私、高町なのは。●●歳 作:軟膏
「そ、それじゃあ始めましょうか」
「うん。ごめんね、長話しちゃって」
ユーノが話題を変えて、なのはがそれに乗る。
美由希と話していて、そもそもここへ来た理由を忘れかけていたので助かった。
あのままだと、二人して落ち込み続けていただろう。
「私はここで見てるよ」
美由希は道場の壁に背を預けながら言った。
「それじゃあまず、なのはさんが使う魔法を、ちゃんと発動させるところから始めましょうか」
「新しい魔法を教えてくれるんじゃないの?」
なのはが首を傾げると、ユーノが答える。
「それも必要ですけど、まず自分がどこまで出来るか、自分の魔法がどういうものかを自覚するべきです。無闇に数多く覚えても、咄嗟に使う時に、魔法の取捨選択が難しくなるだけです」
「それは道理だね」
横で聞いていた美由希が頷く。
身体を鍛えている美由希には、その選択がどれほど大切なことかが分かるのだろう。
いくら技を覚えていたところで、反射的に使える程に体に馴染ませなければ使いこなしているとは言い難い。
「うん、わかった。それじゃあやろうか、レイジングハート」
『All right.Stand by ready.Set up.』
なのはの身体が光に包まれ、翠屋の制服へと切り替わる。
赤いビー玉は、四連装の泡立て器へと変わる。
「まずはプロテクションを発動させて下さい。なのはさんが神社で犬の暴走体と戦った時の防御魔法です。少し気になることがあるので」
「気になる事?」
ユーノの言葉になのはは首を傾げるが、使えば分かるかと思い、レイジングハートに頼む。
「レイジングハート」
『Protection』
グリップに付けられた赤い宝玉が煌めき、先端がキュルキュルと回転すると、なのはの前に桜色の壁が生まれた。
「やっぱり……」
「ユーノ君、やっぱりじゃ分からないよ。ちゃんと説明してくれるかな?」
「ああ、すいません。なのはさんの魔法は、少し普通と違っているんです」
「どう違うの?」
なのはは自分以外で使った人を見ていないため、違いが分からない。
これが普通と考えていたのだが、ユーノの言うことには、なのはの魔法は変らしい。
「例えば、空を飛びながら砲撃を撃ったり、プロテクションとバインドを同時に使ったりなど、魔法は同時に発動することが出来ます。そもそもバリアジャケットも魔法ですからね。マルチタスクという練習すれば誰でも使える技術で魔法は同時使用出来ます。ですが同じ魔法を発動することはほとんどありません」
「それはどうして?」
「意味が無いからです。魔法の種類によっては、反発することも有り得ます。空を飛ぶ魔法を使っている時に、もう一度飛行魔法を使っても、既に飛んでいるので意味がありません。バインドを同時に使用すれば、拘束する鎖の数を増やせますが、それなら一つの魔法に魔力を多く注いだ方が効率的です。プロテクションに至っては攻撃を弾くので、同じ魔法を使ったら互いに反発して消えてしまいます」
ユーノはなのはの肩から降りて、両手を上に掲げる。
「プロテクション!」
ユーノが唱えると、フェレットの小さい両手から、翠色の光が漏れる。
その手になのはと同じような壁が出来る。
「今、両手で二つのプロテクションを発動させました。これを近づけてみると……」
最後まで語らず、両手を合わせる。
すると、そこに展開されていたプロテクションが、バチバチと音を立てて消滅した。
「こんなことになります」
「消えちゃった……」
ユーノの言っていたことが、見ていたなのはには良く分かった。
「なのはさんの魔法が少し変わっていると言ったのは、この反発して消えてしまうはずの魔法が、消えずに残っているからです。同時に四つものプロテクションが発動していて、消える端から魔力を注いで補填し、それが幾つもの積層構造を形成しているんです」
「あ、本当だ。ユーノ君のに比べると、なのはの魔法は分厚いね」
前や横に回って見比べていた美由希が、プロテクションの厚みを指で測っている。
フェレットサイズのプロテクションと比較しても、縮尺が違うだけではない違和感があった。
「おまけに何か波打ってるし……」
「ええええっ!? 何でそんな事になってるの?」
そんな事が自分の魔法に起きていたなんて、なのはには全然分からなかった。
しかもこんなことになっていると、今まで使っていたのが本当に大丈夫だったのかと不安になってくる。
もしこれに不具合があったのなら、なのはは大怪我していただろう。
「おそらく、デバイスがそんな形状をしているからだと思います。レイジングハートは祈祷型ですから、なのはさんの頑丈な盾が欲しいと願ったことを叶えるために、魔力で強引に同時発動したのではないでしょうか? 魔法の発動には問題は無いようですが、発動部分が四つもあるデバイスなんて見た事無いですから、そのせいもあるかと思います」
「え? 無いの? 多い方が強く見えるけど」
なのは大丈夫だと言われたことに安堵しながらも、湧きあがって来た疑問をユーノにぶつける。
ユーノは首を振って否定する。
「銃型のデバイスだって存在するけれど、銃口は一つですよ」
「ああ、うん……」
たくさん打てた方がお得、という短絡的な思考をきっぱりと否定された。
銃口が複数あるイメージは映画などで見たガトリング砲なのだが、普通個人で持ち歩くものではないのだろう。
「作ろうと思えば作れますけど、これだと通常より魔力を大量に消費します。並列回路の魔法陣で複数発動するのが主流なところ、有り余る魔力量で直列回路の魔法陣を複数並べているのが今のなのはさんです。魔力が潤沢にあってそれ以外に使わないならともかく、普通はそれ以外にリソースを割くと思います。一つでも大抵のことは大丈夫なのに、四つも使う人なんていませんから」
「そ、そう……」
暗になのはは馬鹿なんだとユーノに言われた気がして、なのはは落ち込んだ。
そんななのはの様子に気付かないまま、ユーノは話を続ける。
「それじゃあ次は、なのはさんの言っていた新しい魔法に移りましょうか?」