仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
意見ありましたら遠慮なく言ってください。
「……」
ナビゲーターのシロメとクロメの証言から、俺はある結論に至った
俺はどうやら、別の世界に来てしまったようだ
その為、デザイアグランプリのあれやこれや、更には創世の力を使いない理由も合点がいく。俺は確かに神様となり、創世の力を我がものとした。だが、それは“俺の世界”での話であって、他の世界に来てしまえばそれも無効になってしまう
つまり今の俺は、この世界ではただの人間であり、ただのデザイアグランプリの参加者のひとりなのである
「エースさーん!着替え終わりました〜?」
「……あぁ」
ルビーが更衣室のカーテンを開けると、そこには陽東高校の制服を着た英寿が居た。
「おぉ〜!やっぱりまだまだ行けるよエースさん!」
「…ま、これで少しは若く見えるだろ」
デザイアグランプリにも色々と変わったルールがあるみたいだが、この学校にも変わったルールが存在する。
この学校は入学時に芸能科と一般科の生徒に区分され、芸能科の生徒は全員仮面ライダーにエントリーされ、一般科の生徒は1部を覗いて仮面ライダーにエントリーされている。
この世界では、芸能事務所に入る事で仮面ライダーへの招待状であるIDコアとデザイアドライバーが配られる。そしてこの学校の芸能科は芸能事務所に入っている事が入学条件となる為、必然的に全員仮面ライダーなのである。ルビーはそのひとり。
そしてアクアのように一般科の生徒でも、仮面ライダーへのエントリーは可能で、それは任意である。
「これでエースさんも立派な男子高生だよ!21歳らしいけど」
「おいおい、真顔で言うなよ」
俺はこのデザグラに正式にエントリーされ、今日から陽東高校の生徒の一員として転入する事となった
「それにしても相変わらず凄いよねー!どんな理想の世界も叶えられるなんてさー!」
「……」
「クラス分けゲーム」の後、デザイアカードの裏に書かれた教室に行くと、残りのゲームを勝ち残った参加者達が勢揃いで席に座っていた。
席に全員座ると、教師が現れ生徒にデザイアカードへ理想の世界を書くように催促した。
まるで部活の仮入部を決めるように、それはまるで当たり前かのようだった。
「エースさんはどんな世界を書いたのー?」
「……誰もが幸せになれる世界」
「…え?」
「最初から決めていた事だ。俺は誰もが幸せになる世界の為に、このデザグラで勝つ」
「……凄いね、エースさんは…」
「……」
英寿の願いに対し、ルビーは何故だか重たい表情を見せた。だがすぐに普通に戻り、学校に着くまでの間ずっと自分の話と兄であるアクアの話をしていた。
どうやらアクアは以前はあんな性格ではなかったらしい。ある事件を境に、まるで人が変わったかのようだと、ルビーは語った。
当の本人は一般科での授業説明がある為、先に学校に向かっていた。
そうこうしているうちに、ふたりは陽東高校に到着し、1-Fの教室を目指して踏み出した。
その時である。
「お、あんたは昨日の…」
「…ん?どこかで会ったかしら?」
昨日の赤毛のショートヘアの女子高生、有馬かなを英寿は見かけて声を掛けた。
「浮世英寿、昨日助けて貰ったキツネだ」
「…あ〜昨日の…じゃ、キツネの恩返しを期待しとくわ」
「え!?何何!?そこ知り合いなの!?」
「昨日ちょっと会っただけよ」
「なんだ、そこも知り合いなのか…世間は狭いもんだな」
「本当にね……あんた達、昨日を除いたら今日が初登校でしょ?」
ルビーとかなは、ルビーとアクアが入学試験の日にここで会った事があるらしく、2人も知り合いであった。
かなは2人を出迎えるように前に立った。
「まずは、昨日のクラス分けゲーム突破おめでとう。ここ陽東高校は授業日程の融通が利く位のもので、普通の高校と大した違いはない。ふつーに赤点取ったり主席日数足りなかったら留年するし、カリキュラムもそんな違いはない。でも勿論一つ大きな違いがあるわね」
かなは指をあげると、少し離れたところに居る生徒を次々と指さしていった。
「あそこ、歩いてるのは俳優。そこに居る二人は大手アイドルグループの子。あそこの胸がでかい子はグラビアモデル。あれは声優と配信者、ファッションモデルに歌手。ベンチに座ってるのは歌舞伎役者と女優…皆芸能人」
「あれも全員仮面ライダーなのか…?」
「そうね、この学校の殆どの生徒は仮面ライダーと考えた方がいいわ。ここは日本で一番
かなは腰に手を置いて胸を張って言い放った。
その言葉は、期待と同時に何か重たさのようなものを感じた。
この先、英寿達の身に何が起こるのか、それはまだ誰も知る由もない。
「芸能界へようこそ…!」
まだまだこの世界ではわからないことが多い
ゲームマスターが居ないのであれば、誰がこのデザグラを運営するのか。デザ神になる条件は、俺がいた世界と同じなのか。敗北した仮面ライダーはどうなってしまうのか……そして…
「…この世界にも、創世の女神が居るのかどうか……」
創世の女神は、デザイアグランプリに於いて最も重要な役割を持った存在だった。
自分の願いを叶える為勝ち抜いた仮面ライダーの願いを、創世の女神は叶えていった。その他の、敗北していった仮面ライダー達の幸せを奪い、その仮面ライダーへと還元する。つまり、デザ神が生まれる事で、誰かの幸せが失われていくのだ。
そしてその創世の女神こそ、英寿が2000年もの間転生し続け探し続けた人物である、英寿の母親だったのである。
結果、英寿の活躍で創世の女神の運命は絶え、英寿自身が創世の神、世界の神へと生まれ変わった。
「……もし同じように創世の女神が居るなら、救ってやらないとな」
デザイアカードに記載した、「誰もが幸せになる世界」。英寿はこれを実現させる為に、このデザグラで優勝しなければならない。だが、本人は創世の女神に叶えさせるつもりは無い。デザグラで優勝し、創世の女神を救い、その後で世界を幸せにする。
これがこの世界での役目だと、英寿は悟った。
「そうなれば、まずは情報収集だな…」
英寿は休み時間の間に、中庭で休憩をする生徒に声をかけ始めた。
皆が英寿の還暦に戸惑いながらも、状況を説明しては納得して貰えた。
何気に理解のある生徒達なのか…それとも世界の価値観的に容認されているだけなのか
英寿の中でまた新たな疑問が生まれた。
「…ちょっといいか?」
「……はい」
英寿は中庭の外れに立つ木の木陰で歌の練習をしていた、黒髪ロングの緑の瞳をした女生徒に話し掛けた。
「デザイアグランプリについて少し聞いても良いか?なんせ初参加だもんでな」
「……はい、勿論いいですけれど…」
「…ん?」
返答を待っていた英寿だが、その女生徒が何か言いたげなのが分かった。
「…いいえ、見かけないお顔だったので……一体何をされてる方なんですか?」
「……え?」
「…ですから…例えば俳優とか、声優とか…一応メディアに露出している方は、芸能活動の参考になるのでなるべく拝見して、芸能事務所のホームページも閲覧しているのですが……」
「……いや、俺は特に何もやっていない。芸能事務所にも入ってないしな」
「……では、今はフリーで芸能活動を…?」
「…いや、そもそもタレントじゃない」
「……えっ?」
「…えっ?」
「…という事で、急ですがエースさんには今日から苺プロのタレントになっていただきまーす!」
「本当に急ね…」
「……」
どうやら俺に落ち度があったようだ
陽東高校における、芸能科への入学に必要な芸能事務所に所属している証明書。本来はこれがないと入学すら出来ない
だが俺はなんのコネか転入が認められたが、結局後々不利になるのは俺らしい
その話をルビーにすると、心底驚きながら自身が所属している芸能事務所「苺プロ」を紹介してくれた
苺プロの現在の社長は、今ルビーと話している女性「斉藤ミヤコ」。彼女へのアクセスが今完了した
「んで、浮世英寿さん。貴方はうちの事務所でいいの?」
ミヤコは無表情のまま、英寿に問い掛けた。
「まぁ、これからのデザグラで必要になってくるかもしれないからな」
「…当然ね。わかったわ、手配を進めるけど……それにはまず幾つか質問させて頂戴」
ミヤコは足を組み直し、腕組みをして英寿と向き合った。
「貴方の理想の世界は何?」
「……誰もが幸せになれる世界だ」
「…その世界を叶えたとして、貴方はその後どうするつもりなの?」
「……え…?」
「…人は、理想を追い求めてる間が1番幸せなの。理想を失うと、人はどんどん不幸になっていく……貴方の理想の世界を叶えて、その後貴方はどうするつもりなの?新しい理想を見つける?それも良し、でも見つからなかったら…?」
ミヤコの言う言葉には何故か説得力があった。まるで自分がその場面に直面したことのあるような言い草だ。
「結果的に、人は自分が幸せにならなくなると、他人の幸せを妬むようになる。人の幸せが欲しくなる。人の幸せを奪いたくなる」
「……」
「…貴方は、そうならない自信がある…?」
ルビーも、ミヤコの言葉を聞いて俯いていた。一体何が彼女達をそこまで追い詰めているのか、この言葉の真意は何なのか定かでは無いが、一つだけ言えることがある
「ならない。俺は絶対に、人の幸せを奪わない」
俺はミヤコの言うそんな世界を変える為に、ここまでやってきたのだから
「……そう」
ミヤコは深く目を閉じて、その言葉を受け入れた。
「……貴方…どことなくあの子と似てるわね…」
「…え?」
「……フフッ…こっちの話よ。ようこそ、苺プロへ」
初めて微笑んだミヤコの表情は、心からの笑顔であると、英寿は認識した。
俺は苺プロのタレントとして正式に受け入れられ、2000年の転生の中で初めての芸能事務所入りを果たした
「いや〜私も嬉しいよ〜!同級生が同じ事務所に入ってくれて!」
「そうか?」
帰る際、ルビーは英寿を見送る為暗くなった外まで来ていた。
「それにしても…誰もが幸せになれる世界かぁ……私には叶えられそうにないなぁ…」
「…お前の理想の世界はなんだ?」
「……っ」
そういえば聞いていなかったと、英寿はルビーに問い掛けた。だが、ルビーは後ろを向いて答えを濁した。
「……秘密」
「……」
「…エースさんが聞いたら、きっとがっかりするから」
「……どんな理想を描こうと、それは個人の自由だ。願うだけならタダだしな」
「……でも…私は自分勝手で、誰の為にもならないような願いなんだよ…?」
震えるような声で話すルビーの背中は、いつもより幼く見えた。
「……俺の知ってる奴に、世界平和を望む奴がいた」
「…え?」
「中には他の仮面ライダーをぶっ潰す力を望んだ奴も居たな」
「…えぇ…何その人怖ぁ……」
「…そして中には、自分の幸せを望む者がいた。本当の愛が欲しい…ってな」
「……愛…」
「そしてそいつは、その望みをデザグラに頼らず自分の力で手に入れた」
「……」
「……知ってるか?諦めなければ、願いはいつか叶う。立ち止まれば、いつかきっと後悔するぞ」
「……」
「…もう一度聞く。お前の理想の世界はなんだ?」
英寿は真正面からルビーに問い掛けた。
ルビーは身体の向きを英寿へと向き直し、自分の理想を語り始めた。
「…エースさんはさ、「アイ」ってアイドル…知ってる?」
「……アイ…?」
「…アイはね、可愛くて…真っ直ぐで…誰よりも輝いてた。あのお星様のように……」
ルビーは星空を見上げながら、アイなる人物を語った。
夜空には一番星が輝いており、まるで俺たちを照らしているようだった
「…そのアイドルがどうかしたのか?」
「……10年くらい前に死んじゃってね。その輝きは消えちゃったんだ…」
「……」
「……実はね、アイは…私のママなんだ」
「…っ!?」
ルビーは、今まで苺プロの人間しか知らなかった自身の…いや、ルビーとアクアの秘密を英寿に打ち明けた。
「アイは…アイドルとしてみんなを照らしてきた。みんなに笑顔を向けて、歌とダンスでみんなに希望を与えてくれた。母親としては…正直ダメダメだったけど……それでも、私達を大切にしてくれてた…」
「……お前達にそんな過去があったなんてな…」
母親の存在が特殊という点では、俺にも身に覚えがあるが……アイドルの子供…色々と訳ありな様子だが、それがきっとルビーの理想の世界と関係しているのだろう
「最期にね、私達に言ってくれたんだ……「愛してる」って…」
「……そうか…」
『……英寿…愛してる』
2000年間、英寿が求め続けた母は、創世の女神の寿命を迎えようとしており、その命は尽きる寸前だった。
束の間、やっとの事で英寿は母親であるミツメと再会し、言葉を交わす事が出来た。
その時、英寿は初めてミツメに伝えた。
「誰もが幸せになれる世界をつくる」と…
そしてミツメは最期に英寿に愛を伝え、消えていったのだ。
「……私は…ママみたいなアイドルになりたい。ママみたいに、みんなに希望を与えられる、胸を張って愛を伝えられるアイドルになりたい!絶対、ママみたいになるんだ!」
ルビーは目を見開き、胸を張って自身の理想…いや、夢を英寿に伝えた。
ルビーの左目の輝きは、いつもより輝いて見えた。
ルビーがデザイアカードに書いた理想は『アイのようなアイドルになる』こと。その為に、彼女はここまで努力してきたのだ。
「…なら、戦うしかないな。願いを叶える為に」
「……うんっ!」
「……そっか…アイツうちの事務所に入ったんだ…あぁ、うん。今日は監督のとこに泊まるから…うん、おやすみ」
夜分、スマホの明かりがアクアの表情を照らした。
時刻は23時を過ぎている。
それなのに、アクアは夜の陽東高校の校舎の裏庭で何かをしていた。
大きなスコップを持っては土を掘り、穴の中に何かを埋めてまた土を戻す。その作業を延々と繰り返し、気付けば日付も越えていた。
「……よし、こんなもんか」
12年前、アイがストーカーにより刺されて死んだ。アイはただ幸せになりたかっただけなのに、そいつによってアイの幸せは奪われた。犯人はその後すぐに自殺し、ドーム公演寸前であったアイが死亡したニュースは、時と共に忘れ去られてしまっていた
俺はアイが刺された現場に居た。アイが目の前で刺されたのを、今でも鮮明に覚えている
アイの最期の声も、顔も、温度も、何もかも鮮明に
そして、この事件には裏がある
アイを殺した男に、アイの新居を特定出来るようなスキルは持っていなかったように見えた。そんな探偵みたいな事が出来たとは到底思えない
だとすれば考えられる事はただ一つ
情報提供者が居る
それもアイの相当近くに居る人物
同僚や親族などあらゆる可能性を考えたが、動機が合致しない。ならば考えられる犯人像はただ一人
僕とルビーの父親
そしてアイの交友関係の狭さを考えれば、相手は『
俺達の父親は、芸能界に居る
アイをあんな目に遭わせた奴が芸能界に居る
そいつと俺に血縁関係がある以上、毛髪から遺伝子検査で割り出せる
「……」
俺は負けられない
このデザイアグランプリで勝って
俺は俺の、
「……だから悪いが、アンタの事は勝たせられない」
浮世英寿…
誰にも、俺の邪魔はさせない……
アクアが現場から立ち去ってしばらく経った時である。
彼が先程まで居た辺りの土が、みるみる盛り上がり始めた。それも1ヶ所だけでは無い。
すると、次々と盛り上がる土の中から、1本の異形の腕が飛び出して来た。
「…ジャァァァ…!」
深夜に浮かぶ一番星は、いつまでもこの世界を照らしていた。
第四話「韜晦Ⅲ:芸能界へようこそ」
次回
「モグラ叩きゲームをはっじめーるよーっ!」
「あんたがエースはんですか?」
「こんなところで何してる?」
「さて、どう来る?浮世英寿…」
「新種のジャマトか…?」
「復讐の鬼は怖いね〜」
「アンタを勝たせる訳にはいかない…!」
第五話「韜晦Ⅳ:モグラ叩き」