読んでいる間に推理をしてもいいんですよ?
『第一の事件の推理』
『第二・三の事件の推理』
『第四の事件の推理』
『犯人当て』
秋雲「はい、というわけで始まりました、陽炎型ミステリーゲーム!
ゲームマスターはこの私、秋雲さんが担当するよ~!」
秋雲「ええ、今回は提督全面バックアップの下に鎮守府宿舎の一角を態々借り受け、そして明石さん夕張さん大淀さんにも全面協力によって実現いたしましたよ! はい!」
秋雲「……そういう挨拶はいい? 解決編だろ先を見せろって? はいはい分かりました。
でも、その前にルールを再説明!」
秋雲「このゲームの10のルール。
1.『プレイヤー』は最初にクジを引く。
2.クジには『探偵』『犯人』が一つずつ入っている。それぞれ決まったロールを演じること。
3.『犯人』は『探偵』以外の『プレイヤー』を殺害することが出来る。殺害された『プレイヤー』は『死者』となり、『探偵』に自分の状況を第三者の分かる範囲で説明出来るが、以降のゲームプレイに加わることは出来ない。また、『犯人』を指名することも出来ない。
4.『犯人』が『プレイヤー』を殺害する際は、必ず犯行に使用した凶器を指定すること。
5.『探偵』は『犯人』の殺害対象にならない。
6.また『犯人』以外の『プレイヤー』は、『プレイヤー』を殺害することは出来ない。これは自殺も同様であり、『犯人』も自殺は出来ない。
7.『犯人』は2日に1人殺害することを求められる。1日に殺害出来るのは3人までであり、また『犯人』は自白出来ない。
8.『探偵』は1度だけ、全『プレイヤー』を集めて推理を披露出来る。この際に、ただしい『犯人』の指定、および論拠を説明出来れば、『探偵』の勝利となる。ただし『犯人』の指定を間違える、及びそれを他『プレイヤー』に立証出来る論拠が無ければ、『探偵』の敗北となる。
9.『探偵』が推理することなく、『死者』が『プレイヤー』の過半数を超えた場合、『犯人』の勝利となる。
10.『GM』はゲームの進行・解説を行う。『GM』は『プレイヤー』からの質問に虚偽なく答える。これは殺害現場の状況・予想死亡時刻やルールの説明などである。ただし、『犯人は誰か』といったゲーム自体を覆す問い掛けは無視してもよい。
以上。ロールを護って正しくプレイ!」
秋雲「……というわけで、全員食堂に揃ってもらったよ! さあ野分、どうぞ推理を!」
野分「その前に『GM』、ゲームに参加しているのは、ここに居る陽炎型姉妹十四名だけですね?」
秋雲「おう、そうだよ」
野分「分かりました……では、始めましょう。今回の事件の推理。および、『犯人』の指定を」
野分「……その前に。今から私が語るのは私が私の方法で組み立てた推理、可能性であり、真相ではありません」
野分「それを承知の上で……これから謎を明かします」
舞風「野分……」
谷風「はよ! あたしの敵をとっちくり!」
野分「まあ、落ち着いてください……。では、第一の事件から、とりあえず疑問点だけまとめましょうか」
『第一の事件の推理』
野分「第一の事件。谷風が111号室で死亡していた。発見時刻は次の日の朝。谷風の状態は見るも無残な刺殺死体。複数個所の切り傷と、打ち身、痣が残っていました。……そしてすぐ隣のベッドの下には、血糊のついた包丁が見つかっています。
死体の状況から見るに、少なくとも十数分は時間が掛かっているでしょう。
そして、予想死亡時刻は20時から0時頃となっています。
では、この時間のそれぞれのアリバイを確認しましょう」
野分「陽炎と浜風は夕食後から0時までキッチンにいた。これは二人とも証言しています」
野分「不知火と黒潮は、黒潮の部屋である103号室で話をしていた。これが1時過ぎまで。しかし、互いにシャワーを浴びる時間――つまり30分だけ間が開いている」
野分「初風、雪風、天津風も同様に三人で0時まで、105号室で会話をしていた。やはり1時間シャワータイムがありますが、三人であるために、二人は部屋に残ります」
野分「次に時津風。時津風は一度部屋を出て舞風と出会った以外は、ずっと107号室に一人でいた。つまりアリバイがない」
野分「磯風は21時には寝たと言っていました。浦風も0時まで読書をしていたと」
野分「舞風は23時まで自室、23時に部屋を出て私の部屋を訪ねた。それから0時までは私と共にいました」
野分「つまり、完全にアリバイがないのは、時津風・磯風・浦風となる。もちろん、同室にいた人物と共犯で、口裏を合わせている可能性も全くないとは言いませんが……」
野分「しかし、ここで逆説的な話になりますが、時津風と磯風は後の被害者ですので、必然的に『犯人』である可能性はなくなります。つまり、第一の事件の時点で私が証言を聞いた中で、アリバイがないのは浦風だけとなる」
浦風「……まあ、そうなるねえ」
野分「――が、ここで問題があります。現場で発見された包丁はキッチンにあった物です。けれどキッチンには0時過ぎまで陽炎と浜風が居た。その間に包丁を持ち出した人物は見当たらない。そうなると、0時前には殺害された筈の谷風はどのように殺されたのかという疑問が残る。もちろん現状では、陽炎と浜風が口裏を合わせている可能性もありますが。
しかも、キッチンから谷風が倒れていた111号室まではかなりの距離がある。
あの包丁を持って、20時から0時という、比較的誰が起きていてもおかしくない部屋を渡り歩けるかどうか。
確かに廊下は真っ暗だ。誰かが部屋を開けていなければ、足元しか見えない。隣の部屋の扉すらも曖昧な程……しかし、一度でも誰かが開ければアウトです。なにより、浜風と陽炎が共犯になる理由も、あまり見当たらない」
浜風「ふむ……」
陽炎「…………」
野分「……とはいえ、この辺りは可能性と心理の話なので。あくまでも『少ない』というだけで『ありえない』わけではない。この時点で上がる疑問点と整理出来るのはここまでです」
『第二・三の事件の推理』
野分「では、次……第二の事件と第三の事件の疑問点を上げていきましょう」
野分「この二つは、おおよそ同時に起こっています。死体の発見時間から磯風の方を第二の事件、不知火の方を第三の事件としていますが、実は逆かもしれませんね」
野分「……と言うのも、磯風の死体が死亡状況を正確に判断出来ないほど損傷していたから。死体の状況からみて数時間は掛かるとしてはいるものの、それがどの程度かは分からない」
磯風「……磯風煮、か」
野分「一方で不知火の死体は分かりやすいですね。胸元を鋭利な刃物で一刺し。致命傷はこれでしょう。死亡推定時刻は三日目、午前1時頃。少なくとも、0時半には生きている不知火が確認されています」
不知火「分かりやすい不知火です」
野分「また、目撃の無かった谷風と違い、前日の磯風の行動は様々な人に目撃されています」
野分「……では、殺害時刻近くの、皆の行動を確認していきましょうか」
野分「現場であるキッチンに居たのは、陽炎、浜風、そして浦風の三名。
夕食後の19時から、日付が変わる0時前後まで、浜風、浦風の二名はキッチンにいた。その際、浜風はキッチンの窓から時津風、雪風、舞風の三名を見ています。……この辺りはその三名の話の際にするとして。
浜風は浦風と少し会話をした後、自室に戻っている。証言からして、0時半頃でしょう。その後シャワーを浴び、1時には就寝している。
一方で陽炎は二人と別れてから0時半までの30分、キッチンに残っていました。
30分にキッチンを出た時、黒潮と不知火の二名を目撃しています。そして、陽炎と入れ替わりで不知火が食堂に入るところを目撃している。
陽炎はこの後、1時半までシャワーを浴びて就寝と言う証言。
そして浦風。浦風は天津風と0時40分頃から行動を共にしている。そして、1時前後まで廊下で話をしていたと。つまり、不知火がキッチンに入ってから10分の間を開けて、1時までの間、廊下には天津風と浦風がいた。
……不知火は、この頃には既に死んでいる筈だ。
天津風と浦風が廊下にいた間……あるいはその空白の10分に、不知火は殺されている」
野分「次に黒潮です。黒潮は20時から0時半まで不知火と共にいた。……不知火は陽炎からもその時刻の生存が証言されているので、ここは生きているとしましょう。
そして黒潮は23時半頃に、磯風の事も目撃しています。おそらく、これが最後の目撃情報でしょうか。
磯風は不知火と何事かを話していたけれど、黒潮はその内容までは知らない。直後に磯風は部屋を出ている。その後の証言はないので、部屋に戻っていたのかもしれませんね」
野分「現状、昨夜二名の犠牲者と話をしたと言う証言がある唯一の人物です」
黒潮「そうなるんやねぇ……」
野分「それでも確定出来る情報はないので、一度ここで置いておきます。その後就寝するも、1時頃に目を覚まして部屋を出たところで浦風、天津風と会話をしたと」
黒潮「そうやね。間違いはないわ」
野分「次に雪風、時津風、初風。この三人は夕食後から23時半まで共にいたと聞いています。23時半から、中庭の探索のために雪風と時津風は部屋を出た。それから初風は一人となる。初風のアリバイはそれ以降ありません。1時頃には就寝したと聞いています」
野分「次に雪風、時津風、そして舞風。雪風と時津風の二人のアリバイは、23時半頃までは初風と同様。舞風は、20時半から21時頃まで磯風と会話をしている。そして、23時に私と会話をしている。23時半過ぎ……そうですね、40分くらいから、三人は共に中庭を探索しています。これは浜風も証言していますし、三人も浜風がいたことに気づいていた。この時に懐中電灯とホースを見つけた……その後、0時過ぎには戻り、雪風、時津風、舞風はそれぞれ部屋に戻ったと証言しています。以降のアリバイは……まあ初風と変わりませんね」
野分「次に天津風。天津風は21時から23時までの間、磯風と行動を共にしている。そして磯風と別れ、シャワーを済ませて浴室を出ると、部屋に浦風がいたと。浦風は0時過ぎにキッチンを出ています。天津風の先日のシャワーの時間はおおよそ一時間なので、時間としてはさほどおかしくない。それからしばらく部屋で会話をして……。40分から1時過ぎまで、天津風と浦風は廊下で会話をしていた」
天津風「そうね」
野分「その後、1時過ぎ。目を覚まして部屋を出てきた黒潮と少し話をして、部屋に戻った。以降のアリバイはありませんが……この時には既に、不知火は死んでいるはずだ」
野分「……この時点で、天津風と浜風が共犯者・『犯人』である可能性は低くなります」
野分「なぜなら天津風は1日目夜の時点で、初風、雪風と共にいたから。共犯者にしろ『犯人』にしろ、三人以上増やすのは得策ではない。天津風が『犯人』だったとしても、共犯者であったとしても、黒潮と浦風まで犯行に巻き込むのはリスクが高すぎる。
……なので、天津風の証言は信用します。そうすると磯風が21時から23時までの時間、天津風の部屋にいたこと。0時過ぎから浦風と共にいて、1時まで話をしたこと。
この二つは信用出来る」
野分「そして浜風。浜風が0時前後にキッチンの窓辺にいたこと。倉庫を漁っている三人組を目撃したと言う情報。これは双方が相手を認識しているので嘘とは思えません」
野分「そして、浜風と天津風の二人と間髪いれず共にいた浦風も、『犯人』である可能性は低くなる」
野分「……ただ、それでも不知火ならあるいは殺害出来る可能性もありますが。
そのことは後で触れましょう」
野分「さて、全員の証言を確認した上で……。第二の事件と第三の事件に戻ります」
野分「第二の事件の犠牲者である磯風がどうしてキッチンにいたのか。これは分かりません。まあ磯風は料理について聞いて回っていたと言うので、その練習だったのかもしれませんね。死人に口なしなので、分かりませんが……言ってはいけませんよ?」
磯風「む……分かっている」
野分「磯風の死体は酷いものでした。キッチンも荒らされていて、血は壁や床、窓にまでべったりとついていた。
磯風の死体は分割されて、寸胴鍋で煮られていた」
野分「犯行時刻は分かりませんが、数時間は『調理』しないと再現するのは難しい」
野分「ですがここに謎が残る。不知火の殺人と、磯風の殺人がほぼ同時期に起こっていること」
野分「その現場が違うこと。『犯人』が二人いれば可能かもしれないが、ルールでは明確に『犯人』は一人となっている。そして『犯人』以外に『殺害』という行為は出来ない」
野分「……ここで、第三の事件……不知火の死体に話を移します」
野分「彼女は胸を刺されて死んでいた。だが、現場に凶器らしき物はない」
野分「なにより、血糊は死体から周りに広がるように流れていました。ですが……」
野分「――そもそも不知火姉さんは、どんな状況で刺されたのでしょう?」
野分「不知火の死体は窓際を背に倒れていました。どうすればその状態から胸を刺せますか? それもかなり深く」
野分「では、立っていた不知火を刺し、その後で不知火が倒れたのか。……いいや、それもおかしい。その仮定なら、血はもっと部屋中に散らばっている筈だ」
野分「少なくとも、しゃがむように倒れた不知火の周りにだけ流れている形にはならない。……ねえ『GM』、血糊は見たままでいいんですよね?」
秋雲「そうだねえ」
野分「では、不知火はどのように刺されたか。……いや、何処で刺されたか?」
野分「――ここで過程を出します。不知火の死亡現場は、キッチンではないのかと。
つまり、不知火は自力では部屋に戻っていない」
野分「時刻はおそらく磯風と同時……どちらが前後かは知りませんが、二人同時に襲われたんでしょうね。凶器は、磯風を殺傷した物と同じ刃物でしょう」
野分「であれば、キッチンの異様な血の広がり方も納得出来る。あの場にあった血は、不知火と磯風二人分の血だった可能性がある」
野分「ですがここで問題が起こる。廊下に浦風と天津風が居座っていて、戻ることは出来ない」
野分「……そもそも、死体を運べば血糊が付くでしょうね。部屋でも少なからず流れていたくらいですから、流血が止まる前に死体を運んだ筈です。ではそれは何処からか?」
不知火「…………」
野分「答えは、窓ですね。証拠というほどではありませんが、有力な可能性はあります。
あの窓は、窓枠まで血で汚れていた。しかし、殺害時点だと現場の窓は閉まっていたはずだ。血糊が窓にも自然な形でついているから。では、なぜ窓枠に血が付いていたか。
血糊を流す元凶を、窓から運んだから」
野分「さて……ここで一度、黒潮の話に戻ります。そもそも黒潮は、どうして1時に目を覚ましたのか」
黒潮「ウチか? ええと……なにか音が聞こえた気がして。でもそんな音、外の浦風と天津風は聞いてない言うてたけど」
野分「それは窓から聞こえた音ではないですか?」
黒潮「ほう……?」
野分「部屋は扉も壁も防音だ。なら、残りは窓しか考えられない。窓が防音かどうか? それは今日の昼、陽炎がキッチンの外で騒いでいる私達に、物音で気づいて窓を開けたことから防音ではないと判断出来る。
……もちろん、キッチンの窓と部屋の窓は材質が違うのかもしれない。けれど他に音源がない以上、消去法ではそれがもっとも有力になる。
それでも隣の部屋にしか聞こえない小さな音だった筈です。少なくとも、同時刻に起きていた筈の初風・雪風は音を聞いていない。逆隣の陽炎は、ちょうどシャワーを浴びていた時間帯だ。
これなら、不知火が窓際で倒れていた理由も分かる。窓から死体を投げ込んだ。鍵はかからないから、それ自体は簡単なはずだ」
野分「もちろん、私達の体格を考えると、一度に運べるのは一人だけでしょう」
浜風「でも、それなら外に死体の血が残るはずでは?」
野分「そうですね。ですからホースで洗い流したんでしょう。それがいつかは知りませんが……まあこれは後で触れましょう」
野分「ただし、こうなると、その後でキッチンに戻る意味はあまりない。つまり磯風の死体の謎が残る」
野分「では、磯風の死体の状態はどう説明するか。何故不知火の死体は隠し、磯風の死体をあのような姿にしたのか。この違いはなにか……これも後で説明します」
谷風「ぬぐぐ……なんだか後で後でばっかりだな」
野分「今の内に推理をしていてもいいんですよ?」
『第四の事件の推理』
野分「……こほん。では最後の……第四の事件。時津風の死体について、話をしていきましょう」
野分「時津風の死体も、また時間が掛かった加工が施されています。最低でも1時間、といったところでしょうか。胸元には包丁が刺さっており、ロープによって首吊りをさせられている。
……これまでの死体と同じく、猟奇的な死体ですね」
野分「この死体、時間が相当限定される。日中の話なので、皆の行動も明白だ。……だが、それゆえに謎も残る」
野分「死因は、恐らくは絞殺。ですが、死亡時刻はおおよそ13時以前だ。時津風が死亡するギリギリ……12時半頃まで、他ならぬ私自身が、時津風の生存を確認している」
野分「つまり、不知火の死体と同じくスピード殺人です。ただ、やはりこの時間を掛けた死体の状況が問題になる」
野分「では、皆の昼食後の行動を証言から確認していきましょう」
野分「私、雪風、舞風、時津風は昼食後から12時40分ごろまで共に中庭の探索をしました。その後、時津風だけが倉庫に残ると言ったので、私達は室内に戻った」
野分「雪風と別れ、私と舞風は舞風の部屋、キッチン、再び舞風の部屋。そしてキッチンを、それぞれ12時40分~13時、13時過ぎ~14時・14時~16時・16時~18時まで共にいた。分かれて行動したのは数分程度でしょう」
野分「キッチン組……昼食の準備と後片付けをしたのは、陽炎・黒潮・浜風・天津風の四名。この四名は、十四時までお互いに相手を目撃している……もちろん、この四人が共犯なら分かりやすいんですけども」
野分「ただ4人共犯はリスクが高い。そして昼食~時津風発見までの間、陽炎と天津風は一緒に居たと証言しています。数分別れた程度であの現場は再現出来ないから、この2名には不可能だ」
野分「黒潮、浜風も同じです。浜風は14時から18時までの間、初風や雪風と共にいた。やはり、1日目とも2日目とも違う3人組だ。口裏を合わせた可能性は低い」
野分「黒潮は浦風と共にいた。浦風に関しては2日目の時点で、犯行に関わっていた可能性は低く、証言は信用出来る。なので、浦風が監視していた黒潮には犯行不可能だ」
谷風「……あれ? でもそれならさぁ」
野分「そうですね。誰も犯行出来ない。完全犯罪です」
舞風「野分!?」
野分「……なんて、もちろんありえないわけですが。少なくとも現状、証言をした人物は誰一人として、時津風を加工した数十分を生み出せない。現状残る可能性としては、例えば私以外が全員共犯か――」
野分「――あるいは、見えない犯人がいるしかない。誰にも見えず、誰の証言にも混ざらない……そんな犯人が」
陽炎「ちょっと待った。それってルール違反でしょ?」
秋雲「そうだねえ。ゲームのルールとしては、『プレイヤー』の中に犯人がいる。
それは最初に参加して、今もこの場にいる筈の『プレイヤー』だ。
『これまで出てこなかった人物が犯人』なんて、ゲーム以前に推理物として、あってはならないことで……」
野分「では、『GM』。一つ質問をします」
秋雲「ほいほい? なんぞい」
野分「――『陽炎型第19番艦秋雲』は『プレイヤー』の一人である。定義確認です。
どうですか?」
秋雲「――――――――」
野分「……やっぱりね」
野分「最初から不思議ではあったんです。貴女は『GM』として問いかけた時に質問に答える。けれど、では『貴女』は何でしょうか? ただのルールブックであるなら、そもそもこのゲームのフィールドにいる必要はない。
それが、わざわざ『114号室』というゲーム内の部屋を持って、『プレイヤー』である私達と共同生活を送っている。『死者』の方々は分かります。明確に『殺害された『プレイヤー』は『死者』となり、『探偵』に自分の状況を第三者の分かる範囲で説明出来るが、以降のゲームプレイに加わることは出来ない。』と言っている
ですが、『GM』に関しては『プレイヤーの質問に虚偽なく答える』と書いてあるだけだ。貴女がゲームの中でどういう立ち位置なのか分からない。『犯人』からの殺害を逃れられるのは『探偵』だけだ。では『GM』である貴女は?」
野分「……いいえ、違いますね。貴女はこの場に二人居たんだ。陽炎型姉妹艦である貴女と、他の『プレイヤー』に質問された時だけ浮上し、自分にとっても公平な立場からルールを説明する『GM』の貴女」
野分「つまり、貴女は『プレイヤー』だ。この陽炎型姉妹に限定されたゲームに、最初から参加している14人の『プレイヤー』の一人だ」
浜風「そんなのって……あの、有りなんですか?」
野分「割とグレーな気はしますが……まあ、叙述トリックの一部ですかね。
……なにより、秋雲の存在は初めから示唆されていた。
それに、彼女は最初からこう言っていた。
『ロールを護って正しくプレイ』と。ルールではなく、ロールだ。
ゲーム内の役割を守る……ならば『探偵』の役割、『犯人』の役割、そして『死者』と『GM』の役割を、一度確認するべきだった」
野分「そして、そうなれば話は早い。
貴女は最初から『プレイヤー』としても行動していた筈だ。
実際には見えていたかもしれないが、皆の証言に上がらなかった。
貴女は証言が上がらなくても違和感がない状態で、行動していたわけだ」
野分「……これも違いますね。本当は何度か、貴女の目撃情報は上がっている。
けれど、他ならぬ私自身が、貴女の存在を排除して考えていた」
野分「もしかしたら他の姉妹なら察しがついていたかもしれませんが、私は気づかなかった。
証言を聞いて、アリバイを確認していないのに、貴女を見落としていた。
……私の推理の問題でしたね、これは」
秋雲「でも気づいたじゃん。すごいよ、野分」
野分「可能性を排除した結果、貴女しか残らなかったというだけです。
つまりは……」
秋雲「ふむ。なるほどねえ」
浦風「んん? じゃあ、待っとくれ? つまり犯人は……」
雪風「つまり…………」
天津風「じゃあ本当に……っ!?」
秋雲「ひひひ。さあ、野分――」
野分「つまり『犯人』は――秋雲……では、ありません」
秋雲「へ?」
雪風「え?」
天津風「ええ?」
野分「秋雲は『犯人』ではありません……いえ、『プレイヤー』ではありますが、秋雲が『犯人』というのはありえない」
黒潮「そんじゃあ、秋雲が『プレイヤー』であることは、事件とは関係がないのかい?」
野分「いえ、それは大いにありますよ。秋雲は……そうですね、共犯者なんです。
ただ、恐らくは『犯人』の方も、彼女が『プレイヤー』であることを知らなかったと思いますが」
野分「だから、第二と第三の事件の問題が起きた。……でしょう? 秋雲」
時津風「んんん? どういうこと? 説明してよ!」
野分「ええと、ちょっと待ってくださいね。まとめますから……」
野分「……では、『秋雲がいる』ことを前提に入れなおした上で、第一の事件から考えてみましょう。あるいは彼女が『犯人』であることも想定しつつ」
秋雲「……おっけー。まあ、好きにしちくり」
野分「では、第一の事件。秋雲の目撃情報はありません。あるいは誰かが見たのかもしれませんが……ああ、ちなみに夕食後に秋雲を目撃した人は?」
「「…………」」
野分「誰もいないと……ですが秋雲は『GM』である前に『プレイヤー』ですので、彼女自身も『プレイヤー』としての縛りは受ける。『GM』だから秋雲が知り得ない情報を知ることが出来るとか、死亡時刻を弄れる……なんて権限は使えない。ロールを順守するゲームだからこそ、彼女が現場に干渉するには『プレイヤー』であることを守らないと、そもそもゲームが成立しない」
野分「では秋雲はどこにいたのか……まあどこでもいいんですけど。部屋の明かりを消して廊下をうかがっていたか、廊下隅の階段辺りで廊下をうかがっていたか……」
野分「ともかく、この時に第一の事件が起きます。これは恐らく、22時から23時頃、ですかね。ですがこの時点で、まだ鰻包丁は秋雲の手元にない」
野分「要は死因は別だったということです……まあ、打撲跡があったので撲殺でしょう。鈍器とか、バールのような物とかで。
死因に関しては最初から疑ってはいました。谷風の死体も、不知火と同じく血糊の跡が少ない……いや、大人しかった。
普通、生きた肉体をあれだけ突き刺せば、それこそキッチンと同じ状況になっていたでしょう。
血が噴き出すのではなく、死体の周りにだけ流れていたのは、谷風が死亡して数時間経ったあと、包丁を突き刺したから」
野分「潜んでいた秋雲は、陽炎と浜風が食堂から出てくるのを確認した後、キッチンから鮪包丁を持ってきて、谷風の死体に包丁を突き刺した」
浦風「それが出来るなら、『犯人』は秋雲ってことにならんけ?」
野分「いいえ。もう一度ルールに目を通してみてください。『6.また『犯人』以外の『プレイヤー』は、『プレイヤー』を殺害することは出来ない。これは自殺も同様であり、『犯人』も自殺は出来ない。』……通常のプレイヤーに禁止されているのは『殺害』です。『犯人に殺された死者』への干渉、『死体の損壊』は禁止されていない」
浦風「あ~……」
野分「そもそも、死体に『プレイヤー』が触れられないとなると、磯風の死体を片付けることも出来ない。殺害と、殺害後の死体を移動させたり、損壊させたり出来るかは別だ。
ただ、この時点で私は殺人と死体損壊を連続で考えていた」
野分「だから、『死体の加工に最低でも十数分かかる』という事実が『犯人』探しに引っかかってしまう。『犯人』はただ殺害するだけでいいのに」
[newpage]
野分「でもこれだけでは、秋雲が『犯人』であるかどうかは断定出来ない。
……では、第二、第三の事件にいきましょう。この二つの事件は、秋雲が『犯人』ではない可能性についての証拠になりうる」
黒潮「どういうことや? 二人同時に殺したから、二人いないと出来ないってことか?」
野分「それもありますが、この二つの事件……というか、不知火の死体に関しては、他の三つの死体と明らかな違いがある」
野分「死体が綺麗過ぎる……ということ。そもそも、これまでの死体の殆どを猟奇的に仕上げているのは……まあ演出もあるのでしょうが、実際的な理由がある。
一つ、殺害時刻の検証を困難にする。
二つ、死因特定の検証を困難にする。
三つ、死体加工に掛かった時間を検証させて、他者のアリバイと矛盾させる。
これらは全て推理を困難にさせるための物だ。特に死因特定に関しては、現場にこれ見よがしに同じ凶器を転がせることで、そちらに推理を誘導しようとしたのだと思われる」
野分「だから、第一の殺人、第二の殺人、第四の殺人はどれも猟奇的で……死因の特定が難しくなっている。そして手間を掛けた死体の加工という『殺人のアリバイ』があるため、時間的な要素も混乱させるように出来ている」
野分「けれど、第三の事件だけは別だ。致命傷以外の傷は見当たらず、死亡時刻も特定出来る。加工時間、殺人のアリバイなんてないも同然。
この死体だけ、他の死体とは違う理屈で放置されている。では、どうして不知火の死体だけ放置したのか?」
浜風「……それこそ加工する時間が無かったから……では?」
野分「磯風をあれだけ手間暇かけて加工する時間があったのにですか?
磯風の死体は今回のゲームの中で一番猟奇的だ。
死因は予測出来ても断定出来ない。死亡時刻も検証出来ず、逆算で予測するしか無かった。
そこまで掛ける時間があるのなら、不知火の加工も十分に出来た筈だ。
なのに、不知火の死体は窓から出して、部屋に投げ込んだだけ。これまでの事件と比べて、不知火の処置は明らかに杜撰だ」
浜風「む……確かに」
野分「ですから……これは仮定の話です。秋雲と、秋雲ではない『犯人』がいたとする。
ただし『犯人』は秋雲の事を知らない……あるいは、意思疎通が上手く取れていなかったのではないでしょうか」
野分「磯風と不知火――どちらが先かはこの際関係ない。ほぼ同時に『犯人』は殺害した。けれど同時刻、廊下では浦風と天津風が話をしていて出られない。
『犯人』は、せめて不知火の死体だけでも抱えて窓から脱出し、死体があっても違和感のない不知火の部屋に投げ込んだ。
『犯人』は恐らく、その後で一度キッチンに戻った筈です。
……けれど、窓から音がする。つまり、誰かが既にいた。……まあ、要はそれが共犯者。秋雲だったのですが。キッチンの窓は当時、血糊で中が見えなかった筈。
『犯人』にはその誰かは分からない。けれど、死体のある部屋に窓から入れば怪しまれるし、なにより『犯人』は血糊でぬれていたでしょう。
『犯人』はキッチンに戻れず、中庭のホースで外の水を流した。もしかすると懐中電灯も使っていたかもしれませんね。さすがにばれるような真似はしていないはずなのですが……黒潮姉さんが聞いたのは、この時の音でしょう」
秋雲「なるほどねえ……」
野分「……あくまで、そうだったかもしれないという話です。そもそも不知火の死体を持ち出した理由がない。焦っていたとか、……まあ他にもいくつか理由は付きますが、全て仮定ですから。
今この場で説明するほどではない」
野分「……さて。第一の事件は、殺害と死体損壊が別のタイミングである可能性を示しました。
二つの事件は、『犯人』……ないしその共犯者が最低でも二人いる可能性を示唆しました」
野分「まだ秋雲が『犯人』ではないという証明にはなりません……『犯人』ではない仮説は立てられますが、仮説でしかない。
だから、ここからは可能性を排除して、秋雲が『犯人』ではない理由ではなく、秋雲が『犯人』になれない事実を確定する」
野分「……では、第四の事件です。これが、秋雲が『犯人』ではない証拠になりますが」
野分「……他ならぬ私自身が、時津風の死亡時刻に秋雲と共にいたからです」
雪風「あ……ああ、なるほど」
野分「はい。その時点で雪風もいました。もしも私一人の証言で無理なら、雪風と二人で証言しましょう」
野分「秋雲は12時過ぎから私、雪風、舞風、時津風の四人と共に行動をしていた。私は秋雲にずっと質問をしながら歩いていたので、秋雲から目を離した時間はない。絞殺自体が数分しかかからないとしても、そんな時間も無かった」
野分「時津風の死亡推定時刻、私は秋雲と共にいた。だから時津風殺害に、秋雲が関わることは出来ない。
……後の死体の状態に関しては、まあどうとでもなります。
少なくとも14時以降において、誰も秋雲に言及していない。私も秋雲と別れたので、ここから秋雲には空白時間がある。
で、時津風の現場に落ちていた鰻包丁ですが、あれ私の部屋にあった物なんですよ。
第二の事件の時に磯風と共にキッチンに落ちていた物ですが、皆を起こしてキッチンを清掃する前に、私が自室に持ち帰った。
……ですが、それを知っている人自体がそもそも少ない。
浦風姉さんが一度、『包丁は谷風の現場にあるから、キッチンにはずっと一本足りていない』といった旨の発言をした時、私は違和感を覚えました。でも、谷風の現場を見に行かない限り、殆どの人にはそれが事実なんですね。
私の部屋に包丁があるという事実を知っていたのは、私が持って帰るのを目撃した陽炎と浜風。……そして、私を呼びに来た秋雲と舞風だけ」
野分「秋雲は空白時間に私の部屋に忍び込み、包丁を持って倉庫に向かった。……包丁を持ち出した理由は、四つの事件に関連性を持たせるため。胸に刃物で一刺しという状況は、不知火の死因と被る。
この傷で、第三の事件と第四の事件にわざと共通点を残し、同一犯の犯行だと思わせた」
野分「倉庫の中ならキッチンの窓からも死角ですし、そもそも秋雲の行動を見ていたとしても、やはり少し疑問に思うだけで、推理からは見逃していた可能性が高い」
野分「後の時間は山ほどある。どのタイミングかは知りませんが、この時点で、時津風の死体を細工出来るのは秋雲しかいない」
陽炎「…………」
野分「では……時津風を『殺害』出来たのは誰か。首吊りではなく絞殺。倉庫には紐がありました。それを使って頸動脈を閉めれば、それ自体は数分で出来る。
……そして、私達が中庭を探索している際、私達から離れたのは二人。
一人は事件の当人である時津風。そしてもう一人が――」
野分「――舞風、貴女が『犯人』です」
野分「……では、舞風が『犯人』であるとして、第一事件からの行動を一応推理していきましょう。
第一の事件の現場は恐らく廊下だ。凶器は……そうですね、談話室にあった提督のブロンズ像とか」
野分「時津風と舞風が廊下で会話をしたと言っていたでしょう。ですが、舞風が向かっていたという私の部屋は112号室。舞風の部屋は113号室。時津風の部屋は107号室。隣り合う部屋に向かうために、時津風と会話をするのは少しおかしい。
舞風は凶器である提督の鏡像を取りにいったか、あるいは元の場所に戻したあとに時津風と会話をした」
野分「第二、第三の事件については、陽炎が部屋に戻ってから天津風・浦風が廊下で会話をしだす空白の10分間の間に、谷風の部屋から鰻包丁を持ち出してキッチンに向かった。
……何故キッチンに向かったかは、中庭から断片的にキッチンの状況を確認していたから。それに、この時点でホースの場所を知っているのは舞風・雪風・時津風の三名だけだ。
……もしかすると磯風や不知火が狙いでは無かったのかもしれない。
あるいは浜風や陽炎が被害者になっていた可能性もあるし、どちらかだけでよかったのかもしれない。
ただ、舞風は磯風から料理の相談を受けていたと聞いているので、その時深夜にキッチンに向かうよう誘導したのかもしれませんね」
野分「第四の事件。時津風は倉庫に残った。私と秋雲、雪風はキッチンの窓の様子を見に行った。
舞風はホースから水を出すために倉庫の方へと向かった。
それから戻ってくるまで、数分掛かっています。曰く、バルブが硬くて時間が掛かったと言っていましたが……時津風を殺害出来るのはこのタイミングしかない。他の誰にとっても、ですね」
舞風は黙ったまま私を見据えて。
そして、少しだけ力なく笑った。
野分「以上ですが……どうですか?」
舞風「……えへへ……やっぱりそうなるよね」
舞風「うん。その通り。谷風姉、磯風姉、不知火姉、時津風姉を『殺害』したのは、私こと舞風でしたっ!
でも、本当に秋雲が関わってるなんて、知らなかったんだよ」
野分「でしょうね……どうしてとかは聞きませんよ。
あくまでこれはゲームですから、舞風に殺意があったわけではない。
そのあたりは……まあ適当に、秋雲の方でネタを作ってください」
野分「……さて、では『GM』。感想は?」
秋雲「う~ん……大正解でしたっ! いや、ほんと私が突っ込むところも補足するところもないんだよね、これが……」
野分「ふむ……途中、少し強引だったというか、断定しきれない部分もいくつかありましたが。貴女がそう言うなら、そうなんでしょうね」
秋雲「謙遜しちゃってーもー。……まあとにかく、今の野分の推理が完全に大正解! 先ほどの野分の推理をもって、本ゲームは『探偵』の勝利で終了いたしました! 真相は先ほど言ったとおり!
姉さんがた、ここまで付き合ってくれてありがとー! お疲れぇ!」
推理は当たっていましたか?