仮面ライダーギーツ【Mother and Children】 作:キャメル16世
「悪ぃな星野、金田一のおっさんに捕まっちまって」
「大丈夫ですよ、今日はオフだったので」
稽古終わりの姫川大輝は、アクアの隣の席に座るなりマスターに酒を注文した。
「それで、今日は突然どうしたんですか?」
「いや、近況報告的なヤツだよ。お前、最近忙しいみてぇだし、それ以外の話も聞いてみたかったし」
「…まぁ、ほとんどがルビーの受け売りですよ。今の俺に実力なんてない……」
酒を嗜む姫川に、アクアは弱音を吐いていた。
「…お前、考え方が有馬に似てきたんじゃないのか?」
「は?なんでここで有馬が出てくるんだよ」
「お前らの考えてる事なんて何となくわかる。有馬も今頃、自分に仕事が来てるのは星野ルビーのお陰で、星野ルビーが居なきゃ私はただのお荷物って卑下してるんだろうよ」
「俺は何もそこまで……」
「じゃあなんで最近、デザグラに一切顔を出さないんだ?」
「…っ」
アクアの目を見た姫川。
今日彼をここに呼んだ真意が何となく分かった気がする。
「ここ数ヶ月、デザグラが開催したゲームにお前がエントリーした記録は無い。ネット番組で炎上沙汰があったのは知ってる。だがお前程の奴が、何故いきなりデザグラに参加しなくなったのか、俺はそれが知りたいんだ」
「……俺の復讐は、もう終わった…」
「…あ?」
アクアは姫川の疑問に対し、素直に応えた。
「俺は元々、母親の復讐をする為にデザグラにエントリーした。その方が犯人により近付けると思ったからだ……だが、犯人は既に死んでいて、俺が復讐を果たす理由はもう無くなった…」
「……」
「…俺には元々理想の世界なんて無い……叶えたい理想は既に叶ってた……だから、もう……」
「……なるほどな…」
アクアはルビーが仮面ライダーに復帰した後から、デザグラにエントリーする事を辞めていた。
アイの復讐を果たす…自分の父親を殺す事がアクアにとっての理想その物だった。
しかし、その理想が既に果たされないと知った今、彼にとっての戦いは終わった。
「…だが、それだけじゃないんだろ?」
「……え?」
「お前が仮面ライダーになった時の眼は、普段とは違う眼に感じてた。誰かを守りたいって想いも、強かったんじゃねぇのか?」
「…そ、そんな事無い……」
「……確かにお前の妹は凄い。正直ここまで一気に戦果を詰んだのは、前代未聞だと思う。お前が妹に気を使って戦いにくくなってるのも分かる」
「だからそういう事でも……」
「ならテメェの理想を、テメェで勝手に終わらせんな」
「……は?」
アクアは顔を上げる。
姫川はこちらを見ることなく、注がれた酒を嗜んでいた。
「あの時のお前の目は、間違いなく本物だった。だからお前に力を託した。この世界を変える為に…」
「今更そんな事言われ……っ…」
「……気付いたか…」
「…俺とアンタは…ゲームで1度戦って、アンタはライダーを引退し、俺にバックルを授けた……でも…」
「…あぁ…それが何のゲームだったか、思い出せねぇ」
「……」
「元デザ神の勘だが……この世界は、一度創り変えられ…人々の記憶もリセットされてる」
「……でも…なんで…?」
「……今日はそういう話もしたかったんだ。安心しろ、コネは作ってある」
「…え?」
姫川はノールックで店の入口を親指で指した。
「…おや、今夜は姫川君としか呑めないと思ってたけど…意外な人物が居たもんだねぇ」
「……クラムさん…」
扉が開かれると、そこからクラムが入って来た。
「どうして貴方が…」
「姫川君が呼び出して来てね、デザイアグランプリに投資したいって話だったから来たけど…?」
「デザイアグランプリに投資…?スポンサーになるって事か?」
「実際に投資すんのは、俺達の質問にアンタが答えるのが条件だ…」
姫川はクラムの目を睨みつけるように見つめた。
「教えてくれよクラムさん。一体この世界に、何が起こったのか……」
「……フフッ」
クラムは姫川の視線に応えるかのように、不敵な笑みを浮かべた。
「英寿さん、ほんとに一緒に帰らなくて大丈夫?」
「あぁ、念の為周りの状況も確認しておきたい。それに、こんな時間にお前と出歩いてスキャンダルなんて起こしたんじゃ世話ない」
「…う〜ん〜…それもそだねっ!じゃ、私は先帰るね〜」
「……あぁ」
本当は別の目的がある。
こんな時間にはなったが、あの男はまだ居るだろうか……
「……ん?」
「……ハァ…ハァ…」
やられた……
完全にハメられた…!
まさか私が……
「デザグラのナビゲーターがこんな所で何やってるんだ?」
「……え…エース君…!」
「…なんだか訳ありみたいだな。詳しく聞かせてもらおうか」
息を切らしたナビゲーター、クロメを見つけた英寿は人気の少ない場所まで同行しクロメに水の入ったペットボトルを手渡した。
「……ふぅ…」
「…さて、何があったのか聞かせてもらおうか」
「……言うつもりは無いよ。これは私の問題だから」
「そんなにボロボロになってるのにか?」
「……」
クロメの衣装は見るからにボロボロになっており、身体の所々も汚れたままだった。
「…世界が作り替えられ、この世界は以前とは違う変化を持っている。お前のそれが関係してるなら、教えて欲しい」
「……驚いた。エース君、リセットの影響受けてないんだ…」
「…クラムから何も聞いてないのか?」
「聞いてないよ。世界が作り替えられた後すぐ、私は運営を追放された……女神に仇なす裏切り者として…」
「運営を追放…?裏切り者?どういう意味だ?」
思い老けるように語るクロメに、英寿は問いただす。
「……今各地で目撃されてるバラのジャマト。その発生源である“力の種”を、私がジャマト側に渡しちゃったからね…女神はそんな私を排除しようとしているの」
「…だからこんな目に……」
英寿はかつての自分を思い出した。
彼の世界のゲームマスター、ギロリに楯突いたことによって、彼はプレイヤーやギロリ自身から追われる立場となり、今の彼女のように隠居する事を余儀なくされていた。
あの時はナビゲーターのツムリが俺の介抱をしていたが、まさか逆の立場になるとはなぁ…
「確かに、今頻繁に出没してるバラのジャマトはどれも強力で、力がある者達でしか太刀打ち出来そうにない厄介な連中だ…それを野放しにしてしまった責任は大きい」
「……」
「……だが、お前じゃないんだろ?“力の種”をジャマト側に渡したのは…」
クロメの言葉には淀みがあった。
明らかに何かを隠している者の口調だった。
「……ふふっ」
「…何がおかしい?」
しかし、そんなクロメは吹き出すように微笑んだ。
「……私に期待してるところ悪いけど、ホントの事だよ。私はジャマト側に寝返った……正真正銘の裏切り者だよ」
「……どうして…?」
改めてその理由を問いただす英寿。
クロメは少しだけ遠い目をしながら、天井の隙間から見える月を眺めていた。
「……私は…創世の女神に、愛されなかったからね」
「……驚いたよ。まさか自力でこの世界の異変に気が付くとはね」
クラムは注がれた酒をひと口嗜む。
「確かに世界の記憶はリセットされ、新たな世界が始まっている。戦いの一部の記憶が抜け落ち、違う記憶として補完されていたと思っていたけど…君達にはお見通しみたいだね」
「……」
「…一体誰がデザ神になったんだ?」
「……残念だけど、それを言う事は出来ない。まぁ、多方想像出来ると思うけどね」
「……星野ルビーか…」
「……っ!」
その名にアクアが目を見開く。
「……ご名答」
「…ルビーが…叶えた世界…?」
《無理なんだよ、奇麗にまっすぐこの世界で売れるなんて》
「…あいつは、一体何を願ったんだ…!?」
「多方、自分が売れた世界だろうな。ここまで大きくなったのにも納得が行く」
「……」
クラムは彼らの考察を横目で聞いていた。
そして動揺を隠せない様子のアクア。
「…クラムさん。ルビーが叶えた世界に、エースは何か関係してたりしませんか?」
「……」
「…星野、それは一体どういう意味だ?」
アクアはクラムの席の横まで来てそう問いただした。
「あいつが突然ルビーのマネージャーになるって言ったり、デザイアグランプリ・ノワールなんて物にエントリーした理由に、ルビーの叶えた世界が関係してるんじゃないかと……」
「…一概に無関係とは言えないね。だけどあれは全て彼自身の選択だ、誰かに強制されてる訳では無いよ」
「…そう…ですか……」
「……そんなに気になるなら、彼のIDコアに触れてみるといい」
「……IDコアに…?」
「IDコアには、使用者の記憶データが内蔵されている。触れることで、使用者の記憶を見る事が出来るかもしれない。今まで出来た試しがないから、なんとも言えないけどね……」
「……」
「…もしかしたら、彼にしか知りえない記憶までも、見る事が出来るかもしれないね……っ…」
すると、クラムの携帯が鳴る。
「……分かった。そちらの方は君に任せる…彼女の事は頼んだよ」
電話を切ったクラムは、荷物を持って席をあとにする。
「姫川くん。君がスポンサーになる話、真剣に考えてもらえると嬉しいよ」
「……はい…」
「それではね。姫川くん、アクアくん」
店を出たクラム。残ったふたりは静かな空間にぽつりと座っていた。
「…結局何も分かんなかったな……どうして世界の記憶がリセットされたのか、リセットされた記憶が何なのか……」
「……エースなら、何か知ってるのか…?」
「あんま期待すんなよ?どうせ浮世だって記憶がリセットされて、俺たちと同じ状況だろうからよ…」
「…………いや…」
「……ん?…」
アクアは何か考えがあるかのような表情をして、注がれたカクテルジュースを呑んだ。
「……どうして着いてくるの?」
「悪いな、お前の事はどうも気になる。落ち着いてらんなくてな」
「……なに?もしかして私の事好きなの?」
「そうとも言えるかもな」
「…はぁ……テキトーな事ばっか……」
朝日が昇り、移動を開始したクロメの後を着いていく英寿。クロメはめんどくさそうに振る舞うが、どうやら内心満更でも無い様子だ。
「カメレオの事はもう推してないのか?」
「なっ…!何故その事を…!?」
「いや、見てればわかるだろ。名前に親近感でもあるのか?」
「……別にそんなんじゃないよ…」
クロメの持つ端末には、黒いカメレオンのキーホルダーをぶら下がっていた。
「私はナビゲーターとして、みんなの事を導いて来た。それが私たちの使命だから」
「……」
私たち、というものにはおそらくシロメも含まれているのだろう。
「だけど、初めて“応援したい”って気持ちにさせてくれたプレイヤーが、黒川あかねだったってだけだよ」
「…本当にそれだけか?」
「……は?」
「……さっきの話、創世の女神に愛されなかったというのは、どういう意味だ?」
「…女神マリアは、ゲームを運営する為に私たちを作り上げた。私たちにとって女神は母なる存在だ。そしてこの存在を保つ為には、“女神の恵み”を受ける必要がある」
「……女神の恵み…確かシックやイラドも言っていたな…」
「恵みを受けなければ、私たちは存在が消えてしまう。恵みを受けているのは、女神に愛されている証拠でもあるんだよ」
「……」
「……シロメは私と違って、女神に愛されていた。恵みを受けて、色々な感情を芽生えさせていた。だけど私は、必要最低限の恵みしか与えられず、あの子と正反対になってしまった…」
クロメはシロメの事を想いながら上を見上げていた。
「そんなシロメが、少し羨ましかった。私もあんなふうに笑って、怒って、泣いて、ときめいて…普通の女の子みたいに……」
「お前は十分、感情を持ってるぞ」
「……え?」
英寿の言葉に、クロメは思わず振り向く。
「感情を持たない奴は、普通誰かを羨ましがったり、誰かを応援しようと思ったり、誰かに憧れるなんて事はしない。お前に与えられたものは確かにある」
「……エースくん…」
「…聞いてなかったな。お前の理想はなんだ?」
「……え?」
「ナビゲーターにだって、理想の世界の1つや2つ、あるだろ?」
「……私は…」
「……」
「…私の…理想の世界は……」
「……っ!!」
次の瞬間、足元に斬撃が走る。
ヒリつくような緊張感に、英寿は思わずクロメを庇う仕草をする。
「…そいつに理想を持つ事など、許されていない」
「……誰だ…?」
英寿の視線の先にいたのは、フードを深く被った長身の男だった。
「…あいつだよ。私を始末しに来たのは……」
「……あのマスクは…まさかゲームマスター…!?」
「……」
そしてその顔は、かつてギロリや他のゲームマスター達が被っていたマスクに酷似していた。
「…どういう事だ?ゲームマスターは存在しないんじゃなかったのか?」
「うん。今まで必要なかったからね…でも今は、私を始末する為に女神が新たに作り出したんだよ…」
「その通り…裏切り者は粛清する。それが女神から与えられた俺の使命…!」
「……っ!」
男はゆっくりとマスクを外すと共に、そのフードをあげた。
現れたのはアクアやルビー達のような綺麗な金髪、力のある目元にシャープな輪郭。その顔はまるで…
「……俺と…同じ顔…!」
その顔は英寿と瓜二つであったのだ。
「浮世英寿、お前も粛清対象だ。創世の女神の意志に則り、お前に引導を渡す…!」
《 VISION DRIVER 》
金髪の英寿は懐からヴィジョンドライバーを取り出す。クロメから奪い取ったものだ。
《 GLAREGEATS CONNECT 》
金髪の英寿はドライバーに自身の指紋を認証させると、ドライバーは仮面ライダーグレアを彷彿とさせる色彩へと発行する。
「……変身」
金髪の英寿はプロビデンスカードを取り出すと、その手をキツネの形にしてドライバーにリードさせた。
《 INSTALL 》
《 Extremer's high vision, GLAREGEATS. 》
金髪の英寿の身体は変化し、仮面ライダーステアやゲイザーと同形のスーツへと変わる。しかし、頭部の形だけは仮面ライダーギーツのそれだった。
色彩は仮面ライダーグレアと同じであるものの、濃い紫色のギーツの頭部に紫の複眼が英寿を睨みつける。
仮面ライダーグレアギーツは、本物のギーツを前に剣を構える。
「……さぁ…ここからがハイライトだ…」
第六十三話「軋轢Ⅴ:黒い瞳に宿る理想」
次回
「理想を持つ事などしなければ、こんな事にはならなかった…!」
「それって、最上級の愛情表現だと思う」
「だったら創ろうっ!!私達で創ろうよ!」
「人が幸せになる事に、存在意義も理由も要らない!!」
「女神を…侮辱するな…!」
「戦え!俺達仮面ライダーがそうであるように、理想を掴み取りたいなら…戦え!」
第六十四話「軋轢Ⅵ:迫り来る眼光」