仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
「…ふ〜ん〜…ふふ〜…」
エプロン姿に着替えたあかねは、テキパキと料理をしていた。
下ごしらえは去ることながら、その所作からは料理好きの一面も伺える。
「おいしいわねぇ!」
「やたら手際も良いし、普段からやってるのか?」
「お母さんと一緒に料理教室通ったりしてて…」
「アクアくん!この子は放しちゃ駄目よォ!おいしいご飯が食べれるのは幸せな事なんだからねぇ!」
この腕前には五反田の母も感服する程だった。
「えへへ…」
「……」
「…ん?食わねぇのか?」
「あんまり食欲が……」
ご飯に手を付けないアクアを目に、五反田は疑問に持つ。
すると、そんな疑問も他所に誰かの箸がアクアの皿に伸びる。
「要らないなら俺が食うぞー」
「やめろ…!ってかなんであんたまで居る…!」
「お前の様子を見に来てくれたんだよ。優しい奴じゃねぇか」
「あ…そうか……」
「……」
アクアはここで察す。英寿が彼に伝えようとしている事があると。
「はい、あーん」
すると立て続けにあかねからのあーんが来る。
「子供扱いすんな…」
拗ねたアクアはようやくご飯にありつく。
そこからは先程の言葉が嘘のように箸を伸ばしていた。
「……」
アクアくんの助けになろう
君が私を助けてくれたみたいに
私も君を支えたい
「…へぇ…五反田監督のお弟子さんなんだ」
「まぁ、結局こうして役者の仕事取ってんだから、最初から役者一本でやっときゃ良かったのにな」
「観たいです!アクアくんが出てるやつ観せてください!」
「…俺は良いけどよ」
五反田は恐る恐るアクアの顔を伺う。
「別に良いけど、俺が居ない所で観てくれ」
「おっ…」
「やった!」
部屋を後にするアクアを、五反田は驚いた表情で見た。彼の心境の変化に驚いた様子だった。
「…で、何かあったのか?」
「……」
ベランダまでやって来たアクアは、待っていた英寿の横に並んだ。
「お前のサポーターに会った。あの時スタジオに来てたんだ」
「…なるほどな」
「お前はあいつに記憶を見せられた。それでさっきみたいになっちまったんだろうな」
「……」
英寿は再びアクアの様子を伺い、少し思い詰めるような表情をしている事に気が付いた。
「…で、これからどうする?」
「……何が」
「お前のサポーターがちょっかいを出す限り、お前がこの舞台で本領を発揮する事なんて出来るのか?見たところ、あいつは遠距離からでもお前に記憶を見せつける。それも何度もな」
「……」
「…おそらく、奴は初公演の日にも現れる筈だ。どう対策するつもりだ?」
「……」
アクアは英寿から視線を外し、星空を眺め始めた。
「…別にこの舞台が全てじゃない。このまま流れに身を任せるのも……」
「じゃあアクアくんはどうして演劇やってるの?」
「…っ」
「……カメレオ…」
アクアが思い老けた発言をしようとした時、ベランダにあかねが入って来た。
「スターになりたいから?お金の為?特別な存在になりたいから?」
「…別になんだって良いだろ」
「良くないよ、大事な事だよ」
「…あかねはどうなんだよ」
「楽しいからやってる」
「……そんな感じだよな」
あかねは臆せずアクアを詰める。
「俺がどうして役者をやるかなんて、言っても理解して貰えないし、言うつもりもない」
「…ムゥー…またそうやって…アクアくんは人とのコミュニケーションが大事って言う割に自分自身は凄く閉じてるよね。そういう所なんじゃないですかぁ?」
「……」
あかねの言葉に納得する英寿。
すると、アクアの形相がみるみる変わっていった。
「…だったら、もし……俺の目的が人を殺す事だったらどうする?」
「……」
「…っ」
ウルス……
「芸能界の上に目的の人間が居て、そいつを殺す為に上に行きたい……そう言ったらどうする?」
アクアの脅し半分の言葉を受けたあかね。
しばらくの間が開き、彼女は目の輝きを失いながら答えた。
「一緒に殺してあげる」
「……」
これに呆気を取られたのはアクアだけじゃない。その肝の据わり具合に英寿でさえも驚いていた。
「そんな事気軽に言うなよ」
「だってアクアくんが殺したいって思う人でしょ?多分それなりに理由があると思うんだ。正しい正しくないじゃないよ、アクアくんがすっごい悪い子だったとしても、私くらいはありのままの君を認めてあげなきゃって思う」
「……」
「罪を背負うなら、私も一緒に背負いたい。そういう覚悟でカノジョしてるんだけどなぁ…ビジネス上の彼氏彼女だとしてもさ」
「…マトモじゃない」
「私の事マトモだと思ってくれてたんだ…ただ、私は君にもカレシの責務を求めるよ」
「…責務?」
「……そ、有馬かなに勝ちたい」
あかねはいつになく真剣な表情でいた。
そこには確かな信念がある。
「姫川さんもだけど。あの二人には何があっても負けたくない…でも姫川・有馬コンビは強すぎる。私一人じゃどうしようもない」
「……」
確かに、あの二人の強さは英寿本人も認めていた。
互いが互いに強め合う演技。この舞台に置いて彼らの右に出る者はそうそう居ないだろう。
「負けたら悔しくて死んじゃうかも……私を見殺しにする気?カレシなのに」
「……フッ」
「…えっ…なんでエースくんが笑うの?」
「……いや…とんだ肝の座ったカップルだと思ってな」
「もぉー…何それぇー……えへへ…」
普段見ないあかねの一面に思わず吹いてしまった英寿。どうやらこの場を面白おかしく治めるにはちょうど良かったらしい。
「……フッ…そうだな。カノジョを死なせないのは、カレシの責務だな」
「姫川と有馬に勝つ方法ね」
「出来れば感情演技を使わずに」
この舞台で勝ちを決意したアクア達は、五反田にアドバイスを求めた。台本を読んだ五反田は軽く頭を抱えている様子だった。
「んー台本読んだが、規模の割にトガッてるつうか…けっこーチャレンジングな構成だな。デザグラが絡んでるっつうなら納得だが…」
「……」
「まぁ脚本家の意図は明確だ。俺はお前に、凄い演技じゃなくて、ぴったりの演技が出来る役者になれと言った」
五反田はアクアの心に訴えかける様に問いただす。
「それを踏まえて舞台演出家の要望、脚本の意図、星のアクアはどう読み取る?この舞台に於いてのぴったりとはなんだ?」
彼の問いかけに対し、アクアは最悪で且つ最善の答えを導いた。
「……強烈な感情演技」
「じゃあやるしかねぇな?感情演技」
「……」
「明日から稽古が終わったらここに来い。1から叩き直してやる」
「……」
このふたりの関係は、今でも師弟と呼べるべきなのだろう。
師の言葉に、アクアは否定せざるなくなっていた。
『オマエソンナカオシテタノシイノ?』
「……」
『ヒトリニサセネーヨ!』
「……ひでぇ演技…」
鳴嶋メルト、16歳。
彼は自分の愚かさを十分理解していた。
そしてその時の自分を時折見返しては、過去の自分に落胆しながらも、それを糧に日々稽古に勤しんでいた。
数日後──
「それじゃあ、改めて今回のゲームの概要を説明するね」
クロメによって集められた役者の面々。
アクアの復帰も叶い、役者の一同は舞台に向けての準備を着々と進めていた。
「今回は仮面ライダー同士によるエキシビションマッチ。君達には舞台を通してガチでバトルしてもらう」
「ガチでバトルって、それで役者や観客達に怪我人が出たらどうするのよ?」
単純な疑問をクロメにぶつけるかな。
「そこで君達に使ってもらうのが、これ」
そんな問いを分かっていたかのごとく、クロメはスタッフ達にある者を手渡していく。
「…紺色のデザイアドライバー?」
「デザイアドライバーのレプリカだよ。スペックは従来の3分の1にも満たないように設定してあるし、使えるバックルは片方だけ」
「なるほど。これなら仮面ライダー同士で戦っても怪我もしないし、観客席への影響も出ないな」
「そういうこと」
各々ひとつづつ渡されたデザイアドライバーのレプリカ。ドライバーの基礎的な色が紺色になった以外目立った変化は無いようだ。
「公演日には専用のIDコアを渡すけど、君達のを使う事も出来るよ」
「……」
「大丈夫大丈夫!」
「あかんてぇ〜…」
「やっぱり妹としてはね、兄がちゃんとやれてるか心配なわけ!またボッチになってる光景が易々と目に浮かぶ!いわばこれは授業参観!見学も家族の義務だと思うわけ!」
「ウチの事務所厳しいんよ〜!バレたらマネージャーにどやされるぅ〜…!」
「…何してるんだ?お前ら」
「あ、エースさん!」
スタジオの外でわちゃわちゃしていたルビーとみなみを見つけた英寿は呆れ顔で問いただす。
「エースはん助けてぇ〜!ルビーがお兄さんの事覗きに行く言うて聞かなくてぇ〜…」
「ウルスならもう帰ったぞ」
「え!?」
「今日の稽古ももう終わってるしな。今は訳あってカメレオと一緒にいる筈だ」
「え、あかねさんと?」
「あぁ」
「で、でも…お兄ちゃんとエースさん、毎日帰ってくるの日付変わる頃だし…私てっきり…」
「……」
あの日から、ウルスは五反田の元へ行くようになった。
カメレオも心配なのだろう、ほぼ毎日のようにウルスに同行していた。
かく言う俺も稽古終わりの自主練後はあいつ等のもとに顔を出すようにしていた。
「じゃあ毎晩遅くまで何してるの!?」
「…あぁ……それはな……」
「ルビー…野暮はあかん、そっとしとき…」
俺が軽く説明を挟もうとすると、クオッカが気まずそうな顔でルビーの方に手を置いた。
「何野暮って」
「綺麗な彼女と二人で帰って、いつも遅くまで帰ってこない……答えは一つやろ?」
「…?えっ分かんない、お兄ちゃんは何をしてるの?」
「そりゃまぁ……えっちな事やろ……」
「えっちな事!?」
「は?」
みなみの思わぬ回答に流石のエースも引いていた。
「でも毎晩だよ!?ここ数日毎晩なんだよ!?」
「見かけによらず、あっちは元気なんやなぁ……そら高校生であんな美人なカノジョおったら止まらんて……」
「……」
みなみのピンクな想像に、ルビーは悲観した目で見た。
「お兄ちゃんはそんな事しない。高校生の子相手にそんな軽はずみに子供が出来る様な真似しない」
「……」
「してたら、心の底から軽蔑する……」
「……っ」
「…ルビー?」
「……大丈夫。私はお兄ちゃんを信じてるから。秘密主義なのはいつもの事だしね……」
「……」
この場でこの真意を知る者は俺とテラスだけ
こいつにも当然地雷はあったわけだ
「エースさんごめんなさい!ちょっとトイレ借りてもいい?」
「…あ、あぁ……そこの通路の突き当たりを左だ」
「はーい!……」
颯爽と去って行くテラスの顔は引きつっていた
クオッカももちろんそれに気が付いていたようだ
どうにも不思議そうな顔をする
「普通兄妹にそんな話はタブーだろ」
「…そ、そうやんなぁ……ちょっと反省や」
「……」
気まずそうな顔をするみなみ。
「おーい英寿!金田一さんが全員集合だってー緊急招集〜!」
「…お、おう分かった」
そんな彼女に声をかけようとした時、近くの窓からメルトが英寿を呼んで去って行った。
「…少しはフォローしてやれよ?あいつは意外と繊細なんだ」
「…うん。エースはんも稽古頑張ってな」
「おう」
みなみに軽く声をかけた英寿はメルトの後を追い、長い通路までやって来た。
「……」
「……」
静かなスタジオの廊下を歩くふたり。
すると、メルトは急に立ち止まり英寿に語りかけた。
「……英寿はさ、なんでこの舞台受けたの?」
「……」
メルトは英寿に背中を見せながらそう問いかけた。
「…スターになる為だ」
「……っ」
「俺はスターになって、デザ神になる。そして俺の理想の世界を叶える」
「……」
英寿は自信満々にそう答えた。
メルトの一歩先を行き、彼に背中で語りかけた。
「……やっぱすげぇな、英寿は…」
「…お前はどうなんだ?」
「……」
振り向いた英寿は、今度は真正面からメルトに問いかけた。
「……」
答えないメルトに、英寿は若干の呆れた表情を取った後に振り向き直った。
「とりあえず行くぞ、金田一が呼んでるんだろ?」
「……あぁ」
しかし、英寿達が辿り着いたスタジオには、もう誰も居なかった。
「……誰も居ないんだが?」
「…まぁ、嘘だし」
スタジオのドアを閉めるメルト。
「悪いけど、一芝居打たせてもらった。あんたと話がしたくてな」
「……フッ…俺を化かしたつもりか?」
「…え?」
「お前の考えてる事なんてお見通しだ。目的はこれだろ?」
英寿はそう言うとレプリカのデザイアドライバーに取り出した。
「ナビゲーターの話だと、このドライバーでなら運営の許可無しに模擬戦を仕掛ける事が出来る。そして舞台では俺が演じる「匁」と、お前が演じる「キザミ」が衝突する…」
「……」
「稽古には持ってこいの状況だな」
「……そ、そうだ」
苦い表情をするメルトは、同じくレプリカのデザイアドライバーを取り出す。
「…英寿、頼む…俺と真剣に勝負してくれ!」
「……」
真剣な表情をするメルトを見て、英寿は口角を上げて余裕の表情で答えた。
「…いいぜ?ただし、負けた方は勝った方の言う事をなんでもひとつ聞く…ってのはどうだ?ペナルティがあった方が燃える」
英寿はそういうとドライバーを装着しソルブラスターバックルを取り出した。
「…だが今回は…こっちで行かせてもらう」
すると、英寿はソルブラスターバックルに手を伸ばし、側面のダイヤルを回転させた。
《 LUNA 》
バックルのエレメントが変更され、全面には三日月形の模様が浮かび上がっていた。
「……分かった。俺から仕掛けた勝負だ…」
メルトもドライバーを装着し、紫色のバックルを取り出した。デフォルメされたお化けをイメージした「ゴーストバックル」だ。
《 SET 》
《 SET 》
お互いにバックルを装着し、変身待機に入る。
「変身」
英寿は手をキツネの形にした後に指パッチンをする。
「…変身…!」
メルトは目を閉じ左手で胸を拭った後、目をしっかりと開いて叫ぶ。
《 GHOST 》
《 MOONLIGHT SLAYER 》
《 LUNA BLADE 》
《 READY FIGHT 》
《 READY FIGHT 》
ギーツの見た目は紺色をベースに黄色の差し色があるスタイリッシュな装備が装着され、右手に三日月形の刀身をした刀「クセレントセイバー」が生成される。
対して仮面ライダーダルゼに変身したメルトの上半身は紫色を基調に装備に人魂のような装飾が施されていた。
そして彼の右手にも人魂のようにゆらゆらと波打った刀身の刀「ゴーストラッシャー」が生成される。
仮面ライダーダルゼ ゴーストフォームと、仮面ライダーギーツ ルナブレードフォームは互いの目を見つめ合い、戦いが始まるその瞬間を待っていた。
第三十五話「爛漫Ⅵ:キツネもどき」
次回
「お前の剣は軽い」
「今の俺に…理想なんて無い」
「あれっ!?あっれ〜〜!?」
「そういえば殺してやろうと思ってたわ」
「僕のお願い、聞いてくれるかな?」
「私はあの子に演技で負けてるなんて、一度も思った事ないから」
「お前は仮面ライダー失格だ……」
第三十六話「爛漫Ⅶ:月とスッポン」