私、高町なのは。●●歳   作:軟膏

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毎度の誤字報告ありがとうございます。


14話

暗闇の中に、一人の少女が静かに降り立った。

夜風が吹き抜け、少女の金色に輝く髪をたなびかせる。

手には黄金の宝玉のついた黒い斧を持ち、背には髪と共にはためく黒いマントを羽織っていた。

傍らに赤い毛並みの狼を従えて、少女はネオンが瞬く夜の街を見下ろした。

 

「ここが海鳴市……母さんの言っていたロストロギアは……この付近にある」

 

少女は確認するかのように、探し物を口にする。

 

「形態は青い宝石、一般呼称はジュエルシード」

 

右手に持つ斧の、刃の根元にある黄色い宝玉がキラリと光った。

 

「そうだね……直ぐに手に入れるよ」

 

そして少女は飛び立つ。

 

「待っててね、母さん」

 

直ぐに少女の姿は見えなくなった。

 

――オオオオオオオオオンッ!!――

 

静かに眠る海鳴の街に、狼の遠吠えが響いた。

 

 

 

「~♪」

 

なのはは上機嫌だった。

店は破壊されてしまったが、大地震であったため保険は降りる方向で話が進んでいる。

昨夜抱きしめて一緒に眠った大魔王は、とても美味しかった。

そして今、なのははもっと笑顔になっていた。

 

「ふふっ……うふふふふっ……」

 

いつものなのはを知っている人が見たら、気持ち悪いと言いたくなるような、不気味な笑みを漏らしていた。

始まりは今日の朝。

なのはの携帯電話に掛かってきた一本の電話だった。

 

『もしもし、なのはちゃん?』

 

「あ、すずかちゃん。どうしたの?」

 

なのはの携帯に掛けて来たのは、なのはの幼馴染であり、親友である月村すずかだった。

 

『どうしたのじゃないよ。なのはちゃん、お店壊れたんだって?』

 

「さすがに早いね」

 

『だからなのはちゃん、落ち込んでるんじゃないかって』

 

「うん、確かに落ち込んだよ……」

 

一晩たった今でも、なのはの内には未だ消化しきれていない、強いストレスがグルグルと渦を巻いていた。

 

『そんな落ち込んだなのはちゃんを元気づけようかと思って、家にご招待しようかと思うの』

 

「すずかちゃん……ありがとう」

 

なのはを慰めてくれようとしているすずかに、なのはは込み上げてくるものを感じる。

 

「あ……でも私、店の後片付けとかあるから今日は……」

 

『そう? 残念だな。お仕事の関係でお酒を貰ったんだけど、私はあまり好きじゃないから。

珍しいお酒みたいだから、なのはちゃんにどうかなって思ったんだけど』

 

「……何て名前?」

 

『えっと、ちょっと待ってね……』

 

ごそごそと何かを探す音が、携帯を通してなのはの耳に伝わる。

 

『あったあった。えっと、「村尾」って書いてあ――』

 

「行く」

 

 

 

そしてなのはは、いつものようにタクシーに乗って、移動していた。

時折含み笑いを零すなのはの姿を、不気味そうに横目で見ながらタクシーの運転手は尋ねた。

 

「えらいご機嫌やね、店長」

 

「そう? わかる?」

 

ふふふと笑うなのはに、運転手は汗を流す。

 

「な、なあ店長。店が壊れたのは悲しいことやと思うけど、自暴自棄になったらあかんよ? 確かにローンとかまだ残ってるんかもしれんけど、人生長いんやし、まだまだこれからで……」

 

「ちょっとちょっと、そんなんじゃないよ。確かに、お店が壊れたのは悲しいけど、いつまでも引きずる訳にもいかないからね。今日は別の件だよ」

 

「……なんや、わたしの取り越し苦労か。びっくりさせんといて」

 

「ごめんね、八神さん」

 

その言葉に、運転手がひとまず安堵のため息を吐いた。

リアクションは大げさであるが、ハンドルを握る動きに淀みはない。

変わらずの安全運転を続けながら、彼女はそういえば、と明るい声で話しかけた。

 

「これから行くとこって、あの馬鹿でかい屋敷持ってる月村さんちやろ? 店長がそんなとこと繋がりがあるなんて思わへんかったわぁ」

 

高級住宅街に差し掛かり、車の往来が少なくなった道を悠々と走りながら、なのはに疑問をぶつける。

 

「あそこに住んでる人とは、小学校からの付き合いなの。それに、私のお兄ちゃんが婿入りしてるから、親戚になるのかな」

 

「へぇ……。小学校ってことは、ここらでいうと、聖祥大附属かな?」

 

「そうだよ。高校まで一緒だった」

 

「なるほどなぁ。幼馴染さんやったか」

 

運転手は羨ましそうに、自虐的に笑った。

 

「わたしは公立やったからなぁ。もしわたしが聖祥に通っていたら、わたしもセレブにお茶を飲めたんかなぁ」

 

「どうだろうね。でも八神さんなら、きっと仲良くなれると思うよ」

 

なのはは苦笑する。

明るく話しかけてくれる目の前の彼女だが、車の運転以外にも読書が好きなことを知っている。

人気の漫画から、なのはが普段読まない難しい本まで読破している筋金入りだ。

幼少期にそんな彼女とすずかが出会っていたら、すぐに親友になれただろう。

 

「そういえば店長は、これからどうするん? 店が壊れたんやったら、そのままやとニートまっしぐらやろ?」

 

「しばらくは本店の方を手伝うことにするよ。でも厨房には入らせてもらえないから、レジ打ちとウェイトレスくらいしかないと思うけど」

 

「厨房に入らせてもらえないって……仲悪いん?」

 

 なのはは首を振る。

 

「いや、仲はいいよ。でもお母さ……本店の店長はね、お菓子を作るのが好きだから、自分の仕事を取られるのが嫌なんだよ。私も同じだから、その気持ちはよく分かるしね」

 

「そうか。仲がええんやったら、それでええんよ。やっぱり家族は、仲よしさんが一番やからな」

 

なのはの言葉に嘘が無いと知り、運転手は笑った。

 

「そろそろ着くで、店長」

 

「いつもありがとう、八神さん」

 

「気にせんでええよ。それより……」

 

「うん。言ってたとおり、お代はケーキの無料券でいいかな? お店があんなだから、しばらくは使えないと思うけど」

 

「オッケーや。店長のとこのケーキは美味しいからな。それぐらいどってことない。それにここまでの運賃と翠屋のお高い方のケーキセット比べたら、ケーキの方が高くつくしな」

 

運転手はグッと拳を握り、親指を立てる。

翠屋のケーキは基本リーズナブルな価格で売られているが、目玉商品として強気な値段設定で販売しているものもある。

予約必須のケーキと比較すれば、確かに運賃の方が僅かに安い。

 

「……でもいいの? やっぱりお金払った方が健全だよね」

 

「何のための個人タクシーやと思っとるん? お店があんなことになってるんや。今は少しでも節約いるやろ? これからも御贔屓に、ってことで」

 

「少なくともタクシーのバーターがケーキになるのは、ちょっと変な気もするけど……」

 

なのはは正直に言われた言葉に、思わず赤面する。

 

「でもありがとう。おいしいって言ってくれる人がいるなら、また頑張ろうって気になるから」

 

「その意気やで、店長」

 

そして月村の屋敷に着いたなのはは、タクシーから降りて、運転手に窓越しに話しかけた。

 

「それじゃね、八神さん」

 

「ああ、わかっとるよ。客が居らん暇な時は、翠屋の近くの駅周辺で待機しとるから、いつでも呼んで。ほな」

 

「うん、またね」

 

去っていったタクシーに手を軽く振る。

そしてなのはは覚悟を決めた顔で、月村家の大きな門を見上げた。

 

「待っててね、すずかちゃん。『村尾』」

 

どうやらなのはの中では、親友と酒は同列に扱われるようだ。

 




ついにフェイトが登場します。
あと今回、あの人らしき人が出てきましたね。
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