仮面ライダーギーツ【Mother and Children】   作:キャメル16世

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第二十七話「憧憬Ⅸ:欲張りな君へ」

「……知りたくないのか?星野アクアの、前世の事」

「……ウルスの…前世…」

イラドは英寿を煽るように提案して来る。

それに対し、英寿も興味を示す。

 

「お前も薄々気付いてるだろうが、星野アクアがこの業界に執着する理由は…復讐だ」

「……やはりな…」

「そんな奴が、どうして復讐を誓ったのか……アイツの過去に、一体何があったのか……」

「……」

「……教えてやるよ。アイツの全てを」

「……」

イラドはそう背中で語る。

まるで英寿の出す答えが分かっているかのようだ。

 

「……」

確かに、あいつの過去に興味が無いと言えば嘘になるし、あいつの目的が本当に復讐なのだとしたら、そのキッカケを知る事も大事なのだと思う

だが……

 

「……今のあいつには、復讐は似合わない」

「……」

今日のライブでウルスが見せたあの姿は、おそらく素に近い

それはマーリやテラス達を鼓舞する為に行った行為かもしれないが

単純に、彼女達をアイドルとして応援したかったという事実も存在する筈だ

 

そんなあいつを、復讐の渦にまた巻き込むのは、性にあわない

 

「今のあいつを、お前も知ってるだろ。あいつは揺らいでいる。復讐を果たすべきか、幸せを求めるかな」

「……」

「お前があいつに何を求めているのかは知らないが、これだけは言える。あいつの幸せは、あいつが決める事だ」

これは俺が前の世界で、痛いほど痛感した事だ

誰かの幸せは、誰かが決める事じゃない

自分の幸せは、自分達で叶えるべきだ

 

だから……

 

「あいつの幸せは、復讐の先にある」

「……え?」

「確かに俺は、あいつの幸せを望んでいる。だがそれは、あいつが復讐を果たさぬ限りやっては来ない。あいつの過去を知れば、お前もそう言わざるを得なくなる」

「……」

一体なんだというのだろう

こいつがここまで言う理由…

 

ウルスの過去…

本当にそこに、全ての答えがあるのか…?

 

「お前には、あいつの過去を知る権利がある。お前があいつの邪魔をする限り、俺は何度でもお前にあいつの過去を叩き込むぞ」

「……」

半分脅しのようにも聞こえるが、これはチャンスだ

おそらく本人の口からは聞くことが出来ないであろう、あいつの過去。それを知ることの出来る絶好の機会

 

「……わかった」

「……」

「だがその変わり、お前の事も教えてもらうぞ。運営との繋がりのこともな」

「…いいだろう。いずれ知る事になるからな」

「……」

互いの利害が一致したイラドと英寿。

イラドは英寿に近付き、レーザーレイズライザーを差し出す。

 

「こいつをデザイアドライバーにセットしろ。そうすればレーザーレイズライザーに刻まれた記憶を、お前も観る事が出来る」

「……」

促されるがまま、英寿はイラドのレーザーレイズライザーをデザイアドライバーにセットする。

 

「……っ」

すると、段々と視界が光に包まれ、耐えかねた英寿は瞼を深く閉じた。

その刹那、イラドの声だけが彼に響く。

 

「…さぁ、始めよう。追憶の旅を……」

 

 

「……っ?」

目を覚ました英寿の視界は、相も変わらず白に染まっていた。だがしかし、それは今居るこの場所が影響しているようだ。

 

「ここは…?」

「病院だ」

「…っ」

病院の白い壁がはっきりと認識出来る頃に、イラドも姿を現していた。レーザーレイズライザーの力で、彼も英寿と同じ記憶を見ているのだろう。

 

しかし、ここはまるで現実世界のようだ。

だが誰もこちらを気にする素振りもなければ、目の前を素通りする患者やナース。レーザーレイズライザーに刻まれた記憶が、リアルな世界となって彼らに見せているのだろう。

 

「来い。()はいつも、屋上に居る」

「……奴…」

 

英寿はイラドに促されるがまま屋上へとたどり着いた。

するとそこには、屋上のフェンスに体重を預けながら足を伸ばして座る白衣をした青年と、ナースが居た。

青年は黒髪で眼鏡をかけている。

 

「……先生…!」

「………ん…」

「…雨宮先生!」

「……んぁ?」

雨宮と呼ばれた男はナースに起こされ、寝ぼけ眼を擦っていた。

 

「雨宮先生!こんなところでサボってないで仕事してください!」

「…ん〜…わぁったわぁった……」

「……」

なんというか、覇気を感じない

見るからに医者であるが、医者特有の責任感のある雰囲気も伝わってこない

だがまさかとは思うが…彼が……

 

「雨宮吾郎。ここの産科医だ」

「……まさかあいつが…」

「…お察しの通り、あいつが星野アクアの前世だ」

「……」

そうか…

あいつの前世は医者だったのか…

 

「はぁ、全く……少しは真面目に働いてください」

「常に100%だと気疲れしちゃうだろ?だから俺は常に70%くらいを保持して……」

「先生の場合、常に20%ってとこですけどね」

「あれ、普段の俺ってそんなふうに見られてたの?」

 

何気ない会話

雨宮吾郎という人間は、同僚とのコミニュケーションも十分に取れていたのか

 

「驚くだろ。あれがあいつの前世って事」

「……あぁ…まるで人が違うようだ」

「…そうだな。あいつは雨宮吾郎であり、雨宮吾郎では無い。あいつを変えたキッカケは、奴の人生の中にある」

イラドは満足したのか、屋上から離れ始めた。

 

「次の記憶だ……腰抜かすなよ…」

「……?」

 

イラドの言う通り、俺は腰を抜かすことはなかった

だが度肝を抜かれた

 

「あっセンセ」

「星野さん…夜風が体に障りますよ」

 

雨宮吾郎と星野アイは出会っていた

それだけじゃない。星野アイが双子を身ごもった事実を知り、雨宮吾郎は星野アイの担当医となっていた

 

「子供は産む…アイドルも続ける…つまりそれは……」

「そ…!()()()()()

そして雨宮吾郎は、星野アイが子供を産むつもりでおり、更にアイドルも継続する意志を知る。

 

「アイドルは偶像だよ?嘘という魔法で輝く生き物…」

「……」

「…嘘は、とびきりの愛なんだよ?」

愛の後ろで輝く夜空に浮び上がる一番星。

まるで彼女を讃えるかのように、その光はそこに居る者達を照らしていた。

 

「子供の一人や二人、隠し通してこそ一流のアイドル!嘘に嘘を重ねて、どんなに辛い事があってもステージの上で幸せそうに歌う楽しいお仕事!でも、幸せってところだけはホントで居たいよね…みんな気付いてないけど、私達にも心と人生があるし。母としての幸せと、アイドルとしての幸せ、普通は片方かもしれないけど…どっちも欲しい。星野アイは欲張りなんだ!」

 

「……」

俺は、どこかで勘違いをしていたのかもしれない

B小町のアイも、プライベートではただの一人の女の子なのではないかと。純情無垢な、ただの16歳の少女なのではないかと

だがその考察は違った

B小町アイは、星野アイの姿でもアイドルそのものだった。いや…いまのこの姿の方が、もしかしたら人を魅了してしまうのではないか?

そう過ってしまうほどに、星野アイの瞳は輝き、その眼は嘘を感じさせなかった

 

「この時雨宮吾郎は、星野アイに元気な子供を産ませると誓った。それはファンとして、医者として、そして…男としての奴なりの決断だった」

「……」

 

ファンでありながら、彼女の妊娠を知る数少ない一般人であり、更にはその担当医

その心境は想像するに値しない程のものだっただろう

 

「星野アイ。僕が産ませる…安全に元気な子供を」

 

だがそれを受け入れてしまうほどに

星野アイはどうしようもないほどアイドルで

雨宮吾郎はどうしようもないほど彼女の奴隷(ファン)だったのだろう

 

夕日が沈む中で、彼の記憶に刻まれていたのは、これでもかと煌めく一番星と、彼女の瞳だった。

 

 

「……今僕が…正してあげるよ…君の本来あるべき姿と…宿命を…」

レーザーレイズライザーを取り出したシック。

 

「……あ、あなた…一体誰なの?」

「…僕はシック。君のサポーターさ」

「…サポーター…?私にサポーターが居たの?」

「……あぁ…君をずっと見て来た。君が仮面ライダーとなったあの日から…」

シックは怯えるルビーに少しずつ迫りながら自己紹介を始める。

 

「君がアイドルになると誓った日、僕の想いが決まった。君を立派なアイドルにしたい!君の理想を叶えてあげたい!ってね…」

「……」

「……それなのに…なんだったんだい?今日のライブは…」

「…え?」

すると、シックは頭を抱えるように嘆き始める。

 

「華やかで…!楽しそうで…!誰が見ても君たちのライブは大成功だった…!」

「……」

「…違う……違う違う違う違う!違うんだよっ!アイドルってのは完璧すぎちゃダメなんだよ!そうでなきゃリアリティがない!」

「……」

「アイドルってのは、挫折を味わうもんだろうが!」

激昂するシック。

それをルビーは相容れない表情をする。

 

「……っ」

すると、彼女の前に手が出される。

 

「それはお前のエゴに過ぎない。ルビーにちょっかい出すなら、俺が許さない」

「……お兄ちゃん…」

アクアがルビーを庇い、先頭に立つ。

かなやMEMちょもルビーに近付き傍に寄る。

 

「……フッ…お兄様のご登場か……君には感謝してるんだよ?星野ルビーをアイドルにしてくれた事にね」

「俺はルビーの願いを叶えてやりたいだけだ。それも、実力でな」

「……実力…?」

「今回のライブの成功は、こいつらが実力で勝ち取ったものだ。それを他人にとやかく言われる筋合いはない」

「……」

「……フフッ…世間知らずが……今回の勝利は、僕も一役買っている事を知らないんだね」

「…なに?」

シックは自身の端末をアクアやルビーに見せつけるように持つ。

 

「さっき君が手に入れたバックルは、僕の支援によるものだ。あれが無ければ、君は無様に負けていただろうね」

「……でも…なんで?」

「……?」

「…じゃなんで、挫折を味わうべきなんて言うの?」

これはルビーの単純な疑問だった。

挫折を味わうべき相手を支援する理由。彼女にとってはまるで不可解だった。

 

「…君に勝って欲しかったからさ」

しかしその答えは矛盾していた。

 

「君にジャマトとの戦いで勝って欲しかった。そうでなければ、君は退場となってしまう。だからあの時の君の最善の選択は、ステージを見捨てる事だった」

「……え?」

「…でも君はステージも、ライブも守った。君たちは求めすぎたんだよ。そんな何もかもを手に入れようとすれば、必ず大きな挫折を味わう事になる……」

「……」

その言葉に、アクアとルビーが反応する。

 

「…幸せってのはさ、向こうからはやって来ない。だからこそ自分の力で手に入れる。でも2つの幸せを同時に手に入れる事は、タブーなんだよ」

「だが、実際こいつらはやってのけた。それはこいつらの努力のおかげだ」

「それがダメだって言ってるんだ!そんな事を繰り返していれば、必ず大きな挫折…すなわち不幸を味わう!それが怖くないのかい?」

「……」

これはあくまで、シックがルビーに対する心配が体現されたものだ。

 

「…確かに私たちは、全てを求めようとした」

「……」

「今回はたまたま上手くいったけど、次に同じような事があれば、どうなるかなんて分からない…でも…」

「……」

「……最初から失う事を恐れてちゃ、何も得られないよ!それで仮に片方の幸せを手に入れても、私は全然嬉しくない!私はやっぱり…皆が楽しくて、華やかで、笑顔で終われるライブがしたい!それが私の…アイドルをやりたい理由の一つだから!」

「……」

シックはルビーの言葉を静かに聞き届けた。

そしてしばらくの間沈黙が続き、するとシックの笑い声が聞こえ始めた。

 

「……フフッ…ふはは…ふははははは!」

「……」

「…どうやら君には教訓が必要そうだねぇ!君が1番理解している筈だ…それをする事で、誰が1番不幸になるのか……」

「……」

「……ファン?仲間?家族…?どれも違う!君自身だ!だから僕は、君が間違いを犯す前に君の誤った思想を叩き直す!推しを説教するなんて本当はイヤだけど…それが──」

「…ねぇ……さっきから気になってたんだけど…」

「……ん?」

「…貴方、どうして…そんなに哀しそうに笑うの?」

「…………は?」

その言葉に反応したシック。

彼自身は、笑顔を保っていたつもりだった。

推しの前で、嫌な顔は出来ない。だから作り笑いでも良かった。彼女の前では少しでも朗らかでいたかった。

 

でも……

この頭に血が上る様な感覚

どうしようもないほど、拳に力が入る

今目の前に推しが居るのに、僕は感情を顕にしようとしている…

 

あぁ…そうか……

 

「……イラド…今なら君の気持ちが、少しは理解出来るよ」

「……っ?」

 

シックは青色模様が描かれたライズカードリッジを取り出しレイズライザーベルトを出現させると、レーザーレイズライザーにライズカードリッジをセットする。

 

SHICK Set.

 

「……変…身」

 

剣のトリガーを引くと、剣先から2枚のプレート状の入出力用デザイナリーデバイス「インリアライザー」と「アウトリアライザー」が出現する。

 

LASER ON

 

SHICK Loading.

 

シックの身体はみるみるうちに変化し、白と黒を基調とした身体に2枚のプレートが組み込まれ事で、青色の要素が取り入れられた。

 

Ready... Fight.

 

「…変身した…!?」

「……僕は哀しいよ…星野ルビー…」

「…っ?」

「でも君に幸せになってもらう為にも……どちらが正しいか、教えてあげるよ!」

 

 

次に見た記憶は、星野アイの出産予定日だった。

雨宮吾郎は一度自宅に戻り、アイが産気づいたらすぐに向かうと約束した。

 

だがここで、1つ疑問がある

 

「今、星野アイの腹にはウルスが居るんだよな…」

「…あぁ」

「……だが、その前世である雨宮吾郎は…今もここに居る。何故だ?」

「……見てればわかるさ」

「…?」

イラドの言う事はいまいち理解出来なかったが、しばらく記憶を追うと、奴の言った通りだった。

 

「あんた、星野アイの担当医?」

 

フードを深く被った男が、雨宮吾郎と接触していた。

星野アイが入院中に偽名を使っていた事、そして本来公表されていない筈の彼女の本名を男が知っている理由を問いただすと、フードの男は雨宮吾郎から逃げ出した。

 

「追うぞ」

「…っ…あぁ」

イラドはどこか急かすように英寿に後を追わせた。

そして、その時は一瞬だった。

 

《 ■■■■ STRIKE 》

 

「……えっ?」

雨宮吾郎が、何者かの攻撃により崖から落とされた。

 

「…っ!今のは…!?」

「仮面ライダーによる攻撃だ。しかも殺意たっぷりのな」

「……っ」

崖の下で血を流す雨宮吾郎。しばらくすると彼の携帯が鳴っていた。

 

「…一体誰が…!?」

「それを知る事は不可能だ」

「どうしてだ…まだ近くに居るかもしれないだろ!」

「ここはあいつの記憶の中だ。あいつが認識出来ていないことを、ここで再現する事は不可能だ」

「…そんな……」

 

俺が嘆いていると、病院の方から2つの赤ん坊の産声が妙に響いて来た。ここは森なのにだ

 

「……そうか…そういう事だったのか…!」

「…雨宮吾郎はこの時死に、同時に星野アイの子供として転生した。推しの子として生まれてきたんだ」

「……どうやら俺が思っている以上に、事件の根が深いようだな」

「…こんなもんじゃないぞ。これは序章にすぎない」

「……あぁ」

アクアの前世を知った事により、どうやら英寿本人にも、彼の全てを知る覚悟が出来たようだ。

 

「……今のお前になら、全てを話しても大丈夫かもな」

「…え?」

「……なんでもない。こちらの話だ」

イラドは自分達の前に4次元ゲートを開くと、振り向きながら答えた。

 

「…行くぞ、次は……星野アクアの子供時代の記憶だ」

「……あぁ」

4次元ゲートを越える英寿とイラド。

 

しかし、英寿は聴き逃していた。

彼の記憶にはもうひとつの出来事が描かれていた。

 

ゴーン… ゴーン… ゴーン…

 

世界に鐘の音が響き、()()()が世界を包み始める。

そしてその光は、浮世英寿がこの世界に来る時に見た、世界を包む()()()と同じものだった。

 

 

 

仮面ライダーによる一般人への被害は、

現在も確認されていない。

 

 

第二十七話「憧憬Ⅸ:欲張りな君へ」




次回

「人は哀しさを、憎しみで覆い隠す!」
「私たちアイドルは貴方たちファンの操り人形じゃない」
「ルビーを陥れようとしたのは、他でもないあんた自身だ…!」
「お前はなんとしてでも、デザ神になる必要がある」
「今はまだ、あいつらを見守ってやりたい」
「この顔を見ても、そんな事が言えるのか?」

第二十八話「憧憬Ⅹ:君の理想を叶える為に」
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