私、高町なのは。●●歳 作:軟膏
「ゆるさない」
ジュエルシードによって破壊された、愛しい自分の店の残骸を見て、呻くようになのはは傍らのデバイスの名を呼ぶ。
「……レイジングハート」
『Area Search』
音もなく浮き上がったレイジングハートがなのはの手に収まり、探索魔法を発動させた。
レイジングハートが返事すると同時に、泡立て器の先端から光が溢れ、翠屋の中へ入って行った。
サーチャーを放ったのだ。
そしてサーチャーと接続されたことで、なのはの視界が広がる。魔法によって作られたそれは、物理的な障害を乗り越えて、店の惨状を改めてなのはにダイレクトに伝えた。
「酷い……」
ジュエルシードは未だ暴走を続けている。
しかし先程までの勢いは無いようで、誰かを意図的に襲うようなこともなく大樹を無造作に増やし続けていた。
だからこそ、こうしてなのはが店を調べることも出来るのだ。
なのははジュエルシードのことを一時視界から外し、倒壊した店を調べていく。
中には誰もいなかった。
昼休憩ということで客はいなかった。
店を閉めていたのが幸いしたらしい。
しかし、
「あ……」
なのはは見つけてしまった。
「あああ……」
それを。
「ああああああっ!!!」
紅い血を流す、その姿を。
失われたものは戻らないという、至極当然の残酷な結末をなのはは叩き付けられた。
なのははサーチャーを解除した。
途端に視界がなのは本来の状態まで戻ると同時に、立っていられなくなるほどの脱力感でふらつく。
もうこれ以上、目の前の惨状を見たくは無かった。
なのはは後ろを振り向き、彼方にある一際大きく育った大樹を見つめ、激烈な怒りをもって呟いた。
「ゆるさない」
そこでユーノから切れていた念話が再度繋がった。
『——さん……なのはさん! 大丈夫ですか!?』
「ああ……ユーノ君か。『私は』大丈夫だよ」
自然と暗くなってしまった声で、自分が無事な事をユーノに伝える。
ユーノはそれを聞いて安堵のため息を吐いた。
『良かった。それでなのはさん、あの大樹についてなんですけど、今回は被害範囲が広すぎます。ですから僕も――』
「そのことなんだけどね、ユーノ君」
『え、はい?』
「あれ、私に一人でやらせてくれる?」
『え? えええ!? ひ、一人でやるなんて無茶です! せめて士郎さんか美由希さんに連絡を――』
「ごめんね、答えは聞いてないの」
なのはのいつも以上に低いその言葉に、ユーノがたじろぐ。
『わ、わかりました……。ですが、どうするんです? あれだけのものだと、ジュエルシードがどこにあるかさえ分かりません。僕が探索魔法で探して、近くまでいって封印をした方がいいと思いますが』
「ああ、ユーノ君。それはいいね。一番現実的で、スマートだと私も思う」
『そ、そうですか。じゃあそれで――』
「でも却下」
『……え?』
きょとんとするユーノの声に、なのはは言い聞かせる。
「ねえ、ユーノ君。人っていうのはね、例え疲れると、無意味だと分かっていても、それでも、その無意味な行為をしてしまう生き物なんだよ?」
『は、はぁ……』
「大人になれば分かるよ。大切なもの、譲れないもの、そんなものがユーノ君にも出来たら、その気持ちが理解出来るようになる。たとえ全てが無意味だとしても、声を上げることは無駄じゃない」
『な、なのはさん……?』
「私はね、あの木のどこかにジュエルシードがあると思ってる。だからこんなにも木が成長してるんだよ。だからね……?」
『どうかしたんですか? なにかあったんですか? なのはさん? なのはさ――』
「あの木を全部吹き飛ばせば、ジュエルシードに辿り着くんだよ」
そこでなのははユーノからの念話を強制的に切断した。
『Flier Fin』
レイジングハートを片手に持ち、ふわりと浮きあがって、翠屋の屋根の上に降り立つ。
そしてレイジングハートに謝罪した。
「ごめんね、レイジングハート。私、あんなに偉そうなことをあなたに言ったのに、私の私怨であなたを荒事に使うことになっちゃって」
『お気になさらず。私も翠屋を壊されたことには憤りを感じています』
「そう。レイジングハートもなんだね。私もこんなことは許せないよ。今回だけだから……怒りと憎しみだけで動くなんてもうしないから。だからお願いね、レイジングハート」
『ご命令を、マスター』
「終わったらまた、一緒にケーキを作ろうか」
『はい』
そして、なのははレイジングハートを掲げる。
ハンドガンを構えるように右手に左手を添えて、街を蹂躙する植物を鋭い目で睨みつけた。
「絶対に許さない。たかが暴走した植物風情が。枝も、根も、葉も、全て吹き飛ばしてダルマにしてあげる」
『Drill Shot』
なのはの持つレイジングハートの四つある先端が切り離され、螺旋を描いて飛んで行く。
傍目には泡立て器の回転する金属部分が勢いよく吹き飛んだだけだった。
だが実体を伴う金属塊が、魔法の後押しを受けて高速で回転しながら直進していくのだ。
ライフル弾と変わらぬそれが街に存在する大樹の一つへと着弾すると、そのまま樹皮を巻き込みながら抉り、穴を穿った。
そして貫通すると、その大樹にはポッカリと四つの綺麗な円柱状の穴が生まれ、急速に枯れていく。
おそらくダメージの大きさに、本体が切り離したのだろう。
切り離された大樹はジュエルシードの恩恵を受けられなくなり、枯れ落ちたあとそのまま溶けるように消滅した。
それを見たなのはは、つまらなそうに呟く。
「ハズレか……」
『Recovery』
レイジングハートがそう発言すると、先程全弾撃ち出したはずの泡立て器の先端が再び出現し、元通りの形態に戻る。
なのははレイジングハートを別の大樹へと向ける。
「次」
『Drill Shot』
『Recovery』
「次」
『Drill Shot』
『Recovery』
「次」
『Drill Shot』
『Recovery』
なのはは流れ作業のように、淡々と大樹を撃ち貫いていく。
なのはが大樹を消す度に、元のように数を増やそうとドンドンと別の大樹が生まれていく。
しかし、なのはは撃つ事を止めない。
そうして撃ち抜く数が十を越えたころ、一つの大樹がなのはの攻撃に抵抗した。
根と枝を伸ばし、なのはの攻撃の進路上に別の大樹を置いて、威力を弱めようとした一本があった。
「ミツケタ」
なのはは撃つのをやめ、その一本だけを見据える。
「レイジングハート」
『Shooting Mode』
レイジングハートがそう告げると、レイジングハート自身は何も変わらず、なのはの両手にデバイスと同じ素材で出来た装甲が巻きつく。
なのはは肘まで鎧が巻き付いた左手をゆっくりと開閉し、動きに制限がないことを確認する。
そして、右手に持っているレイジングハートに左手を添え、再び両手でしっかりと握り締める。
「よくも私のお店を……」
『Count five』
レイジングハートがカウントを始める。
「酒蔵を……」
『four』
先端に桜色の光が灯る。
「ドンペリゴールドを……」
『Three』
なのはの身体から溢れた光が、デバイスを通して先端に集まり、次第に大きくなっていく。
「ロマネ・コンティを……」
『two』
過剰に空気を入れられた風船のように破裂しそうなほどの大きさまで達すると、今度はギュルギュルと音を立てて圧縮され、逆に小さくなっていく。
「純米大吟醸を……」
『one』
凝縮された光はグルグルと回る四つの先端から正転×2、逆転×2の異なる回転を加えられる。
「コニャックを……!」
『Count zero』
カウントがゼロになる。
「まだ飲んでなかったのにいいいっ!!!」
『Tornado Buster』
なのはの魂の叫びと共に、先端から桜色の光が迸る。
砲門となった四つの先端から発射された光は、それぞれが異なる回転をしながら、それぞれに絡み合い巻きつき、一本の砲撃となって突き進んでいく。
まるで複数の竜巻が合流して、巨大な竜巻へと変化していくように。
直進する先には大樹があった。
ジュエルシードの本体ではない、盾にされた一本。
それになのはのトルネードバスターが直撃する。
当たっても尚回転と直進を続ける光は、大樹を巻き込み、捻じ切っていく。
千切れ飛んだ大樹など、元から無かったかのように進む光は、遂に本体へと激突した。
「思い知れ、私の怨みをっ!!」
なのはが一層レイジングハートに力を送った。
光が更に強くなり、遂には本体の深く張った根を千切って、大樹を吹き飛ばし塵にしていく。
ダメージを受けた大樹から、ジュエルシードが吐き出される。
同時に光が止み、レイジングハートのグリップから、圧縮された魔力の残滓が音と煙を立てて放出されていく。
蒸気のようなそれは高熱になっているが、両手を装甲で保護したなのはに熱は伝わらない。
なのはは片膝をつき、レイジングハートに命令する。
「はぁっ、はぁっ……レイジングハート、封印」
『All right.Sealing』
そしてもう一度レイジングハートが桜色の光を発し、ジュエルシードが封印される。
『Receipt Number X』
レイジングハートの声が響くと共に、周りにあった大樹が全て消え去る。
「終わっ、たぁ……」
深くため息をはいて、なのははその場にへたり込んだ。
なのはが屋根から降りて、翠屋を見てみる。
大樹が消えたあとは、もうボロボロになっていて、廃墟のようにさえ見えていた。
今にも崩れ落ちそうな様を見ていると、本当は大樹が家を支えていたのではないか、とさえ錯覚してくる。
「地震保険……おりるかな……?」
ぼんやりと、そんなことを呟く。
しかし、地震保険で翠屋を立て直せても、この店の下に眠ってしまった愛しい酒の数々は戻ってこない。
なのはがバニングスや月村といったコネを使って、今まで蒐集し続けてきた酒の中には、姉美由希の結婚式用にと取っておいた記念品もあったのだ。
それが、全て砕け散ってしまった。
サーチャー越しに見たあの子たちの亡骸は、なのはに十分なショックを与えるものだった。
「レイジングハート」
『All right.Area Search』
もう一度サーチャーを飛ばす。
もしかしたら、まだ大丈夫な酒が残っているかもしれない。
そんな悲愴な思いで、墓場を探索する。
しかし見つかるのは、割れて中身が流れ出てしまった、なのはの愛しいものの残骸のみ。
もうやめようか……そう思ってサーチャーを消そうとしたとき、なのはの視界に一つの酒瓶が横切る。
そう、酒瓶だ。
砕けても欠けてもいない、まだ綺麗な形を保っている、酒瓶の姿がそこにあった。
なのはは居てもたってもいられず、翠屋の中へと入った。
上からパラパラと欠片が降り注いで来るが、即座にレイジングハートがプロテクションを発動して防いでいた。
一直線に無事な酒瓶のところまで辿り着くと、レイジングハートで周りの瓦礫を吹き飛ばす。
レイジングハートを待機状態にすると、両手で赤子を抱くように、そっとそれを抱き上げた。
「よかった……。本当によかった……」
1本でも残っていてくれたことを、なのはは神に感謝した。
「たとえ安酒でもいい。もう放さない。最後の一滴まで、絶対に飲み干してあげるからね」
そう言って我が子のようにギュッと抱きしめる。
割れないように、力を加減して。
そしてなのはは翠屋を出て、レイジングハートに話しかける。
「家に帰ろっか」
『そうですね』
そうしてなのはは、愛しい家族が待つ自宅へとタクシーに乗って帰って行った。
その胸に『大魔王』を抱えて……。
これでアニメの3話終わりです。
いったいどれだけかかってるんだか。
一話一話が短いとはいえ、これじゃあ終りが見えない。
ちなみに魔法の名前は、全てレイハさんが考えたことにしています。
お酒の名前も、高そうなのを並べただけでどれも飲んだことないです。
次回からフェイト編かな。
追記
一晩でお気に入りとしおりの数が跳ね上がったんですけど!?
これがランキングの力か。
懐かしいと言ってくれる方が増えて嬉しいです。
皆もArcadia好きだったんだなぁ。
急なことだったんで、向こうの方にハーメルンに転載しますって書けてないんですよね。
無事復活してくれることを願います。