私、高町なのは。●●歳 作:軟膏
こんなのなのはさんじゃない、って言われたらうん、まあそうねとしか言えない。
「飲まなきゃやってられない」
なのはがその日、全てを終わらせてベッドに潜り込んだ時に呟いた言葉である。
姉が自分が思っていた以上に強かったことを知り、安堵したのも束の間。
フェレットがなのはの投げ捨てた泡立て器を拾ってきて、封印をしろと言った。
今はダメージを受けて一時的に機能を停止しているだけなので、封印をすればもう安心なのだとか。
その言葉に、俄かに自分の出番が廻って来たか、となのはは期待したものだ。
だが、フェレットの言うとおりに泡立て器を持って、姉の見ている前で
「リリカル・マジカル 封印すべきは忌まわしき器 ジュエルシード封印!」
という羞恥プレイをやらされたなのはは、帰り道でずっと鬱になっていた。
呪文を唱えたら、泡立て器がボタンも押してないのに勝手にクルクル回り出して、なんか桃色の光が回転しながら出て青い石にぶち当たったのは、いったいなんだったのだろうか。
封印し終わったなのはが、そのジュエルシードとかいうのを格納するとき、八つ当たり気味に、ジュエルシードに泡立て器を叩きつけたのは責められることではないだろう。
あれから警察のサイレンの音が響いて来たので、いつまでもそこにいるわけにはいかず、引き上げることにした。
そして町はずれの公園にまで来たところで、やっと一息吐くことが出来たのだ。
「……」
なのはは無言でワンカップを開ける。
小銭しかないが、ジャージのポケットにお金を入れていた過去の自分に、今とても感謝していた。
このさびれた公園の片隅に酒の自販機が置いてあったことにも。
一気に呷りながら、隣で美由希とフェレットの会話を聞く。
「そういえば君、なのはの話だと酷い怪我だって言ってたけど、そんな動き回って大丈夫なの?」
「怪我は平気です。もうほとんど治っているので……」
そう言ってフェレットは身体を震わせ、シュルシュルと包帯を引き剥がす。
その下からは、綺麗に生え揃った毛並みが顔を覗かせていた。
「へぇ、本当だ。怪我の痕がほとんど消えてるよ」
「明日には全部治ると思います」
「魔法って結構凄いね」
「助けてくれたおかげで、残った魔力を治療に回せました」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「そういえば自己紹介してなかったね」
「あ、そうでしたね」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「私は高町美由希。高町が名字で、美由希が名前だよ。さっきの見て分かると思うけど、結構腕には自信があるんだ」
「僕はユーノ・スクライアといいます。スクライアは部族名なので、ユーノが名前です」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「へぇ、そうなんだ。ユーノ君、で良いかな?」
「あ、はい。どうぞお好きなように呼んで下さい」
「そ。じゃあよろしくね、ユーノ君」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「それにしても、凄かったです。まさか魔法も使わずにあの思念体を倒す事が出来るなんて……」
「大したことじゃないよ。あれぐらい家のお父さんやお兄ちゃんだって朝飯前だし」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「ええっ!? そうなんですか!?」
「そうだよ。で、あっちにいるのが妹の高町なのは」
「高町なのはさん……」
「呼ぶ時は名前の方で呼んでね。同じ高町だから。あの子もそっちの方が好きだし」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちてきた。
「わかりました。それにしても、貴女達を巻きこんでしまいました……」
「気にしなくていいよ。私は平気だから」
チャリーン。
自販機に小銭が投入される音が響く。
ピッとボタンを押すと、ガタン、とワンカップの酒が落ちて来ない。
「……」
ボタンから恐る恐る指を離すと、そこには赤い、とても紅い、なのはの大嫌いな言葉が浮かんでいた。
「売り……切れ……?」
そんな、馬鹿な……、とばかりにその場に膝をつくなのは。
「そうだ。ユーノ君、まだ怪我が全部治っている訳じゃないんだし、ここじゃ落ち着かないでしょ?」
「いえ、そんなことは」
「とりあえず、私達の家に行こうか」
「え、でも女性の家に上がるのは……」
遠慮しようとするユーノ。
「もう夜も遅いし、話は明日ってことで」
「は、はい……」
だが、美由希の勢いに押され、ユーノは頷いてしまう。
「よし、じゃあ帰ろうか。なのは行くよ。あと買った傍から一気飲みするのは危ないから止めなさい」
「……お酒……」
そして、この長いようで短い一日は幕を閉じたのだった。