陽炎の立つ頃に-陽炎型ミステリーゲーム-   作:遠野静

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もう少しだけ続くのだ。


『エピローグ』

陽炎「や~っと終わった……」

 

不知火「……終わりましたね」

 

黒潮「はいはい、お疲れ。そんで、これからどうなるんやっけ?」

 

秋雲「皆さんには一応、残りの休暇いっぱいはここを自由に使ってくれて構わないんだぜ? 大丈夫だ、提督の許可は取ってある! これから11日間は姉妹の時間を満喫しような!」

 

陽炎「11日て……確かにこのゲーム、最大14日は掛かるけどさ」

 

初風「取ってあるって……大丈夫なの? そんなに長い間」

 

雪風「陽炎型の十四人も、一斉に休みをとったら……」

 

時津風「色々と問題が起きそうだねえ」

 

秋雲「おう。その辺りはちゃんと調整したよん。みんなの有休申請を秋雲さんがあらかじめやっておいたから、皆は自由に休みを取ってくれて――」

 

陽炎「おい」

 

秋雲「ひぐっ!? あ、あの姉御……? アイアンクローが痛いんですけど……」

 

陽炎「ん? なに? あんたトボけるの? なに勝手に人の有休使ってるの? バカなの?」

 

秋雲「いててててて!! いや、でもちょっと待ってほしい! むしろ姉妹とはいえ誰にも気づかれず十四人分の有休申請を偽装出来たこの秋雲さんの手腕を褒め……いたたたたたたっ!!!! マジ痛い止めてごめんなさい!!」

 

浦風「……良く取れたなぁ」

 

秋雲「いや、ありのままに打ち明けたらね。提督もノリノリで手伝ってくれてね? 大変だったよ? 明石やら夕張と協力しつつ日付の調整も……痛いよぉ!」

 

陽炎「オーケーその辺が共犯者ね。覚えておいて、不知火」

 

不知火「提督、明石はともかくとして。夕張は仮にも軽巡です。無策で挑むのは辛いかと」

 

陽炎「軽巡でも駆逐十四隻で奇襲をかければいけるでしょ。……あ、今一人沈むから十三隻?」

 

秋雲「ちょっと頭蓋骨に食い込んでるよ!? あかんてこれ、陽炎姉さんなら素手でも殺せる……だだだだだ!!」

 

浜風「はあ……。まあ、姉妹揃って休暇を取れる機会というのもそうそうありませんし」

 

浦風「たまにはこういうのもええかもねえ。もう血なまぐさいのは終わったわけやし」

 

磯風「うむ。私も料理の腕を磨く」

 

天津風「……谷風、磯風の面倒みてやりなさいよ」

 

谷風「天姉、駆逐が戦艦になれないように、人にはどうあがいても無理なことがあるんだぜ?」

 

磯風「大丈夫だ。秋刀魚は焼けた。今なら満漢全席すらこの磯風で有れば作れるだろう」

 

陽炎「どこからその自信出てくるのかしら……」

 

秋雲「―――――――」

 

陽炎「あ、秋雲死んだ」

 

時津風「もっとやってもいいんだよ? あたしらに血糊ぶっかけた張本人なんだから?」

 

谷風「そうだ、やれやれー!」

 

秋雲「ちょっと本当にすいません反省してますごめんなさい。いやだって遊びたかったんだからしかたないじゃーん! ぎゃあああ!」

 

陽炎「はーい。それじゃあちょいっとお仕置きコースねー。身内のよしみで半殺しで許してあげるわ」

 

秋雲「それなんの手加減にもなってな――ちょ、ヘルプ! 『探偵』ヘルプ! まさしくここで新しい事件が起こって――」

 

陽炎「往生しろ」

 

秋雲「ごきゃっ…………」

 

 

~~~

 

野分「……ふう」

 

舞風「野分……ごめんね?」

 

野分「舞風が謝ることはありませんよ。それに舞風は結局……私に黙秘することはあっても、偽ることはしていません。

 貴女の罪悪感は、的外れだ」

 

舞風「……うん」

 

野分「……むしろ『犯人』役、お疲れさまです。私も楽しめましたし。

 姉さんたちも……なんだかんだ楽しめていたと思います」

 

舞風「うん…………」

 

野分「……残りの時間、休暇を楽しみましょう」

 

舞風「……うん、野分も、お疲れさま!」

 

 

 

『野分の部屋』

 

野分「…………わあっ!?」

 

秋雲「ちょっとぉ、のわっち驚きすぎだよぉ?」

 

野分「誰もいない筈なのに、シャワーから出たところに妹がいたら、誰でも驚くと思いますが……。あと、のわっちと呼ばないでください。何の用ですか?」

 

秋雲「あはは……野分には一番頑張ってもらったからね。改めてお疲れって言いたかっただけだよ」

 

野分「一番頑張ったのは貴女か舞風でしょうが……とりあえずありがとうございます。どうですか? いいネタになりましたか?」

 

秋雲「うん、まあ一応ねぇ」

 

野分「歯切れが悪いですね。あれだけ悪趣味なゲームに付き合ったのだから、もっと喜んでもらわないと頑張ったかいがないのですけど」

 

秋雲「いやいや。ミステリーってなあ悪趣味なもんですよ?

 それにまだ疑問点が残ってて、今のままだと上手いこと纏められないんだよね……だから、その辺りを聞きにきた」

 

野分「……推理は正しかった筈ですが? それは貴女も言っていたはずだ」

 

秋雲「いや、そうなんよ。理屈は合ってる。本当に良くたどり着けたなってくらい、殆ど正しかったんだけどさ」

 

野分「……まあ、起きた事件に対する後付と消去法で。可能性を潰した結果、あの真相しか残らなかったというだけです」

 

秋雲「そこなんよ」

 

野分「?」

 

秋雲「野分の推理はさ、『動機は断定していないけれど、既に起こった事象に理屈を立てた結果』なんだよね。

 うん、それは『探偵』の在り方として正しい……正しいんだけどさ。

 それを実際に、物語のネタとして組み込むとすると、いくつか疑問が残るんだ。

 ……疑問っていうか、動機かな? 犯人がどうしてそんな行動に及んだかっていう」

 

野分「それは貴女自身の胸に聞けばいいでしょうに……」

 

秋雲「そりゃ、秋雲さんの動機は『ゲームを楽しく成立させること』であって。その辺は話として作るなら色々と動機付けも出来るさ。でも舞風の行動は良く変わらんのよ。

 ……特にアレ。不知火姉さんの死体を持ち出した理由。

 なんで不知火姉さんだったのか。どうして持ち出したのか。

 ……いやまあ、死体を別の場所に移したかったってのは分かるけども……」

 

野分「ああ、そこですか……舞風に聞けばいいでしょうに」

 

秋雲「舞風は答えてくれなかったんだよう。野分なら察しがついてるんじゃないの? あの辺ちょっと言い淀んでたっしょ?」

 

野分「……そうですね。一応、いくつか理由は考えられます」

 

野分「ただ……どうあがいても仮定でしかない。極端な話、舞風の感情論になってしまうので、推理の時に言及するのは控えました。どちらにせよ、ゲーム内で推理を披露する時は不要でしたので」

 

秋雲「それでもいいから教えてちょうだいな。秋雲さん気になって夜も寝られない」

 

野分「……仕方がありませんね」

 

秋雲「おうし。それじゃあ最後の推理パートだ」

 

野分「先に言っておきますが、気を悪くしないでくださいね?」

 

 

野分「……舞風は最初から、ゲームにあまり乗り気ではありませんでした。むしろ、姉妹での共同生活の方を楽しみにしていたように思えます。

 初日の夜、私と話をした時も、ゲームが終わった後のことを話していた」

 

野分「ではそんな舞風が『犯人』に指定されたらどうするか?

 ……簡単ですよね。ゲームに参加したくないが、参加せざるを得ないのであれば、早期に終わらせることを考える。

 そして、第一の事件。谷風が死亡していた時ですが……舞風はそのまま谷風を廊下に放置したんでしょう?」

 

秋雲「そうだね。秋雲さんが見つけた時には、廊下で谷風が倒れていたよ。これはすぐ発見されるなーって思ったから、秋雲さんは111号室に引きずって……あー」

 

野分「そういうことです。舞風はまさしく、その『すぐに発見されること』を望んでいた。少なくとも初日には血糊がどうとかということは貴女以外知らなかった筈ですから。

 まあ廊下で、「じゃあ私が谷風を殺すねー」「殺されちゃったぜー。ぎゃー」みたいな会話をしたんでしょう」

 

野分「その後私の部屋に来たのも、私を廊下に引っ張り出して、さっさと谷風の死体を見つけてほしかったのでしょうね。でも、その時には既に秋雲が谷風を部屋に連れ込んでいた。貴女のことですから、このままではゲームが成立しないみたいな気持ちで関与したのでしょう。もちろん『プレイヤー』としてですが」

 

野分「……そして次の日。舞風は、谷風を見たときかなり青ざめていました」

 

秋雲「自分がさくっと殺した谷風が、部屋であんな姿になってりゃ驚くわな」

 

野分「さすがに舞風もすぐに気づいたと思いますが……でも、それをやった共犯者が誰かまでは分からなかったはずだ。

 ……そして、『犯人』である舞風の胸の内とは関係なく、推理パートが始まる」

 

野分「もちろん『ゲーム』を終わらせたければ、舞風が自白してしまえばいい。……『ゲーム』自体は崩壊しますが、同時に終了もする」

 

野分「しかし姉妹の何人かは、この『ゲーム』に積極的だった……かく言う私もですが。

 そんなところで、『犯人』がルールを破って自白したら、皆はどう思うか」

 

野分「舞風を責めるような姉妹はいない……それは断言出来ますが……問題は舞風の心境です。あの子は、あれで結構溜め込む方なんですよ」

 

秋雲「あー……」

 

野分「かくして、ゲームを降りることも出来なくなった舞風は、『犯人』として続けるしかなくなる。自白は出来ない。私は『探偵』だから相談も出来ない。そうなると、舞風がゲームを終わらせるために出来ることは、『探偵』に事件を解決して貰うことしかなくなった。

 ……あるいは、私の推理が失敗で終わってもいいですが。どちらにせよ、解決編までゲームを持っていく必要があった」

 

秋雲「だから、不知火姉の死体だけ、私の目の届かないところに置いたってこと?」

 

野分「はい。舞風は共犯者が誰かは知らないけれど、『事件に関与する誰かがいて、舞風が殺害した死体を細工する』ということは第一の事件で気づいていた。

 そして、舞風が今後どれだけ『分かりやすい事件』を起こしても、同じように細工されてしまう可能性があることも。

 だから舞風は死体を運んで、隠したんです。他ならぬ貴女に気づかれないように」

 

秋雲「……なるほどねえ。不知火姉を運び出したのは『探偵』に対してではなく、私をハメる為だったわけか。

 そんで見事にハマった秋雲さんは、不知火姉に気づかず磯風姉を意気揚揚と調理していたと」

 

野分「……そういうことですね。第四の事件も同様。さすがに三日目ともなれば、舞風も共犯者の目的には気づいていたでしょう。

 あの状況であれば、秋雲が死体の細工をしなければ『舞風が犯人』以外の選択肢が消失する。

 自白も出来ず、ヒントも出せない。かつ、『ゲームを面白く成立させた』上で、『探偵』に勝利させるためには、舞風は『自分が犯人である』と言う証拠をどうにかして残さないといけなかった」

 

野分「……むしろその行動のせいで推理が難解になったきらいはありますが……まあ、そういうことです」

 

秋雲「にゃるほど。『犯人』が発見されたがっているとは思わなかったなぁ。

 つまり、実質的には秋雲さんVS『探偵』&『犯人』の戦いだったってことかい?」

 

野分「私もゲームを楽しみながら推理していたので、『探偵』&秋雲VS『犯人』という構図だったのかもしれませんね。そういう意味では孤軍奮闘といったところか」

 

秋雲「舞風の心情を察して余りある……かな。ううん……」

 

野分「……けれど。今のはやはり感情論だ。実際のところ舞風が何を考えていたかは、舞風に聞かないと分からない。

 私が勝手に推理しただけで、舞風自身は本気で『犯人』として私を騙してやろうなどと考えていたのかもしれない。

 それに舞風の気持ちは推理には関係がない。理屈がなんであれ、事実から真相を暴きだした。そして、それこそが『ゲーム』としては正しい推理だったはずだ」

 

秋雲「……ふむ。じゃあ、野分はどうなのさ。『探偵』って役をおしつけられて、本当はいやだったとか?」

 

野分「……正直最初は面倒くさいと思いましたし……勝手に有休を使われたのも、どうかとは思いましたが……」

 

秋雲「うぐ……」

 

野分「けれど、最後に真相にたどり着き、それを暴きだしたときはやはり爽快でした。

 途中の推理も、貴女とルールを確認しあうのも、中々に楽しかった。

 ……総合的に言えば、満足したと言えるでしょうね」

 

秋雲「…………フォローどうも。野分も楽しんでくれたなら嬉しいよ」

 

秋雲「……でも、舞風姉に悪いことしたかなぁ」

 

野分「貴女が人を気遣うとは、珍しい」

 

秋雲「なにおう」

 

野分「……いえ、でも『ミステリーは悪趣味なモノ』なんでしょう? ならこの後味の悪さは、自業自得だ」

 

秋雲「ぐぬ……いや、まあそうなんだけど……。どうしようかなぁ。舞風姉に、なにか……」

 

野分「そう思うなら……いや。どちらにしても、舞風に聞きにいったらどうですか?」

 

野分「先ほどの私の推理。あながち的外れでもないと思いますが……実際にあってるかどうか、私も気になりますし。代わりに聞いてきてください。私の名前を出せば、舞風ならごまかしもしないでしょう」

 

野分「そのついでに……、このゲームの感想でも聞いてくればいいでしょう」

 

秋雲「ぬう……いやしかし、でも」

 

野分「なんですか?」

 

秋雲「……いんや。分かった。ここで逃げたらネタが完成しないしな!」

 

秋雲「じゃあ、行ってくらぁ! ……あと、野分」

 

野分「はい」

 

秋雲「……こう、色々、付き合ってくれてありがと。妹想いの姉を持って幸せだぜ!」

 

野分「……そう思うなら、今後はもっと控えめにしてほしいわけですが」

 

秋雲「あはは。それは期待出来ねえなあ。……んじゃ、ばいばいのわっち! また明日!」

 

野分「だからのわっちは止めてと……はあ、また明日」

 

 扉を開けて出ていく秋雲をため息交じりに見送りながら、私はベッドに身体を伏せた。

 ゲームは終わった。事件はもう起こらない。

 私も『探偵』という枷から外れ、何日かぶりに何も考えずに眠ることが出来る。

 ……けれど、なにしろ濃い姉妹達だ。ゲームでなくてもトラブルを起こす可能性はある。

 というか、絶対に起こる。

 なにしろ、残り11日もあるのだから……。

 

野分「ふう……さて……舞風には……明日にでも……約束を果たさないと……ふふ」

 

 微妙な億劫さと、奇妙な期待を心に秘めつつ、私は微酔みに落ちていった。




この話は「ホワイダニット(動機)」に頼らず「ハウダニット(手段)」から推理できるゲームとして考えていました。
人狼的に言うと「メタ読みでの推理は認めん」みたいな感じです。

野分も解決パート中で、動機や目的の関わる部分は敢えて「なんでもいい」と語っています。
なので、ここで野分の語る舞風の『動機』は、推理とは無関係のどちらでもよいものです。
それを大切にするか否かは別として。
よって、このお話は後日談なのでした。

最後までご拝読頂きましてありがとうございました。
私は基本的にはニコニコ動画やYoutubeでの動画投稿をメインとしておりますので、よければ『遠野静』でお調べください。
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