私、高町なのは。●●歳   作:軟膏

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今回ほぼユーノ視点です。


22話

「凄い……」

 

目の前で繰り広げられる光景に、ユーノは絶句していた。

自分すら遠く及ばないほどの大量の魔力を持ち、先天的に才能があるといってもいいなのはと巡り会えた。

その人はちょっとだらしない駄目人間だったが、心根はとても優しい人だった。

ユーノのお願いを笑って受け入れてくれたことにとても感謝している。

ユーノは出来る限りのことを、彼女に伝えたいと思っている。

彼女が怪我をしないように。

彼女が悲しい思いをしないように。

そう思って今日の魔法の講義では、慣れない攻撃魔法まで使って見せた。

彼女はそれに応えてくれた。

そのことがとても嬉しい。

レアスキルの発覚という、彼女にとっては嬉しいのか嬉しくないのか微妙なことも起きたが、それはまあいい。

これで彼女は、思いっきり戦うことが出来るということだ。

なのに。

ああ、それなのに。

 

「なんで当たらないんだろう……?」

 

確かになのはは全力でやっているはずなのだ。

操作している誘導制御弾も最初は1個しかなかった。

それが今や10個まで増えているのだ。

それなのに当たらない。

いったいどういうことなのか。

 

「美由希さんって……いったい何者?」

 

なのはが全力でやっているというのに、それを笑いながら全部避けて行く。

おまけに反撃と称して拾ってきた小石を指で弾いて、なのはの額に精確に当てている。

ユーノが驚愕するなのはを更に超える、高町美由希とはいったい何者なのだろうか?

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

5分くらい、なのはさんが操作するシューターを、美由希さんは避け続けた。

最初は躊躇っていたなのはさんも、美由希さんが難なく避けるのを見ると、シューターを二つに増やした。

それでも美由希さんさんには当たらず、なのはさんが焦れて来たころだった。

 

「それじゃあ身体も温まって来たし、そろそろ反撃しようかな?」

 

美由希さんはそう告げると、先程なのはさんの頬に当たったよりももっと小さい小石を、懐から幾つか取り出した。

 

「お姉ちゃん、まだそれ持ってたの?」

 

「1個だけなんて言ってないし。そっちが数増やせるんだからこっちも対抗するよ」

 

クルクルと自転する誘導弾を2つ制御しながら、なのはさんが呆れたように返す。

美由希さんはそれを指で弾き、なのはさんの額に当てる。

 

「痛っ!」

 

なのはさんは石が当たった額を押さえて、その場にしゃがみ込む。

制御していたシューターが集中が途切れたことで、存在を保てなくなり消滅した。

美由希さんはそれを見ながら、挑発するようになのはさんに話しかける。

 

「ほらほらいいのかな? そんなに余裕持ってて。のんびりしてると容赦なく当てるよ」

 

「……わかったよ。全力全開で当ててあげる」

 

そう言って立ち上がり、なのはさんは更に集中して、5個のシューターを再度作り出した。

先程までの倍以上をなのはさんは苦も無く操り、美由希さんに当てようとする。

しかしそれすらも楽々と躱される。

 

「ほらほら、そんな遅くちゃ、誰にも当てられないよ!」

 

美由希さんがそういって挑発する。

僕からしてみれば、なのはさんの魔法は動きが速い方だ。

かなり上位といっても良い出来で、あれを避けられるのはあまりいないと思う。

通常のセオリーとしてはプロテクションで受けたり、こちらも誘導弾で相殺することが多い。

魔法の撃ち合いともなれば、いかに相手の思考を読み、それに応じた動きを要求される。

なのにどうして魔導師でもない美由希さんが、あんなに易々と避けられる?

最初にジュエルシードの思念体を倒したときも、汗一つ掻いていなかったし。

どうやってやったのか聞いたら、ただ単に攻撃しただけでちょっと身体を鍛えているからって返ってきた。

いやちょっとのレベルでそれだけのことが出来るなら、僕らはみんな魔術師廃業だ。

美由希さんが聞いたら怒ると思うし口には出せないけど、決して侮蔑するような意図はないのだけれど……魔法に頼らず魔法に近いことを為せる身体能力一点でもって美由希さんは化け物だ。

 

「まだまだぁっ!」

 

なのはさんは更に倍の10個にまで増やす。

僕を助けてくれた人達をそう悪く評するのはどうかと思ったけど、なのはさんも十分化け物だと思う。

天才とか英雄とか賞賛できる表現は数あれど、それ以外に僕は相応しい言葉を思いつかない。

案外僕の言った空想の域を出ない、あのアルハザードの子孫って仮説もあながち間違いじゃないのかもしれない。

なのはさんはシューターを美由希さんの周りに配置する。

逃げられないように前後、左右、上下、美由希さんを全囲する形で。

 

「え?」

 

でも美由希さんの身体が一瞬見えなくなり、次の瞬間にはなのはさんの後ろに立っていた。

シューターが包囲していたところにはもう何もない。

 

「いや~、焦った焦った。今のはちょっと危なかったかな? 当たったら終わりって練習だし」

 

「ど、どうやって……?」

 

なのはさんも、訳が分からずにぼんやりとしている。

横から見ていた僕も分からなかった。

確かになのはさんの魔法は美由希さんの周りを取り囲んだはずだったのに、どうやって抜け出したんだろう。

 

「“ちょっと”速く動いただけだよ」

 

美由希さんはウインクして笑いながらそういった。

この人に僕の常識は通用しないのかもしれない。

 

「なのは。数を増やすのはいいけど、最初より動きが単調になってるよ」

 

そう指摘して、美由希さんは小石を構える。

 

「それじゃ、続けようか?」

 

「っ!? レイジングハート!」

 

『Flash Move』

 

美由希さんがそう言うと、なのはさんはフラッシュムーブで大きく後退する。

近くにいたら、身体を鍛えていないなのはさんにはなおさら不利だ。

そのなのはさんに、美由希さんは小石を先程よりも速く投げた。

 

「レイジングハート!」

 

『Protection』

 

しかし今度は、なのはさんも警戒していたからか、なのはさんが発動した、複層の波打つプロテクションに小石は弾かれた。

複層になっているのは、デバイスの形状が特殊だからなんとなくわかった。

それとあの波打ってるのは、おそらくなのはさんのレアスキルが影響しているんだろう。

 

なのはさんのレアスキル『回転』

なのはさんが発動した魔法は、発動した時点で回転を始める。

なのはさんの意思で回転数を上げることは出来るが、回転を止めることは出来ない。

回転を止めることが出来るのは、何か固定された物質を起点として発動した魔法のみ、ということだろうか?

なのはさんはプロテクションを、魔法で作る壁と認識しているらしい。

だから魔法は、地面からせり上がるように壁が生まれる。

そのため地面を起点として発動した魔法は、地面に固定されて回転を行うことが出来ない。

同じようにチェーンバインドも回転は起こらなかった。

この仮説は正しいのかもしれない。

 

なのはさんの魔法は、その過剰な魔力と相まってとても強い。

対人戦闘で使えば最強といっていいかもしれないが、強力過ぎて心理的に使えない。

あのシューターだって回転数を最大まで上げて相手にぶつければ、それだけでなのはさんは勝てる。

たった一つでだ。

たった一つで防御もバリアジャケットも、紙のように吹き飛ばしてしまうことが出来るだろう。

 

物には回転しやすい形というものがあるのだ。

例えば、なのはさんの作り出したシューターのような球形、ラウンドシールドのような平たい円形などだ。

ミッドチルダ式の魔法陣は真円だから、なのはさんのレアスキルとの相性は抜群なのかもしれない。

相性が良すぎるというのも考え物だ。

回転し続けるということは、なのはさんの魔法には大抵の魔法が非殺傷の効果を発揮しない。

ラウンドシールドを投げれば、それだけで巨大な丸鋸に成りうる。

まだ教えていないけど、もしかしたらただのリングバインドでさえも、あるいは人を捩じ切って殺せるかもしれないのだから。

事故が起きないように僕としても教える内容は厳選していかないと……。

優しい彼女が、どうしてあんな過ぎた力を持ってしまったのだろうか。

 

僕たち魔法世界の住人なら、レアスキルがあることが分かれば喜ぶ。

絶対的な魔力量の差を埋めるほどではないが、多少のランク差程度であればひっくり返せるだけのポテンシャルがあるからだ。

変換資質などは後天的に習得することは出来るものの、先天的に持ち合わせた場合と比べてコストが高い。

特殊すぎるレアスキルを代々受け継ぐために子沢山な一族だってあるのだ。

 

けれどなのはさんはレアスキルが分かったとき、喜ぶのではなく微妙な顔をしていた。

不便にも程がある、まるでそんな顔をしていた。

なのはさんにはそのことが分かっていたのだろう。

あの力は凶悪すぎる。

 

「なのは、さっきの光の球消えちゃってるよ? ちゃんと集中しないと駄目じゃない」

 

「えっ?」

 

美由希さんの指摘に、なのはさんがハッと顔を上げる。

道場の中を見ると、さっきまで展開していたはずの10個のシューターが消えていた。

なのはさんは避けるのに精一杯で、魔法の維持を忘れていたらしい。

慌ててもう一度魔法を発動させようとするが、美由希さんが一息でなのはさんの直ぐ目の前まで走り寄った。

 

「魔法もいいけど、私の事も忘れちゃ駄目だよ?」

 

ピシッ!

 

「あうっ!」

 

美由希さんがデコピンをなのはさんに軽く放つ。

 

「れ、レイジングハート!」

 

『Flash Move』

 

「まだまだ、だね」

 

もう一度フラッシュムーブを使い、なのはさんは大きく距離を取る。

その動きについていく美由希さん。

やっぱり化け物だ。

それから何度か、道場の端から端まで行ったり来たりの追いかけっこを繰り返している。

なのはさんの魔力は膨大で、美由希さんの体力も底なしだからいつまで続くのかと心配になる。

かなり長く続くだろうと思っていたが、終わりは意外にも早く、そしてあっけなくやって来た。

 

 

 

グキッ

 

 

 

嫌な音が、聞こえた。

離れていて聞こえるはずもないのに、なぜか聞こえた。

それと同時になのはさんがその場に崩れ落ちた。

美由希さんは何もやっていないのに、だ。

 

「お、おおおお……あああ……ああ」

 

倒れたまま、陸に打ち上げられたアザラシのようになのはさんが呻く。

徒ならぬその様子に、美由希さんも何事かとなのはさんに駆け寄った。

僕も急いで近づくと、なのはさんは掠れた小さな声で一言だけ漏らした。

 

「こ、腰が……」

 

「あー……やり過ぎた」

 

そんな声が聞こえて来た。

僕はこの状況をいったい、どうすれば良いんだろう?

 




今回は、美由希tsueeeeee! の回でした。
みんなもぎっくり腰には気を付けようね。

ということでレアスキル『回転』となります。
元々は「デバイスの泡だて器がクルクル回ってるしな、体に酒が回るのと合わせて魔法も回転させたろ!」という感じの思いつきです。
結果
魔法陣で発動の起点が空間や地面に固定するタイプ→使用可能
リングバインド→2か所で拘束したら捩じ切れる。
ラウンドシールド→投げたらピザカッター。
みたいな感じで使用魔法に制限が掛かります。
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