仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
「……全く…とんでもない脚本が上がってきたわね。説明台詞がゴリゴリ削られて、やたら「動き」だけでどうにかしなきゃいけないシーンが多い……」
紆余曲折あった原作者脚本家のバトルも一段落し、シナリオも無事に完成!
稽古は本格的に再開しました
「
「うんうん!これなら「鞘姫」の解釈は私と合ってる!それどころか新しい一面も発見出来る脚本で……ふふふ、これは考察のし甲斐がありそうだなぁ…」
「でもこれはやるの難しいわよぉ……」
「……フッ」
「俺は問題ない。もともと物足りないと思ってた位だからな」
新しい脚本を目に、エースくんや姫川さんは余裕そうな表情をとり、私もこの脚本には肯定的な意見が多い
「私はこっちの方が得意ー!」
「やっぱり演技は身体で語ってナンボでしょ!」
「GOAさんの脚本のクセ、出てるなぁ」
「まぁ俺等はあの人の本の舞台、何度か出てて勘所は分かるし、問題ないけど」
「『劇団ララライ』の真のトップが誰か、証明するチャンス来たな」
ララライの皆も新しい脚本にノリノリです
だけど……
「…マジかぁ…こんなん出来る気しねぇ……本番まであと半月…間に合うのかこれぇ……」
「……」
「アクアにとっちゃ、こんなの朝飯前なんだろうけど」
「…いや、どうだろうな」
「……?」
メルトくんとアクアくんだけは、不安そうな表情を取っていた
その後、早速稽古が始められ、各々新たな台詞と立ち回りに慣れながら順調に進んでいた
「ストップ」
だけど、私とアクアのシーンの稽古中、金田一さんからのストップがかかった
「「刀鬼」、ここはお前の一番の見せ場だ。もっと本気で」
「…すみません」
「……」
「物語のクライマックス、戦闘の最中重傷を負い倒れた「鞘姫」。絶望する「刀鬼」。だが奇跡的に目覚めた「鞘姫」を目にして、「刀鬼」はどういう感情を抱く?」
「…不安からの解放……強い喜びと希望……でしょうね」
金田一さんの問いかけに、アクアは適当な回答をした
「そうだ。お前は確かに原作通りの演技をしている……が、舞台はもっと強く感情を出さなければ客席に届かない」
「……」
「もっと感情を引き出せ。ここは感情演技のシーンだ」
「まぁまぁ…アクアくんは舞台初挑戦だし、バランス分からないよね」
「……」
休憩中、あかねはアクアの隣に座り労いの言葉を掛ける。
「ちょっとずつ合わせていけば大丈……」
「甘やかしちゃダメ」
「……」
「アクア、アンタ感情演技した事ないでしょ?」
すると、そこに厳しい言葉をかけに来たかながやって来た。
「演技って結局人格が出るのよね…アクアは普段から感情を表に出さない。だから演技にも感情が出てこない。どこかで見た見本を、見本通りに再現する事しかして来てない。これはアクアの性質の問題」
「分かった様な事言うんだね…」
「そりゃそうよ??この中でアクアと一番つき合い長いの私だし?そりゃもーちーっちゃい頃からの知り合いだしぃ?」
「なっ!?」
「実質幼なじみみたいなぁ?最近知り合ったどこぞのビジネス彼女とは話が違うのよぉ」
「…ムムゥ…!」
「いうて再会したのここ最近だろ……」
だけど……分かってる…有馬の言う事は全て正しい
俺は感情演技が出来ない
感情を高ぶらせ、涙を流す演技なんて以ての外
「……」
言いすぎたかも…でも私が言わなきゃ誰も……
「有馬はどうやって泣き演技をしてるんだ?」
「…っっ」パァァァ…
アクアにコツを聞かれたかなはこの上ないといった表情をとる。
「んー…感情泣きとか体泣きとか手法は色々あるけど……子役の世界でよく使われてるのは……」
「……」
「アクアくん、もしお母さんが死んじゃったらどうする?」
「…っっ!」
「ってやつ!目の前の物を大切なものと思い込んで泣く手法ね!今回の場合、「刀鬼」は生きてる「鞘姫」を見て喜びに包まれるわけだから…まぁ嬉しかった事を思い出しながら演技すれば良いわけよ」
「……」
「アンタだって、嬉しかった事の一つや二つ…あるでしょ?」
「……」
嬉しかった時の記憶……
『あー違う違うぅ!』
『そこ長尺の方が素人が頑張って作った感出るって!』
『ここで俺達の曲でしょ!』
『バーンって感じで行こうぜ!』
『2人は恋人の役…絶対キャスティングした人狙ってるよねー』
『なんでもぉ!相談してよぉ!』
『ごめ……』
「……」
『そうよ!アンタとするのが初めて!一番最初』
『もしかして私のファンなんですか?』
『えーうそー』
『アンタも哀れねー!駄目よーああいうの本気にしちゃ!』
「……」
『……テラス!…楽しんでこい!』
『…うんっ!』
『エース!そこを退きなさい!今度は私達が相手よ!』
『仕方ない、ハイライトは譲ってやるか』
「……」
『じゃあ私は、お兄ちゃんから教えてくれるまで聞かないようにするね!』
『あっ!もしかして彼女が欲しいとか!?』
「……」
彼の嬉しいと思った瞬間。楽しいと思った瞬間。
それはありふれた、何の変哲もない日常の記憶だった。
だがその日常の中で、彼は小さな喜びを見出し、いつしかそれは常に身近にあるという事を知った。
この16年で、彼はまたひとつ成長したのである。
人は変化を恐れる生き物だ。しかし、人は無意識のうちに変わっていくものだ。
彼もまた、周りの人間との関わりで、綻びを覚え……
楽しんでるんじゃねぇよ
「……っっ!」
しかしその綻びは、彼の内に秘める記憶を呼び覚ます。
忘れるな…
お前は救えなかった
目の前にいるのはサポーターのイラドか…
はたまた雨宮吾郎本人か…
お前にそんな権利は──
突如彼の脳内に流れる、過去の記憶。
脳裏に焼き付いた、淀んだ世界の光景。
「……うっ…!」
星野アイの死の記憶が、今まさに彼の中で再起した。
「アクア!?」
「アクアくん!?」
「…っ!?」
倒れ込むアクアに、かなとあかねが駆け寄る。
英寿もすぐに気にかけようとするも、視界の端に映ったものに意識を引っ張られる。
「おい、何だ…?どうした…!?」
「……大丈夫です…ただの立ちくらみです…」
何とか意識を保っていたアクアは、ふらふらの身体を起こして立ち上がる。
「落ち着くまでちょっと休んできます……」
「……」
誰にも、彼の苦しみは解らない。
だがひとつ心当たりのある英寿一人は、みんながアクアに注目する中、こっそり裏口からスタジオを後にする。
「……っ…おい!」
英寿は廊下を出てスタジオからは離れた通路まで来た。
そしてそこには、予想通りの人物が立っていた。
「どうしてお前がこんな所にいる…!」
「……」
「イラド…!」
アクアのサポーターを名乗っていたイラドが、数ヶ月ぶりに姿を現したのだ。
「ただの見学だ。推しの稽古を見に来て何が悪い?」
「…あいつに何をした?あれはお前がやったんじゃないのか…!?」
「……」
イラドはなんの事だとでも言いたげな顔をしているが、確信犯だ。
「…あいつはもう、前を向きかけてる。幸せを求めようとしているあいつに、これ以上何を求める…?」
「……言った筈だ。奴の幸せは復讐の先にある。母親を死に追いやった犯人がのうのうと生きている中で、自分だけ幸せになろうとする方が間違っている」
「……」
「……だから、思い出させてやったんだよ」
「……っっ!!」
突如、英寿は頭を抱え苦しそうにうずくまる。
「ぐっ…!」
何だ…!?
これは一体…!?
『私の事は忘れて……それが幸せよ……』
『母さん…!』
『今日から貴方は仮面ライダーです!』
『知ってるよ』
突如として、英寿の中に記憶が流れ込んで来る。
『タヌキだってやる時はやるんだよ!』
『最後の最後まで戦う。私らしく生きるために!』
『たとえ死んでも、お前をぶっ潰すっ!』
それは以前の世界にいた時の記憶。
そして、それ以前の転生を繰り返していた時の記憶も混ざっていた。
「俺のレーザーレイズライザーに込められた力は、任意の相手の記憶を覗き見る力…そして、対象の人物の記憶を呼び覚ます事が出来る」
「…記憶を…呼び覚ます…?……うっ…!」
「お前には2000年分の記憶がある。一度に大量の記憶がお前の中に流れ込めば、お前はしばらく動けない。自分の人生の愚かさを知るがいい」
「…っ…ま、待てっ!」
「……」
苦しむ英寿は、頭を抑えながらも去ろうとするイラドの足を掴んだ。
「……あいつはっ…お前の……思い通りにはならない…ぞ…!」
「……どうかな」
「…ぅあっ!」
しかし、イラドによるフラッシュバックは英寿を容赦なく苦しめる。イラドの足を掴んだ手も、簡単に振りほどかれてしまった。
「……クッ…!」
『英寿!』
『エース!』
『ギーツ!』
『えーす!』
『英寿っ!』
『ギーツっ!』
かつての仲間達の彼を呼ぶ声が反芻する。
『八雲栄守!』
『
『Ace…!』
そして前世の彼を呼ぶ声も響き渡る。
まるでデタラメなアニメの総集編でも見るかのように、英寿の中には延々と記憶だけが流れ込んで来る。
『……うふふ…可愛いっ…!』
「……っっ!」
そして、それは彼にとって忘れたかった記憶のひとつ。
『可愛い双子の赤ちゃん……そうね…今日から貴方達は、「エース」…そして──』
生まれ変わった彼の母親は、決まって彼に“エース”という名を付けた。
その時も、彼の母親はエースという名を付けた。
彼は愛されていた。
真の意味での母親ではないが、それでも彼は愛されていた。
だからこそ、あの日の記憶は未来永劫忘れておくべきだった
『…………エース……』
暗い部屋
腹から血を流し倒れ込む母親
血塗られた包丁から垂れる一滴の血
俺の2000年の記憶の中で、一番忌々しい記憶だ
『…………どうして…』
「……ハッ!」
次に目を覚ました時、俺はベッドの上にいた
どうやら運び込まれたようだ
息を切らし、先程までの状況を整理しようとする
「やっと起きたの」
「…マーリ……」
横を見ると、マーリが腕を組んで俺を見ていた
どうやら起きるまで待っていたらしい
「ずっとうなされてたわよ。悪い夢でも見たの?」
「…悪い夢……そうだな……」
「……はぁ…アクアといいエースといい、一体何が起こってるのよ…」
俺が黙っていると、マーリは軽いため息を吐きながら不安を零した
「…ウルスはどうした…?」
「……監督の所よ」
「…カントク…?」
『五反田監督。アクアの師匠みたいな人よ』
「……」
かなの紹介通り、英寿は五反田の家を訪れチャイムを鳴らした。
「はーい……あれ、エースくん…!」
「…よぉ」
事前にあかねも五反田の家に来ている事を知らされていたとはいえ、まるで新妻のような立ち振る舞いだ。
「ウルスは居るか?」
「奥の部屋で寝てるけど……」
「…お、なんだ?今度はアクアのお友達か?」
すると、奥からまたひとりやって来る。
若干のロン毛の無精髭の中年は、頭をかきながら玄関までやって来る。
「…あんたがカントクか?」
「
「……フゥ…」
ベランダで煙草を吹かす五反田。
英寿とあかねはリビングのソファで彼の言葉を待っていた。
「……今回みたいなのは別に初めての事じゃない。あいつは昔、そりゃ酷い事件に巻き込まれてな…昔の事を思い出すとたまにああなるんだ。今回は重傷みたいだけどな」
「PTSD…心的外傷のフラッシュバックって事ですか?」
「んだ」
五反田はアクアの症状に関して説明するが、ここで英寿の心当たりが的中した事も思い出す。
「おそらくそれだけじゃない。あいつは他の奴に無理やり過去の記憶を呼び覚まされた。それが原因だ」
「…どういうこと?」
「……あいつのサポーターを名乗る奴に会った。そいつは俺にも記憶を見せてきて、その影響で俺もな…」
あくまで倒れたとは言わない。これは彼のプライドの問題だ。
「んじゃ、そいつが居る限りあいつのあの症状は完治しねぇな」
「……」
「…まぁ…そりゃ忘れられねぇよな……俺ですら多少は引きずってるんだから……」
「……」
英寿はここで、五反田もアクアの過去を知っている事を悟る。
「俺は仕事してっから、様子見ててやってくれ」
「……」
五反田は自室に入り、あかねはアクアの居る部屋へと向かう。
「……エースくん?」
「…先に行っててくれ。俺はあのカントクと少し話してくる」
「あ、うん…」
英寿はあかねを置いて五反田の作業部屋へと入り込む。
「……」
「…ん?俺になんか用か?」
「…あんたはあいつの過去を知ってるのか?」
「知ってるも何も、あいつをガキの頃からお守りしてたのは俺だしな。それなりの事は知ってるさ」
やはり、想像通りだ
「あいつの母親の事もか?」
「……誰から聞いた?」
「本人からだ。どうもあの兄妹は、俺に秘密事は出来ない様子でな」
「…ほぉ……」
五反田は煙草の火を消すと共に、体勢を英寿へと向けた。
「あいつが俺より懐く相手が居るとはなぁ」
「……」
「個人的にお前に興味が湧いて来た。少し話そうか」
「…好都合だ」
鼻を突く錆びた金物のような血の臭いが、どうしても忘れられない
少しずつ冷たくなっていく手の感覚が、いつまでも頭から離れない
お前がもっと注意していれば…
身を張って守っていれば……
「……アイ…」
息苦しそうに眠るアクアは、そう寝言を零す。
しかしそれはある者に聞かれてしまう。
「アイ……」
あかねはその名を反芻する。
「アクアくんが信奉する14年前に亡くなったアイドル。アイはアクアくんと同じ事務所で、同じくアイドル活動をしている妹は『B小町』を復活させた」
あかねの中で次々と事実が繋がって行く。
「兄妹共々アイに強い執着。心的外傷、星野アクアが子供の頃に巻き込まれた事件。カウンセリング。アイの殺人事件。複数犯の可能性。同居してる『苺プロ』の代表の名前は斉藤ミヤコ。養子と里親。実の父親。兄妹が星野性を使用する理由……」
『アイには実は隠し子が居る……とか』
「……アイの苗字は公表されていない…」
全てが繋がったその時、彼女の中の彼へのイメージが一変する。
「……ア…イ…」
「……」
「……っ…」
目覚めたアクアは、最初に目に映った光景に疑問を持った。
「…あかね」
「……」
「……どうして泣いてるんだ?」
あかねは声を殺しながら静かに涙を流していた。
「ちょっとね…怖い想像しちゃった……もしそうだったらって考えたら、悲しくて……」
「……」
「誰にも言えずに、孤独だっただろうなって……」
「…っ」
呆気に取られていたアクアは、いつの間にかあかねの腕に包まれていた。
「私は、何があってもアクアくんの味方だよ…!」
「……」
「辛い事は、一緒に抱えてあげるからね……」
「…何の話だよ」
「……ううん…私が考えた、設定の話…」
あかねはその後も、アクアの許す限り彼を抱き抱えた。
彼の苦悩や孤独を背負う事を近い、彼女はただひとり愛する者の為、覚悟を決めたのだった。
「……」
そんな彼等の会話を、ドアの反対側で聞いていた英寿もまた、彼の…彼なりの覚悟を決めるのだった……
第三十四話「爛漫Ⅴ:再起する記憶」
次回
「もし……俺の目的が人を殺す事だったらどうする?」
「私を見殺しにする気?カレシなのに」
「じゃあやるしかねぇな?感情演技」
「やっぱすげぇな、英寿は…」
「デザイアドライバーのレプリカだよ」
「頼む…俺と真剣に勝負してくれ!」
第三十五話「爛漫Ⅵ:キツネもどき」