仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
若くして芸能事務所『苺プロダクション』、通称「苺プロ」を設立し、アイドル旋風の真っ只中、アイドルグループ「B小町」を結成し伝説的アイドル『アイ』を生み出した。
「B小町」の東京ドーム公演が間近まで迫ったその最中、『アイ』の訃報が流れ、その後の彼は事務所からも芸能界からも姿を消した。
今、この時までは……
「……誰だ」
「浮世英寿。仮面ライダーギーツだ」
「…あぁ……よくアクアと連んでる奴か。最近はルビーのマネージャーやってるんだってな」
壱護は都市から離れた釣り堀に居た。特徴的なサングラスに無精髭、話に聞いていたよりもずっと無気力に感じた。
「アイツのマネージャーは大変だろう。「深掘れ☆ワンチャン!!」でバズって売れて、有頂天になってんのさ。元からあの性格だからな……どうせ色んなところに迷惑かけて現場荒らして…」
「俺はそんな世間話をしにここに来たんじゃない。俺が知りたいのは、テラスの目的…そして、アンタがテラスを生き返らせた、真意だ……」
「……」
壱護は変わらず背を向けたまま、少し間が空いた。
「……まず聞こう。なんでお前にだけ記憶が残ってる?」
「…俺が…俺だけが、この世界で特別だからだ」
「……は?」
別にこれは比喩表現ではない
俺は元より、別の世界からやって来た
つまりこの世界の人間では無い。テラスの言っていた、“この世界”の人々の記憶をリセットする。というものに、俺は含まれていなかったのだろう
「創世の力を手にした今、俺は創世の女神に選ばれたんだ…」
「……ヘッ…女神の力をモノにしたってか?笑わせる!…女神の力ってのは、そんじゃそこらで扱える代物じゃねぇ。お前みたいな新参者なら尚更だ…」
「……随分と女神の力に詳しいな。アンタはどこまで運営と繋がってる」
「悪いがそれを教える気は無ぇ……代わりと言っちゃなんだが…確かにルビーを生き返らせたのは俺だ」
壱護は首だけ振り返り、堂々と告白した。
「だがこの願いは、あくまでアイが叶えた願いだ」
「…どういう事だ?」
「アイは、デザイアグランプリで3度の優勝を果たし、その全ての願いを叶えた。1つ『「B小町」が売れる世界』、2つ『アクアとルビーが元気に育つ世界』……だからこれはアイが望んだ世界だ」
「……3つ目の願いは…?」
「……」
壱護は再び黙り込み、釣り没頭し始めた。
「話を戻す。テラスに入れ知恵したのもアンタだな。それだけじゃない…新たなデザイアグランプリへの参加、次々に獲って来る仕事…アンタがバックボーンに付かなきゃ説明が付かない」
「……だったら何だってんだ」
「…そんなに回りくどくテラスをプロデュースするなら、素直に「苺プロ」に戻って来れば良いんじゃないのか?ミヤコは今でもアンタの帰りを待って──」
「俺にはやる事がある。ミヤコを巻き込む訳にはいかない」
「……やる事?」
「……ブッ殺すんだよ。アイをあんな目に遭わせた奴を…!」
「……」
復讐に燃える瞳……
そうか…こいつもアイツらと同じなのか…
「目星はついてるのか?」
「そういうお前はどうなんだよ……ここに来たって事は、それなりに情報を持ってるって事だろう。もっといえば、アクアには聞かれたくない情報まで把握していて、アイツの復讐心を呼び覚ます事を危惧してる……」
「……」
図星を突かれた英寿は、少し考えて発言を進めた。
「……アイツは今、自分の復讐がもう既に終わってると思ってる」
「……」
「アイを殺すように仕向けた男、自身の父親の正体は上原清十郎。だが妻の姫川愛梨と心中しもうこの世には居ない……だがこの考察には決定的な矛盾がある」
揺れる釣り糸の浮き。
風の流れが少し変わった。
「15年前に起きた軽井沢の心中事件。その時、星野アイはまだ
「……」
「…アイツらの父親は、別に居る。上原清十郎は妻が不倫相手と子供をこさえた事を知り激怒し、心中を企てた。アイツらの父親は……アイを死へ追いやった男は、今もまだ生きている」
「……」
「……この事件は、何一つ終わってない」
壱護は英寿の言葉に耳を傾けながらも、変わらず釣竿に意識を向けている。
どうやら壱護も同じ結論に至っているらしい。推測の域を超えないこの考察に、反論も何も無いからだ。
「……」
「……アンタはテラスの事を、復讐の道具として見ているのか?」
「そりゃお互い様だろう。アイツが上を目指せば、いずれ何かしらの情報を掴むかもしれない……アイツも、同じ復讐を望んでる…だが、もしアイツらの父親の情報を掴んだら……」
「……」
「…俺が真っ先に殺しに行く。最後に復讐を果たすのは俺だ…!」
「……っ!」
すると、周りの客がザワザワと騒ぎ出した。
「…ジャァァ…!」
「ジャァ…」
その視線には、2体のバラのジャマト。赤い花弁と青い花弁のジャマトがそれぞれ一体づつ居た。
「デザイアグランプリ・ノワール、だっけ?これもルビーの持ち込み企画だ」
「なに?」
「最近あの類のジャマトが頻繁に出没してたからな。そこを逆手に取って、俺がアイツにアドバイスしたんだ」
「ジャァァ…!」
「フッ!…はッ!」
赤いバラのジャマトが率先して英寿に襲いかかって来る。距離を置く英寿、背後の壱護を気にしながら敵をいなした。
「お前がここに来た理由は、ルビーの事を聞く為と、俺を止める為なんだろ?」
「……」
「…お前がどんな信念を持ってるのか、俺は知らない。だから証明して見せろよ…お前の信念が、俺の復讐を止めるに値するのか……見極めてやる」
「……望むところだ」
英寿はデザイアドライバーを装着すると共に、ブーストマークⅢバックルを取り出した。
「ジャ…?」
「ジャッジャッ…」
「……」
《 MARK Ⅸ 》
《 SET IGNITION 》
英寿はバックルを分割し、ドライバーの両側にセットする。
「…変身ッ!」
《 REVOLVE ON 》
《 DYNAMITE BOOST! 》
《 GEATS Ⅸ 》
「…ジャッ…!」
「ジャァッ!」
英寿は仮面ライダーギーツⅨへと変身する。
変身と同時に、ギーツⅨはギーツバスターQB9を出現させ、2体のローズジャマトを一閃した。
「さぁ、ハイライトだ…!」
《 READY FIGHT! 》
「ちなみに午後11時以降、大人が未成年者を連れ回すのは都条例違反だからな」
「うぐっ…カタイコトイワナイデヨ……」
この日、収録後のアクアを捕まえたMEMちょは、B小町のYouTube用撮影スタジオ兼MEMの自宅までアクアを連れて来ていた。
「…はぁ〜……」
「お疲れさんだねぇ〜」
「今日は早朝からの収録だったからな……ララライの次の舞台にも呼んで貰えて、稽古やらなんやらもある。家に帰ったら勉強もしたいし……」
「そういえばアクたん頭良いんだっけ。大学行くの?」
「そのつもり」
アクアは目頭を押さえ疲れている様子だった。
ルビーの躍進のおかげもあってか、アクアにも仕事が舞って来る機会が増えて来たのだ。
「もう高2の夏だからな医大受験はもうここらでスパート掛けないと間に合わない」
「医大!?アクたんお医者さんになるの!?」
「…分からないけど、ちゃんと未来を考えるなら、その選択肢も残しておきたい」
アクアは前世からの夢だった、外科医への道を進もうとしていた。
「そうするべきだよぉ!私も大学行きたかった人だからさぁ〜…偉いなぁ!」
「今からでも別に遅いって事は無いだろ。高認受けて受験勉強すれば……」
「ふふふ…アクたんは若いなぁ〜…そんなマトモな事が出来る人は初めから芸能界来ない!…と言っても過言では無いからね!」
「過言が過ぎるだろ」
MEMの豪語にアクアは冷静にツッコミする。
「皆目の前の事で手一杯だからさぁ、理想の世界を叶えられるなんて言われたら誰だってそこに縋りたくなるもんだよ…」
「……」
「人は必ずしも合理的な判断をする訳じゃない……それは、アクたんだって同じでしょ?」
「……っ」
MEMの先程までとは打って変わった表情に、アクアは少しだけ驚いた。
「合理的な考えが出来てたら、かなちゃんとももうちょっと上手くやれたんじゃない?」
「…やっぱその話かよ。こういう話に口挟まない方が良いぞ」
「まぁね。でも私、合理的じゃないからさ…」
《そこまで避けなくても良いじゃんかぁ!!傷つくわよばかーー!!》
「悲しんでる友達を見たら、なんかしたいって思っちゃうのが人間てもんでしょ」
ここに来る前、MEMはかなの心の悩みを聞き出していた。
あかねとの正式な交際をかなに打ち明けたアクア。その後のアクアはかなを避けるような動きを見せ、本人はその態度を酷く気にしていたのだ。
しかし、それは彼にとっても……
「……これ以上どうしろってんだよ…」
「それは分からないけど…女の子にちょっかいかけた分のアフターケア位は……」
「…ちょっかい?」
「アクたんはまだ子供だからバランスが分からないと思うけどさぁ?アクたんのかなちゃんに対するムーブは、ちょーっと思わせぶりだったよね?」
「……」
「ああいうのは本来、気がある子にしかしちゃ駄目でっ……」
「……」
アクアはMEMをソファに押し倒し上に被さった。
「……人を子供扱いして…知ったような事言うなよMEM…」
「……アクたん…?」
「一度距離を置くって決めたら、半端は駄目なんだよ……突然避けるような真似したら有馬が傷つく、それ位の事を俺が想像出来なかったと思うのか?俺があいつに、こんな事したくてしてると思ってるのか…?」
アクアは震える声でMEMに訴えかける。
「最近は、ちゃんと未来の事を考える様になった…俺だけじゃなくて、周り奴の事も……」
「……」
「有馬はきっと、この先もっともっと有名になる……ごく当たり前の事を言って良いか…?アイドルに男が出来たら、ファンは普通キレるんだよ。週刊誌に撮られたら?誰かにネットでリークされたら?もし有馬かなに男が居るってバレて、悪質なファンが有馬に何かしたら……」
「……」
「……誰が責任を取るんだ…?」
「……」
もしかして、逆なのかもしれない…
私の想定は間違っていたのかもしれない…
「突然そいつが家に押しかけて、殺されでもしたら……どうすれば良いんだ…?」
かなちゃんがアクたんに入れ込み過ぎなんじゃなく
アクたんの方が…
「またそんな事になったら…俺は、もう……」
アクたんの方が、かなちゃんの事を……
「……そっか…ごめんねぇ」
「……」
起き上がったMEMはアクアをそっと抱き締め、頭の後ろを優しく撫でた。
「……これは…思わせぶりな行為じゃないのか…?」
「…ん〜……人は合理的じゃないからさぁ」
「ジャジャジャァァ!」
「はぁッ!」
赤バラのジャマトが放つ無秩序な棘のツタがギーツⅨを襲うも、ギーツバスターによって細切れにされてしまう。
「ふっ!はぁっ!」
「ジャァッ!」
更に銃口を向けて的確に急所を射的する。
「ジャァ〜…」
「…さぁ、来いよ」
続いて青バラのジャマトもギーツⅨへと衝突する。
「……ジャァァッ!」
「はっ!たぁッ!」
青の方は赤とは違い、こちら側を翻弄するような攻撃を仕掛けて来た。視界を奪うような攻撃、足元を掬う攻撃。しかし、ギーツⅨはそれらを簡単に去なし、反撃を喰らわせる。
同時にジャマトによって壊された地形は創世の力によって再生。風景はそのままだ。
「ジャッ…!」
「ジャァァ…!」
「……フッ」
「……ほぉ…」
余裕を見せるギーツⅨに、壱護は感心するような表情を見せた。
「…流石はデザ神候補常連なだけあるな。噂通りの強さだ」
「こんな程度じゃ終わらないさ。俺にもやる事がある……俺も一度は復讐に囚われた人間だ…その報いを、俺は晴らす…!」
《 RAILGUN 》
「はぁ!」
「ジャァッ!」
荷電粒子砲攻撃により射抜かれる赤バラのジャマト。
「ジャ…!」
「…っ!」
しかし倒れたと思われた赤バラのジャマトは果敢にもギーツへ攻め続ける。
「ふっ!はっ!」
「ジャジャァッ!」
再び荷電粒子砲攻撃で射抜こうとするも、その攻撃はされられてしまう。
「……フッ」
「ジャァッ…!」
しかし、ギーツⅨにも手はある。
創世の力によって荷電粒子砲が向かう先へ壁を生成。反射した荷電粒子砲が赤バラのジャマトの背後を襲う。
「ジャ…!」
「…っ!はっ!」
続いて青バラのジャマトもギーツⅨを再び襲う。
《 BLADE 》
《 BOOST CHARGE 》
ギーツバスターをブレードモードへと切り替え、刀身にエネルギーを溜め始める。
「…はぁぁっ!」
「ジャァッ…!」
《 BOOST TACTICAL VICTORY 》
青バラのジャマトが放つツタの束を一閃するギーツⅨ。そこに立つのは、何者をも恐れない強者の姿があった。
「ジャッ…」
「ジャジャ…ァッ…!」
「……おぉ…あのジャマト共が怖気付き始めた…」
「…お前らもここまでのようだな」
《 RAILGUN 》
ギーツⅨはギーツバスターを再びレールガンモードへと切り替え、マグナムバックルをセットした。
《 MUGNUME BOOSTER 》
「はぁぁぁ…!」
「ジャ…ジャジャ…ッ!」
「ジャァァ…!」
《 BOOST TACTICAL IMPACT 》
「はぁぁぁぁあっ!」
「ジャァァァァ…!」
「ジャァッ…!」
ギーツバスターから放たれる強力な砲撃は、2体のバラのジャマトを飲み込むように命中する。
再生する暇もなく、その身体は焼かれる事となった。
「……ふぅ…」
「ほぉ……マジでやりやがった…」
「これで少しは伝わったか…?俺が叶えたい理想の世界が…」
「……あぁ…」
変身を解除した英寿は壱護に手を差し出した。壱護がその手を掴むかと思えたが…
「…だが、まだまだあまちゃんだな。お前ならもっと、完璧な勝ち方が出来た筈だ」
「…なに?」
「なぁに、ジャマトスタンプラリーの枠はあと3つも空いてる。その3つの枠…どう埋めるかは、お前次第だ」
「……」
「……しばらく暇つぶしの場所変えねえとなぁ…」
壱護は小言を口ずさみながらその場を後にした。
残された英寿は少し呆れたような表情を取り、反対側へと振り返った。
「……はぁ…」
我ながら酷く取り乱してしまった……
MEMの部屋から開放されたアクアは、夜道をとぼとぼと歩いていた。先程MEMの目の前で大人気なく取り乱した事を後悔していた。
「…………有馬……っ」
「…おかーえり、お兄ちゃん」
「…ルビー……」
事務所まで戻って来ると、玄関前でルビーが待っていた。
「何やってるんだ?さっさと部屋に…」
「いや〜…その前にお兄ちゃんに話があってさぁ」
「……ん?」
含みのある笑みを浮かべ、ルビーはアクアへと迫った。
「……これは?」
「新しいゲームの招待状」
ルビーは1枚の封筒をアクアに手渡した。封を開けると、そこには「DGP」と書かれた背後に大きな「N」の文字。
「…デザイアグランプリ・ノワール…?」
「お兄ちゃん……」
「……?」
「…お兄ちゃんはまだ…理想の世界、叶えられてないんでしょ?」
ルビーの瞳のハイライトと同じように、真っ黒い文字が記されていた。
第六十一話「軋轢Ⅲ:ストロベリーアベンジ」
次回
「お前が目指したアイドルはそんななのか!?」
「ママだって嘘吐きだったじゃん」
「アンタ、勝つのが怖くなったんじゃない?」
「俺が掴む勝利には、何人ものライダー達の紡がれた想いがあった!」
「…さぁ、盛大に打ち上げだ!」
「無理なんだよ、奇麗にまっすぐこの世界で売れるなんて」
第六十二話「軋轢Ⅳ:燃えろ!ふたつの咆哮」