仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
「…お兄ちゃん…だぁいすき……」
「…っっ」
「……もし…生まれ変わっても…きっと……」
《 Mission, Failed… 》
星野ルビーは世界から退場扱いとなり、塵のようになって消えた。
彼女の最期を看取ったアクアは、不思議と涙を流すことも無く時間が過ぎて行く。
「……」
もうここに戦える者は居ない。
そう悟ったシックは、体の向きを変えて青いバラのジャマトの方へと来た。
「……行こう、もうここに用はない」
「……ジャァァ…」
彼女の最期を見守ったシックも、何も言うこと無くそこから去ろうとした、その時だった。
「……ウグッ…!?」
シックの胸に突き刺さる強烈な衝撃。
「…ジャァァ……」
よく見ると、青いバラのジャマトの触手がシックの胸を後ろから突き刺していた。
「…な、なんだよこれ…!?こんな事あるかよ!?」
「ジャァァ……」
「なんで言う事聞かないんだよお前!!……っ!」
ジャマトはそのままシックを持ち上げるように釣り上げ、大きな口を開けて飲み込もうとする。
「……まさか……女神が…?」
「ジャァァ……」
「…なんで……ここまでやったのにィ!」
「ジャァァ…」
「いやだ…!嫌だァァ!!」
「ジャァァ!」
シックを完全に飲み込んだジャマト。
「…ジャッ…ジャジャ……ジャァァァァア!!」
内から溢れ出す膨大なエネルギー。
それを制御出来ないのか、ジャマトは大きく咆哮をあげて辺りには光が溢れた。
「…はは…!はははっ!なんだこれ!?力が湧き出てくる!!」
すると、その姿がまた変異し、青いバラの意志は残しつつも仮面ライダーシックと同様の部位が露出していた。
そしてその声は、先程飲み込まれた筈のシックの声そのものだった。
「そうか…!女神ィ!そういうことなんだねぇ!」
「……」
「もうこの世界なんかどうでもいい!僕が直々にこの世界を破壊してあげるよ!!そうして世界をやり直そおぉぉ!!はははははははは!」
天を仰ぎながら、変貌したシックは高らかに笑った。
「……それじゃ、手始めにぃ〜?」
身体の向きを変えたシックは、気絶していたあかねに視線を移した。
「ケハハッ!まずは君から死のうかぁ!!」
「やめろ…!」
「……っ」
そんなシックの足首を、身体を地面に擦り付けながらも掴むイラド。
「……もう…あいつは……十分苦しんだ…」
「……」
「……これ以上…あいつから……何も…奪わないでやってくれ…!」
イラドも後がないと言うのに、アクアの為にシックの手を止めた。
しかし、もう彼にそんな言葉は通用しない。
「安心してよイラドぉ…この子を殺した後に、彼もすぐに彼女の元へ送ってあげるから♪」
「……クッ…」
「そうすれば3人仲良く過ごせるよ?そうすると『B小町』の他のメンバーも送ってあげた方が彼女も喜ぶかなぁ!あはははは!」
「……クッ……そうか……お前は…もう…」
完全に理性を失った彼を説得する事など不可能と悟ったイラドは、初めて彼に哀しそうな表情を見せた。
「……いいねぇ、その顔。最後に見れて良かったよ」
「……」
身体が崩れ始めたイラドは、最期にシックの醜い姿を見上げた。
「…………お前も……堕ちたな……」
それが彼に対する最期の言葉だった。
だがシックの気には触れなかった。それを彼も自覚していたからだ。
「…それじゃ、おやすみ…イラド♪」
自身の腕を鋭利なツタへと変貌させたシックは、イラドにトドメの一撃を放とうとした。
その時だった。
「変身っ!」
《 MOONLIGHT SLAYER 》
《 LUNA BLADE 》
《 READY FIGHT 》
「はァっ!」
「…っ」
ルナブレードフォームへと変身したギーツが、寸前でその攻撃を止めた。
「……浮世…英寿…」
「礼がまだだったな……テラスを守ろうとしてくれた事、感謝する」
「……だが俺は……あの子を…」
「結果がどうであろうと、お前がやった事は誇れることだ。お前はウルスのサポーターとして、最善のことをした」
「……」
「……あと片付けは任せろ。お前の仲間は、俺が止める」
「……クッ…ククク…」
英寿の言葉に、イラドは力なく笑った。
「……相変わらず生意気な奴だな……イラつくぜ…」
「……」
「…………んじゃ、後は頼んだ……」
イラドはその言葉を英寿に残し、塵となって消えた。
「……んもぉ〜…邪魔ばっかりだなぁ…」
「お前はいくつもの道を踏み外した。もう後戻りは出来ないぞ」
「……はぁぁ〜……じゃあいいや、君から殺すね?」
間髪入れずに攻撃を仕掛けるシック。
「…っ!はァっ!」
しかしギーツもそうに適応し「クレセントセイバー」で輪切りにして行く。
「……へぇ〜……もしかして君、結構やる?」
初めてギーツと対峙する事となる彼の実力に、少々関心するシック。
「……ふっ!」
ギーツはそれに返す事なく、シックへと向かって行く。
人の命は、簡単に消えるものだ
ある人は言う。人は、死ぬ為に生きるのだと
人はみな平等に生き、平等に死ぬ
死ぬという終着点が同じなら、みなはそれに向かって走っているのだと
だがある者は言う。それは生きる事に意味を見い出せなかった者が言うセリフだと
私は他の人とは違う
私には明確な生きる意味がある
だがゴールは皆同じだ
ゴールは同じだとしても、生きる過程はみんな違う
生き方が違えば、人にもそれぞれ異なった価値が生まれる
価値なんて所詮は人が生み出したただの虚構だ
その虚構を信じる事が出来るのが人間だ
「……」
死んだら意味が無い
生きる意味も、人の価値も、死んでしまえば全て無へと還る
「……」
それなのに何故
人は戦うことを辞めないのだろう……
「はァっ!」
「カハハハハハ!」
ギーツとシックの攻防は続き、シックはどうやらこの状況を楽しんでいた。
「いいねいいねぇ!!最後の余興にはもってこいだなぁ!」
「フッ!はァっ!!」
「グオッ…!」
シックの顎にキックを叩き込むギーツ。
攻撃を受けたシックは顔を上にあげ少し仰け反ったまま止まる。
「…フフッ…ふへへへ……なっはははは!」
「…クッ…やはりこいつ、あの時のバッファのようだ」
ジャマトバックルを使ったバッファも、己の力を持て余し力に呑まれているような印象を受けた
そしてこいつは、その典型的な成れの果てだ
有り余るジャマトの力を制御し切れずに完全に自我を失っている……
「おらァ!ギャハハっ!ほれほれぇ!」
「……」
まぁ今回の場合、奴はジャマトに呑まれ身体は完全にジャマトのそれだ
助け出すなんてことは無理だし、奴が自我を取り戻す事なんてもってのほか
倒すしかない
《 PHASE CHARGE 》
バックルを操作して力を溜め込むギーツ。
「クレセントセイバー」には夜空に浮かぶ満月の光のエネルギーが込められていく。
「……はぁぁっ!」
《 LUNA BLADE STRIKE 》
ギーツは力を解放し、居合切りの容量で「クレセントセイバー」の刃をシックに向けた。
攻撃は命中し、再び衝撃波が走る。
「……っ!」
しかし、ギーツはシックの強さを思い知る。
「……ニヘヘ…!」
攻撃を完璧に受け止めたシックの腕には、まるで大きな損傷もなく、余裕の表情でギーツを見ていた。
「カアァッ!」
「ぐはっ!」
そのままギーツを殴り飛ばすシック。
ギーツは攻撃に耐えかね、変身が解除されてしまった。
「……クッ…」
「いやぁ〜!いい攻撃だったよぉ?でも今の僕にはちょっとくすぐったいかなぁ〜」
「……」
この様子だと、こいつのジャマトの力は時間と共に増長している……
長期戦になればなるほど、俺達は不利になる…
「でもちょっとは楽しめたかなぁ……最後に哀しい思いをしないで済んだよ。ありがとう♪」
「……」
「これで心置き無く、この世界を破壊出来る!」
「…ま、待て!」
「……ん?」
再び立ち上がる英寿に、シックは少しだけ苛立ちを覚えた。
「…まだやるの?勝負は今着いたじゃないか」
「……これ以上、俺達から何を奪う気だ…?」
「……は?」
「こいつらの慰安旅行を台無しにし、カメレオを痛めつけ、ウルスの心まで傷付け、テラスを死なせた……これ以上、何を奪う気だ」
「だから言ってるだろぉ?全部だよ……今の僕にももう何も残ってない…だったらもう、全部壊すしか無いじゃないかぁ…」
「……そうか」
シックの答えを改めて聞いた英寿は、深く目を閉じた。
「…お前がその気なら、俺も覚悟を決めるべきだな」
「……は?……っ!?」
シックは英寿が取り出したものを見て目を見開く。
「……力の…種…?」
英寿が懐から取り出したのは力の種。
『B小町』初ライブの時のジャマトから飛び出して来たものだ。
「こいつにはジャマトの力が眠ってる。そうだろ?」
英寿は力の種をシックに見せ付けるように前に突き出す。
「つまりこいつには、破壊の力が込められてる。おおよそ、こいつも女神の力で生まれたんだろ?」
「…そ、それがどうし──」
「ある者が言っていた。破壊の力と創世の力は表裏一体。そしてこいつには女神の力が込められている」
「……まさか…!」
「……これ以上、お前の好きにはさせない!」
英寿は次の瞬間、力の種を天に大きく掲げた。
そして改めて何かを覚悟し、その種を飲み込んだ。
「…っ!?」
「……」
力の種を飲み込んだ英寿は、意外にも冷静のままだった。
「……ウッ……グッ…!」
しかし、タダでは済まない。
喉元を抑え、溢れ出るジャマトの力に耐え続けていた。
全身から植物のようなものが生えてくる。それが身体に巻き付くように四肢を覆い始めた。
「…グッ…!……があぁぁぁ!!」
「……フッ…ヘヘッ……バカが!…人間ごときが!ジャマトの力を使いこなせる筈が無いだろ!」
「…ウッ……グフッ……」
胸が焼けるように熱い……
喉の中を無数のトゲが蔓延るような痛み…
視界が滲み、手足が思うように動かない……
少しでも気を抜くと今にでもジャマトの力に支配されそうだ……
だが……
『俺は…俺のやるべき事を……俺にしか出来ない事をする…!その為なら…!』
『どんな残酷な嘘でも吐いてやる…!』
『私元々…アイドル志望だったんだぁ…』
『なんだこの子等…あったけぇよぉ〜…』
『私はあの子に演技で負けてるなんて、一度も思った事無いから』
『有馬かなに勝ちたい』
『私を見殺しにする気?カレシなのに』
この世界には、願う者達が居る…
それは誰にも止めることなんて出来ない、理想を想う心……
「…グッ…!クフッ……!」
「……っ?」
英寿は一歩、また一歩と足を踏み出した。
『変な気分だよ、俺に突然半分とは言え血の繋がった人間が現れるんだから』
『でも俺の事兄さんとか呼ぶなよ?きしょいから』
『人は自分が幸せにならなくなると、他人の幸せを妬むようになる。人の幸せが欲しくなる。人の幸せを奪いたくなる』
『貴方は、そうならない自信がある…?』
『俺達の怒りを…思い知れ…!』
『奴の幸せは、復讐の先にある』
この世界には願いが…理想が……夢がある…!
『私は…ママみたいなアイドルになりたい』
『絶対、ママみたいになるんだ!』
『アイドルやるのに年齢なんて関係ない!だって憧れは止められない!』
『遂にB小町にも待望の新曲の話が出ててね!なんと、あのヒムラさんが手掛けてくれるんだよ!?』
あいつは、いつも夢に向かって真っ直ぐだった……
だがきっと、あいつのように大層な夢を持つ者はこの世界には幾らでも居る…
だったら……
俺のするべき事は……
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」
「…っ!?」
英寿は全身に溢れるジャマトの力を解放し始めた。
全身になだれ込んでくる邪悪な力。それを自覚してもなお、英寿はその力を受け入れ続けた。
「うおぉぉぉぉお!!俺は諦めない!この世界に……願いがある限り!!」
「……ま…まさか…」
「はあぁぁぁぁあっ!」
一気に力を解放した英寿の目はキランと光り、全身から溢れ出る邪悪なエネルギー諸共光となって放出した。
「……っ」
全身から邪悪な力が抜けた事を自覚した英寿は、自分の右手の中に現れたものを見る。
赤を基調とした白いバックル。
これはかつての世界で、世界が壊されそうになった時、再開した母との愛と願いによって作られた、彼だけのバックル。
「…それは…!?」
「……ついに取り戻したぞ……俺の…創世の力!!」
《 MARK Ⅸ 》
バックルを2つに分割した英寿はそれぞれをデザイアドライバーの両端にセットした。
《 SET IGNITION 》
英寿の横に九尾のキツネ型ロボ「レジェンドキュウビ」が出現する。
英寿は腕を前に伸ばした後大きく回し、顔の前で手をキツネの形にする。そのままパチンッと指を鳴らした。
「変身ッ!」
《 REVOLVE ON 》
そしてドライバーを180度回転させると、バックルは形状を変化させ「ブーストマークⅨバックル」へ。バックルのレバーを引き、バックルの9つの尾から青白い炎が吹き出る。
《 DYNAMITE BOOST! 》
《 GEATS Ⅸ 》
変化した英寿の周りに9本の光の柱が並び立ち、「レジェンドキュウビ」がそこを駆け上がる。「レジェンドキュウビ」がアーマーに変化し、その光の柱がギーツに巻き付くことにより、ギーツは純白の装甲に赤いラインが基調とする姿へと変化する。
閉じられた眼が開眼し、黄金の複眼が現れる。
最後に足元から溢れるエネルギーが背中の9つの尾へと変化。
「……そ、それは…?!」
「……」
仮面ライダーギーツⅨ。
かつての世界で彼が到達した最強の力。
破壊された全ての世界を創世の力で創り直す事が出来る。
母との愛と絆によって生まれた、彼だけの力。
それがこの姿なのである。
「…………英寿……」
「…よく見てろ、ウルス……」
絶望しながらもギーツの変化を見ていたアクア。そんな彼に、ギーツは言い放つ。
「さぁ、ここからが…ハイライトだッ!」
《 READY FIGHT! 》
「姿が変わったからなんだっていうのさ!!」
「……」
「そんなもの…!全部壊してやる!!」
激昂したシックは無鉄砲にギーツⅨに攻撃を仕掛けた。衝撃で土煙が舞い、シックは手応えを感じていた。
ゴーン… ゴーン…
「……っ」
しかし、ギーツⅨが居た筈のところには、青白いオーラに覆われた瓦礫しかなかった。
「その言葉……」
「…っ!?」
「そっくりそのまま返してやる」
「なっ…!?」
「はァっ!」
いつの間にか背後に立っていたギーツⅨにギーツバスターQB9で斬撃を喰らわされるシック。
ギーツⅨが創世の力を駆使して瓦礫を創造、シックの攻撃を防いでいたのだ。
「クッ…!その力……まるで…」
「お前たちサポーターは、あいつら兄妹から幸せを奪った。許されざる事をした…」
「……っ…」
静かな怒りを見せるギーツⅨに怯えるシック。
「…ぼ…僕の言う通りにしないのが悪い……」
「……」
「僕の言う通りにしてさえいれば!彼女は幸せになれたんだ!!彼女が僕を受け入れれば!彼女が死ぬ事も無かったんだ!!」
「……」
「……これは僕の事を信じなかった…罰だ…」
シックの言い分を聞き入れたギーツⅨは、ゆっくりと彼を見つめた。
「……テラスは信じていた」
「…え?」
「自分は夢を叶えられると。自分の力で夢を追いかけられると。信じて進み続けた」
「…っ」
「そんなテラスの…いや、テラス達の思いを踏みにじったお前を……俺は許さない!」
《 RAILGUN 》
「フッ!はっ!」
「グッ…!」
荷電粒子砲攻撃でシックを牽制するギーツⅨは、そのままデザイアドライバーの右側にセットされていたバックルを取り出し、ギーツバスターQB9にセットした。
《 MARK Ⅸ 》
《 DYNAMITE BOOSTER 》
「はぁぁぁ…!」
《 BOOST TACTICAL IMPACT 》
「はァァァっ!」
「…っ!でやぁぁぁっ!」
ギーツⅨの強力な一撃を察知したシックは、すぐさま自分の腕のツタで防御の姿勢をとった。
「…グッ…!ぐわぁっ!」
しかし攻撃を受け止めきれず、シックは両腕を損傷した。
「くそっ…!なんでこんな事にィ…!」
「お前は見くびっていたんだ……テラスの事を、仲間の事を…そして、女神の力もな」
「……ウッ…ぐうぅぅぅぅぅっ!」
ギーツⅨに刃先を立てられたシックは、諸刃の剣で足を引っ掛けようとした。
「はァっ!」
「…なっ…!?」
「はァァァっ!」
「ぐあっ!!」
しかしそれも軽々避けられ、投げつけられたギーツバスターQB9でその身体を突き刺された。
「……さぁ、盛大に打ち上げだ…!」
創世の力で足場を作り上げたギーツⅨは、ブーストマークⅨバックルを操作する。
《 BOOST Ⅸ STRIKE 》
「はぁぁぁ…!はぁぁぁぁぁあああっ!」
「…っ!ぐあぁぁぁぁああっ……」
青白い光に包まれたギーツⅨは飛び上がり、突き刺さったギーツバスターQB9に向かってキックを放った。
最後の一撃を喰らったシックは爆散し、ジャマトの細胞諸共粉砕された。
第四十九話「豁然Ⅸ:九尾の凱旋。願いを力に」
次回
「……俺の力不足だ」
「あの子の想いに応えてあげるの」
「君がその眼で真実を探すんだ」
「俺は……もう…戦えない…!」
「戦えないから、何もしないのか」
第五十話「豁然F:絶望の先に見えるもの」