私、高町なのは。●●歳   作:軟膏

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8話

「うそだ……」

 

なのはは目の前の現実を認めたくなかった。

 

「そんな……」

 

アルコールがまだ全て抜けていない可能性も考えられるため、自分では運転せず、タクシーを拾ってまで急いだなのは。

 

しかし、現実は残酷だった。

 

「え? これ……登るの?」

 

なのはが見上げる先には、数えるのも馬鹿らしいほどの数の石段と、遥か上空に聳える小さな赤い鳥居の姿があった。

 

「ねぇユーノ君。私ちょっと体調が悪いかな……って」

 

「何言ってるんですか!? さっきまで物凄い元気だったでしょう!?」

 

「やっぱり登るんだね……とほほ」

 

そしてなのはは必死に石段を登り始めるのだった。

なのはの敵は、どうやらジュエルシードではなく石段のようだ。

 

 

 

「ヒィッ……ハァッ……」

 

あともう少しで登り切るところまで来たとき、なのはの足が止まった。

 

「無理ぃ……きついぃ……」

 

なのはがタクシーまで使って温存した体力は、もう全て使い切ってしまったらしい。

 

「もう少し! あともうちょっとですから!」

 

「うん……」

 

肩に載ったユーノが横から声援を飛ばす。

なのははそれに応えようとまた登り始めた。

しかし、最初のころの勢いは既になく、遅々としてその歩みは遅い。

それでも尚なのはが登り、途中の踊り場まで辿り着いたとき、上から獣の咆哮が聞こえてきた。

離れていてもビリビリと肌に突き刺さるような雄叫び。

その雄叫びを聞いた小鳥や小動物が、一斉に飛び立ち逃げ出していく。

 

「なのはさん、気をつけて下さい!」

 

「うん、レイジングハート!」

 

『All right』

 

その一言でなのはの胸の宝玉が光り輝く。

 

『Stand by Ready.Set up』

 

なのはの身体を光が包み込み、緑屋の制服を着て、泡立て器を持ったなのはが現れる。

 

「来ます!」

 

ユーノが毛を逆立てて威嚇する。

鳥居の上に飛び乗り、なのは達の視線の先に現れた敵は、なのはの予想以上の姿をしていた。

 

「何、あれ?」

 

犬、に見える。

しかし、犬と本当に言っていいのか、とても難しい。そんな姿をしていた。

爪や牙はサーベルタイガーのように鋭く尖っていて、四肢はなのはの胴体よりも太く、黒い外皮は鋼鉄の如き光沢を放っていた。

青い宝石を埋め込まれた頭部には4つもの目が付いていて、その全てでなのはを睨みつけている。

虎のように大きい身体は、一息でなのはを吹き飛ばすことなど容易いだろう。

この姿を見たあとでは、昨晩のジュエルシードの思念体などただの毛玉でしかない。

 

「注意してください。ジュエルシードが生物を媒介にして暴走しています。実体がある分、この間の思念体よりもずっと手強いはず!」

 

「グルルルッ!! ガアアアアアッ!!!」

 

暴走体は鳥居から飛び降り、なのは達のもとへとグングンと駆け下りて来る。

 

「え、ええと、ええっと?!」

 

「なのはさん! 落ち着いて、僕の指示に従って下さい!」

 

「わ、わかった!」

 

なのははユーノの指示に従うことにする。

 

「願って下さい。盾を。なのはさんを守る、何よりも強力な盾を!」

 

その言葉に従い、なのははレイジングハートを正面に構える。

 

「魔法とかまだよくわかんないけど、お願いレイジングハート。好きなだけ魔力使って」

 

『Protection』

 

泡立て器のグリップの底部に付けられた赤い宝玉が光り輝き、白金色の先端が回りだす。

そして先端から桜色の光が放射状に広がり、なのはを包むように壁を形成する。

暴走体はその壁にぶつかり、弾き飛ばされる。

なのはも衝撃で一歩後ろに下がったが、それだけだ。

プロテクションは主を守り抜くと、光の粒子となって霧散していった。

 

「これは……」

 

ユーノがその魔法を見て、唖然とした表情を浮かべる。

 

「プロテクションが4つ、積層構造で発動だって? レイジングハート、魔力を使いすぎだ! 一度にこんなに使っては……」

 

「どうしたの、ユーノ君? 次は!?」

 

険しい顔でまだ動き続けている暴走体を見据えながら、なのははユーノに問いかける。

魔力の消費の激しい魔法を使用したにも関わらず、急激な減少に戸惑う様子は見られない。

その声にユーノは正気に返った。

 

「はっ! いえ、細かいことは後です。次はバインドであの暴走体を拘束してください」

 

「わかった。レイジングハート!」

 

『Chain Bind』

 

桜色の鎖が地面から出現し、暴走体を捕らえる……ことが出来なかった。

暴走体は魔法の鎖を視認した瞬間、勢いよく後ろに跳び退る。

対象を見失った鎖は、役目を果たすことなく消え去った。

 

「グルルルル……!」

 

暴走体はなのはを睨みつけていたが、踵を返すと、石段を駆け上がり始めた。

 

「あいつ、逃げる気です」

 

「ええっ!? 私じゃ追いつけないよ、どうすればいいの!?」

 

戸惑うなのはの肩に飛び乗ったユーノが返す。

 

「願って下さい! あいつに追いつくことを。空さえも飛べることを!」

 

「……わかった!」

 

なのはは再びレイジングハートを構える。

 

「レイジングハート!!」

 

『Flier Fin&Flash Move』

 

そして、なのはの姿が一条の光となって掻き消える。

一瞬で何十段もあった石段を飛び越え、頂上に降り立つ。

そこからは、走り去っていく暴走体の姿が見えた。

そして、その先にいる気を失った女性の姿も。

 

「あいつ、あの女の人を襲うつもりだ!」

 

「危ない!」

 

なのはが先ほどと同じようにプロテクションで女性を守ろうとする。

しかしその発動よりも前に、暴走体は女性に躍りかかった。

 

「ギャウンッ!」

 

だが暴走体が女性に噛み付こうとした瞬間、何かに弾かれるように吹き飛ばされた。

遅れてなのはの魔法が発動し、女性の周りに桜色の壁が出現する。

二度も弾き飛ばされた暴走体は、ふらつきながらも再び立ち上がろうとする。

 

「駄目だよ……、そんなことしちゃ……」

 

なのはが悲しげな顔で、暴走体に静かに語りかける。

片手に持つレイジングハートに、なのはは尋ねる。

 

「ねぇ、レイジングハート。さっきのプロテクション、ドーム状に張ることは出来る?」

 

『No problem』

 

「そう。じゃあお願い。内側に向けてね」

 

『OK.Circle Protection』

 

そして、桜色の光が半球型に展開し、暴走体を包み込む。

 

「グルッ! ガアアアアアッッ!!」

 

突如として自分の周りを取り囲んだ壁に、暴走体は苛立ちを見せる。

壁に激突して破壊しようとするが、そのたびに弾かれ、中央へと戻されていく。

 

「レイジングハート」

 

『Chain Bind』

 

そして、ドームの周りに再び桜色の鎖が出現し、ドームに巻きつく。

すると、暴走体が何度突進を繰り返してもビクともしなかったドームが、鎖の形に締めあげられていく。

当然、中にいる暴走体もろとも。

 

「グウッ! ガウッ! ガッ!」

 

ゆっくりとなのはは歩いて暴走体に近づいていく。

傍まで来ると、暴走体の様子が手に取るようになのはには分かった。

締めあげられて身動きが取れなくなった暴走体を、密着しているプロテクションが弾き続けている。

暴走体とプロテクションの境界から、硬質的でメタリックなイメージを抱かせた外皮が、段々と焼け焦げていく匂いがなのはの鼻を刺激する。

それを見て、なのはは眉を顰める。

 

「ごめんね、私は用心深いの……」

 

そしてなのはは、レイジングハートの先端を、プロテクションの上から暴走体の額に押し当てる。

 

「レイジングハート」

 

『Sealing』

 

先端から放たれた光は、あんなにも暴走体を苦しめたプロテクションを、紙のようにあっさりと貫いて暴走体の額に突き刺さる。

 

『Receipt number XVI』

 

そして、レイジングハートの無機質な声と共に、暴走体は消えていった。

 

 




今回、チュートリアル、もとい犬フルボッコの回となっております。
この話でなのはさんが魔法の使い方を意識的に覚えます。
そしてアニメで見ていて思ったのですが、あの犬ってユーノが思念体より手強いとか言っていたけど、自分からプロテクションに突っ込んで自滅したので、あんまり強さが分からなかったんですよね。
あんなに凶悪な外見しているのに、弾かれてすぐ終わりなんて、もったいないなと思いましたよ。
ですので少し耐久力を上げてみました。その分この話では酷い目にあったわけですけど。
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