仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
「……」
新生B小町の活動も軌道に乗ってきて、新曲MVの撮影スケジュールも本決まりして来た
ミヤコさんの見立てだと、この曲がヒットすれば新生B小町の新たなる起点となると予想していた
それは俺も同意見だ。あの曲には、誰もをそう思わせてくれる説得力があった
星野アクアはこの日も事務所のベランダから夜空を見上げていた。
藍紫色のIDコアを握りしめながら……
「…ふぅ〜…!疲れたぁぁー!」
「…ルビー、レッスン終わったか」
「うんっ!何とか振り入れも終わったし、あとは追い込んで来週の撮影に備えるだけっ!」
「……そうか」
アクアはルビーの元気そうな表情を見た後、また夜空へと視線を移した。
「…そいえばお兄ちゃん、何してたの?ベランダで黄昏ちゃってさっ」
「……考えてた」
ココ最近になり、星野アクアという人間は変わった。
復讐という呪縛から開放された彼は、これまで空想していなかった未来の自分について考えていた。
「俺は今まで、何かに囚われていた。そして自分を追い込んでいた。でも最近は、少しづつ変わっている」
「……?」
「…俺はもう、幸せを求めてもいいのかな……」
「そんなの当たり前でしょ」
「……っ」
即答をしたルビーの瞳を見て、アクアは目を見開く。
「私はB小町が有名になって、ママみたいなアイドルに成りたい。それが私の理想の世界」
「……」
「…でも、お兄ちゃんもミヤコさんも、もちろんエースさんだって…みんなみんな、幸せになって欲しい」
ルビーも夜空を見上げ始め、一つ一つ星を指でなぞっていく。
「誰かが幸せになれば、きっとその周りにいる人達も幸せになれるでしょ?みんながみんな幸せになれれば、いつか地球に居る人達みーんなが幸せになれると思わない?」
「……フッ」
「…あー、鼻で笑ったなぁー?」
「…いいや、ルビーらしいなと思っただけだ」
「……私も幸せになって、みんなも幸せになれる世界。これも私の理想!だからお兄ちゃんにも幸せになって欲しい」
ルビーの瞳は、まるであの日母親になる覚悟を示したアイのようであった
「……欲張りだな」
「アイドルなんてそんなもんでしょっ」
そう、あの日も同じだった
ルビーを照らす幾千の星、その中でこれでもかと煌めく一番星
同じ輝きをもつルビーの瞳が、いつまでも俺を見つめていた
「たァァっ!」
「グッ…!」
トロスの攻撃が直撃し、ウルスは建物に打ち付けられた。瓦礫の中には、満身創痍ながらも気力で立ち上がるウルスの姿があった。
「流石にタフだな。並のライダーならとっくに倒れてるぞ。そのバックルの力か?」
「…ハァ…ハァ……」
ソルジャーフォームは他のバックルで変身した姿よりも防御力と耐久性に優れている。
それ故に決定打となりうる攻撃手段が少ない。
対してトロスが変身するサムライエッジフォームは、防御力を犠牲に代わりに獲得した機動力と殺傷能力がある。
どれほど防御力の高いソルジャーフォームであれど、その攻撃を受け続けばいずれ装甲が破ける。
更に言えばトロスにはデザイアドライバーⅡの特殊能力で獲得したフルオートで発生するカウンターがある。
これにより実質トロスは弱点を持たない。
それ故にデザイアグランプリでは一目置かれる存在となったのだ。
「このままお前を負かすのもいいんだけどなぁ…それじゃあゲームが盛り上がらねぇだろ」
「……は?」
「星野アクア、お前に一度だけチャンスを与える。俺の質問に納得する答えが返ってこなければ、このままお前をボコす。そうじゃなきゃ、俺のタグをお前に渡す」
「……っ」
思ってもみない提案がトロスから言い渡される。
このまま姫川と戦わずに済むのであれば、それに超したことはない
姫川を納得させる事が出来れば、俺の勝ち…
「……受ける」
「…そうか」
ウルスは構えていたソルジャーランサーを下ろし、トロスも二本の刀を鞘へと納刀する。
「それじゃあお前は……」
「……」
「妹が死んだ時、どう思った?」
「……」
「…なぁ、ルビー」
「うん?なにお兄ちゃん?」
「…お前、アイが死んだ時…どう思った?」
「……」
ルビーにアイの面影を感じたアクアは、思わずそう質問してしまった。
互いに地雷を踏む質問。しかしアクアはどうしても知りたかった。
「……私は…──」
「……何も…」
「……」
「…怒りも悲しみも、あの時の俺には無かった。ただ広がる虚無を、ただ一点に見つめるばかりだった」
「……」
ウルスは彼の質問に正直に答えた。
人の情を呼び起こすにはもってこいの質問だ。濁すことも出来る。
でも今の彼にそれは出来なかった。
この質問には、誠心誠意答えるべきだと判断したからだ
「……そうか…」
「……っ!!」
次の瞬間、再び刀を抜刀したトロスが突っ込んで来た。間一髪ソルジャーランサーで受け止めたが、その怒りに満ち満ちたトロスの瞳に、ウルスは衝撃を受けた。
「ガハッ…!」
「ふんっ!」
再び吹き飛ばされるウルス。しかしトロスはその吹き飛ばされた先に先回りし、わざと彼が死角になるように佇む。
「おりゃァ!」
「ガッ…!」
フルオートでのカウンター能力を駆使し、飛んで来たウルスを蹴り上げた。
「ハァ…ハァ……」
「「何も感じなかった」。それがお前の答えか」
「…ハァ…そうだ……」
「あんだけ噓を吐いて来た人間とは思えねぇ答えだな」
「……お、俺は…」
「俺も同じなんだよ」
「…え?」
トロスはアクアの言葉を遮り伝えた。
「…俺も両親が死んだって聞いた時、何も感じなかったんだよ。当時5歳だったって事もあるが…「へーそうなんだ」位にしか思えなかった」
「……じゃあ、なんで…」
なんで納得しなかったのか、アクアは問う。
「…今思えば、そんな自分に嫌気が指す。なんでもっと…悲しんでやれなかったんだろうってな……」
「……っ」
トロスは再び刀を構え、刃先はウルスへと向いた。
その鋭い眼光が、ウルスを睨み付ける。
「俺は親父が嫌いだった……でも、愛はあったと思うぜ」
「……」
「星野アクア。お前はどうだ?」
「……俺は…………」
「……っ!何か来る!」
次の瞬間、ギーツが何かの異変を察知し周囲に知らせる。
すると上空から一筋の影が彼らの中央地点へと着地する。強い衝撃とともに、辺りには砂埃が舞う。
「……あいつは…!」
「…ジャァ……」
その影は幾度か見覚えのある、白いバラのジャマトのそれだった。
「はいはーい!!デザロワ一旦中止ぃー!」
すると、どこからとも無く声が響いて来た。
「ジャマトの乱入を確認。緊急事態の為、各ライダーへ対象ジャマトの討伐を要請する」
4次元ゲートから現れたクロメとシロメ。
「んてことでそこの4にーん!みんなで協力してあのジャマトを──」
「断る!!」
「……へ?」
シロメが意気揚々と4人にジャマトの討伐を要求しようとしたその刹那、トロスが食い気味にそれを拒否した。
「俺達が今参加してんのはデザイアロワイヤルだ!ライダー同士が戦い合って頂点を決める!ジャマトを倒したいなら勝手にやってろ!お前もこんな所で終われないよなぁ!星野アクアぁ!」
「……あぁ」
「…え、ちょっとぉ…?」
ジャマトそっちのけで再び向き合うトロスとウルス。その行動にシロメは驚きを隠せないでいた。
「私も出来れば、このままエースさんと戦いたい」
「……レヴィア…」
レヴィアとギーツも戦い会う気満々だ。
どうやら今この4人にジャマトを倒す意思は無いみたいだ。
「…はぁ〜…これだからデザ神は扱いに困る……クラムさんになんて説明しようか〜」
「仕方ないよ。ここは私達だけで何とかしよう」
すると、クロメは懐からヴィジョンドライバーを取り出し腰に装着した。
「はぁ…お小遣い減給間違いなしだなぁ……ナビゲーターがジャマトと戦うなんてぇ…」
シロメもシワシワの目のままもうひとつのヴィジョンドライバーを装着した。
《 PEEKα CONNECT 》
《 PEEKβ CONNECT 》
ヴィジョンドライバーに指紋を認証させた両者は、互いの手を二人の間で合わせた。
「「変身」」
プロビデンスカードを取り出し、そのままドライバーにリードさせる。
《 INSTALL 》
《 Navigation to fulfill desire, PEEKα. 》
《 Everyone's ideal navigation, PEEKβ. 》
シロメは白を基調とした身体に黒のラインが走る仮面ライダーピークαへと変身し、クロメは黒を基調とした身体に白のラインが走る仮面ライダーピークβへと変身した。
「ナビゲーターが変身しただと…!?」
元居た世界ではまず有り得ないことが起こり、ギーツは変身したナビゲーターの2人を見た。
「デザイアグランプリのナビゲーター、シロメさんとクロメさん。実は2人ともデザイアグランプリが浸透するまでは、仮面ライダーとして世界平和と共に広報の活動もしてたんだよね」
ここでレヴィアの解説が挟む。
「彼女達の戦いぶりを見て芸能界に入った人も少なくないと思う」
「…だが、戦えるのか?あの二人にそこまでの実力は感じない」
「たしかにひとりづつと戦うことになったら、私と姫川さんのふたりでトントンって感じかな。でも、2人ともゴリゴリの戦闘タイプ。それが同時に迫って来たら、例えルビーのお兄さんやエースさんと4人で挑んでも完敗だよ」
「……ニンゲンハ……ゼンインツブス…」
「だってさクロメっ!私達潰されちゃうのかなぁ〜?」
「くだらないこと言ってないで、さっさと仕事済ませちゃうよ」
「…へーい」
「……ジャァァ!」
小言を言い合うふたりの間に、白バラのジャマトが突っ込んでくる。
「よっ!」
「ふっ!」
最低限の動きでそれを避ける各々は、同時に後ろ足蹴りを繰り出す。
「…ジャァ!」
「おっ?へへっ!」
攻撃の的をピークαへと向けたジャマト。
ピークαははにかみながらジャマトの攻撃をアクロバティックに避け続ける。
「よっと!よいしょォ!」
「ジャァッ!」
足を掬うように蹴りを入れ、ジャマトの腹部にエルボーを食い込ませる。
「ジャァ…ジャァァ!」
「ふっ…!はっ…!」
続いてジャマトは標的をピークβに移し替える。
ピークαとは正反対に、ピークβはジャマトの攻撃に対し最低限の動きで相手の動きを見切る。
「ジャジャジャ…!ジャァァァァァ!!」
白バラのジャマトは遂には触手を四方に撒き散らし荒れ狂い始めた。
「…まったく、無作法にも程がある」
「えぇ〜?こんくらい派手な方が良くなぁーい?」
暴れ狂うジャマトを見て、ふたりは少々呆れた表情をする。
「…ジャァ…!ジャァ…!」
「……あのジャマト…もしかして…」
「ん?なになに??」
「…いいや、なんでもない」
「ふぅ〜ん……さぁてと、私達もハイライトと行きますかっ!」
「これで邪魔者は居ねぇ!思う存分戦おうぜっ!」
「……姫川…お前はなんで、仮面ライダーになった?」
「…あ?」
「叶えたい理想の世界があるのか?だがお前からはそこまでの野心を感じない。でも何か大きな信念を持ってる……それを教えてくれ」
「……」
ウルスの熱い視線が、トロスに届く。
「…なんだか「東ブレ」の舞台を思い出すなぁ」
「……っ?」
「…俺が演った「ブレイド」と、お前が演った「刀鬼」。あの時お前は俺に質問したな…「志はあるのか」と……」
「……」
トロスはどこか物懐かしいように語る。そこには清々しい感情が混じっていた。
「俺にはある。何者にも叶えられない、俺が目指す志が…」
「……」
「…お前にもあるんだろ?お前にしか叶えられない、理想の世界が」
「……あぁ」
「…だったら証明しようぜ…!俺達の想いを…俺達の手で…!」
トロスはキラキラとした瞳でウルスへ啖呵を売った。その瞳は何かに誘おうとしているように見える。
「……」
しかしそんな瞳を見ても尚、ウルスの瞳に光が宿ることは無かった……
第五十六話「阿吽Ⅵ:モノクロな蜃気楼」
次回
「やっぱりあのジャマト、学習してる」
「さっきの言葉は嘘だったのか!?」
「こんな時、ルビーならどうするか考えてた」
「結局は俺も、戦いを楽しんでいたのかもしれない…」
「私の本気、エースさんにちょっとだけ見せてあげる」
第五十七話「阿吽Ⅶ:純白のマグナム!」