私、高町なのは。●●歳   作:軟膏

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12話

「と、とりあえず! 話を戻しましょうか!」

 

ユーノがその気まずい空気を吹き飛ばそうと、無駄に陽気な声で皆に話しかけた。

 

「……うん、そうだね」

 

なのはが俯いて暗い声を出しながら賛成する。

その様子にユーノはさらに冷や汗を流す。

 

「でも、もうだいぶ魔法のことは分かったと思うけど、まだ何かあるの?」

 

「あ、はい。といっても、あとは射撃魔法と砲撃魔法くらいですけど……」

 

「え? それってどこか違うの? 同じに聞こえるんだけど」

 

なのはが首を傾げる。

ユーノがそれに答える。

 

「射撃魔法は魔力を弾にして撃ちだす魔法です。

同時複数射撃、誘導による曲射、連射といった色々な効果を付け加えることが出来ます。

しかし、一発一発の威力は低いです。

これに対して、砲撃魔法は魔力をそのまま放出する魔法です。こちらは一撃の威力は高いんですが、射撃魔法に比べて誘導などの付加効果を付けるのが難しいので、ほとんどが真っ直ぐ進みます」

 

「球にして撃つかビームで撃つか、一長一短ってことかな?」

 

「そうですね」

 

 そこまで話したところで、ユーノは一息つく。

 

「これで大体の魔法の説明はしたと思います。

僕達の使う魔法は遠・中・近距離全てに対応出来ますが、近距離で戦おうとする人はほとんどいません。遠くから攻撃出来るのなら、そちらの方が安全ですからね。

あとは周囲に被害を与えない為の結界や、僕が今使ってるトランスフォームくらいですが……」

 

「えっ? ユーノ君ってフェレットじゃなかったの!?」

 

美由希の驚く声が上がる。

 

「え? ええ。僕は今魔力を節約するためにこの姿を取っているだけなので、本来は人間です。ですが、これを使っている人は、僕達一族以外ではあまりいません。

この魔法は、僕達みたいに遺跡発掘などで狭い所を探索する以外では、ほぼ役に立ちません。

魔力の節約という意味では有用性はありますが、適性がある人も少ないので、使える人はほとんどいませんから」

 

「なぁんだ。道理でフェレットにしては頭が良すぎると思ったよ。人間だったんだね」

 

「はい。というか、なのはさんには以前、僕が人間であることはお伝えしたと思いますが……」

 

「え? そ、そうだったっけ……?」

 

「はい」

 

美由希と同じように驚いていたなのはが、ユーノの指摘にタラッと汗を流す。

話を聞いたときに、二日酔いで苦しんでいて「どうでもいいや……」と切り捨てたなのは。

今のなのはの頭には、そんなことを聞いた覚えなど無く、幾ら思いだそうとしても頭には出てこない。

 

「ま、まあそれは置いておいて。もうそろそろ私、仕事に行かなきゃ!」

 

そういってなのはは立ち上がり、足早に家を出ていった。

 

「行ってきま~す!」

 

「……逃げたね」

 

後に残された美由希がポツリと呟く。

ユーノはなのはが何故そんなことをしたのか分からず、釈然としない声で美由希に尋ねる。

 

「あの、どうしてなのはさんは逃げたんでしょう?」

 

「さあね。ちょっと前のことなのに、思い出せなかったから、老化でも実感したんじゃない?」

 

「は、はあ……?」

 

それでもユーノはまだ納得出来ないようだ。

そうしていると、後ろから声が聞こえてきた。

 

「そういえば桃子さん。この間言ってた小じわ、消えてないかな?」

 

「あら? まぁ本当だわ」

 

そんな、いちゃつく声が聞こえたという。

美由希がそれを聞いて、どんな反応をしたかは、誰にも分からない。

 

 

 

なのはは翠屋二号店まで来ていた。

仕事に行く、というのはあの場から逃げる為の方便だったのだが、それでも仕事が無い訳ではない。

そもそもなのはのほぼ道楽でやっている店なのだから、開けるも閉めるもなのはの裁量次第でどうとでも出来る。

ちゃんと売り上げは上げているし、商品の味を落としている訳でもない。新商品の開発も行っている。

本店の翠屋ではなく、なのはがやっている小さな店だからこそ、出来ることもまたあるのだ。

 

「レイジングハート、だいぶ上手になったね」

 

『ありがとうございます』

 

コックコートを着たなのはは、泡だて器バージョンのレイジングハートでクリームを混ぜていた。

何を隠そう、このコックコート。バリアジャケットでできているのである。

そもそもが翠屋の制服をバリアジャケットに設定したのだから、そのままで店に立てるのだ。

 

「最初はボウルの中のクリーム、全部吹き飛ばしちゃってたもんね」

 

『すいません』

 

「気にしなくていいよ。誰だって最初は失敗するものだからね……」

 

最初レイジングハートに頼んだ時、回転の勢いが強すぎてクリームが飛び散ってしまった。

当然、コックコートもクリームまみれである。

着替えようとしたなのはだったが、ここで名案を閃いた。

バリアジャケットでコックコート作ってもらえばいいじゃないか、と。

こうしてバリアジャケット2着目のデザインのコックコート姿が完成した。

なお1着目はフロアスタッフとして働く時のエプロン姿である。

 

こうしてレイジングハートが張り切り過ぎてクリームが服についても、バリアジャケットだから展開し直せば元通りになる。

バリアジャケットだから着替えや洗う手間が省ける。

混ぜ終わったら、レイジングハートを待機状態に戻せば、泡立て器に付いてしまったクリームを落として全て使い切ることも出来る。

まさに一石二鳥にも、一石三鳥にもなる、なのはにしか出来ない裏技なのだ。

 

「レイジングハートも、こういう仕事の方がいいよね? 荒事なんかより、こっちの方が人を幸せに出来るもの」

 

『私はどちらでも構いません』

 

「そう? じゃあ今度はクッキー作るから、麺棒にでもなってみる?」

 

『そうですね……』

 

そんな会話をしながら、なのははケーキを焼き上げ、クリームを塗っていく。

甘い香りが、小さな店内に満ちていく。

それが店から漏れ出し、近所の若奥様達を引き寄せるのだ。

オープン当初はあの小さかった子が、と昔からの翠屋の古参客が応援混じりに来ていた。

そのブームが過ぎ去ると、家から近いお客が残る。

なのはが特に宣伝などしていなくとも、口コミで客は引き寄せられていく。

それが美味しいのなら、リピーターもまた増えていった。

なのはの店は小さいのだから、よく注意して見なければわからない場所にある。

けれど。

例え雑誌などに載らなくても、なのはの作るお菓子を美味しいと言ってくれる人がいる。

そしてそれを眺める自分がいる。

それでいいのだ。

これが高町なのはの日常。

これこそが高町なのはの幸せ。

 

だがその幸せは、思いも寄らないことで、容易く崩れ去ってしまう。

 

 

なのはは昼休憩を取っていた。

一人で厨房の仕事を全てやっているのだから、こうして意識的に休憩を取らなければ、なのはは直ぐに倒れてしまう。

厨房は立ち仕事だ。

特に集中して作業をしていると、疲れを感じる暇もない。

 

「あ~、疲れた~」

 

ふう、と溜息を洩らす。

だが、その疲れは心地の良い疲れであり、全力疾走したり、階段を全力で登ったりした時の疲れとはまた違う。

 

「お酒飲みたいな……」

 

だがまだ勤務時間内である。

さすがに、酔っ払った状態で店を開こうなどとは思えない。

ここは我慢して、家に帰ってからゆっくりと飲むのが一番なのだ。

立ち上がり、さて始めるかと思ったとき、

 

「……っ!?」

 

ジュエルシードの反応がなのはを襲った。

慌てて店の外へ出て、ジュエルシードの反応を探る。

 

『なのはさん!』

 

頭の中にここにいないはずのユーノの声が響く。

これが念話というものだろう。

耳に手を当て、ユーノの念話に集中する。

 

「聞こえてるよ、ユーノ君」

 

『よかった。分かっているかと思いますが、ジュエルシードが発動しました』

 

「うん、私にも感じられたよ。しかもこれ、移動してる」

 

こうして話している間にも、ジュエルシードは移動を続けていた。

 

『移動速度はそれほど速くありません。もしかして人が持っているのかも……』

 

「おそらく、そうだろうね」

 

『だとしたら危険です。子犬の単純な、漠然とした願いですらあんなことになったんです。

強い思いを持った者が、願いを込めて発動させたとき、ジュエルシードは一番強い力を発揮します。それが人間ならば、一体どれほどの災害を引き起こす事態になるか……』

 

最悪の事態を思い描いたのか、ユーノが身震いするのが感じられた。

なのははジュエルシードの反応を確かめていると、それが一点で止まった。

 

「……止まった?」

 

何故か、今まで止まらずに移動を続けていたジュエルシードは、とある場所で動かなくなった。

 

「信号にでも捕まったのかな。まあいいや、タクシー……っ!?」

 

店から飛び出したなのはが手を上げてタクシーを呼ぼうとしたところで、今まで以上の悪寒が走る。

待機状態にして首から下げていたレイジングハートを泡立て器に展開し、強く握り締めた直後。

 

『発動しました!』

 

ユーノの声が聞こえると同時に、ドン! と地面が爆発したような音と共に地震が発生した

 

「きゃっ!」

 

そのあまりの揺れの激しさに、なのはは立っていることが出来ず、思わずその場に片膝をついて目を瞑り、なんとかやり過ごそうとする。

それと同時に、地面からコンクリートを突き破って、植物の根がなのはに襲いかかって来た。

 

『Protection』

 

レイジングハートがなのはの魔力を使用して、その植物を弾き返す。

襲いかかった植物は、なのはを狙っていたわけではないらしく、弾かれた後は別の方へと根を伸ばして行った。

そのままレイジングハートは、なのはをプロテクションで守り続けた。 

 

辺りが植物に蹂躙されていく。

なのはの耳に、家が、道路が、悲鳴を上げているのが聞こえる。

 

やがて地震が収まり、なんとかなのはが立てるようになった頃。

なのはが目を開けると、そこは既になのはの知っている海鳴の街ではなかった。

辺りを植物に侵食され、道路は滅茶苦茶になり、もう車が走れるようにはなっていなかった。

家々にも植物は巻きついており、中にはもう建て直さなければいけないような家もあった。

そしてなのはが目を後ろへ向けたとき、

 

「あ……ああ……」

 

なのはは再び、その場に膝をついた。

 

「お店が……」

 

泡立て器の形をしたレイジングハートが、その手から離れ、カシャンと音を立てて零れ落ちた。

 

「私の……」

 

茫然とした表情で、なのはは声を漏らす。

 

「翠屋が……」

 

なのはの視界の先には、ジュエルシードが生み出した植物によって、見るも無惨に破壊された翠屋の姿があった。

 




ついに魔法の説明編が終わって次が大樹編です。
サクッと終わらせたいですね。
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