仮面ライダーギーツ【Mother and Children】   作:キャメル16世

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第四十四話「豁然Ⅲ:デートの心構え」

「……宮崎か……そうだな…行くか」

「…っ」パァァァァ

アクアの宮崎行き決定の意を聞いて、かなの表情はキラキラしていた。

 

「今回は2泊3日の長期滞在よ!準備とか出来てるの?キャリーケースとか持ってる!?」

「いや事務所に転がってるの使うからいい」

「そんなのだめよ!役者は撮影で地方ロケも多い!アイドル活動にも必需品!キャリーケースは私達の相棒よ!」

想像よりもテンションの上がったかなはアクアにグイグイと旅行のプランを聞いていた。もはやMV撮影が二の次のようだ。

 

「まぁアンタは右も左も分からないだろうしぃ?私も午後はたまたまオフだし?この地方ロケのベテランが直々に選んであげても……」

「じゃあ16時に新宿東口待ち合わせでいいか?」

「……え?」

 

 

 

「……」

どっち…?

どっち…!?

 

今、有馬かなの目の前には幾つもの洋服達が並べられていた。

彼女にとって一世一代の究極の選択、それは……

 

どういう服がアイツの好み!?

 

気になる男子の服の好みだった。

 

「…って、もうこんな時間!?2時間前から準備してたのにぃ!」

時計は午後15時25分を示していた。

 

「タクシー呼ばなきゃ!…あれ、スマホどこ!?財布も!あぁもうどうしよどうしよぉぉ!」

 

その後無事に新宿駅東口までやって来たかな。

しかし集合時間はとっくに過ぎており、近くの喫茶店で待機する旨を受けた。

 

「…ハァ…ハァ」

遅刻しちゃった…!

絶対嫌味言われる〜!

 

『…なんでタレントって約束の時間に来ないの?』

 

「……クゥ…!」

容易に想像出来るアクアの嫌味を言う姿に悔しさ半分罪悪感半分を噛み締めるかな。

 

「アクア…!ごめんね遅れて!」

「ずっと本読んでたから全然大丈夫だ」

「そう…?」

かなはアクアに促されるがまま席に着く。

目の前にはハート型のラテアートが施されたホットラテがあった。

 

「外寒かったろ、ホットラテ頼んどいた」

「…っ……わぁ…あったかい…」

「もう冬だしな」

時の流れとは無情に早く、冬がやって来るまでの期間も、ふたりがラテを飲み干すまでの時間もあっという間に過ぎていった。

 

「で、キャリーケースってどこに売ってる?」

「百貨店とか行けばあると思うけど」

「ふぅ〜ん……っ」

「待たせちゃったし、ここは私が出すから」

帰り支度の最中、伝票に手を伸ばそうとしたアクアよりもかなが先に伝票を取った。

そのままレジに向かうふたり。

 

「俺が出すよ」

「えーでも…」

「こういう時は男が出すもんだろ?」

「……」

前に並んでいたカップルがそんな会話をしていた。

 

「……」

まぁ流石にね……遅刻して来た身だし…

世の中はもう男女平等だし……

 

少し羨む気持ちがあれど、毅然とした態度で店員に伝票を渡す。

 

「お会計1432円になります」

「…っ…えっと……」

「SUIKAで」

「…えっ?」

「はい、どうぞ」ピピッ

「行くぞ」

「……っ…」

 

ちょ……

ちょっとぉ〜〜〜

突然お支払い盗まれた〜っ!

私が出そうと思ってたのに〜〜っ!

 

「…中々の手口持ってるじゃない……」

「…なにが?」

 

その後デパートまでやって来たふたりはキャリーケースコーナーを物色していた。

 

「どういうのがおすすめ?」

「なんと言っても容量は大きい方が良いでしょうね」

ふたりは容量の多いキャリーケースがあるブースまでやってきた。

 

「この辺の好きな色選んだら?」

「…んー……じゃあ、白にするか」

「…っ……良いんじゃない?」

白のキャリーケースを選んだアクア。

そんな彼のキャリーケースを見てかなは気が気では無くなっていた。

 

白……

私のサイリウムカラー!

 

なんでその色にしたのか聞きたい!

自意識過剰って分かってるけど!分かってるけどもしかしたらって思うじゃない!!

 

「荷物」

「…えっ?」

「キャリーケースの上乗っけるからよこせ」

「…っっ」

あまりにもスマートな動きで荷物まで奪われたかな。

 

「……わ…分かってないわね!バッグも含めてファッションなのよ!?それを女子から奪うなんて分かってない!」

「うるせぇうるせぇ」

「……」

 

分かってない……

分かってないのに……!

 

その後もなんだかんだで色々と買い物を済ませ、気付けば時刻は19時に迫ろうとしていた。

 

「…さて……用事も終わったし解散するか」

「えっ!?…でももう19時だし…ちょっとお腹すいちゃったかも……」

「…そうだな。肉で良いか?」

「肉すき〜!」

ウキウキでアクアに着いてくるかな。

すると着いたのは近場のブラジリアンバーベキューが主流のお店。

 

「この店は難しいわよ?いつも混んでて……」

「だな」

かなの声が聞こえてないのか、はたまた秘策があるのか、アクアは躊躇いもなく店の受付まで直進した。

 

「予約の星野です」

「……」

「はい、2名様ですね。お待ちしておりました」

「……」

 

予約してるじゃん!!

 

席に着いたかなは冷静さを取り戻し、冷静に心の中でツッコんだ。

 

さっきの会話なんだったの!?予約してるじゃない!!

私が帰ろうって言ってたらどうするつもりだったの!?

しかも動線も完璧で私の空腹加減を問わない食べ放題ブラジリアンバーベキュー!

 

「手馴れてない!?女の子の扱いに手馴れ過ぎてない!?」

「そうか?」

「やってる事が金持ってるアラサー業界人のそれよ!?」

「……」

そんなモグモグ肉を食べてる彼は元アラサー医師である。

 

「アンタ…エスコート能力思ったより高いわね…」

「まぁ俺は芸能事務所社長の所で生まれ育ってるわけで……」

「それにしても高校生離れしてるわよ……今までこういう感じで女の子転がして来たんじゃないの?」

「してねーって」

ここ十数年は……

 

「芸能界に年の差恋愛多いのは、こういうデートに慣れちゃうからなんでしょうね」

「まぁこういうのは金持ってから覚えるものだし……まぁでも…」

「……」

「相手に楽しんで貰おうと思ってプラン組めば、自ずとこういう感じになるんじゃね?」

「…っっ」

楽しませようと……してくれてたんだ……

 

「…そんな事言っちゃって、あかねとはどうするつもり…なの?」

「……」

アクアはかなの質問に対し、少し俯いてから答えた。

 

「そろそろ、答えを出そうと思ってる」

「……そう」

「…ずっと俺は、恋愛とかしてはいけないと思ってて」

「……」

「…だけど……もう良いのかもと思ってて。だから今更だけど、ちゃんと考えてるって言うか……」

「別に良いでしょ。恋愛の自由は基本的人権よ」

「アイドルが言うセリフじゃないけどな」

「今はアンタの話をしてるのー」

「…ははっ…そうだったなっ」

「…っ……っっ」

またしても明るい表情を魅せるアクアに、かなは顔を真っ赤に染めていた。

暗い照明が幸をそうし彼にはバレては無さそうだ。

 

「はー美味しかった!ありがとね、連れて来てくれて」

「買い物付き合ってもらったお礼。じゃあタクシー呼んどいたから、行こうか」

「……」

 

どこに!?

このテンションだとお持ち帰られちゃう!

歌舞伎町の天蓋ベッドがあるホテルとかに連れてかれちゃう〜〜!!

 

「…っ…っっ…〜っ…!」

「……フッ」

 

ど〜〜しよ〜〜〜〜!

 

この後、普通に家まで送られた有馬かなであった。

 

*

 

「……」

舞台『東京ブレイド』の千秋楽を迎えてからのあいつは、どこか肩の荷が降りたかのような、憑き物が無くなったように見えた

 

そして今は、マーリやカメレオとの関係を見定めている様子だった。しかし……

 

「……」

「……一旦休憩挟みましょうか」

 

この日、英寿は雑誌の撮影をしにスタジオに来ていた。

ここには幾度かお世話になっているスタジオで、今日のカメラマンも何度か一緒に仕事をした事がある。

そんなカメラマンは英寿の様子に違和感を持ち、一度撮影を中断した。

 

「……」

「…何やら思い詰めている様子ですね?はいっ」

「…あぁ……すまないな……」

浮かない様子のままベンチに座る英寿に、カメラマンは水のペットボトルを手渡した。

 

「何か悩み事ですか?」

「…あぁ…少しな」

「…ふふっ……貴方のような方でも、悩みを持つのですね」

「……俺をなんだと思ってるんだ?」

「少なくとも…初めて会った時よりも、貴方はだいぶ人間らしくなりました」

「……」

「きっと貴方の周りの人達が、貴方を変えたのね…」

このカメラマンと仕事するのはこれが初めてではない

そして数回仕事をして来てわかったことがある。この女は不思議と面倒見がいい

 

「……少し、自分語りをしてもいいかしら?」

「……」

「……昔の私は、冷徹な性格で他人を信用しておらず、人間関係を自分にとって利益不利益で差別していたような人間でした」

「……とてもそんな風には見えないな」

「…ふふっ……私は変えられてしまったんですよ。当時私の周りにいた人達に……貴方も変えられたのでしょう?今の貴方の周りの方々に」

「……」

咄嗟にあいつらの顔が浮かぶ

この世界にやって来て約半年が経とうとしている。その大部分をあいつらと一緒に居る

 

このカメラマンからは不思議と高い説得力を感じた

 

「……俺は今、ある者の秘密を抱えている。それは本人も知らないような事だ」

「……」

英寿は彼女の呆気に飲まれて胸の内に秘めていたものを吐き出し始めた。

 

「そいつは今まで自分を追い詰めて来た…だが、最近ようやく幸せを求め始めた。そんなあいつがこの秘密を知れば、また自分で自分を追い込む事をするだろう」

「……」

「……俺は…どうすればいい…?この事を本人に伝えるべきか……知らなければ幸せということもあるのか…?」

英寿は自信が知ってしまった事実をアクアに伝えるべきか迷っていた。

今までの彼であればこんな苦悩など縁のない筈だが、彼女の言う通りなのかもしれない。この世界にやって来て、彼は今までから一段と他人に対する思いが強くなっていた。

 

「……思うようにすればいいわ」

「…え?」

突然の切り捨てるような彼女の発言に、英寿は思わず顔を上げる。

 

「人は時に己を演じ、もう1人の自分である仮面(ペルソナ)を被る。かつての私もそうだった」

「……」

「……でも自分以外の何かを変えたかったら、まずは自分が変わるしかないと気が付いた。仮面を外すのはとても怖い事で、自分の本性をさらけ出すのはもっと怖い……だけど、時にはそんな臆病な自分に嘘をつかなきゃならない」

「……」

「…そうすれば、きっと本当に貴方のしたい事が見つかるわ」

「……臆病な自分に…嘘を…」

英寿はふと自分の手を見つめた。

小刻みに震えていたその掌を、英寿はぎゅっと閉じた。

 

「人を化かすのは得意だ……」

「……」

「…だが何人化かせば、この秘密は守られる…?この秘密が誰かに知られれば、やがて奴の耳にも……」

「なら、全員まとめて化かせばいいわ」

「……は?…そんな事…」

「出来る。貴方なら出来るわ」

カメラマンは俺の顎をクイッと上げて顔を近付けた

かつて冷徹な性格だったというその片鱗を、俺は見た気がした

 

「……フッ……無理難題だな」

「ふふっ…よく言われるわ。さぁ、休憩も済んだし撮影再開しましょ」

「……あぁ」

だが、不思議と心が軽くなった

ここは誠実に感謝しなければな

 

「ありがとうな、白銀さん」

「えぇ……あ、そうだ!貴方の仮面ライダーの姿も収めて良いかしら?」

「あぁ、もちろん良いぜ?」

 

《 LUNA 》

 

英寿はルナブレイドバックルを取り出し、ドライバーにセットする。

 

《 SET 》

 

「変身」

 

《 MOONLIGHT SLAYER 》

《 LUNA BLADE 》

 

《 READY FIGHT 》

 

英寿は仮面ライダーギーツ ルナブレイドフォームへと変身し、向けられたカメラのレンズに視線を合わせた。

 

「……貴方も、月に手が届くといいわね」

カメラマンはギーツがポーズを取る中、そんな事を小声で口ずさんでいた。

 

 

 

「……」

あいつは、心のどこかで終わりにしたいと思っていたんだ……

だから、こんな簡単な抜け穴に気が付かない……

 

だがこの事実を知れば、あいつはまた復讐の為だけに生きる事になる……

 

そんな事はさせない

 

「……」

この事は、俺の胸の内に閉まっておこう

俺にも俺のやるべき事がある……

 

誰もが幸せになれる世界を、創る為に……

 

*

 

「……」

その日、ルビーはとあるひとつの墓石に手を合わせていた。

 

「……でね、今度宮崎にロケ行くんだよ。懐かしいよね、私達が生まれて以来ずっと東京だったし」

その墓石は母である星野アイのものだった。

彼女の墓がここにある事は、彼女の子供である双子と社長である斎藤夫妻しか知らない。

 

「あとね、お兄ちゃん最近ちょっと明るくなったっていうか、憑き物が落ちた?みたいな……」

ルビーは変わらず返事をしない墓石に話し続けていた。

彼女は月命日には必ずこの場所に訪れていた。

 

「やっと立ち直って来たのかな……でもそれはママを忘れるって事じゃなくて、きっと……」

「カァァ!カァァ!」

「…っ」

近くの気に留まっていたカラスが鳴いていた。

日の入りが早くなった事で、カラスも時間にシビアになっているのだろう。

 

「また来るねっ」

ルビーは手桶を持ち帰路に着く。

カラスが鳴いた事で、不思議とカラスの童謡を口ずさんでいた。

 

「……」

前方から来る他の墓参者にも目がくれることも無く。

 

「……か〜えろ♪か〜えろ♪カラスが鳴くからか〜えろ♪」

「……」

墓参者は隣を歩く美少女に少しだけ振り向き、彼女には聞こえない声で呟いた。

 

「……星野…ルビー」

男は深い帽子と真っ黒のサングラスを身に付けていた。

 

「……美人に育ったね」

その足は再び進み、ある墓石の前で立ち止まった。

 

「流石、君と僕の子だ」

星野アイの墓石の前に佇んだ彼の手には、白いバラの花束が握られていた。

 

 

 

デザイアグランプリに関係ない場面でも

仮面ライダーに変身する事は可能である。

しかし、他者に危害を及ぼす行為は

即刻仮面ライダー失格とする。

 

 

第四十四話「豁然Ⅲ:デートの心構え」




次回

「いらっしゃい高千穂へ!映像ディレクターのアネモネです!」
「アクアくんの行きたい所でいいよ?」
「俺とルビーが生まれた病院があるんだ」
「何故俺にだけは、母親の秘密を告げた…?」
「雨宮吾郎。そいつには、母親が居なかった」
「せんせ……今頃どこに居るんだろ……」

第四十五話「豁然Ⅳ:出発と再出発」
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