私、高町なのは。●●歳 作:軟膏
「はあぁっ!」
少女が大鎌の切っ先を掲げ、樹の上から飛び立ち、なのはに向かって突っ込んでくる。
『Flash Move』
足を掬うように振るわれたそれを、なのははフラッシュムーブで素早く後ろに退いて回避する。
「待って! ねえ、どうしてこんなことをするの!?」
突然現れた少女の凶行に、なのはは戸惑う。
レイジングハートが警告する。
『マスター、反撃を!』
「駄目だよ、レイジングハート。そんなことしたら、あの子を殺しちゃう!」
なのはの持っている攻撃手段は、現在二つ。
そのどちらもが、殺傷能力の高いものだった。
ドリルショットは貫通性に優れている。
もし少女に向けて撃ちこんだとしたら、大樹を易々と貫く威力を持つドリルは、少女の身体に大きな風穴を開けるだろう。
そしてトルネードバスター。
こちらは溜めが長過ぎる。しかも回転しているのだ。
もしまともに当たれば、少女の身体はバラバラに引き裂かれるだろう。
五体満足でなどはいられない。
魔法には非殺傷ということが出来るということはユーノから聞いている。
これは魔力によるダメージのみを与えて、対象を殺さずに状況を収拾する事が出来る方法だ。
しかしドリルショットのような物理攻撃を、非殺傷になど出来る訳がない。
それに対してトルネードバスターは魔力攻撃だ。
しかしこれも駄目だ。
魔力攻撃で大丈夫なのは、それがただの魔力によるダメージのみだからだ。
回転はまた、別のエネルギーとなって対象を襲う。
そのような危険な魔法を、なのはが少女に向けて使える訳がない。
暴走する思念体などの倒しても良い敵しか相手にしてこなかった、なのはの経験の浅さが露呈した瞬間だった。
「戦うつもりはないの、お願い話を聞いて!」
少女に向かって再度声を上げるものの、少女はバルディッシュを構えたまま、なのはの問いには答えない。
「バルディッシュ」
『Arc Saber』
少女が鎌を大きく振るうと、刃が切り離されてブーメランのように飛行し、なのはに向かう。
「レイジングハート!」
『Protection Quadruple』
レイジングハートが光り、再びプロテクションを形成する。
今度は先程のような即席ではない、過剰な魔力を使用して作った積層構造だ。
時間を稼いでなんとか話を聞いてもらおう、となのはが考えたタイミングで、変則的な動きをして飛来する光刃が、なのはのプロテクションに激突する。
「えっ!?」
弾かれると思っていた光刃は、プロテクションに当たっても弾き飛ばされることなく、獣の牙のように、そのままプロテクションに噛み付いた。
「セイバーブラスト」
『Saber Blast』
「きゃああああっ!?」
なのはの浅知恵は、少女にはお見通しだった。
少女が告げると、バリア破壊の力が込められた光刃が爆発し、なのはを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたなのはは、後ろにあった樹に音を立てて背中から激突した。
バリアジャケットで守られたものの、その衝撃になのはの呼吸が一瞬止まる。
「グッ……ゴッ、ゴホッ……」
ズルズルとなのははその場から崩れ落ち、咳と共に肺から息が漏れ出す。
『Device form』
少女の持つ鎌が消え、元の斧へと変形する。
少女はなのはの様子を見ると、クルリと踵を返してジュエルシードの封印に向かう。
「ま……待って!」
その足を、なのはが呼びとめる。
まだやるのか、と少女が足を止め、振り向いて再びなのはを見据えた。
なのははガクガクと膝が震える状態で、なおも立ち上がっていた。
そこで初めて、少女からなのはへ向けて言葉が放たれる。
「その様子では、もう戦闘は無理でしょう。ジュエルシードは頂いて行きます」
「そういうわけには……行かないよ……。なんで……こんなことをするのか、話して……貰わないとね……」
息も絶え絶えに、なのはは辛そうなのを隠すこともできない。
樹にもたれかかって身体を支えながら、それでもなのはは声を上げて少女に話しかけた。
「答えても……多分、意味はありません」
「意味が無いなんて事は無い! ジュエルシードは危険で、大事な物だもの。勝手に持って行かれたら困るんだよ」
「……」
「君、名前は? 私は高町なのはって名前なの。君の名前は?」
「……」
「ああ。これを構えてたら、話せないかな?」
『マスター!? ダメです、そんなことをしては――』
レイジングハートの警告を敢えて無視し、なのははデバイスを待機状態に戻した。
少女がその行為に目を見開く。
「どうして……?」
「ん? どうしたのかな?」
「……どうして、デバイスをスタンバイモードに……?」
「だってそのままじゃ、君は話してくれないでしょう?」
なのはが少女の問いに返す。
当たり前のことだと、さらには両手を上げて無抵抗であると少女にアピールする
「ねえ、教えて? 君の名前を……」
「……フェイト、です。フェイト・テスタロッサ……」
何度も問い掛けるなのはに、少女が静かに自らの名を名乗る。
「そう、フェイト。フェイトちゃんか……かわいい名前だね」
少女――フェイトの名前を噛み締めるかのように、なのはは頷きながら名を呼ぶ。
「私は……」
フェイトが、ポツリとなのはに告げる。
「私は、ジュエルシードを集めないといけない。そして、貴女も同じ目的なら、私達はジュエルシードを賭けて戦う、敵同士だ」
「敵同士? それじゃダメだよ、フェイトちゃん」
その言葉に、なのはは反論する。
「そういうことを簡単に決めつけない為にも、話し合いっていうのは必要なんだよ。私達は何で言葉を持ってると思うの? 話し合う為でしょう? そんな何でもかんでも戦いで決めていたら、いつまでたっても寂しいだけだよ」
「……あなたの言っていることは綺麗事だ」
その言葉に、フェイトは静かに目を閉じ、自分に言い聞かせるかのように切り捨てた。
「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっと……何も変わらない」
目を見開き、バルディッシュを構える。
「伝わらないんだ!!」
「待って! フェイトちゃ――」
『Blitz Action』
バルディッシュの言葉と共に、フェイトの姿が掻き消える。
「速いっ!?」
背中に僅かな風を感じ、なのはが振り向く。
そこには、先程までなのはの前にいたはずのフェイトがいた。
「はあああっ!」
『Prote――』
とっさにレイジングハートが己の意思で防御を張ろうとするが、フェイトの速さには及ばない。
体勢を低くし、バルディッシュを逆手に持ち、その石突でなのはの右脇腹を突いた。
「うっ!」
呻くように声を漏らしてなのははその場に崩れ落ちた。
うつ伏せに倒れて、手からはレイジングハートが零れ落ちて気を失っている。
フェイトは尚もバルディッシュを構えていたが、もう起き上がらないのを見ると、ようやく警戒を解いた
その時、倒れたなのはに近づく影があった。
ジュエルシードが取り憑いた、あの猫だ。
「ナ~オゥ……」
猫はフェイトのことなど気にも掛けず、気を失ったなのはの頬をペロペロと舐める。
フェイトはその猫にバルディッシュを向ける。
「バルディッシュ」
『Sealing form.Set up』
バルディッシュが攻撃から封印へ適したモードへと姿を変える。
封印の雷光が放たれ、猫を狙い撃つ。
「ニャァッ!?」
猫が身体に走る雷に悲鳴を上げ、その身体から青い石が弾き飛ばされた。
『Order?』
「ロストロギア『ジュエルシード』シリアルXIV……封印」
バルディッシュが主に命令を尋ね、フェイトが命令する。
『Yes sir.Sealing』
バルディッシュから放たれた光が、ジュエルシードに当たり、未だ励起状態の輝きを打ち消した。
コロンと地面に転がったそれに、フェイトがバルディッシュを近づける。
『Captured』
バルディッシュの宝石の中にジュエルシードが格納され、圧縮された魔力が蒸気となって噴出する。
後にはジュエルシードに取り憑かれる前の、小さな子猫が倒れていた。
「……痛くして、ごめんなさい」
フェイトは一言だけ小さく呟くと、その場を去っていった。
果たしてフェイトが呟いた言葉は、なのはと子猫、いったいどちらに向けて放たれたのだろうか。
フェイトが去ったあと、そこにはなのはと子猫だけが取り残されていた。
気を失っていたなのはの指が、ピクリと動く。
ゆっくりと起き上がり、誰もいなくなった森を見つめながら、寂しげに声を漏らした。
「それじゃ駄目だよ、フェイトちゃん……」
腕には子猫を抱えて、フェイトに打ち込まれた右脇腹を抑えながら、なのはは呻いた。
「ウップ、は、吐きそう……」
なのはさんフルボッコの回です。
今のなのはさんには強力な攻撃手段しかないため、人間相手に使えませんでした。
いや、シリアスは疲れます。