仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
構文サブタイトルって結構好きなんですよね
オーズとかドライブとか、
それでは続きをどうぞ
「脚本……全部直してください」
「……」
スタジオに戦慄が走る。
アビ子の唱えた言葉が、GOAや雷田の胸にこれでもかと重いプレッシャーがのしかからせる。
「ぜ……全部って!流石にそれは…」
雷田が慌てて場を取り持とうとする。
「もうこの脚本でOK頂いて稽古にも入ってるんです!本番まであと20日ですし……」
「私は何度も直してくださいって言いましたよ。でも「実際動いてる所を見ればこの脚本で良いのが分かる」って言うから、本当に良いならOKですけどって言いました。でも良くないからOKじゃないですよね?」
「〜〜〜!!」
アビ子によるぐうの音も出ない発言に、雷田は言葉を失って固まっていた。
「先生…ご希望に沿わない脚本を上げてしまったことをまず謝らせてください」
「……」
「もちろん今からでも直せる所は直すつもりです。しかしですね…事前に何度かやり取りをさせて頂いて…私としては最大限意図を汲んだつもりです。ここからどう直せば良いのでしょう…」
「貴方がこの脚本書いた人なんですね……」
GOAの言葉に耳を傾けるでもなく、アビ子は彼に鋭い視線を送った。
「修正したい所は事前にお伝えしたはずですけど……読み取れてないんですね。どう直せばいい?本当に『東京ブレイド』読んでくれてますか?」
「勿論読ませて頂いてます!そのうえで原作の魅力を引き出す為の脚本を…!」
「読んだ上でコレなんですか?」
アビ子はGOAが書いた台本を行き良いよく開き、その手には力が入っている様子だった。
「貴方が上げてくる脚本…このキャラはこんな事言わないし、こんな事しないってのばっかり……」
込み上げる感情を露わにするアビ子は、怒号とも言えるそれをGOAに浴びせる。
「別に展開を変えるのは良いんです。でもキャラを変えるのは無礼だと思いませんか!?
「…それはデザイアグランプリというコンテンツの性質上……いえ、修正箇所頂ければ対応も……」
「だから全部!どれだけ言っても直ってないんですよ…!私がナメられてるだけなのかなと思ってたら、脚本家の方が純粋に理解出来てないみたいですね。ちゃんと原作読んだ上でこれって言うなら……」
「……」
「この人ちょっと、創作者としてのセンスが──」
「先生!アビ子先生一旦ちょっと!」
「ムゥー!!」
「……」
アビ子は吉祥寺とマネージャーに連れられ、別室へと連行された。
連行されている間もギャーギャーと騒いでおり、その声はGOAの耳にも重く響いた。
「ちゃぶだい返しかしら」
「今日は稽古バラシだな。帰る」
「……」
英寿は叫び湧くアビ子を見て、こう思うのだった。
……ガキみたいな奴だな…
「今回の舞台、一筋縄では行かなそうだね。デザイアグランプリ以前の問題だ」
「…どういう意味だ?」
すると、突然クロメがやって来て解説をし始めた。
どうやらあまり演劇を知らない英寿への助言をしに来たらしい。
「今回のメディアミックスにあたって、制作側がデザイアグランプリの要素も取り入れたいと腰を入れて来た。デザグラの知名度を利用して地に足を付けるものにしたかったからだろうね」
「…今回のデザイアグランプリは何をするんだ?」
「……文字通り、君達には仮面ライダーになって戦ってもらう。まぁ詳細は省くけど、原作者はそれが許せなかったみたいだね」
「なんなんですかデザイアグランプリって!?ここのシーン、戦いがメインになりすぎてキャラの心情が疎かになってる!ほらココの修正とか、聡明さが消えて馬鹿な女にしか見えない!」
「……っ」
「もう私に全部書かせてください」
「いや、ちょっとそれは…!編集部的にもアレでしょう?」
「絶対やります。じゃなきゃこの劇の許諾取り下げます」
「制作側と原作側の意図が食い違うなんて事は、どの分野においても言える事だよ。原作者と脚本家が密に連絡を取ってるわけじゃない、その間には多くの大人達が仲介している」
多くの企業が関わる以上、原作者と脚本家が直接かかわり合うことはほぼ無い。その仲介に編集者や制作側の意図も組み込まれてしまう。
「そうなってしまえば、最初に原作者が伝えた修正箇所を、沢山の仲介の末、間違った解釈で脚本家に伝わってしまう事もある。言わば伝言ゲーム…デザグラなんかよりよっぽど厄介なゲームだよ」
「……」
「私たち運営も、一度手を出しちゃった以上足引けないし、ここは制作側に上手くやってもらうしかないね」
「……待て」
「……」
英寿の元から去ろうとするクロメを、英寿は停めた。
「どうしてそんな事を俺に伝えた。お前には関係ない筈だ」
「……さぁ?ただ私はナビゲーターとしての使命を果たそうとしてるだけ。君達仮面ライダーを導く……それじゃ、あとはがんばっ」
4次元ゲートを開いたクロメはスタジオから姿を消した。
最後のクロメの言葉を思い出し、英寿は思い返すのだった……
「……使命…」
「アビ子先生の意向がこうらしいので…そういう形には出来ませんか?」
「いやでも脚本家の立場も……」
「私ギャラいらないんで、名義もそのままで、脚本家さんには普通にギャラ払ってください。でももう関わらなくて良いです」
「……」
アビ子と雷田達の会話は、廊下に居たGOAやアクア、そして後から合流した英寿達の耳にも届いていた。
「本当にガキみたいな奴だな…」
「漫画家はこだわり強くて社会性に著しく欠けてる人多いから……もちろんアビ子先生は極端な方だけど……」
吉祥寺によるフォローも虚しく、GOAの表情は曇ったままだった。
「良いんですか、好きかって言ってますけど。このままだと降ろされますよ」
「仕方ないよ。脚本家の地位って君等が思ってるよりずっと低いんだ。上の人がなんか言ったら簡単に首をすげ替えられる……こんなのはね、よくある事なんだ」
「……」
「良いもの作ろうと真面目にやっても原作者の趣味と少し違えば憎まれ嫌われ……つまらなかったらファンから戦犯のように晒し上げられて、面白かったら全部原作の手柄。プロデューサーの趣味を捻じ込まれて大手事務所には
「……」
「…リライティングってのは、地獄の創作だよ」
GOAの溜めたものを一気に吐き出すようなため息は、吉祥寺の心にも大きく去っていた。
その後の話だが、アビ子の意向を雷田から正式に伝えられたGOA。
しかし彼にも納得出来ない部分があった。
「クレジットからは僕の名前消してもらえませんか?先生が書き直したものをあたかも自分の脚本みたいに出すのは僕にもプライドがあるので……」
「…もう表にスタッフは発表しちゃってるし……ポスターもパンフも刷り直しでコストがなぁ……」
雷田は頭を抱えていたが、熱意を持った眼でGOAを見つめた。
「僕はGOAくんの脚本方針は間違ってないと思っている!今回のも良い脚本だと胸を張って言えるよ」
雷田は精一杯の気持ちを込めて頭を下げる。
「どうか今回は……事故にあったと思ってどうか嚥んでくれないかな…」
「……分かりました」
「……」
「クレジットはままで構いません。今度メシ奢ってくださいよ」
「ほんと申し訳ない!なんでも好きなだけ食ってくれぇ!」
雷田の必死の説得は上手く行き、GOAは苦笑いのままスタジオを後にしようとした。
「本当にこれで良いと思ってるのか?」
「……君は…」
だが、そんな彼に英寿が釘を刺す。
「俺はあいにく演劇とか舞台とか、脚本がどうのこうのに対しての知識は無い」
「……」
「…だが、これまで見てきたほとんどの創作物には、何かしらの熱意や情熱を感じていた。これを創った奴は、きっと何かしらの理想があるに違いない、ってな」
「……何が…言いたいのかな…?」
GOAな純粋な疑問もさて置き、英寿はGOAに詰め寄った。
「お前の理想はなんだ?」
「……っ」
「お前もこの世界の人間なら、デザイアグランプリで見てきた筈だ。理想を願う力を、叶えようとする熱意を、戦う覚悟を」
「……僕は…デザイアグランプリとは関係ない」
「じゃあ何故今回の脚本に、デザグラの要素を加える事に同意した?わかってた筈だ…あの作品にデザグラの要素を入れれば、確実にノイズになる。ましてや原作者の意向に逆らうんじゃないかってな」
「……」
GOAは英寿の言葉にぐぅのねも出ないといった様子だった。
「それはお前が、デザグラで見てきた仮面ライダー達の思いを、自分の手掛けた作品を通じてみんなに伝えたいと思ったからじゃないのか?」
「……っ」
「……」
彼の言う通りだった
僕はデザイアグランプリを楽しむファンの一人で、理想を叶えようと奮起する仮面ライダー達をいつも陰ながら応援していた
今回の舞台の話が舞い込んできた時、期待と不安が混じりあったままオファーを受けた
デザイアグランプリは戦いをメインとするエンターテインメント
『東京ブレイド』は戦いの中に、登場人物達の心情を色濃く描写する傑作
両者共に完成された創作物。これを僕の手で汚してしまうのではないかと
『東京ブレイド』の原作は…本誌で1話から読んでいる。他の仕事のスケジュールをずらしてまで受けた仕事。良い舞台になるように、魂込めて脚本書いた
デザグラの魅力と『東京ブレイド』の魅力を両方伝えたいが為に、どんな深夜にリテイク飛んできても秒で作業した。無茶な注文にも熱出るほど頭捻って対応した。寝る間を惜しんでタイムリミットギリギリまで粘った
『お前の理想はなんだ?』
あぁ…
僕の理想は、デザイアグランプリも『東京ブレイド』も、両方の良さや魅力が世間に伝わる事だ
その為に…
その為だけに……
「……」
頑張ったつもり…なんだけどな……
『この人ちょっと、創作者としてのセンスが──』
「…………ちくしょぅ…」
「というわけで、いったん脚本が白紙に戻った。原作サイドとの交渉の後、新しい脚本が上がり次第連絡をする。それまで稽古は休止とする」
金田一の号令でスタッフ達は解散となった。
「……さて、これからどうしたもんか」
途方に暮れた英寿はその場に立ち尽くしてしまった。
「……っ」
ウルスとカメレオは…これからデートか?
すると、2人で出かけに行くアクアとあかねの姿を見つけた。
「……」ムッスー
「……」
そしてその姿を見て不機嫌そうな顔を浮かべるかな。
「あいつら、今からステアラに行くんだって」
「…ステアラって何だ?」
「はぁ?あんたステージアラウンド知らないの?知らないでこの劇の稽古やってたのぉ?」
「な、なんだ…?」
この感じ、またもや俺の無知が出たのか…?
「仕方ない、これ挙げるわ」
「……チケット?」
「今やってるステアラのチケットよ。本当は感覚掴むために取ったけど、あんたが使った方が有効活用出来そうね」
マーリは俺に1枚のチケットを手渡した
舞台『SMASH・HEAVEN』の一般チケットだ
そういえばさっき、カメレオ達も同じようなチケットを持っていたような……
「なるほど。つまり、俺にあのふたりのデートを邪魔してこいと」
「なっ…!誰もそこまでは言ってないでしょう!?」
「ふっ…本当にそうか?買い出しに付き合った日も、あのふたりを見つけて颯爽と駆けつけたのはお前だろ」
「あっ…あの時は注意喚起をしようとねぇ…!」
「ははっ…分かった分かった」
「…むぅ…!分かったような口をぉー…!」
俺ににからかわれたマーリは頬を膨らませて怒る
どうやらカメレオ達と考えている事は同じらしく、同じ劇を、しかも同じ日に見に行こうとしていたとこを見るに、やはりふたりは似た者同士なのだろう
「……」
だからこそ、ぶつかり合ってしまうのだろう
こんな事を考えていても時間の無駄だと、俺は早速ステージアラウンドなるものを見に行く事にした
まぁ、言うてもただの演劇だ
そこまで期待するほどのものでも無いだろう…
演劇終了──
「……」
ジーン。今ならお前の言っていた事が痛いほど分かる
感動
久々に得られたその感情は、俺の心を刺激した
「……」
しかし、良く考えられた舞台だった
ステアラの特徴の一つに、幕が液晶になっているというものがある。これにより映像演出をふんだんに使用出来る
そして何よりも驚いたのが、客席が360度回転した事だ
これから舞台そのものをあらかじめ幾つか準備し、場面転換を素早くシームレスに行える
この舞台は、このステージの特徴や強みをフルに利用している。これを『東京ブレイド』の舞台にも使えれば……
「……お」
そんな事を考えていると、ステージの外の休憩スペースに居たウルスとカメレオを見つけた
ウルスの顔がいつもより緩い。もしかして、奴も俺と同じなのだろうか……
「やぁやぁご両人」
「雷田さん」
「どうしてここに?」
デートが一段落したあかねとアクアの間に雷田が押し寄ってくる。
「どうしてって、この舞台は僕の担当だからね。ちょっと落ち込んだ時は出て行く客の顔を見るのさ。客の顔は素直だ…楽しんで貰えた時は笑顔だし、イマイチだった時は澄まし顔。見てたらやる気に繋がるからさ」
雷田は改めてステージアラウンドの外で談笑するお客の顔を見渡した。
どの客も満足そうな笑顔で、連れて雷田も笑顔になる。
「その点、アクアくんの顔は良かったなぁ…おじさんも嬉しくなっちゃったよ」
「えー見たかった!どんな顔してたの?もっかいしてよ!」
「……いやだ」
「そいつは俺も見たかったものだなぁ」
「エースくん!?」
タイミングを伺ってやってきた英寿に驚くも、雷田は更なる笑顔を見せる。
「いやいやぁ!英寿くんも負けず劣らずの顔だったよぉ!」
「えー!エースくんのそんな顔想像出来ないなぁ〜!エースくんもやってみてよ!」
「……断る」
「はっはっは!なんだかんだで渋谷クラスタの3人が揃っちゃったね。まぁ君達の顔を見つけたからさ、挨拶がてらに追いかけて来たけど……お邪魔しちゃったかな?」
「いえいえ、とんでもないです!」
雷田は改めて申し訳なさそうにふたりを見る。
「雷田さん、脚本の件大丈夫なんですか?」
「…んー…今日も出版社側とやりあって来たんだけどね、やっぱり原作者の先生が頑なみたいでね。脚本のGOAくんは降りてくれと」
「……」
「先生直々に脚本を書き下ろすって言ってね」
「無理だな。今日の舞台を見て思った……あのクオリティを、ステージの何もかもを知らない原作者がかける物じゃない。いくら売れっ子漫画家とはいえ、舞台脚本の素人に為せる技じゃない」
「…まぁ……そのへんはこっちがフォローするけどね」
雷田もその意見は分かりきっている筈だ。
だからこそ、否定も肯定もしない。
それは、彼も舞台に携わるひとりのプロであるが故だ。
「気付いてる?今日の舞台の脚本もGOAくんが書いてたんだよ」
「……っ」
「優秀なんだよ、彼は。演劇が心から好きで、勉強熱心でリライトにも根気強く付き合ってくれるし、彼が書いた脚本の舞台は、いつも客がニコニコでホールから出て行く。本当に……降ろしたくなんてなかった……」
雷田は心からの言葉を零す。
彼の舞台に対する情熱や、GOAに対する想いがひしひしと伝わって来る。
「どうにもならないんですか…?」
「きびしーよー!?大手出版社を相手にどうこう出来る程、僕等は強くないからね!」
「……でも…」
「……」
「どうにか出来るのは、雷田さんだけですよ」
「……っ」
アクアの言葉に、虚を突かれたような様子の雷田。
「それは…そうなんだけどね……」
きっとこの答えも、彼にはわかっていた筈だ。
わかったうえで、その気持ちに蓋をしてしまっていた。
「GOAさん…このまま降ろされちゃうのかな……」
雷田と別れ、帰路についていた3人は、先程の雷田との会話を思い出していた。
「私も原作視点で見たら、GOAさんの脚本に不満が無いと言ったら嘘になるけど…全体的に見たら良い脚本だと思うから従ってたのに…」
「まぁな。原作者にも脚本家にも主張がある。問題はそこに存在するディスコミュニケーションだ」
「まるでデザグラの実態みたいだな。互いの理想はより良い世界の為にある。だからこそぶつかり合う…あいつらには、あいつらの戦いがある…という事だ」
「でもそこさえクリア出来れば、より良い舞台になる可能性すらある。まぁ今日は良い舞台見せてもらったしな……」
「…何か考えがあるのか?」
「まぁ…感動代に、ちょっと小突く位はしておくか」
スマホを開いたアクアの画面には、吉祥寺の名前が記されていた。
第三十一話「爛漫Ⅱ:脚本家というもの」
次回
「皆いらっしゃーい!」
「運営として、そんな危険な野良ジャマトを放っておく訳にはいかない」
「この世のクリエイターの9割は三流。信じられるのは自分の才覚だけ」
「それを言えるのは、貴方が天才だからよ」
「新開発のバックルだ。君のポテンシャルを上げるのには丁度いいと思ってね」
「ありがたく使わせてもらう」
「ほぉ…こいつは燃えるなぁ…」
第三十二話「爛漫Ⅲ:漫画家というもの」