私、高町なのは。●●歳 作:軟膏
翌日、なのははファリンの運転する自家用車に乗って高町家へと帰還した。
リビングでおやつを食べながらテレビでアザラシの生態を見ていたユーノが、なのはの帰宅に気付いて声を上げる。
「あ、なのはさん。おかえりなさい」
「うん、ただいま」
「昨日のジュエルシードはどうでした? すぐに反応が消えたので対処も楽だったみたいですが」
「それなんだけどね……」
なのはが昨日あったことを話すと、ユーノはクッキーを取り落とすほどに動揺した。
「なんですって!? ジュエルシードを持って行かれた!?」
「うん……。ごめんね、私が駄目だったばっかりに……」
「……いえ、なのはさんのせいじゃありませんよ。僕もジュエルシードを狙う人が出てくるなんて思ってもいませんでした」
ユーノにとってもこれは誤算だった。
そもそもユーノが以前言った通り、ジュエルシードが持つ魔力は膨大だが力の発現が不安定だ。
ロストロギアなのだから現在の技術では理解出来ない上に、安全な使い方などが記されているわけでもない。
そんなものを制御して、思いどおりの願いを叶えることなんて出来る訳がない。
ユーノにとってはただの厄介なものでしかなく、そのためにわざわざ危険を冒してまで、ジュエルシードを奪いに来るとは思っていなかった。
「そうだよね。あんなものを集めて、いったいどうするつもりなんだろう……」
なのはは考える。
既に酔いは抜けているので、昨晩言っていたようなトチ狂った考えをしている訳ではない。
なんでフェイトが『フェラーリ・テスタロッサになりたいんです』という願いを持っていると考えたのか、自分でも理解に苦しむ。
酔った頭で考えることに碌なことはない。
レイジングハートの口が堅いのが、なのはにとって救いだったと言えよう。
もしばらされたりしたら、なのはは恥ずかしさで悶絶することになる。
心配すべき点は、あの年頃の少女が戦う術を身に着けている事であり、それを可能とする背景に意識を向けるべきだった。
少年兵として子供を戦場に送り込むための教育がなされている。
フェイトの目から読み取った勝手な妄想であって欲しいが、あるいは虐待と言われるほどの指導を受けていたのかもしれない。
そんなことを、なのはは久しぶりに思い出したのだった。
「それでね、このままジュエルシードの封印を続けるなら、またあの子と会うことになると思う。だからちゃんとした魔法を覚えたいんだ。魔法って名前だから万能に思えるけど実際はそうじゃないし、今使える魔法がどこまでできるのか、何ができて何ができないのか、私は全然知らないから」
「なのはさん……わかりました。僕でよければ」
そういうことならば教えることに否はない、とユーノが頷く。
今までは持っている魔法だけで十分だったし、足りなくてもレイジングハートの補助があった。
しかし同じ魔法を使う相手なら相手も条件は同じである以上、なのは自身が魔法を使いこなさなくてはならない。
デバイスはあくまで補助でしかなく、魔法を使うのは魔導師でなければいけないのだ。
単純な火力だけで対抗出来ないなら、それ以外を考えるしかない。
なのははユーノを肩に乗せ、姉がいつも使っている道場へと向かった。
道場の引き戸を開けると、中には木刀を振るい鍛錬をしていた美由希がいた。
「あれ、お姉ちゃん?」
「あ、なのは。おかえり。朝帰りとはやるね」
「ただいま。もう、そんなんじゃないってば。お酒飲んで泊めてもらっただけだし」
横目でチラリとなのはを見ながら、木刀はそれでも振り続ける美由希。
その姿になのはは戸惑う。
「んん? お姉ちゃん、仕事は?」
「……何言ってんの? 今日から連休だよ」
呆れた、といった声で美由希が言う。
「なのは、自分が仕事無くなってニートだからって、ゴールデンウィークを忘れるのはどうかと思うよ? 毎日が日曜日だから、日にちの感覚が無くなるのは分かるけどさ」
「ちょっと、それ酷くない?」
なのはが今現在ニートなのは、店が壊れたからだ。
働きたくないからニートをやっている、というわけでは決してない。
「……何か釈然としないけど、まあいいや。お姉ちゃん、ちょっと道場使わせてもらうよ」
「別にいいよ。もう上がるとこだったし」
そういって美由希は木刀を振るうのを止めて、肩に掛けていたタオルで汗を拭う。
「それで? いったい何やるの?」
「魔法の練習だよ」
「魔法? なんでまた、急にやる気になんかなったの?」
美由希の問いに、なのはは昨日あったことを伝える。
フェイト・テスタロッサという名前の少女と出会ったことを。
彼女がジュエルシードを集めており、なのはは負けてしまい、ジュエルシードを持って行かれたことを。
最初美由希は真面目に聞いていたが、なのはがやられたところで噴き出した。
「なになのは、そんな小さな子にコテンパンにやられたの?」
「そう言わないでよ。凄く強かったんだから」
「ごめんごめん、言い過ぎた」
なのはは顔を赤らめながら、小さく口を尖らせて美由希に反論する。
「でもそんなに強いなら一度会ってみたいな。ねえなのは、そのフェイトちゃんって、いったいどんな子?」
「綺麗な金髪を頭の横でツインテールにした、とても可愛い女の子だよ。でもね、とても寂しそうな目をしてる」
まるで昔の私みたいに、となのはは口に出さずに心の中でだけ付け加える。
子どもが寂しく悲し気な目をしていて、見過ごすことはできなかった。
そしてその空気を吹き飛ばすように、明るい声で続ける。
「あ。あとね、すっごい服装してた」
「え? 服?」
「うん。バリアジャケットだと思うけど、凄い際どい格好してて、見てるこっちが恥ずかしくなったよ。とっても似合ってるんだけどね」
「そ、そうなんだ」
「水着というか、新体操のレオタードみたいでね、股のところはハイレグになってて、その周りはヒラヒラした布で覆ってるだけなの」
なのはが両手でフェイトの衣装の鋭角具合を示す。
某芸人のネタを彷彿とさせるその動きを見て美由希は引きつった声を上げる。
「うわ……勇気あるね、その子」
「私もそう思う」
「私だったら、もうそんな恰好出来ないよ。もし往来でそんなことやったら捕まるね」
「私だってそうだよ。もう年だもんね」
「……さっき会いたいって言ったの、取り消そうかな……何か見比べられそうで怖い。誰にとは言わないけど……」
「……うん。その方がいいかも……」
二人してハァ……と深いため息を吐いた。
会話していて、ドンドンと気分が鬱になっていくのが分かる。
子どものころには大人の女性像というものに憧れを抱くことも多かったが、いざ大人になってみると、大人としての恰好が求められる。
子供のころに好きだったフリルのついたフワフワの衣装、パステルカラーの華やかな可愛らしい衣装などは似合わず、落ち着いたシックな衣装が衣装ケースに増えていくのだ。
成長を忌避したことは無いが、子どもと関わるともう戻れない過去を思い出してしまう。
「……あの、そろそろ魔法の練習、始めませんか?」
仲間外れにされていたユーノが、おずおずと割って入る。
衣装の際どさについて語っていた2人の傍で、ユーノの顔は、僅かに赤くなっていた。
どうやら、こういう話題は苦手らしい。
次から魔法の練習始めたいと思います。
本来無いなのはさんのレアスキルも発覚します。
同じ魔法だけを持って来てもな、ということで独自性を出そうとした結果です。