仮面ライダーギーツ【Mother and Children】   作:キャメル16世

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第二十八話「憧憬Ⅹ:君の理想を叶える為に」

「慎め。我はアマテラスの化身、貴様らの言う神なるぞ」

 

次に見た記憶は、星野アクア、そして星野ルビーの赤子の時の記憶だ。

この時、斉藤ミヤコが星野アイの出産の事実をリークしようとした。だが2人がそれを食い止めようとし苦肉の策を講じた。

 

その結果、2人は神の子としてミヤコを制した。

 

「神……」

「お前の世界では、お前は神だったな。どうだ?あいつらは神になれそうか?」

「…いや、そもそも…神がどういうものか、俺もあまり理解してないからな」

「……じゃあ何故、お前は神になった…?」

「……それは…」

俺は、俺の世界を変える為に神になった

創世の神となり、あの世界を創り変えたかった

誰もが幸せになれる世界…

それが俺の望む…

 

「……」

 

次に見た記憶は、星野アイ、星野アクア、星野ルビーの家族団欒とした記憶だった

一緒に買い物に行って、一緒に料理して、一緒にお風呂に入って、一緒に寝る

そんな当たり前の時間の中でも、彼らは……

 

「……幸せそうだな」

「…あぁ……この時はな」

「こんな時が、ずっと続けばいいと…そう思ったのかもしれない」

「……」

英寿は語った。

自分が神になりたかった、本当の理由を。

 

「…俺が神になった理由……誰もが幸せになれる世界を創る……その先にある、今のこいつらのみたいな顔が見たかったのかもしれない」

「……神は贅沢だな。全てを得てもまた、何かを得ろうとする」

「…神だから贅沢なんじゃない。贅沢者が神になっただけだ」

「……そうか」

イラドは満足したのか、はたまた呆れたのか、英寿の元から離れていく。

 

「…お前は覚えているか?星野アイが、雨宮吾郎と交わした言葉を」

「……」

「……星野アイは、全てを得ろうとした。家族の愛も、ファンからの愛も…そして幸せも……」

「……」

 

英寿は思い出す。

星野アイと雨宮吾郎が交わした言葉。そして、星野アイが語っていた事を。

 

『アイドルは偶像だよ?嘘という魔法で輝く生き物…嘘は、とびきりの愛なんだよ?』

 

「……嘘はとびきりの愛…」

 

その言葉が、何故だか英寿心に深く刺さった。

 

嘘は愛となれば

愛する事もまた、嘘となってしまう

 

すやすやと眠るアクアとルビー、そしてアイの顔を覗く。

 

星野アイが2人を愛する事も、嘘となってしまうのか…?

 

*

 

「仮面ライダー…!?」

「星野ルビー…!もうこれ以上…僕を哀しませないでくれ!」

仮面ライダーシックへと変身したシック。

レーザーレイズライザーを片手に、突っ込んでくる。

 

「変身!」

 

《 SOLDIER 》

《 READY FIGHT 》

 

「はっ!」

すかさずアクアが仮面ライダーウルスへ変身し応戦する。

 

「クッ…!邪魔しないでくれるかなぁ!?」

「言った筈だ…ルビーにちょっかい出すなら、俺が許さないと…!」

「その言葉…そっくりそのまま返してあげるよ!もう君の手助けは彼女たちには不要だ。ここからは僕が彼女たちをサポートする!」

「…お前の独りよがりの理想を…他人に押し付けるな!」

「うおっ…!」

ウルスの攻撃に仰け反るシック。

 

「……クククッ」

「……?」

しかし、シックはそれでいてもまだ笑みを保っていた。

 

「独りよがりの理想を、他人に押し付けるな…?誰が言っているんだい?」

「……っ」

「何より自分の理想を他人に押し付ける!君が言わないでくれよォ!」

ウルスに飛びかかるシック。レーザーレイズライザーの刃が今にも当たりそうだ。

 

「…君の目的は解っている……復讐だろ?」

「…っ!」

シックは他の者には聞こえないように耳元で囁くように煽る。

 

「母親が殺され、その真犯人は今も生きている…だからそいつを殺す為に、君は嘘も犠牲も厭わない…!」

「…なんでその事を…!?」

「……聞いたんだよ。君を知ってる者にね」

「…クッ…!」

耐えかねたウルスはシックを遠ざける。

 

「苦しかったんだろう?哀しかったんだろう?だけど君は、それを憎しみへと移し替えた」

「……」

「人は哀しさを、憎しみで覆い隠す!それによって何も生まれない事をわかっていても!」

「……」

「……でも、彼女は違う」

シックはルビーに視線を移す。ルビーはかなとMEMちょに囲まれながらも、こちらの様子を伺っていた。

 

「…彼女は、哀しみを次の糧へとした。母親のようなアイドルになる為に、“立派な”アイドルになる為に……」

「……」

「…君も見てきた筈だよ。その軌跡を、その決意を、その覚悟を…!」

「……」

「…だからこそ彼女が彼女の夢を叶える為に必要なのは、夢を夢で終わらせない為に、現実を見せつける事だ!」

「……」

ウルスは俯きながら、シックの話を静かに聞いていた。

 

「アイドルは夢と希望で溢れている訳じゃない。嘘や妬み嫉み、中傷に理不尽!それを乗り越えた者だけが、みんなの言う立派なアイドルになれる!」

「……お前は何も分かってないな」

「……は?」

立ち上がり顔を上げたウルスは、シックに語りかけた。

 

「アイドルに必要なのは、そんなものじゃない。妬みや嫉みを全て跳ね除ける太陽のような笑顔、中傷や理不尽を匂わせない完璧なパフォーマンス。そして、嘘を嘘と思わせない説得力」

「……ん?」

すると、アクアの後方。ルビーがドライバーを構えてこちらに歩み寄って来ていた。

B小町のメンバーはそれを阻止しようとしていたが、ルビーの眼中には無い。

 

「立派なアイドルってのは、俺たちが抱いている偶像…ただの理想に過ぎない。だが、そんな理想をも打ち砕くほどのスター性……」

「……」

アクアの横に立ち並ぶルビーは、シックと対峙しデザイアドライバーを装着する。

 

「アイドルに必要なのは、ファン(俺たち)を化かす力だ」

「……星野ルビー…」

「……ねぇ、貴方…私のファン、なんだよね?」

ルビーは変身はしないままシックに問いかける。

 

「…そうだよ。僕は君をずっと見守って来たんだ…ファンの期待に応えるのが、君の役目だろう?」

「……確かにそうかも…でも、私たちアイドルは貴方たちファンの操り人形じゃない」

「……何?」

「…私ね……もし私にファンが出来たら、絶対にしておきたい事があったの」

「……」

「……ファンの期待にも応えたい。でもそれ以前に、私はファンの一人一人としっかり向き合いたい!」

「……」

「貴方が今の私を気に入ってくれてないなら、今の私を理解して欲しい!これが私の選んだ道…私のアイドルへの道!」

 

《 1!》

《 2!》

《 3!》

 

《 SET 》

 

ルビーは左目の星を輝かせながら、ステップバックルをドライバーにセットする。

 

「変身っ!」

 

《 STEP 》

《 READY FIGHT 》

 

横に立ち並ぶウルスとテラス。

双子のライダーが、シックと対峙する。

 

「…そうかい…それが君の望みなら……」

シックはレーザーレイズライザーの刃を2人に向ける。

 

「…僕は、願ったり叶ったりさ…!」

 

*

 

この物語はフィクションである

 

そう綴ったのは、一体誰だろうか

 

一体誰のエゴで、この世界は創られたのだろうか

 

夢も、理想も、願いも

欲も、野望も、憧れも

志も、望みも、そして幸せも

 

いつか叶うと

そう信じていたからだ

 

「アイ……」

 

だからこそ、そんな希望は潰えてしまうのだろう

 

「ドーム公演おめでとう。双子の子供は元気?」

 

誰かの憎しみや、負の感情によって……

 

「アイ…!」

俺たちが見た記憶は、アイのドーム公演当日の朝

 

「ふはっ…痛いかよ…俺はもっと痛かった!苦しかった!」

アイの出産の日に病院に居た男だろう。フードを深く被った男が、アイの腹をナイフで刺していた

 

「アイドルのくせに子供なんて作るから…!ファンを裏切るふしだら…っ…!」

「アイ…!アイ!」

アイの腹部からは大量の血、それに気が付いた幼いウルスは必死にアイに駆け寄っていた

 

「ファンの事蔑ろにして、裏ではずっとバカにしてたんだろ!この嘘吐きが!!」

「……」

血相を悪くしたアイは、息を整えながらも立っていた

 

「私なんて元々無責任で…純粋じゃないし…ズルくて汚いし…人を愛するってよく分からないから……私は代わりに…皆が喜んでくれるようなきれいな嘘を吐いてきた」

男はアイの言葉を静かに聞く。その顔は真実を受け止めきれないような顔だ。まるでたった今人を刺したようには見えない、被害者のような目をしていた

 

「いつか…嘘が本当になる事を願って……頑張って…努力して…全力で嘘を吐いてたよ……私にとって嘘は愛…私なりのやり方で…愛を伝えてたつもりだよ」

「……っ」

「君達を愛せてたかは分からないけど…愛したいと思いながら…愛の歌を歌ってたよ……いつかそれが…本当になる事を願って……」

アイは血で真っ赤に染まった手を、男に差し出す

 

「今だって君の事…愛したいって思ってる……」

「……嘘つけ…俺の事なんて覚えてもいないんだろ…見逃してもらおうと…」

「リョースケ君、だよね…よく握手会来てくれてた…」

「…っ」

「…あれ?違った?ごめん私人の名前覚えるの苦手なんだ……お土産でくれた星の砂…嬉しかったな……今もリビングに飾ってあるんだよ…」

そう、アイは彼から貰った星の砂を大事に飾っており、時折ウルスやテラスに自慢していた

 

「……んだよ…それ……そういうんじゃ…!あああああああ!!」

自暴自棄になった男は部屋から逃げ出す

 

「アイ!!」

ドアに倒れ込むアイ。救急車を呼んだウルスがすぐに駆けつける

 

「いやぁ…油断したね……こういう時の為にドアチェーンってあるんだ…施設では教えてくれなかった…」

「喋るな!」

段々と意識が遠のくアイを見て、ウルスは息を荒立たせた

そんな彼を、アイはそっと抱き寄せた

 

「…ごめんね……多分これ…無理だぁ」

「……っっ」

「…大丈夫?アクアは怪我とかしてない?」

「……してない」

式を悟ったアイは、最期まで息子の心配をしていた

 

「今日のドームは中止かな…皆に申し訳ないなぁ……映画のスケジュールも本決まりしてたのに…監督に謝っておいて……」

「……ねぇ…どうしたの…?」

すると、ドアの向こう側に幼きテラスの影が映る

 

「そっちで何が起きてるの…?」

「……来るなルビー」

「ねぇってば!!」

「…ルビー。ルビーのお遊戯会の踊り…良かったよー……私さ…ルビーももしかしたらこの先…アイドルになるのかもって思ってて…親子共演みたいなさ…楽しそうだよね……」

「……」

「アクアは役者さん?二人はどんな大人になるのかな……」

「……」

「…あぁ…ランドセル姿…見たいなぁ……授業参観とかさ…ルビーのママ若すぎない〜とか言われたい……」

これは、アイが望んだ世界の話

 

「二人が大人になってくの…側で見てたい……」

そしてそれは、この双子の望んだ世界でもある

ひとつ違えば、叶っていたかもしれない世界

 

「…あんまり良いお母さんじゃなかったけど……私は産んで良かったなって思ってて……えっと他に……あ……これは言わなきゃ……」

「「……」」

ただその世界は、嘘や誇張でまみれた偽りの世界

それでもその世界にはきっと、たったひとつの真実があっただろう

 

「ルビー、アクア……愛してる」

人を愛したいという純粋な想い

人に愛されたいという無垢な願い

 

「あぁ…やっと言えた……ごめんね…言うのこんなに遅くなって……」

嘘吐きから放たれた、たったひとつの真実

 

「良かったぁ……この言葉は絶対…嘘じゃない……」

 

そんな彼女の言葉を、君は信じるか?

 

「……アイ…………」

「……──」

「…アイ……?」

 

星は消え、希望は潰えた

 

こうして

彼等のアイと過ごした甘い子供時代は幕を閉じ

彼等の物語が幕を開けたのだった

 

*

 

「ふっ!」

「はっ!」

「クッ…!」

双子ライダーの猛攻が、シックを攻める。

コンビネーションの整ったその攻撃は、シックに次の一手を与えない。

 

「流石のコンビネーションだねぇ…!これは僕も…負けてられないなぁ!」

「グッ…!」

「キャッ…!」

シックの反撃に対応出来なかった二人は体勢を崩してしまう。

 

「クッ…!はぁっ!」

だがウルスはすかさずソルジャーランサーを振りかざす。

 

《 SUPPORT MODE 》

 

「……ふふっ」

「…っ!?」

だが、シックはレーザーレイズライザーを操作すると同時に姿を晦ました。

 

《 LASER CHARGE 》

 

「はっ!」

「なっ…!?」

しかし、背後に現れたシックの襲撃を受ける。

 

「どうだい?この能力」

「……瞬間移動か…」

「僕のレーザーレイズライザーには、空間を自由に移動出来る能力が備わっているんだ。便利でしょう?」

シックは自分に備わった能力を自慢げに語る。

 

「そして、更に……」

「はぁぁっ!」

「よっと!」

「うえぇ!?きゃぁっ!」

逆にシックを奇襲しようとしたテラスの攻撃を、シックはいとも簡単に見破り否した。

 

「僕の周囲に居る者達の動きを感知することが出来る。君達が何をしようとしても、僕にはお見通しさ!」

「……こいつは厄介だな…」

「う、うん…まるで歯が立たない…」

地面に伏す二人は、互いの顔を見ながらシックの強さを認めた。

 

「……ルビー…」

「…うん」

だが、彼らも諦めた訳ではない。

 

「奴の空間を読む力は、俺たちにとっては不利だ…だが……」

「絶対、漬け込める隙はある…」

「あぁ……」

シックの巧妙な策略に、必ず抜け道がある事を悟った。

 

「……ん?」

ウルスとテラスは、2・3回言葉を交わした後、テラスはウルスを残し距離を置いた。

 

「……」

一体何をしようとしてるかは分からないけど…

君達の動きは全て解る…!

 

距離を置き、隠れたつもりのテラスの位置も、シックにはお見通しだ。

 

「はぁっ!」

「…っ!」

テラスの位置を暴いてニヤついていたシックを、ウルスは攻撃する。

 

「クッ…!小癪な真似を…!……っ?」

あれ?彼女は何処だ…?

……

あぁ…今度はあんなところに移動して……

全部視えて……

 

「はぁ!」

「…なっ!」

こいつ…!僕が彼女の居場所を暴いた瞬間に…!

 

ウルスはシックがテラスの暴くと同時に攻撃を仕掛けていた。そしてその目が離れた隙にテラスは更に移動する。

 

「…クッ」

まさかこいつら…!

 

「…やっぱりな」

「……はぁ?」

「あんたは俺達の位置を探る事が出来るが、それには多少なりとも時間を要する。ルビーの位置を特定するにも、1度見失ってからだと更に時間が掛かる」

「…っ」

「だから、あんたがルビーを探している間に攻撃を仕掛ければ、必ずあんたの不意を突ける瞬間がやって来る…」

啖呵を売るウルスは、ソルジャーランサーを構える。

 

「あんたはルビーを探している間は攻撃も瞬間移動も出来ないし、俺に集中すればルビーの奇襲を受ける可能性だってある……この勝負、俺達の勝ちだ…!」

「はぁぁっ!」

「クッ…!」

死角から現れたテラスの攻撃を寸前で避けるシック。

既にこの策略にハマっていた。

 

「一気に行くぞ、ルビー…!」

「うん!行こうアクア!」

「クッ…!あんまり僕を…舐めないでよねぇ!」

再びシックの前から姿を消すテラス。そしてシックと真っ向勝負に出るウルス。

シックはテラスを警戒しつつ、ウルスと応戦した。

 

「はぁぁっ!」

「クッ…!はァっ!」

シックの持つレーザーレイズライザーとウルスのソルジャーランサーが擦れ合う。

 

「…クッ…!」

シックは更に常に自分の死角にいるテラスを探りながらウルスの猛攻を受け流し続けた。

 

「あんたは言ったな…こんな事をする理由は、ルビー達に現実を見せつける為だって…」

「……それがどうした?」

「…だが、一番現実から目を背けているのはあんただ。見たものを信じず、認めず、自分の事だけを考える愚か者だ」

「…なんだってぇ…?」

「ファンの意見ってのは、実に身勝手だ。その身勝手な意見が、人を簡単に陥れる……ルビーを陥れようとしたのは、他でもないあんた自身だ…!」

「……黙れぇ!…っ!?」

 

《 STEP 1 STRIKE 》

 

「はぁぁっ!」

「なっ!?」

シックが気を緩めた隙に、テラスの攻撃が炸裂する。

 

「クッ…!」

 

《 STEEL CHARGE 》

 

「…っ!?」

「はぁぁっ!」

 

《 TACTICAL SMASH 》

 

ウルスの追撃が来る。

ソルジャーランサーを宙から投擲のように放って来る。

 

「クッ…!こんな程度…!」

しかしシックはすぐさまレーザーレイズライザーの空間把握の能力を施行する。

 

「……ここだ…!」

ウルスの攻撃が当たる直前、シックは瞬間移動によって危機を脱する、かのように思えた。

 

「…っ!?」

「そこに来るのを…!待ってたよ!」

「何っ!?」

テラスがシックの移動先を先読みし、必殺技を放とうとしていた。

 

《 STEP 3 STRIKE 》

 

「てやあぁぁぁぁ!!」

「ぬっ…!クッ…!」

テラスのキックが炸裂する。

シックはそれをレーザーレイズライザーで受け止め続けた。

 

「クッ…!ふぬっ!」

「きゃっ…!」

「…あまり調子に……っ!」

攻撃を突き放したシックは、テラスに追撃を与えようとしたが、とあることに気が付いた。

 

「……っ」

レーザーレイズライザーにヒビが生じ、火花が散っていた。

それに応じてか、シックの変身が解け銀髪の髪が顕となった。

 

「……レーザーレイズライザーが…破損した…」

これじゃあ再変身出来ない……

まさか…

 

「……まさか君達…最初からこれを狙って?」

テラスの最後の攻撃に、殺意や敵意がない事をシックは見抜いていた。

彼女達は、シックに変身能力を損なわせる為に、最初からレーザーレイズライザーの方を狙っていたのだ。

 

「今の私がすべき事は、貴方を倒すことじゃない。貴方としっかりと向き合う事。お兄ちゃんは、そんな私のわがままを聞いてくれただけ…」

変身を解いたルビーは、シックの顔をしっかりと見つめた。

 

「……まったく…お節介な兄妹だね、君達は…」

「…言ったよね…私はファンの一人一人としっかり向き合いたい。もし貴方を倒してしまったら、貴方とはもう二度と向き合えなくなっちゃう……二度と、貴方の意見に耳を傾けられなくなっちゃう…そんなのは嫌だ……」

ルビーはシックに臆すること無く、真正面で向き合う。

それを、周りの仲間達も見守る。

 

「…だから、倒すんじゃなくて…向き合う為に、私は戦う。私は私の戦いを通して、ファンの皆に私の想いを伝えたい」

「……」

「……だから見てて。私が選んだ道……もしまた納得がいかなくなったら、いつでも私の事を倒しに来てよ。その時は、1対1で正々堂々勝負するから!」

「……星野…ルビー…」

ルビーの言葉が響いたのか、シックはレーザーレイズライザーをくるくると回し、ため息を吐きながら立ち上がった。

 

「……分かった。そこまで言うなら見せてよ…君の選んだ道の、その行先を」

「…うん!」

「……そして叶えてみせてよ。君の夢を……かつてのB小町がなし得なかった、宿願を」

「……うん」

二度頷いたルビー。

そんな彼女の表情を見て微笑んだシックは、ゆっくりと振り返り4次元ゲートの向こうへと消えて行った。

 

「…………ハァ…」

「……ルビー…!」

突如膝から崩れ落ちるように倒れるルビー。

アクアが体重を支え、すぐに仲間達が駆け寄って来た。

 

「……Zzz…」

「……寝てる…」

「…まぁ…連戦だったものね……」

「ルビーちゃん…頑張りすぎだよぉ……」

戦い疲れて寝てしまっていた事に気が付いた一行は安堵する。

そんな彼女の寝顔を見て、ミヤコは微笑みながら呟いた。

 

「……頑張ったわね、ルビー…」

 

*

 

星野アイの葬儀は、沢山の人の涙と悲しみの声に包まれた。

まだ誰もが、アイの死を信じる事が出来ていなかった。

 

アイドルがファンに殺傷され、犯人は自死というセンセーショナルなニュースは、あれから1時間も置かずに出回った。

だが世間の声は相も変わらず厳しいようで、死んでしまった有名人をネタにする輩も少なくはなかった。

 

あの双子はミヤコの呼んだタクシーの中で、沢山のファンに囲まれながら火葬場に送られる、アイの死体を積んだ霊柩車を眺める事しか出来ていなかった

 

「……」

「…同情するか?アイツらに……お前も、目の前で母親を殺されたようなものだからな」

「……そうだな…」

「……」

「……だが俺の母さんも、消える間際に「愛してる」と伝えてくれた。それだけが救いだ」

「……そしてお前は、前を見た。新たな願いを見つけて…」

「……あぁ…俺には俺のやるべき事がある。誰もが幸せになれる世界…それを実現するまで、俺は戦い続ける」

「……」

ひとしきりの記憶を巡った俺たち

今見ている記憶が、俺に見せておくべき最後の記憶だという

だが、もう十分だ

 

「……それは“神”としての使命か?それとも、“浮世英寿”としての使命か?」

「…何が言いたい?」

「誰にだって使命はある。だが、転生し2度目の人生を送っている奴は別だ。2度目の人生には、その人生での使命がある」

「……」

「…雨宮吾郎は使命を全うした。アイをファンとして愛し、生まれてくる子供達や彼女自身への被害を防いで死んだ。そして奴は星野アクアとしての生まれ変わり、新たな使命を授かった」

「……新たな使命…?」

「……」

イラドは英寿の質問には答えず、時を待つように双子の乗るタクシーを見続けた。

 

「……お前は、あの事件がこれで終わったと思うか?」

「…え?」

「星野アイを逆恨みした男が彼女を刺殺し、その自己嫌悪に堕ちた男は自殺した」

「……彼女を刺した犯人は死んだ。これでもういいだろう」

「本当にそう思うか?」

「…なに?」

イラドは結論を出した英寿に詰め寄る。狐のお面が英寿の顔に寄る。

 

「考えてみろ。男は何の変哲もないただの学生…そして星野アイは、事件が起こる少し前に引っ越してきたばかりだ……」

「……っ」

そう

あいつの記憶の断片に、ヒントは隠されていた

 

「……殺人教唆…」

「そうだ。星野アイを殺すようにしむけた、今回の事件の真犯人が居る」

「…っ!」

「そしてその犯人像も、アイの関係者…しかも相当近い人物である事を奴は見抜いた」

「……星野アイの関係者で言うと、社長かミヤコ、B小町のメンバー位か…?だがあの夫婦がそんな事をするとは思えない…B小町のメンバーだって、そこまでの深い間柄では……」

「あともう1人……星野アイと深い深い関係を持った者が、1人居るだろう」

「……っ!…まさか…!」

英寿はここで気付いた。

そしてその犯人像こそが、今回の事件に於いて一番説得力のあるものだった。

 

「……あいつらの…父親…」

星野アイは父親の存在を他者には頑なに秘密にしていた。そして密に連絡をとっていた様子もない……

おそらくは父親の蒸発、それによる逆恨みで彼女は……

 

「そして彼女の交友関係の狭さから察するに、相手は星野アイと同業者…『芸能人』である可能性が高い」

「……アイツらの父親が…芸能界に居る…」

「……奴は今この時誓った…星野アイを殺すように仕向けた真犯人を殺す。奴の復讐が、ここから始まった…」

 

今まで見えていなかった真実が顕となった事で、奴の人格形成の発祥、そして奴の真の目的が判明した

 

そしてこれは、あいつにとっては単なる復讐じゃない

 

母親を殺された悲しみもあるだろう

だがきっと一番に込み上げてくるものは、母親を目の前で襲われ、それを救い出せなかった事

母親を守れなかった、自分自身への怒り

 

これは星野アイを救えなかった、自分自身への復讐だ

 

「……っ」

すると、全ての記憶を巡ったせいか、視界が真っ白に染まった

次に目を開けた先の景色は、先程の暗い道のど真ん中だった

 

「これが星野アクアの全てだ。奴は父親への復讐の為にデザイアグランプリに参加している。この芸能界に居る筈の、父親の情報を模索しながらな」

「…だから運営と繋がっていたのか……」

「運営がなぜ奴にあそこまで肩入れするかまでは知らん。だが奴の理想を叶えられる為なら、俺は口出しする気は無い。だがもし奴を邪魔する者が現れたら、容赦なく叩き潰す」

「……」

イラドは英寿の胸ぐらを掴んで改めて警告する。

 

「……おい、こんな所で何してる」

「…っ…ウルス…!」

「……」

すると、英寿を探しに来たのか、アクアがこちらに声を掛けた。

イラドもそれに気付き、英寿から手を離す。

 

「早く帰るぞ、少し状況が良くない」

「…何かあったのか…?」

「……ルビーのストーカーに襲われた。追い払ったが…とっとと帰るぞ」

「……そ、そうか…」

「……チッ…シックの野郎か……」

アクアの報告に、イラドが反応する。

すると、アクアも不思議そうにイラドを見た。

 

「……誰だそいつ」

「あぁ…こいつは……」

「星野アクア…!お前こそこんな所で何をやっている?」

どうやらイラドとアクアは初対面の様子で、アクアは疑心感たっぷりの目でイラドを見詰めた。

 

「……なんの事だ」

「こんな所でのたまう余裕があるなら、次のデザグラで勝つ為の作戦でも考えたらどうだ?」

「……一体誰なんだ、お前」

「……チッ」

質問に答えないアクアに苛立ちを覚えるイラド。

 

「…妹達のライブを、随分と楽しんだみたいだな」

「……」

「だがお前の復讐はどうなる?妹の夢を応援する事、恋愛にうつつを抜かす事、一体どれが大事だ!?」

「…それは……」

「お、おい…もうこいつは…」

「お前は黙ってろ!」

英寿が仲に入ろうとしたが、イラドに停められてしまう。

 

「……」

「なぁ、どうなんだ?お前の理想は?母親の復讐はどうなる?」

「……」

「…お前はなんとしてでも、デザ神になる必要がある。お前の復讐が果たされるまで、お前が幸せになる事なんて出来ないんだぞ?」

「……そんな事は分かってる」

ここで、アクアは初めてイラドの問に応えた。

だが顔は俯いたままだ。

 

「…お前が俺のどこまでを知ってるのかは知らないが、俺はただ……」

「……」

「……“今”はまだ…あいつらを見守ってやりたい…」

「…ほぉ」

イラドは、まるで答えかわかっていたかのような反応を示した。

わかっていた上で、再度確認したような素振りだった。

 

「……なら…」

だからこそ、その後の行動も必然的なものだったのだろう。

全ては、アクアに自分の理想を思い出させる為に。

 

「…この顔を見ても、そんな事が言えるのか?」

「……っ!」

「…っ!?」

イラドは、頑なに外さなかった能面を外した。

そして現れた素顔は、2人がよく知る顔だった。

 

「……なんで…お前…!?」

「……雨宮…吾郎…」

イラドの素顔は、雨宮吾郎…彼の顔と瓜二つだったのだ。

 

「俺はイラド。お前のサポーターだ」

「…え?」

「星野アクア、俺が思い出させてやる…お前の理想を…!」

 

 

 

サポーターは任意の仮面ライダーを

支援・援助する権利が与えられる。

 

 

第二十八話「憧憬Ⅹ:君の理想を叶える為に」




次回

「いやー!取ってきたよ久々の大型版権!」
「ひと仕事して来たって顔だな」
「ホント…厄介だよ、推しは…」
「アクアくん…また一緒にお仕事出来るね」
「学習しないわね、黒川あかね」
「思い出したぞ……俺の理想…!」

第二十九話「憧憬F:次なるステージへ」
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