私、高町なのは。●●歳   作:軟膏

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【朗報】arcadia復活!


18話

なのはは子猫を抱えて、屋敷まで戻っていた。

 

「まさか電気ショックで起こされるとは思わなかったよ……」

 

フェイトが子猫のジュエルシードを封印した時、なのははその近くに倒れていた。

フェイトの封印は電気を伴うものだったため、傍にいたなのはまで感電したのだ。

電流の大半は、気を失っても尚レイジングハートが展開し続けてくれたバリアジャケットで、ダメージの大半をどうにか防ぐことが出来た。

だがあくまで大半でしかなく、その全てを防ぎきることは、気絶していたなのはには無理だったらしい。

気絶するのは初めての経験で、電気ショックで起こされるのも初めてだった。

おかげでなのはにとっては、最悪に近い目覚めとなってしまった。

 

「痛っ……」

 

おまけに、フェイトに肝臓打ちを喰らって吐きそうになるのを、乙女的な何かで必死に抑え込んだのだ。

バルディッシュの光刃ではなく石突の部分を使ったことが、フェイトがなのはに手加減してくれたものと信じたいが。

起きてからは回復魔法で猫ともども応急処置をしたものの、なのはの低い練度の魔法では、まだ完全に回復が出来る程には至っていない。

肉体的にも、精神的にも、なのはの身体はボロボロだった。

 

「でもフェイトちゃんか……。ジュエルシードを集めて、いったい何がしたいのかな……」

 

先程初めて会った少女の事を考える。

寂しそうな目をした、とても綺麗な子だった。

なのははその少女に、自分と似た物を感じたのかもしれない。

 

 

なのはは小さい頃から良い子だった。

否、良い子であろうとしていた。

父、士郎が事故で寝たきりになってしまった時、母の店である翠屋はまだ開いたばかりだっ。

桃子は寝食を惜しんで店を切り盛りし、兄の恭也と姉の美由希はその手伝いに追われた。 その間、なのはは一人だった。

 

『良い子にしていてね』

 

『なのはは子供なんだから、外で元気に子供らしく遊ぶと良い』

 

そう言われた。

それは桃子たちの愛情だったのだろう。

自分達の都合で子供に苦労など与えたくは無いという、そんな想い。

しかし彼女たちの善意、その想いこそがなのはを傷つけた。

なのははまだ小さいからと、店を手伝うことをさせてもらえなかった。

なのははただ、苦しくても、辛くても、それでも一緒に居たかっただけなのに。

遠回しの愛情などではなく、率直に愛情をぶつけて欲しかった。

なのはは、ただ皆の近くに居られれば、それだけで良かったのに。

小さいからという理由では、なのはには納得など出来なかった。

しかしなのはは言い付け通り、良い子であろうとした。

幼いなのはには、言われたこと以外の方法を知らなかったから。

良い子にしていれば、いつかは家族が振り向いてくれる。

そう信じて、なのははずっと、ずっと良い子であろうとした。

 

そんな孤独を、なのはが小さい頃に味わったあの孤独の瞳を、少女もまた宿しているようになのはには感じられたのだ。

なのはがブツブツと呟いていると、聞き慣れた声が聞こえた。

 

「あ、なのはちゃん!」

 

なのはの親友であるすずかが駆け寄って来た。

 

「もう、どこに行ってたの? そんな恰好して」

 

「え? 何か変かな?」

 

なのはは体を見下ろす。

バリアジャケットは既に解除しているから、今のなのはは月村邸に来た時と変わらぬ服装だった。

 

「変っていうか、服の裾に泥が付いてるし、何だかとっても疲れた顔してるよ?」

 

そういって、すずかがなのはの髪に手を伸ばし、髪に絡まっていた葉っぱを摘んで取る。

 

「ありがとすずかちゃん。ちょっとこの子が、木に登って降りられなくなってね……」

 

なのはは腕に抱えた子猫を持ちあげて、すずかに見せる。

疲れていたからだろうか、なのははとっさに嘘をついた

ちゃんとした話はまた後日でもいいと思ったのだ。

大体、魔法なんてものを使って変身して、日夜変な化け物と戦ってるなんて、そんな恥ずかしいこと言える訳がないし。

笑われたりはしないだろうが、率直になのはが恥ずかしい。

 

「ああその子、ご飯の時にいないから、どこに行ってたのかと思ってたんだけど、そんなところにいたんだね……」

 

すずかはなのはから眠ったままの子猫を受け取る。

すると、今までずっと寝ていた子猫が目を開ける。

 

「ニャァ……」

 

なのはの方を見て、小さく声を上げる。

 

「あら? 起こしちゃったかな?」

 

「そうみたいだね。お腹空いてるだろうし、先にご飯あげて来るよ」

 

「そう。いってらっしゃい」

 

「うん。それじゃ」

 

すずかは子猫を抱えて、来た道を戻る。

しかし、数歩歩いたところで、足を止め、なのはの方を振り向く。

 

「ああ、なのはちゃんのお酒は、さっきのお部屋に用意してあるから。ちょっと冷めてるかもしれないけど」

 

なのははその言葉に目を見開く。

 

「そういえば私、すずかちゃんにお燗頼んでたんだった……」

 

なのはにしては珍しく、酒のことを忘れていたことに気付くのだった。

 

 

 

先程の部屋に戻ると、お酒の入れられた徳利が、テーブルの上に置いてあった。

椅子に座ってそれを手に取ると、なのはの手に、ほんのりと温かみが伝わって来た。

お猪口に注いで、口に持って行く。

白いトロッとした酒が、なのはの口に入る。

一口含むと、酒がなのはの身体を巡り、傷ついたところを癒やして行く。

 

「ああ~、沁みる……」

 

乾いた砂が水を吸うように、体に浸透していく感覚をなのはは覚えた。

すずかはちょっと冷めてると言っていたが、人肌にほど近い温度になっているこのお酒は、今のなのはには丁度良いものだった。

そのままグイッと飲み干し、徳利からもう一杯おかわりを注ぐ。

 

「はぁ……」

 

「溜息なんかついて、どうしたの? 年寄り臭いよなのはちゃん」

 

「あ、すずかちゃん。もう戻って来たんだ……あの子は大丈夫?」

 

「今は元気にご飯食べてるよ。よっぽどお腹空いてたみたい」

 

「そう……それはよかった」

 

ジュエルシードの力など借りなくても、しっかり食べて、しっかり眠れば、いずれあの子は大きくなるだろう。

なのははお猪口を揺らし、表面に立つ小さな波を見ながら考える。

 

「そうだ、なのはちゃん」

 

「ん? 何?」

 

すずかが名案を思い付いたかのように手を叩き、なのははその行為に首を傾げる。

 

「今日泊まっていきなよ」

 

「え? いや、私は……」

 

「うちの子を助けてくれたんだし、お礼がしたいの」

 

「お礼ならもう十分もらってるよ?」

 

なのははそういって、手に取った徳利を、見せびらかすようにフリフリと軽く動かす。

しかしすずかは目を閉じて首を横に振った。

 

「駄目だよ、それじゃ私の気が済まない。服を汚してまで助けてくれたんだから、せめて綺麗にして返さないとね。今日は私がホストなんだから、月村家の恥は見過ごせません」

 

「え? そ、そこまで言うの?」

 

たかがちょっと服の端が汚れただけで、家の恥とまで言われるとは思わなかった。

なのははすずかの新しい一面を見た気がした。

 

「飲み終わる頃にはもう日も暮れてるだろうし、泊まっていったほうがいいよ」

 

「いや、私はタクシーで――」

 

「帰りは明日、ファリンに送らせるから」

 

「う、うん……」

 

すずかの勢いに押され、なのはは頷いてしまう。

なのはは一つ溜息を吐くと、すずかに告げる。

 

「すずかちゃん、なんだか変わったね」

 

「そうかな?」

 

「うん。何だか少し……押しが強くなった」

 

「駄目……かな?」

 

少し悲しそうな声で、すずかがなのはに聞く。

 

「いや、良いと思うよ」

 

「本当? 良かった」

 

すずかは喜ぶと、なのはの持っていた徳利を自分で持ち、なのはの持つお猪口に注いで酌をした。

 

 

「はぁ……」

 

あのあとずっとすずかに酌をされて飲み続けたなのはは、宛がわれた部屋で休んでいた。

なのはは首に絡まらないように外して、ベッドの横のサイドテーブルの上にレイジングハートを置く。

飲酒後のため入浴は避けた方がいい、ということで入浴は明日にして、すずかの用意したパジャマに着替えてベッドに寝転んでいた。

何度も断ろうかと考えたが、すずかに「駄目……かな?」と悲しい目をされると、なのはに強く断る理由はなかった。

 

「すずかちゃん、本当に変わったな……」

 

押しが強くなったと評したが、正確には強かになったと言った方が良いだろう。

自分の主張を通すために、他人を都合よく動かすのが上手くなった気がする。

今もなのはは32歳にもなって、すずかに渡された猫柄のパジャマを着ているのだ。32歳にもなって。

 

「前はあそこまで世話好きじゃなかったと思うんだけどな……」

 

結婚してから家事の楽しさにでも目覚めたのだろうか。

そういえば、以前ファリンがなのはの店に一人で来て、珍しく愚痴を零していた。

なんでも、すずかが家事を全部自分でやってしまうから、ファリンがすることがないと言っていた。

おまけに、いつもラブラブなのを間近で見させられているから、一人身が寂しくなったとも。

先程すずかから聞いたが、ここ数日、その旦那は出張でいないらしい。

特に仲が悪いとは聞いていないから、本当に唯の出張だろう。

だからすずかも寂しくなって、なのはを呼んだのだろうか。

珍しいお酒が手に入ったという口実でなのはを呼び、なのはがノコノコと釣られて来たら更に別のお酒を出して興味を引いた。

そして服が汚れたのなら洗うと言って、なのはから服をはぎ取って猫柄のパジャマを着せている。

 

「あれ? もしかして私、孫悟空のようなもの?」

 

釈迦の掌の上で踊っていた孫悟空のように、すずかに上手い事踊らされている気がする。

しかもそれが別に嫌じゃない。

勢いに押されたが、今思えば、家の恥だとかを持ち出したのは、唯の建前だったような……?

 

「気のせいだよね?」

 

体は温まっているのに、背筋には少し寒いものが走る。

なんだか少し怖くなったなのはは、別のことに意識を逸らした。

やはり頭をよぎるのは、昼間なのはをボコボコにした少女のことだった。

 

「フェイトちゃんか……ねえ、レイジングハート」

 

『なんでしょうか?』

 

サイドテーブルの上のレイジングハートが、返事をするようにチカチカと点滅する。

 

「あの子のこと、どう思う?」

 

『そうですね……』

 

僅かに思案したあと、レイジングハートは喋り出した。

 

『あれだけの技量を、あの歳で持っていることには非凡な才を感じます。デバイスが私と同様のインテリジェントデバイスであることを差し引いても、魔力の流れに淀みがなく、動きも洗練されていました。彼女は良い師に巡り合えたのでしょう』

 

「そうだね、凄かった」

 

なのはは威力があり過ぎるということで、自分からは攻撃が出来なかったが、それでもあっさりとやられてしまった。

プロテクションに張り付くような魔法があるとも思っていなかったし、それが爆発するとも思っていなかった。

動体視力には多少の自信があるなのはでさえ、最後は姿を見失ってしまったのだ。

 

「防戦一方じゃいられない。今度は対等に戦えるように、練習しないと……」

 

人にも使えるレベルの弱い魔法、なのはが自信をもって意識的に使える魔法を覚えなければいけない。

魔法だけではなく、魔法を利用した立ち回りもだ。

ジュエルシードを狙うのならば、またいずれ彼女とは出会うことになる。

せめて対等であるだけの力量を身につけないと、話を聞いてすらもらえないだろう。

酒でグルグルと回る視界を見ながら、ぼんやりとした頭でなのはは考える。

 

「ねえ。レイジングハートもそう思うよね?」

 

『そうですね』

 

「うん。あの子――」

 

なのははフェイトが名乗った時の顔を思い出す。

 

「――車みたいな名前だったね」

 

『What?』

 

いきなり何を言い出すのかと、レイジングハートは戸惑う。

つい先程まで真面目な話をしていたのに、唐突にトンチキなことを言いだしたのだこの32歳は。

 

「うん。やっぱりあの目はそれでいじめられたからなのかな?『テスタロッサのくせに赤くない』とか言われて。それでジュエルシードを集めているとか?」

 

『あ、あの……マスター?』

 

「名前を変えたいから、ジュエルシードを探してたのかな? 『フェラーリ・テスタロッサになりたいんです』とかかな? いやでもジュエルシードは歪んで願いを叶えるから、そんなこと願ったら、本当に車になっちゃうかも……トランスフォームする車になるのはさすがにレベル高すぎぃ……」

 

『マスター、飲みすぎです』

 

レイジングハートの警告を無視して、なのははなおも独り言を続ける。

どうやら酔いがかなり回っているらしい。

それからもブツブツとなのはは取りとめの無いことを言い続けていたが、少しすると電池が切れたように唐突に静かになった。

寝入ってしまったらしい。

 

『まったく、世話が焼けますね』

 

レイジングハートはそれを見ながら、本来デバイスにありえない溜息を洩らす。

そしてこの駄目人間でありながらも、人を思う気持ちに間違いはない主を労わるように、静かに声を掛けた。

 

『おやすみなさい、マスター』

 




【悲報】メモってたパスワードがパスワードじゃなかった。
そのせいでアルカディアの方に転載しますって書けない。
スマホなら見れるのにPCだと見れないのもつらい。
でもまたいつ見れなくなるか分からないし、せっかく転載始めたので少しずつですが完結まで続けるつもりです。
投稿遅くなって申し訳ないですが、あの頃とは違って社会の歯車なので自由な時間は少ないのです。
あと昔の作品自分で読むと、まあまあ自傷ダメージがある。
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