肩には、色んな人の仕事が乗っかってる…

 

私がコケたら全員がコケる

私を信じて賭けてくれた人の期待を…

 

不意に、過去の記憶が蘇る。

子役という肩書きが消えかかった歳の頃、全盛期を過ぎたかなは、途方に暮れるような時間を過ごしていた。

 

失望混じりのこんなもんかって目

席が少しでも埋まってる様に見せるために私服で混ざるスタッフ

期待に応えられなかったタレントの苦しさは、中々言葉に出来ない

 

「まぁ一旦…一旦ここまでで時期を見計らって次のリリースを……」

 

気を使ったような言動で、諦める事を催促する大人

 

「何か仕事はないですか?私なんでも……」

「うちも子役事務所だからね。かなちゃんの年齢の仕事は割とねぇ……普通の事務所なら仕事も……」

 

遠回しに事務所脱退を勧めてくる大人

 

「おじいちゃんが腰やっちゃって…ママは実家に戻ろうかと思って……かなは一人でも大丈夫でしょう?」

「大丈夫に決まってるでしょ!ママもゆっくり休んできなよ!」

 

私はもう要らない?

 

「子役じゃない私に価値なんてないのよ!成長しちゃった私にファンなんて居ないから!」

 

いつからだろ

ネットの書き込みみたいな事を自虐で口にし始めたのは

『B小町』を引っ張る?私みたいな不人気が思い上がって……

 

でも私がやらなくちゃ……

二人を私が……

 

「先輩!先輩!」

「……ルビー?」

すると、遠くからルビーが息を切らしながら向かって来て居た。

 

「先輩!大変だよ!」

「…どうしたのよ……」

どうせくだらない事だろうと、かなは油断していた。

だがしかし、悪夢は既に始まっていたのだ。

 

「…ステージに…!ジャマトが…!!」

「……えっ?」

 

 

「私に一体、なんの用かなぁ?」

「……」

英寿は挑発混じりのシロメの目をじっと見つめる。

 

「…わかったぁ!もしかして私に会いたくて仕方なかったのかなぁ!?もぉうエースくんったらぁ♡そんなに会いたいならいつでもれんりゃくしてくりぇてもよかったのにぃ〜〜〜」

シロメは自分の両方の二の腕を擦りながらおちょぼ口でいやらしく喋った。

正直腹が立つ

 

「それとも何かな?私に近付けばデザグラの真実に近付けるとでも思ったのかなぁ?」

「……」

「…その考え……ピンポーン!!」

「……っ」

随分と勝手に喋ってくれるな…

俺はまだ何も言っていないぞ?

 

「ねぇねぇエースくんっ!どうして私が君にここまで優しいか教えてあげようか?それはね〜」

まだ何も答えてないが…

 

「君の事が、好・き♡…だからだよ…?」

「……」

「だははは!ざんねーん!流石にこれは嘘でしたァ!あははははは!」

「……」

なんなんだ…このさっきからの品の無さは……

本当にナビゲーターなのか?疑わしくなって来た…

 

とにかく、本題に入らせてもらおう

 

「今回はどんなゲームなんだ?」

「んふふ〜!よくぞ聞いてくれました!今回のゲームはいつもとは一口も二口も違う内容になってるんだっ!」

シロメは意気揚々と答える。

 

「今回は視聴者参加型!オーディエンスと一緒に楽しめる内容になってるんだ!」

「オーディエンスと一緒に…?一体どういう意味だ?」

「そのまんまの意味さ。今回会場に来たアイドルのファン達、そしてステージの上で歌って踊るアイドル達。主役は彼ら」

「……」

「そしてルールはいたってシンプル。ライブを成功させたアイドルグループが、今回のゲームの勝者となる」

「……」

つまり、ライブの盛り上がり次第で、プレイヤー達の勝敗が決まるという事か……

 

「…んふふ」

「……」

だがなんだ…?

なんなんだこの違和感は……

俺は何かを見落としている気がする

普通に考えて、ライブを成功させるなんてのは至極当然の事。そんな事をわざわざルールにする必要があるのか…?

 

「……」

視聴者参加型……

勝利条件はライブを成功させること……

 

「……っ!」

「本題はここからさ!」

こいつら…!まさか…!?

 

「そんなライブ会場に突如、ジャマトが現れたら?」

「……クッ…」

「ジャマトは観客を襲い!アイドル達がそれを守る!仮面ライダーとなってね…」

「……っ!?」

すると、近くから大勢の人間の悲鳴が聞こえた。

 

「おっとぉ、早速始まったみたいだね」

「……ま、まさか…!?」

シロメの見つめる先、英寿もそこに目を肥やす。

視線の先にあるステージ、そこに複数のポーンジャマトが現れ観客を襲っていた。

 

「うわぁぁぁ!!」

「みんな落ち着いて!ジャマトは私達が倒すから!変身!」

アイドル達が仮面ライダーへと変身し、ジャマトを迎え撃つ。

 

その様子を、英寿は見守る事しか出来なかった。

 

「ん〜〜!あれじゃライブはめちゃくちゃ。彼女たちのライブは失敗と言っていいだろうね〜」

「……じゃあ…このゲームで勝つには…」

「…そう。ジャマトには触れず、ライブを続行する事」

「……っ!」

今度に英寿が視線を移した先には、同じようにライブ中に襲って来たジャマトと、それに襲われる観客たち。

しかし、当のアイドル達は仮面ライダーに変身する事もなく、引きつった笑顔でライブを続けていた。

ジャマトはまるでアイドルの歌うソングのリズムに合わせながら、無抵抗の観客をいたぶっていた。

 

「……っ」

英寿の拳に、自然と力が入る。

どうしてこの世の中は、こんな非道な事を良しとするのか。甚だ疑問に思う。

 

「…どうしてこんな事をする…!」

「……」

シロメは英寿の問いには答えず、不敵な笑みを浮かべ続けていた。

 

「……アイドルを続けるには、時に残酷な選択をしなければならない。このデザイアグランプリは、そんな彼女達にキッカケを与えられる絶好のタイミング!私達は彼女達の為に、このゲームを考案したんだよ?」

「ふざけるな!お前らの勝手な考えで、人間が死ぬんだぞ!?」

「…ふざける?冗談じゃないよぉ……私達は本気でやってるんだ」

「…っ?」

突然として、シロメの目が変わった。

先程のふざけたような表情では無い。

 

「……本気で、仮面ライダーを導いてるんだ。それが私達、ナビゲーターの仕事だ」

「……」

「君には分からないよ。私達の気持ちなんて…」

「……」

「……さぁさぁ!そろそろB小町のライブも始まるんじゃない?私なんかに構ってる暇があるのかなぁ?」

「…必ずお前らの陰謀を暴いて、俺が止めてみせる」

「……んふふ…期待してるよ?浮世英寿くんっ」

 

 

「ライブは中止するべきね…」

かなが下した決断は、こうであった。

 

「そ、そんな……」

「……」

各ステージでライブが開始され、その各地にジャマトが出現した。観客が襲われた数は多数、アイドル達だって、ライブを中断した事で今回のデザグラから失格となっていた。

この状況下で、次の時間枠であった『B小町』は、苦渋の選択を迫られていた。

それは、ライブを続行するか、中止するかの2択であった。

 

「ステージにジャマトが現れた。冷静に考えれば、観客達の命を優先させた方が良い」

「で、でも…!今日のライブを楽しみに来てくれた人達は…!?」

「アンタ、バカなの!?そんな事言って、観客に被害が出たら世話ないでしょ?」

中でもルビーとかなは、互いの意見の不一致に対して揉めていた。その様子を、MEMちょやミヤコが見守る。

 

「ルビーの言ってる事も分かるけど…」

「有馬ちゃんの言ってる事も分かるんだよねぇ…」

「…これは私達を錯乱させる相手の思惑通り。今回のゲームの穴を突いた、上手いやり口ね」

今回の勝利条件はライブを無事に成功させる事。

だがそれに観客の生死は問われていない。要するに、ジャマトが現れた以上、どちらかを犠牲にするしかない。

 

「……」

だからこそ…どちらも間違っていて、どちらも間違っていない

人としてのプライドを貫くか、アイドルとしてのプライドを貫くか、それが今回のゲームの肝…

 

波乱の予感ね……

 

「いい!?今回のゲームを見逃したとしても、またいつか勝てるゲームが来る!今日絶対に勝たなきゃいけないなんて事はないの!」

「私達はアイドルなんだよ!?アイドルは歌って踊って、ライブを見に来てくれた皆に喜んでもらうのが仕事!それを投げ出す事なんて私には無理だよぉ!」

「いつまでそんな子供みたいな事言ってるの!?実際に被害も出てるの…!私達が更にその状況を悪化させる可能性だってあるのよ!?」

「…そ、そんな事ないよ!きっと運営が気使って…!」

「そんな事あるのよ!!」

「…っ」

かながここ一番の怒号を見せた。

 

「…あんたは何も分かってない……デザイアグランプリが、どれだけ残酷なゲームなのか……」

「……先輩…」

かなは息を切らしながら語り始めた。

 

「あんたは仮面ライダーになって、ここ数ヶ月ってところだろうけど……私は何年も前から…哺乳瓶吸ってる頃からデザイアグランプリにエントリーしてた」

「……」

「だけど、子供の私に出来ることなんて何も無くて…私はいつも守られる側……そして、私を庇って退場した人達だって何人も居た……」

「……有馬ちゃん…」

「……未来を託されて、私は死に物狂いでこの業界にしがみついた。守られる側から、守る側になる為に……それでも…私には…」

かなはここから先を語る事はなかった。

ただ真下を見つめ、思い詰めているような表情をしていた。

 

「……正直、私に皆を守り切れる自信なんて無い」

「…だ、大丈夫だよ先輩!だって私達は一人じゃないんだから!」

「…だからよ。それが駄目なの!アンタ達のせいなの!」

「……え?」

今度はかなはルビーの目をじっと見た。

 

「もしこれで、ステージに上がるのが私だけだったらなんとも思わない!私に守れるものを守るだけ……けど今回はアンタ達が居る…っ」

「……」

「……失敗させたくない。アンタ達に、あんな思いをさせたくないのよ…」

「……」

「……一人じゃないから…怖いのよ」

これがかなの本音なのだろう。

自分はこれまで守られる側であり、今まで自分のせいで失った命が多い。それをまだ輝きを失っていないこの二人に、そんな重荷を背負わせたくない。守れなかった者の気持ちなんて、味わって欲しくない。

いつまでも輝いていて欲しい。

これはかなの優しさが産んだ、二人にとって最善で最悪な答えだった。

 

「……先輩の過去に何があったかなんて、私には分からない」

「……」

ルビーは声を荒らげることも無く、淡々とかなに語りかけた。

 

「先輩が自分の事、どれだけ評価してるのか知らないけど、私にとって先輩は只の小娘だから」

「……っ」

「可愛くて努力家な、どこにでもいるただの新人アイドル!コケて当たり前!楽しく挑もうよ!」

「……ルビー…」

「…ずっと努力して来たんでしょ?」

「……」

「……それは…今日みたいな日の為に、今まで頑張って来たんじゃないの?」

「……っ」

ルビーの言う通りだった…

この子は、いつも私の言いたかった言葉を見つけてくれる

 

「さ、行こう!着替えの順番!」

「ちょ…ちょっと待って!少なくとも何か対策を考えないと…!」

「……それなら、私にひとつ考えがあるんだっ!」

「…えっ?」

 

 

「ふ〜んふふ〜〜……おっ、このイントロ…」

スターステージに現れた、3人の美少女達。

アイドル衣装にドレスアップしたその姿は、観客を魅了していた。

 

「やっと始まったぁ…全く、待ちくたびれたよ……」

彼女達のライブを遠くから見届けるシックは、レーザーライズライザーをクルクルと手で回しながら、不敵な笑みを見せていた。

 

「……さぁ、見せてもらうよ?僕が望む、推しの姿をねっ……ふふっ…」

 

 

 

一般人への被害が確認されても、

ゲームは中断されない。

 

 

第二十四話「憧憬Ⅵ:有馬かなの受難」




次回

「皆は私が守るっ!」
「今、アイドルの卵が孵ろうとしてるんだ」
「誰か…私を見て…」
「よぉ〜っし!ノってきたァァ!」
「少しは成長したみたいだな、テラス」
「アンタのサイリウムを、真っ白に染め上げてやる!」

第二十五話「憧憬Ⅶ:夢へのステップ!1・2・3!」
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