仮面ライダーギーツ【Mother and Children】   作:キャメル16世

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これは、星野アクアと浮世英寿が
まだ出会う前の物語──



間章 屹然 編
前編「屹然Ⅰ:アイドルの子」


「……星野愛久愛海(アクアマリン)…です」

「…凄い名前だね」

それは同感だ

この面接官とは気が合いそうだな

 

「……」

高校受験の面接当日。俺は妹の志望校である陽東高校、の一般科を受けていた

 

この高校の特色は、ふたつの科がある事だ

ひとつは一般科。俺が通うこととなる、普通の進学校のような制度のある科だ

そしてもうひとつが、芸能科。芸能関係に縁のある人物が多く卒業してきた実績のある、芸能に携わる人間であれば一度は耳にするであろう高校である

 

「ちなみにご存知だとは思うけど…」

「……」

「うちの高校の生徒の殆どがデザイアグランプリにエントリーしてるんだけど……星野さんはエントリーしてるのかな?」

「……いえ、まだ」

「そうですか……まぁ一般科希望ですからね。もしエントリーを希望でしたら、運営に問い合わせしてみてください」

「……はい」

 

デザイアグランプリ……

この国の芸能界に於ける、エンタメのひとつ

芸能人や役者が、仮面ライダーになってジャマトという怪物から世界を守っていくゲーム

そんなイカれた制度のある学校

 

だが、それでいい

 

「どうだった?」

「多分平気……そっちは?」

面接を終えた俺とルビーは廊下で談笑していた

面接当日ということもあり、当然ながら他校の生徒もちらほら見える。その中をくぐり抜ける在校生の姿も見受けられた

 

星野ルビーは、俺の双子の妹だ

だが、少々厄介な事にコイツにも“前世の記憶”があるようで、元々はアイのファンだったらしい

幼少期の頃、まだアイが生きていた時……

コイツは2歳に満たないにも関わらず、スマホを片手にアイのアンチとレスバを繰り広げていた。しかも多弁で

 

それからはまぁ…いろいろあった

いろいろありすぎて、今語れることは無い

 

「問題ない。万一弾かれるとしたら名前のせいだろうな」

「あはは!確かに、本名アクアマリンだもんね!」

「……」

「普段皆めんどくさがってアクアって呼ぶけど」

「……アクアマリン」

すると、俺達の傍を通った在校生のひとりが俺の名前に反応した

小豆色をしたボブの、ベレー帽のような帽子をかぶった女子生徒

 

「……アクア」

「……っ」

「星野アクア!?」

目をぱっちり開いたその童顔に、俺も一瞬戸惑った

 

「アクア!アクア!貴方星野アクア!?」

「…誰だっけ……」

俺の役者の頃の名前を連発する辺り、俺の知り合いなのだろうけど

すまないが覚えていない

なんとなく面影は感じるが……

 

「あっ、あれじゃない?」

どうやらルビーは覚えているらしい

ここはルビーの記憶を頼りとしよう

 

「重曹を舐める天才子役…」

「10秒で泣ける天才子役!」

前言撤回。ルビーの記憶を頼った俺が間違いだった

っていうかこのくだり、なんだかデジャブだな

 

「映画で共演した有馬かな!」

「あー久しぶり…ここの芸能科だったのか」

俺はここでようやく思い出した

 

有馬かな

俺が小さい頃、子役として初めて出演した映画があった。アイが出演した映画だ

彼女はその現場にいた共演者だった

 

当時の事は少ししか覚えていないが、なにか苦手意識が湧いていたことだけは覚えている

 

「良かった……ずっとやめちゃったのかと……やっと会えた…」

「……」

「入るの!?うちの芸能科!?入るの!?」

「いや……一般科受けた」

「なんでよ!?」

 

 

有馬かなとの邂逅の後、なんやかんやあって俺達は五反田監督の家を訪れていた

 

監督は俺が幼少期の頃から世話になってる人だ。今は俺は監督の弟子兼アシスタントとして時々足を運んでいる

 

「おー有馬かな!見ないうちにデカくなったなオイ!」

「いや……仕事はしてますよ…そりゃ子役時代に比べたらあれですけど……」

有馬かなと数年ぶりに対面した監督はストレートな言葉をぶつける。その「見ないうちに」というセリフは少なくとも有馬を傷付けたようだ

 

なんだかんだで監督のお母さんの押しもあり、夕飯も食べていくことになった有馬は、俺と監督と卓を囲んで手を合わせた

 

「でもショックだな…監督、親元で寄生虫してたんだ…」

「相変わらず大人に対する敬意がねぇガキだな!」

「いいなぁ、うちは両親が田舎に引っ込んでね、私一人寮暮らしだから。ご飯もいつもウーバー頼りだし」

「じゃあ金かかるだろ」

「大丈夫!貯金だけは子役時代の稼ぎで引く程あるから!」

「クソ、憎たらしいな……」

有馬かなは子役時代、「10秒で泣ける天才子役」として一斉を風靡した

しかもとある曲を出してオリコン1位を取った猛者でもある

ひと昔であれば、その名を知らない者は居なかっただろう

 

しかし、本人を前にして思うのも酷だが

最近ではテレビやネットではその名を目にする事は少なくなっていた

それを本人も自覚しているのだろう

時折それを自虐ネタのように披露していた

 

「ねぇ監督…アクアの演技やってる映像とか無いの?」

「あるにはあるけど──」

「見せんな。あれは気の迷いで黒歴史…自分に才能があると勘違いして酷い目見た作品だ…」

不思議と饒舌になってしまった事を自覚し、俺は黙って料理を口に運んだ

 

「だろうだ、見たいならこいつ口説いてやらせるこった」

「へぇ、そう来る?」

「やんねーよ」

「……今ね、私がヒロインやってる作品あるんだけど、まだ役者決まってない役あるんだ。偉い人に掛け合ってみようか〜?」

「やらん」

「えぇ!?」

盛大に驚くツッコミをする有馬。そんな驚く事か?

 

「なんて作品?」

「『今日は甘口で』っていう少女漫画原作のドラマ」

「…『今日あま』?」

「うん、知ってる?」

「いや、演技カジってる人間で知らねー奴モグリだろ。ド名作じゃねーか」

「興味ある?」

「…だから俺はもう演技はやらないって言ってる……」

「掛け合ったら案外スルッと決まっちゃうかもよ?Pのクラムさんには可愛がられてるから私!」

「……クラム?デザイアグランプリプロデューサーの?」

「…そうだけど?」

「……」

 

アイの遺した携帯電話は3台ある

仕事用とプライベート用。これらの携帯にはメンバーや事務所社員のログしか残っていなかった

アイは抜けているようで想像以上に用心深く、本気で俺達の秘密を守ろうとしていたのがスマホから分かった

 

問題はもう一台の携帯

これはアイが妊娠以前に使っていたスマホだ

 

バッテリーはとっくの昔に駄目になってて何世代も前の型でまだ使えるバッテリーを探すのは骨が折れたが、パスコード突破の手間に比べたら比較にならなかった

間違える度に30秒間操作出来なくなり、何桁のパスワードからもわからない

毎日時間を作って一つずつ

 

100通りを試すのに半日かかった

1000通り試すのに一ヵ月

毎日

毎日

毎日

 

4万5510通り目

このパスワードにたどり着くまで、4()()()()()がかかった

 

そのスマホには十数名の芸能関係者のメアドや電話番号がのこっており、その中で一際目立っていた

その名が……

 

「クラム…」

デザイアグランプリのプロデューサーにして、数多くの芸能活動に携わって来ている人物だった

 

「ねぇ、やろうよ!キャストも同年代ばっかだし!相手の男も女の子みたいな顔しててさ、可愛いんだよ!」

「やる。プロデューサーに連絡してくれ」

「えっ…!なんで急にやる気に……っ」

 

《──相手の男も女の子みたいな顔しててさ》

 

「えっ嘘……アンタそういう……」

「やってやろうじゃねぇか…」

「…アクアの演技楽しみ。ただ……多少問題のある現場だから覚悟はしてね?」

「……?」

 

 

これは後日の話ではあるが

俺の『今日あま』への出演が決定し、ルビーとミヤコさんが興味本位で現在放送中のドラマのアーカイブを見ていた

 

俺も横目で見ていたが、とてもじゃないがいい作品とは言えなかった

演出は良いが、原作に居ないオリキャラが何故か活躍しており

展開も大雑把で改変が多い

そして何より、演者のクオリティの低さ

 

棒読みである事は言わずもがな

いわゆる大根役者という者達の集まりだった

 

そこで一つ気になったことがある

これはルビーも、気付いていたようだが……

 

「ていうかロリ先輩ってさ…もっと演技上手くなかった?」

「……」

 

 

 

「うっさいわねーー!アンタの妹そんな事言ってたの!?死ねよあいつ!」

「相変わらずクチ悪いなお前」

カラオケで有馬にルビーの思っている事を伝えると、有馬は怒号と共に反論して来た

 

「名誉の為に言わせてもらうけどね、私ほど演技出来る高校生そうそう居ないから!」

「じゃあどうして今回こんななんだよ」

「……」

少し躊躇った有馬は諦めたように呟く

 

「今回のドラマはこれから売りたいモデルを兎に角一杯出してイケメン好きな女性層にリーチする企画なのよ…演技力は二の次。だけどそれじゃ作品が破綻する。だからこそ演技が売りの私をヒロインに起用してるワケ」

「それにしてはお前の演技ヌルくね?」

「抑えてるに決まってるでしょ!周りの役者は揃いも揃って大根役者ばっかり!!メインキャストの中でマトモに演技出来るの私だけなのよ!!こん中で私がバリバリやってみなさい!他の役者の大根ぶりが浮き彫りになってぶり大根でしょ!」

「…ぶり大根?」

ひとしきり絞り出した有馬はジュースのストローに口を伸ばす

 

「私だって全力で演技したいわよ。誰が楽しくてわざわざ下手な演技をするっていうの……でも、上手い演技と良い作品作りは別……」

ここで有馬の眼が変わったのを、俺はよく覚えている

 

「上手い演技をすれば良い作品になるかと言われればそうじゃない。確かにこの作品は企画からして売り手の都合が前に出過ぎてる。作品として面白くなりようがないわ……1話の撮影で原作者の先生が現場に来た時、あの失望した顔はキツかったわ。でも役者や裏方さん個人個人は精一杯やってて、見てくれる人や原作ファンの為に少しでも良い作品にしたい」

「……」

「せめて「観れる」作品にする。その為なら、へたくそな演技もする」

「自分の役者としての評価を下げてもか」

「……役者に大事なのってコミュ力よ」

「……っ」

これは、初めて有馬と共演したあの日

五反田監督が俺に教えてくれた事だ

 

「昔の私は自分の演技をひけらかして、確かに売れてやたけど他人を蔑ろにしてた。だから旬が過ぎればあっという間に仕事がなくなった」

「……」

「私より演技が上手い子供は居て、それでも私を使う意味、それが大事なんだって気付いた。さしずめ今の私は我を通さず作品の品質貢献に務める使いやすい役者。クラムPともつきあいが長くてね、今回も私がその辺弁えてるから起用してくれたんだよ」

「いつの間にか協調性なんか持つようになっちゃって」

「ふふん!私オトナだから」

「……」

本当に、有馬は変わったと思う

自分の過ちに気付ける事は、そう簡単にできる事じゃない

過去の自分と向き合った有馬は、“立派な役者”になったと思う

 

「まぁモデル共と張っても負けない顔の良さもあるだろうけど!」

「役者って自信家しかいねぇよな…」

「というわけで撮影は明日!来週オンエアだから、撮影後即編集即納品!本読みすっ飛ばして即リハ即撮影だからヨロ!」

「スケジュールもおわってんなぁ」

でも、本当にそれでいいのだろうか

 

「アンタの役の子がゴネて降りてリスケになって大変だったの。あんまりおいしい役じゃないから」

有馬は『今日あま』の台本を取り出して俺に手渡す

 

「だからこそアンタをねじ込めたんだけど」

「コネで役取って本読みもトバしし…またこのパターンか……ガキの時同じ事して散々言ってくれたよな……」

「懐かしいわねー。今度は私がやる側になるとはね…汚い大人になってしまったものよ!ハハハー」

「笑ってんじゃねぇよ」

「……でも、今なら監督の気持ちも分かる。アクアを誘った理由は、もう分かってくれたよね…?誰にボロクソ言われようとも、大根と言われても良い」

「……」

「お願い…私と一緒に良い作品を作って。アンタとなら出来ると思うの」

「……」

 

 

 

ダメな企画に演技の出来ない役者陣

だけど話を聞いてから改めて観ると、脚本と演出は役者に合わせてるのが分かる

駄目な演技でも「観れる作品にするテク」が、そこらで使われてる事に気付く

 

裏方は優秀

そしてヒロインはバリバリの実力派

 

「……なんかやりようはありそうだな」

 

 

 

陽東高校の生徒は一般科志望であっても、

デザイアグランプリへの

エントリーが可能となっている。

 

 

前編「屹然Ⅰ:アイドルの子」




次回

「台本は頭に叩き込んでるわよね」
「俺はデザグラにはエントリーしてないんだが」
「こうやって実力が評価される時期が来たのよ!」
「かなちゃんねー…使い勝手ラクで良いよね」
「ヒトリニサセネーヨ!」
「せっかくだから滅茶苦茶やって帰るか」

中編「屹然Ⅱ:漫画原作ドラマ」
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