私、高町なのは。●●歳   作:軟膏

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15話

なのはは親友との久しぶりの再会もそこそこに、渡された村尾を開けていた。

 

「ああ~おいしい……」

 

原料に使われた芋の香りと、口内に広がる辛さと苦味。

キレのあるのど越しで、飽きることなく飲み続けられる実感が湧く。

タダ酒はとても美味しいのだということを、なのはは再認識した。

 

「ふふっ……あいかわらず、なのはちゃんはお酒が好きだね」

 

だらけた声を漏らすなのはを見て、ホストであるすずかが笑いながら現れた。

その手にもったお盆にはカステラが載っている。

 

「でも体を壊さないように飲み過ぎには気を付けてよ」

 

「健康診断では問題なかったし、大丈夫大丈夫」

 

「あまり過信しすぎたらダメだよ。肝臓は沈黙の臓器なんていわれるくらいだし」

 

「うっ、それを言われると耳が痛いです、はい……」

 

良薬は口に苦しというが、すずかの諫言は正しく鋭い刃となってなのはに刺さった。

検査値では確かに未だ正常値の範囲内に落ち着いているものの、肝臓の数値がやや高めになっていることをなのはは記憶していた。

 

「はい、五三焼きのカステラ。福砂屋のやつ」

 

「ありがと、すずかちゃん」

 

「他にも『チェリー豆』とか『おたくさ』とか『一口香』とかあるよ」

 

「なにその長崎推し。旅行でも行った?」

 

「佐世保バーガーを食べに行ったから、ついでにお菓子の本店の方にも寄ってみたの。なのはちゃんの新しいレシピの参考になったりしないかなって」

 

「嬉しい、ありがとうすずかちゃん。でもそんなに入らないし、今日はカステラだけいただくね」

 

そう言ってなのはは、一口大に小さく切られたカステラを口に入れる。

フワフワと弾力のある生地が、なのはの歯によって抵抗なく千切られていく。

どっしりとした重量感のある甘さが、口いっぱいに広がった。

それだけだとくどくてすぐに飽きてしまいそうだが、底に付いているザラメが僅かにひんやりとしていて、シャリシャリとした食感がアクセントとなりさらに手が伸びる。

明らかに洋菓子のシフォンケーキに近い顔をしているが、その発祥からカステラは和菓子に分類されるお菓子だ。

なのはは洋菓子が専門なので、こういった方面はあまり作らないから新鮮だった。

ゆっくりと味わい、静かに飲み込む。

 

「ん~、おいしい。こういうのもいいねぇ」

 

「喜んでもらえて嬉しいよ」

 

カステラを美味しそうに頬張るなのはをみて、すずかがまた笑う。

そして立ち上がり、棚から別の酒を取り出してなのはに見せた。

 

「なのはちゃん、はいこれ」

 

「え?」

 

なのはがその酒瓶を受け取る。

 

「『梅錦』と『冬将軍』?」

 

「村尾の近くに、一緒に置いてあったの。梅錦は愛媛で、冬将軍は新潟の方のお酒みたいなんだけどね。ウチはワインがメインで、日本酒は他の人もあまり飲まないから。なのはちゃんにあげるよ、それ」

 

「あ、ありがとう」

 

こんなにもらっていいのだろうか、でもあげるって言ったし、と戸惑いながらも受け取ったなのはは、手渡された梅錦と冬将軍を眺める。

梅錦は清酒で、透き通った透明感がある純米吟醸酒だ。

それに対して冬将軍は濁り酒で、翠色の瓶の中に白い澱粉が沈殿している。

 

「飲んでみて、なのはちゃん」

 

「うん」

 

すずかに促され、なのはは冬将軍を横に置き、梅錦を開けてグラスに注ぐ。

トクトクと鮮やかな色をした、透明度の高い酒が流れ出てくる。

同時に芳醇な香りが部屋中に広がった。

なのはがコクリとグラスを傾けると、冷たい酒がなのはの喉をさらさらと流れていく。

 

「美味しい……」

 

「よかった」

 

なのはの顔が綻ぶのを見て、すずかが我が事のように喜ぶ。

 

「私、お酒は苦手だけど、なのはちゃんがそうやって、美味しそうにお酒を飲むのを見るのは好きだよ」

 

「そう? ありがとう、って言えばいいのかな?」

 

「そうだよ」

 

「そうなの?」

 

なのははすずかとそう言って笑い合う。

小学生の頃とは互いに少し変わってしまったが、それでも二人の間には和やかな空気が流れていた。

 

「じゃあ今度は、こっちの冬将軍の方を飲んでみたいな」

 

そういってなのはは、もう一本へと手を伸ばす。

 

「お燗にしても美味しそうだね」

 

「じゃあそうしようか? 今日はお客様だからね。なんでも言ってよ」

 

「そうだね……うん、お願いしていい?」

 

「炙ったイカもつけようか?」

 

「……すずかちゃん、そんなに私を太らせたいの?」

 

「わりと。ぽっちゃりしてもなのはちゃんは可愛いと思うな」

 

「この歳になったら取り返しつかないよ!?」

 

「うふふふ」

 

温めてくるから待ってて、そう言ってすずかは、冬将軍を両手で抱えて部屋から出ていった。

なのははそれを見送りながら、脇に置かれていた村尾をもう一度手に取る。

清酒も濁り酒もいい。

ワインもシャンパンもいける。

だけどやっぱり、焼酎が一番好き。

そんな事を思いながら、なのはは村尾を傾け、口へと含む。

その時、なのはの近くに小さな子猫が近づいて来た。

すずかが出ていった扉がちゃんと閉まっていなかったのだろうか。

なのはが見たことの無い毛並みをしていたので、なのはがしばらくこない間に、新しく生まれたか、すずかが拾ってきたのだろう。

子猫は初めて見るなのはに、興味津々で近寄って来る。

 

「君も飲む?」

 

そういってなのはは村尾の注がれたお猪口を、子猫の顔の前に持って行く。

子猫は鼻を近づけて、村尾の匂いを嗅ぐ。

 

「フギャァッ!?」

 

子猫はその場から飛び跳ねて逃れ、踵を返して部屋から出ていった。

 

「フフフ……あの子にはまだ早いか」

 

なのはは微笑ましそうに子猫の姿を眺めていた。

それを見ていると、昔のことを思い出した。

珍しく士郎が晩酌をしていて、珍しく遅くまで起きていたなのはが、それを見つけたのだ。

なのはが興味を示した酒を、士郎は一口だけ、飲ませてくれた。

あの時の士郎も、こんな気持ちだったのだろうか。

なのはが飲んだのは確か……「大雪の蔵」といったか。

士郎が言うには、友達が好きだった酒だという。

他にも、「獺祭」という、当時のなのはには読めない字で書かれていた酒を、静かに飲んでいた時もあった。

興味に惹かれて飲んだのはいいが、幼かったなのはには美味しさが分からなかった。

次の日、桃子に二人揃って怒られたのが懐かしい。

あの時長時間正座で叱られた痛みは、未だに思い出せるほどだ。

 

お酒のおいしさは今なら分かるのにな、と悔しい思いが湧きあがる。

そういえば、初めて酒を飲んで吐き出してしまったとき『なんでこんなのを飲むの?』となのはは聞いたことがあった。 

士郎はそんななのはの様子を見て、微笑みながら『僕にも分からない』と言っていた。

なのはにはわからないが、おそらく父にも、飲んで忘れたくなるような時期があったのだろう。

そんな取りとめもないことを考えていた時、もう慣れてしまったあの感覚が再びなのはを襲う。

 

『マスター、ジュエルシードの微弱な励起反応を確認しました』

 

「また? せっかくのいいお酒なんだから、静かに飲ませて欲しいんだけど……」

 

お燗が出てくる前に終わらせなきゃ。

そんな愚痴をいいながら立ち上がり、なのははジュエルシードの発動地点へ歩き始めた。

 




Arcadia時代は感想欄でおすすめの酒紹介が流行っていたため、このあたりから色々な酒をなのはさんが飲み始めます。
ハーメルンではさすがに紹介だけの感想はお控えください。
改稿するにあたって当時はただのカステラだったのが五三焼きにパワーアップ。
他にもお菓子を追加した結果、すずかちゃんが謎の長崎推しになりました。
おまけで肝臓の数値も上昇しています。
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