仮面ライダーギーツ【Mother and Children】   作:キャメル16世

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第三十八話「爛漫Ⅸ:炎と氷の化かし合い」

中学校に入学して、ソッコー3年の先輩に食われた

自分はモテるんだとそこで分かった

 

黙っていても人は寄って来るし、女を好きになれば向こうから告ってきた

 

面白い奴をテキトーにイジれば笑いが取れて

イジってる自分が面白いんだと思ってて

 

「君、イケメンだね!うちの事務所興味無い!?」

 

テキトーにやってても、大体の事がなんか上手くいって

 

「ソニックステージ!?」

「スゲー!大手じゃん!」

「えっ、メルト芸能人になるの!?」

「メルトなら出来るって!」

 

周りがなんか期待してるし

金無いし

バイトはダルしい

……まぁ、テキトーにやりゃいいただろ

 

そんな風に思ってて──

 

*

 

「……」

原作の二人の対決は、「キザミ」に強者感があった

でも…

 

「俺を相手にして!無事では済むと思うなよっ!」

 

彼の演技に強者感は無い

 

なんで…

人が魂削って作った作品に、下手な人を使うんだろう

 

 

 

分かってる……

俺がヘタクソなのは分かってる

 

あ(・)の(・)演(・)技(・)を見た時から

 

周りが俺のレベルに合わせて演技してた事も、それで作品を台無しにしてた事も…

 

『オマエソンナカオシテタノシイノ?』

「……俺……こんなヘタクソな演技してたのか」

全部が終わって

改めて俺の演技を見返した

 

ひでぇ演技だった……

 

「…違ったんじゃねぇの?」

俺が最初から本気で臨んでたら

この作品はもっと──

 

「…良いものに…っ…」

 

 

「アンタ…意外と体力あるのね」

「レッスンお願いしてる講師が…役者はまず体力って」

有馬には申し訳ない事をしたと、心の底から思ってる

だからこそ、今回は少しでも誠意を見せたかった

 

「だからとりあえず毎日走ってる。『今日あま』終わってからずっと……」

「……ふーん?」

 

期待なんかしてもらわなくていい

まだまだヘタクソだと思ってもらってもいい

それでも……

 

 

 

「はぁぁッ!」

「クッ…!」

ダルゼ…

俺もお前の努力を見てこなかった訳じゃない

お前が“この舞台”に懸ける想いが人一倍厚いのは見て肌で感じていた

 

だが、観客はそうはいかない

 

「「キザミ」の人ちょっとさ…」

「…ね……」

「あんまし……」

 

客はお前をヘタだと思ってるぞ……

 

 

 

「良いんじゃねぇの?ヘタだと思われても」

「…はぁ…?」

俺はある日の稽古終わり、アクアに悩みを打ち明けた

だが、想像していた答えにあまりにもかけ離れすぎてて、俺は驚きと呆れと悔しさでいっぱいになった

 

「そんなアドバイスがあるかよ!恥を忍んで頼んだのに!もっとマトモな事…!俺のせいで、また作品が駄目になったら…」

「別に突き放したつもりはない。そのヘタさを上手く活用すれば良いって言ってるんだ」

「……は?そんな事出来るわけ…」

「可能だ」

アクアは俺と真正面に向き合った

 

「お前の一番の見せ場は、「匁」との対決シーン。稽古期間の一ヶ月をどう使うかは自由だけど、全体を良くしようとしても焼け石に水だ……だったら一点に全て注いだ方が、勝算が高いと思わないか?」

 

*

 

客にナメられてるってのは

客が油断してるって事でもある

これはエンタメの基本だから覚えておけ

 

例えばクラスのいじめられっ子が

地味で目立たなかったメガネ女子が

なんの取り柄も無いと思ってたオタクが

 

完全に下手だと思ってた役者が

いきなりめちゃくちゃ凄い事始めたら

 

「…激アツだろ」

 

「……っ…」

今の技は…!?

 

 

「いまの!」

「ね!」

「「原(・)作(・)通(・)り(・)だ!」」

 

原作での「キザミ」と「匁」の対決は、「キザミ」に強者感があった

そして、その時彼が見せた刀捌きがカッコイイと

連載当時大きな反響を呼んだ

 

「すごいすごい!実際に出来ると思って描いてないのに!ちゃんと原作通りやってくれるなんて…原作再現すごい!」

 

「……」

今の彼が見せた技は、それに忠実なものとなっていた

 

 

 

「アンタの入れ知恵?」

「別に。俺は演技がヘタでもそれを上手く使えば良いって言っただけ。あそこまで仕上げてきたのはあいつの努力だ」

裏からそれを見守っていたかなとアクア。

アクアは彼の行動を賞賛する。

 

「驚いてる人間の感情ってのは脆い。予想外の出来事が起こった時に、情報収集能力が活性するのは人間の本能。客はこの後の演技に何(・)倍(・)も(・)の(・)意(・)味(・)を汲み取ろうとする」

「……」

「刺すならここだ」

 

 

 

「……クッ…」

このシーンは、初めて出会った強敵に敗北した俺が……

根性だけで相手に立ち向かうシーン

 

ここからが俺の一番の見せ場!

 

*

 

「「キザミ」、もう少し見学してろ」

「……はい…」

 

ここ半年ちゃんとレッスンを受けてきたものの、ここの役者達はレベルが違いすぎる

 

キャラの心情をしっかり理解し

その上で強く感情を乗せるという事当たり前のように出来ている

台本をそれっぽく読むだけじゃ、通用しない

 

「「刀鬼」は「鞘姫」の事どう思ってるんだろ」

ふと、黒川がそんな事を呟いた

 

「崇拝?親愛?もっと複雑な……」

「他のキャラの考察までしてんのかよ」

「大事な事だよ!どういう感情を与えられて来たかは人格形成に影響あるわけだし…!」

 

「……」

俺は馬鹿だからよ

黒川みたいに考察したりとかは出来ねぇ

「キザミ」というキャラがどういう人間なのか…

なんとなくしかわかりゃしねぇ

 

「お前はどういう人間なんだ?」

俺は家に帰って、改めて原作を一から読んだ

 

「舐めてた相手に散々やられて、みっともなく足掻いて負けて…かっこわり」

 

昔から作者の気持ちを考えろって問題は苦手だった

文字や絵だけじゃ伝わらない事がこの世には沢山あると思い込んでいたからだ

 

「どうしてそんな……俺みたいにしみったれたカオしてんだよ……俺みたいに…」

けど違った

 

「あぁ……そうか、お前悔しいのか」

分かろうとしてなかったのは俺だったんだ

 

「つえーと思ってた自分が、本当は全然よえー事に気付いて」

有馬とアクアの演技が脳裏に過ぎる

 

「情けなくて、みっともなくて」

先生の幻滅した顔も、英寿に見放された時の顔も

 

「……悔しいのか」

どうして今まで、こんな簡単な事に気が付かなかったんだろう

 

「……それなら…っ……すげーよく分かるよ…」

 

*

 

「うおおおおぉぉぉぉおおおぉっ!」

「クッ…!」

こいつ…!

眼から…指先の一つまで…

悔しいって感情が、客席に届くほどの強さで…!

 

 

 

「あああああああ!!」

稽古期間の殆どを使ってこの気持ちを掘り下げた!

 

この一ヶ月をこの1分の為に注いだ!

 

そっちがダークホースだの!原作の展開がどうだのなんて知っちゃねぇ!

 

「盟刀・炎舞!一ノ刃!気炎万情ぉおお!!」

 

この1分は!!

誰にも負けねぇぞぉぉ!!

 

「おぅれはぁぁ!誰にも負けねぇぇぇ!!」

 

 

 

「……」

誰もが、こいつの演技に釘付けになる

どうやら形勢逆転されてしまったようだ

 

原作者も、舞台のプロデューサーも、観客も

そして、こいつの演技を見て一番感動している人物がここには居る

 

これがこいつの答えか……

 

「……フッ」

やはり、俺の目に間違いは無かった

 

 

 

「…なっ…!?」

あの月のバックル…!

いつの間に…!?

 

ルナブレードバックルを装着していた仮面ライダー匁は、バックルを操作する。

 

《 PHASE CHARGE 》

 

「盟刀・氷月…!」

ありがとうな、ダルゼ

おかげで俺も、お前を容赦なく倒す事が出来る

 

「……極ノ刃…!」

「…ッ!」

お前の演技は確かに、観客の目を奪った

だが、俺は逆にそれを利用させてもらう

 

教えてやるよ

オセロの石は簡単にひっくり返る

完封勝利目前で逆転満塁ホームランを打たれることもある

 

「……月下氷神(げっかひょうじん)!」

 

《 LUNA BLADE STRIKE 》

 

ひっくり返したと思えた場面で、更にその上を行かれることがある事を…!

 

「キザミ」を一閃する「匁」。

しかし、「キザミ」に目立った攻撃は与えられない。

 

「…?……っ!?」

失敗と思えたその瞬間、「キザミ」の周辺に月の満ち欠けを表した15個のエレメントが現れる。

 

「グッ!がはぁぁ!」

次の瞬間、「キザミ」に現れた幾つもの攻撃の痕跡。仮面ライダー匁により、一瞬のうちに15連もの攻撃を与えられていたのだ。

 

「……ねぇ…もしかしてあれって…!」

「そうだよね!絶対そうだよね!」

そして、観客の中ではある考察が生まれていた。

それは今「匁」が見せた技。

その正体を……

 

「「新(・)技(・)だ…!」」

 

「……」

原作での「匁」の活躍は、この渋谷抗争編以降目立ったものがない

それは故に、同じクラスタに居た「刀鬼」に人気を総出されてしまったことが所以だろう

 

しかし、一部のコアなファンからは再登場を熱望されている隠れ人気キャラであり、原作者も再登場の意向を示していた

 

だが、現在に至っても再登場の予兆がない

それは何故か……

答えはきっかけだ

 

「匁」を再登場させる程の強いきっかけが無い

何かしらのトリガーを原作者は探っていた

 

そこで新技の披露

新たな可能性を示唆する事で、再登場への期待が高まる

 

「……」

原作を忠実に再現した奴に勝つ方法はただ一つ

それは原作を超える事

 

こいつの演技がノってくれたおかげで

この土俵を作りやすくなった

 

「…………フッ」

どうやら今回も、俺はハイライトを掴んだようだな

 

 

 

「……」

まったく…

やっぱり俺は……

 

エースには適わねぇや……

 

*

 

「…あの…!エース!」

「……」

場面転換の際、メルトは英寿に話しかけた。

 

「悪い、急なアドリブ挟んじまって……」

「…いいや。俺も大概だからな」

英寿はメルトの肩に手を置いた。

 

「…そんな事より…やるな、お前」

「……え?」

「俺とお前は似た者同士だと思ってたが、それは間違いじゃなかったって事だな」

「……」

「……お前は強い。もっと自分を誇ってもいいんだぞ?」

「……エース…」

呆気に取られていたメルトは、英寿の言葉に胸打たれていた。

 

「そういえば、負けた方は勝った方の言う事を何でもひとつ聞くって話だったな」

「あ、あぁ……俺に出来る事なら、なんでもやるよ」

「……なら、理想を持て」

「…え?」

「……俺がお前に求めるのはそれだけだ」

メルトを残して去って行く英寿。

そのやり取りを、アクアも近くで聞いていた。

 

「……まんまと化かされたな、お前」

「…え?」

「あいつは、お前にあの演技をさせる為にわざとお前を煽ったんだ。そうすれば、自然とあいつの土俵が仕上がる」

アクアは英寿の裏の顔を暴露する。

 

「キツネに化かされた気分はどうだ?」

「……」

 

《デザイアカード?》

《そうそう!デザ神になれば、君が書いたその願いが叶うんだよォ?》

《……あっそ…じゃあテキトーに…》

 

『テキトーに楽しむ 鳴嶋メルト』

 

《こんなんでいいの?》

《…まぁ…別に……》

 

「……まぁ、たまには化かされるのも悪くないよ」

しかし、彼の顔は晴れ晴れしいものだった。

 

「…なぁアクア。あん時お前が言ってた言葉の意味がやっと分かった」

「……」

「楽しいわ、これ!」

「……そうかよ」

ボロボロになった手のひらを見て、彼は高らかに笑っていたのだった。

 

*

 

「よくも私の身内を痛めつけてくれたわね!1兆倍にして返してあげる!」

「…これ以上先に攻め入ると言うなら、我々渋谷クラスタが黙っては…っ…」

「ツルギ」と「匁」の邂逅。このシーンは新宿クラスタと渋谷クラスタの対立を決定づけるものとなっている大事なシーンだが、匁のセリフが効果音によって打ち消されてしまった。

 

「ごちゃごちゃうるさいわね!只の肉塊になれば、その口も静かになるのかしら!?」

「……っ」

「渋谷クラスタなんて知った事じゃない!全員切り倒して私達がこの國を盗る!この剣(つるぎ)でね!」

しかしここでツルギがアドリブを挟んで来た。効果音で被って聞こえなかった「渋谷クラスタ」という初出ワードを口にしつつ、原作の「つるぎ」が言いそうな台詞として再構築。

 

「……」

なるほど。元天才子役の肩書きもあながち過言じゃない……

この圧倒的な『受け』の上手さ

演技経験の浅い俺からしてみれば、こんなにやりやすい相手は居ない

 

英寿もかなの実力に圧倒され、演技に於いてはかなりの信頼を示す。

 

「流石に2対1は分が悪いですね…また日を改めてお会いしましょう」

「こらぁ!逃げるなボケナス!このタルタルチキン!」

 

 

 

「新宿クラスタ。厄介な奴等みたいだな」

「何も考えてないバカの集まりですよ。仮面ライダーを全員倒せばそれでいいと思ってる……どうします?あいつ等攻めて来ますよ」

「俺は姫の懐刀だ。持ち主の指示に従うだけ」

「君に意見を求めたのが間違いでしたね……少しは人間味というものを持ったらどうですか…?」

渋谷クラスタの鬼の一人、「刀鬼」は冷酷で感情を表に出さない。そして頭領の近衛の刀として「姫」を守って来た。

 

そして、その「姫」と呼ばれる頭領こそが……

 

「「鞘姫」様……ご決断を……」

「……」

 

「……」

ここは脚本リテイクで最も変わった部分……

長めだった「鞘姫」の台詞はカット。動きだけでボスとしての威厳、新宿との対立を表現して欲しいシーンなのだけれど……

 

 

「刀を抜けば…血が流れる……ですが、戦わねば守れないものもあるのでしょう……」

 

原作者のアビ子も含め、あらゆる者達の視線が彼女に集まる。

 

「……合戦です!」

 

「……っっ…!」

カットされた「鞘姫」の想いも、この演技なら伝わる

前の脚本にあった矛盾点が、全部クリアされてる…

あの子、凄い…!

 

 

 

そして、新宿と渋谷。

相入れることの無いふたつの徒党は、ついに決戦の時を迎える……

 

 

 

特別なIDコアが使用されている場合

バックルの力は引き出せないが、

能力の一端を使う事は可能となる。

 

 

第三十八話「爛漫Ⅸ:炎と氷の化かし合い」




次回

「何年も…私はこの時を待っていた!」
「演技なんてどーでも良いの!!」
「私は、私が一番目立つ様に戦う!」
「そう、勝負したいのね。それとも一緒に踊りたいの?」
「かなちゃんとお友達になれたら……幸せで死んじゃう…!」

第三十九話「爛漫Ⅹ:二人のエチュード」
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